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  • (1) 工事の設計が適切でなかったもの

擁壁の設計が適切でなかったもの[2県](107)―(109)


(3件 不当と認める国庫補助金 25,495,683円)

 
部局等
補助事業者等
(事業主体)
補助事業等
年度
事業費
国庫補助対象事業費
左に対する国庫補助金等交付額
不当と認める事業費
国庫補助対象事業費
不当と認める国庫補助金等相当額
 
       
千円
千円
千円
千円
(107)
青森県
青森県
防災・安全交付金
(道路)
27
23,889
(10,736)
6,978
9,085
(4,083)
2,654
(108)
29
80,265
(80,252)
52,163
7,889
(7,888)
5,127

これらの交付金事業は、青森県が、道路を拡幅したり、交差点を改良したりするなどのために、擁壁の築造、歩道を含む道路の改築等を実施したものである。このうち、擁壁は、道路盛土を支えるために、道路と、沿道の民地又は道路沿いに敷設された水路との高低差に合わせて、プレキャスト鉄筋コンクリート製のL型擁壁(以下「L型擁壁」という。)を設置するものである。

同県は、擁壁の設計を「道路土工 擁壁工指針」(社団法人日本道路協会編)、「コンクリート標準示方書」(社団法人土木学会編)等(以下、これらを合わせて「指針等」という。)に基づき行うこととしている。

指針等によれば、コンクリート構造物内部の鉄筋が腐食すると構造物の耐久性は著しく低下するとされており、鉄筋の腐食は、酸素と水の両方が同時に存在する環境下で生じ、大気中に位置し雨水等の水が作用する箇所で促進されるとされている。また、コンクリートの中性化(注)が、鉄筋コンクリート中の鉄筋の位置まで達すると鉄筋の腐食が生じやすくなり、一旦腐食が始まると、コンクリートにひび割れや剝離を引き起こし、鉄筋の腐食が一層進むなどとされている。そのため、鉄筋の腐食を防ぐなどするためには、鉄筋をコンクリートで十分に覆う必要があるとされている。

(注)
コンクリートの中性化  コンクリート表面から内部に侵入した大気中の二酸化炭素がコンクリートの主成分である水酸化カルシウムと反応して炭酸カルシウムが生じ、これがコンクリートのアルカリ度を弱めて中性化させることをいう。中性化したコンクリートは、鉄筋を腐食から守る機能が低下する。

同県は、本件2工事の設計に当たり、L型擁壁については、道路と、道路より低い位置にある民地又は水路との高低差より数cm以上高くなる規格の製品を設置し、L型擁壁が道路から突出する部分については、外観に配慮するなどのために、道路の縦断勾配に応じて全延長にわたり斜めに切断することとし、これにより施工していた。

しかし、同県は、上記いずれの設計に当たっても、L型擁壁を切断することとした場合に、鉄筋の腐食により、鉄筋コンクリート構造物としての耐久性が損なわれることがないか検討していなかった。

そこで、現地の状況を確認したところ、本件L型擁壁は、いずれも全延長にわたり切断されて、切断面に鉄筋が露出したり、鉄筋を覆う十分なコンクリートがなかったりしていた。このため、鉄筋表面に酸素や雨水等が直接作用する状況となっていたり、コンクリートの中性化が鉄筋コンクリート中の鉄筋にまで達しやすい状況となっていたりしていて、現に、切断面に露出した鉄筋が腐食していた。

したがって、本件擁壁は、設計が適切でなかったため、鉄筋コンクリート構造物としての耐久性が著しく低い状態となっていて、工事の目的を達しておらず、これに係る交付金相当額計7,781,497円が不当と認められる。

このような事態が生じていたのは、同県において、鉄筋コンクリート構造物としての耐久性が損なわれないように設計することについての指針等の理解が十分でなかったことなどによると認められる。

前記の事態について、事例を示すと次のとおりである。

事例

青森県は、三戸郡南部町大字剣吉地内において、平成29年度に、主要地方道名川階上線(以下「県道」という。)の交差点改良等を行うために、L型擁壁(延長59.7m、高さ1.0m~2.0m)を、県道と沿道の民地との高低差に合わせて築造していた。

同県は、擁壁の設計に当たり、県道と、県道より低い位置にある沿道の民地との高低差より数cm以上高くなる規格の製品を設置することとし、この場合、L型擁壁が県道から突出する部分(最も突出した箇所で600mm)が階段状になるため、外観に配慮するなどのために、設計図面において、県道の高さから10cm高い位置で縦断勾配に応じて全延長にわたり斜めに切断(切断した高さ5mm~500mm)する設計とし、これにより施工していた(参考図12及び3参照)。

しかし、同県は、上記の設計に当たり、L型擁壁を切断することとした場合に、鉄筋コンクリート構造物としての耐久性が損なわれることがないか検討していなかった。

そこで、現地の状況を確認したところ、L型擁壁は、全延長59.7mにわたり切断されて、切断面に鉄筋が露出したり、鉄筋を覆う十分なコンクリートがなかったりしていた。このため、鉄筋表面に酸素や雨水等が直接作用する状況となっていたり、コンクリートの中性化が鉄筋コンクリート中の鉄筋にまで達しやすい状況となっていたりしていて、現に、切断面に露出した鉄筋が腐食していた。

したがって、本件擁壁(工事費相当額7,889,636円、交付対象工事費7,888,338円、交付金相当額5,127,349円)は、設計が適切でなかったため、鉄筋コンクリート構造物としての耐久性が著しく低い状態となっていた。

(参考図1) 

L型擁壁の概念図

L型擁壁の概念図_画像

(参考図2) 

階段状のL型擁壁及び切断の概念図

階段状のL型擁壁及び切断の概念図_画像

(参考図3) 

切断後のL型擁壁の概念図

切断後のL型擁壁の概念図_画像

 
部局等
補助事業者等
(事業主体)
補助事業等
年度
事業費
国庫補助対象事業費
左に対する国庫補助金等交付額
不当と認める事業費
国庫補助対象事業費
不当と認める国庫補助金等相当額
 
       
千円
千円
千円
千円
(109)
岡山県
岡山市
河川等災害復旧
元、2
92,664
(33,309)
22,217
26,561
(26,558)
17,714

この補助事業は、岡山市が、岡山市北区中牧地内において、平成30年7月豪雨により被災した一級河川旭川に近接している一般県道玉柏野々口線内の道路の一部を復旧するために、もたれ式コンクリート擁壁(高さ9m及び7m、延長計18.5m)を築造するなどしたものである。

同市は、本件擁壁の設計を「道路土工 擁壁工指針」(社団法人日本道路協会編。以下「指針」という。)に基づいて行っている。指針によれば、安定計算等に用いる擁壁に作用する荷重のうち水圧については、地盤条件や水位の変動等を考慮して適切に設定することとされている。そして、河川の水際に設置される擁壁のように壁の前後で水位差が生ずる場合には、水位差による擁壁に対する水圧(以下「残留水圧」という。)を考慮する必要があるとされている。

同市は、本件擁壁の前後で生ずる水位差について、「港湾の施設の技術上の基準・同解説」(国土交通省港湾局監修)を参考にするなどして、擁壁底版下面から計画高水流量(注)が河道を流下するときの最高水位(以下「計画高水位」という。)までの高さの2分の1としていた。そして、この水位差により算定した残留水圧を用いるなどして滑動及び転倒に対する安定計算等を行った結果、安全であるとして、これにより施工していた(参考図1参照)。

しかし、上記の基準は、港湾区域において潮位差を考慮するなどして構造物を設計する際に適用するものであり、本件擁壁のように港湾区域から離れていて潮位差の影響がない河川の水際に設置される擁壁の前後で生ずる水位差について、上記の基準を参考に擁壁底版下面から計画高水位までの高さの2分の1としたことは適切でない。そして、本件擁壁については、指針に基づき、地盤条件や水位の変動等を考慮して、残留水圧の算定に用いる擁壁前後の水位差を決定する必要があった。この点に関して本件擁壁の施工箇所の地盤条件についてみると、擁壁の背後に浸透する水が滞留しやすい地盤となっていた。また、水位の変動等についてみると、本件擁壁の前面の河川における水位の上昇は計画高水位まで見込まれており、現に、同市は、河川における水位が計画高水位まで達した場合でも擁壁の背後に浸透する水を河川に排水して残留水圧を軽減するよう計画高水位に合わせて水抜きパイプを設置する設計としていた。

これらのことから、本件擁壁の前後で生ずる水位差については、擁壁底版下面から計画高水位までの高さとすべきであった。そして、この場合の残留水圧は、同市が安定計算等で用いたものより増加することになる。

また、同市は、擁壁に作用する土圧についても、現場条件と異なる数値を用いるなどして算定していた。

そこで、本件擁壁のうち高さ9mの擁壁(延長13.5m)について、指針に基づき、前記の適切な水位差により算定された残留水圧を用いるなどして改めて安定計算を行ったところ、次のとおり、安定計算上安全とされる範囲に収まっていなかった。

① 滑動に対する安定については、安全率が0.315となり、許容値である1.5を大幅に下回っていた。

② 転倒に対する安定については、擁壁に作用する擁壁背面の土圧等による水平荷重及び擁壁のコンクリートの自重等による鉛直荷重の合力の作用位置が、擁壁底版(幅3.35m)中央の位置より河川側に3.382mの位置となり、転倒に対して安全であるとされる範囲(擁壁底版中央の位置より擁壁背後側)を大幅に逸脱していた(参考図2参照)。

また、高さ7mの擁壁(延長5.0m)についても、滑動に対する安定について安全率が0.375となり、許容値である1.5を大幅に下回るなどしていて、安定計算上安全とされる範囲に収まっていなかった。

したがって、本件擁壁(工事費相当額26,561,000円、国庫補助対象事業費26,558,000円)は、設計が適切でなかったため、所要の安全度が確保されていない状態となっており、これに係る国庫補助金相当額17,714,186円が不当と認められる。

このような事態が生じていたのは、同市において、委託した設計業務の成果品に誤りがあったのに、これに対する検査が十分でなかったことなどによると認められる。

(注)
計画高水流量  過去の主要な洪水、水害実績、流域の人口、資産の集積、今後発生すると見込まれる豪雨等を勘案し、基準地点等で河道を流下する計画上の最大流量

(参考図1) 

擁壁(高さ9ⅿ)の断面概念図

擁壁(高さ9m)の断面概念図_画像

(参考図2) 

擁壁(高さ9ⅿ)の底版の拡大図

擁壁(高さ9m)の底版の拡大図_画像

 
部局等
補助事業者等
(事業主体)
補助事業等
年度
事業費
国庫補助対象事業費
左に対する国庫補助金等交付額
不当と認める事業費
国庫補助対象事業費
不当と認める国庫補助金等相当額
 
       
千円
千円
千円
千円
(107)―(109)の計
 
 
196,819
(124,297)
81,359
43,536
(38,529)
25,495