中国地方整備局鳥取河川国道事務所(以下「事務所」という。)は、平成23年に発生した交通事故(以下「本件交通事故」という。)によりトンネル内の照明配線及び警報設備が損傷したため、復旧工事を工事費3,572,129円で行っている。道路管理者である中国地方整備局長は、道路法(昭和27年法律第180号)等に基づき、本件交通事故の当事者のうち上記の損傷を与えた者の承継者(以下「債務者」という。)に対して、当該工事費の全額に事務費134,355円を加えた計3,706,484円を負担させる負担命令を行うとともに、分任歳入徴収官である事務所長に対して、負担金を徴収する権利(以下「負担金債権」という。)が発生したことを通知した。そして、事務所長は、国の債権の管理等に関する法律(昭和31年法律第114号。以下「債権管理法」という。)等に基づき、債務者に対して、負担金3,706,484円の納付期限を24年4月13日とする納入の告知を行った。
債権管理法等(注)によれば、歳入徴収官等は、その所掌に属する債権について、納付期限を過ぎてもなお履行されていない場合には、債務者に対して、原則として督促状によりその履行を督促しなければならないこととされている。また、その所掌に属する債権が時効によって消滅することとなるおそれがあるときは、時効を中断するため必要な措置を執らなければならないこととされている。
また、会計法(注)(昭和22年法律第35号)によれば、金銭の給付を目的とする国の権利について、時効による消滅に関し、別段の規定がないときは、時効の援用を要しないこととされており、消滅時効の中断、停止その他の事項に関し、適用すべき他の法律の規定がないときは、民法(明治29年法律第89号)の規定を準用することとされている。民法(注)においては、時効を中断する事由として、請求、承認等が規定されており、請求については、催告は、6か月以内に裁判上の請求等を行わなければ時効の中断の効力を生じないこととされている。なお、上記の督促状による督促は、民法上の催告に該当することになっている。
そして、道路法(注)によれば、負担金債権は、5年間行使しない場合においては、時効により消滅することとされている。
本院は、合規性等の観点から、本件交通事故に係る負担金債権が債権管理法等に基づき適切に管理されていたかなどに着眼して、事務所において、債権管理簿、督促記録書等の関係書類を確認するなどして会計実地検査を行った。
検査したところ、次のとおり適切とは認められない事態が見受けられた。
事務所は、債務者から、任意保険の保険会社に対して負担金の支払を請求するよう依頼があったため、保険会社と連絡等を行っていた。事務所は、保険会社から、本件交通事故の過失割合に関して債務者ともう一方の当事者との間で合意が成立するまでは負担金に充当するための保険金を支払うことができないとの説明を受けていたが、その一方で、過失割合が決まれば保険金を支払うことができるとの説明も受けていたことから、保険会社には保険金を支払う意思があると判断していた。
その後、26年8月に当事者間で民事訴訟が提起されたことから、事務所は、保険会社を通じて裁判の進捗等を確認していた。事務所は、上記の経緯等により、債務者にも支払う意思があると判断して、納付期限を過ぎても債務の履行がなかったものの、債務者に対して督促状による督促を行っていなかった。
そして、事務所長は、上記訴訟中の27年8月に、本件負担金債権の時効を中断するための措置として、債務者に対して、支払義務を自認させるための書類を提出するよう依頼したものの、当該書類は債務者から提出されなかった。その後、29年2月に、保険会社から、上記訴訟の判決が確定したことから同年3月末までに保険金を支払うか否かの判断を行う旨の説明を受けていたが、同月末になっても保険会社から連絡等がなかった。
しかし、事務所は、同月末の時点で、納付期限の翌日から5年が経過して消滅時効が完成する日である29年4月13日が2週間後に迫っていることを認識していたものの、前記のとおり、保険会社には保険金を支払う意思があると判断していたことなどから、引き続き保険会社からの連絡を待つこととし、債務者に対して督促状による督促を行うなどの本件負担金債権を保全するための措置を執っていなかった。このため、本件負担金債権は、納付期限の翌日から5年が経過した29年4月13日に消滅時効の完成により消滅した。
このように、保険金を支払うか否かの判断が保険会社に委ねられていて、保険金の支払が確約されていない中、事務所において、本件負担金債権3,706,484円について、債権管理法等に基づき債務者に対して督促状による督促を行うなどの債権を保全するための措置を執ることなく消滅させていた事態は適切ではなく、不当と認められる。
このような事態が生じていたのは、事務所において、本件負担金債権を適切に管理することについての認識が欠けていたことなどによると認められる。