【改善の処置を要求したものの全文】
航空保安施設等の予備電源設備として整備している可搬形電源設備の保管方法について
(令和3年10月18日付け 国土交通大臣宛て)
標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり改善の処置を要求する。
記
貴省は、全国の空港等において、航空機の安全かつ円滑な離着陸の支援等を行うために必要となる航空保安施設等を整備している。そして、地震、津波、落雷等の自然災害発生時に商用電源が停止した場合等における航空保安施設等の安定した稼働等のために、空港等において航空保安施設等への電力の供給が途切れないように予備電源設備を整備している。
予備電源設備には、各空港等に常設している非常用発電設備及び無停電電源設備のほかに、可搬形の発電装置、燃料タンク、配電盤、変圧器盤及びそれらの付属品により構成された電源設備(以下、これらを合わせて「可搬形電源設備」という。)がある。そして、可搬形電源設備については、非常時に全国各地の必要とする空港等へ運搬して使用することを想定して、迅速かつ柔軟な対応が行えるように、運搬の拠点となる空港等において保管されている(以下、可搬形電源設備を保管している空港等を管理している空港事務所等を「保管官署」という。)。
貴省は、非常用発電設備、可搬形電源設備等の運用に係る業務の適切な実施方法や可搬形電源設備の管理・運用・保守について、「運用業務マニュアル」(平成29年3月国土交通省航空局制定)を制定している。運用業務マニュアル等によれば、可搬形電源設備は、地震や台風等による空港や航空保安施設等の商用電源の停止又は異常時に、更に非常用発電設備が被災して故障等が発生した場合(以下「電源障害」という。)や、非常用発電設備が故障又は定期保守により使用できない場合等において、航空保安施設等への電力の供給が途切れないようにして、航空保安業務等への影響を最小限にとどめるために使用することとされている。そして、保管官署は、可搬形電源設備管理等細則(以下「細則」という。)において、可搬形電源設備の管理、運用及び保守について定めることとされている。また、可搬形電源設備は、上記のとおり非常用発電設備の代替として航空保安施設等に電力を供給するために使用される重要な精密機器であることなどから、その保管場所は、原則として保管官署内の風雨を凌(しの)げる格納庫とし、非常時に備えて常に良好な状態で保管すること、地震等に十分耐え得る状態で保管することなどとされ、保管に関する詳細事項については細則で定めることとされている。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
本院は、合規性、効率性等の観点から、可搬形電源設備が地震等に十分に耐え得る状態で保管されているかなどに着眼して検査した。
検査に当たっては、令和2年度末に保管官署である全8空港事務所等(注1)に保管されている可搬形電源設備計98台(物品管理簿価格計27億5510万余円)を対象として、東京航空局、東京、那覇両空港事務所において、保管状況を確認したり、細則等の関係書類の内容を確認したりするなどして会計実地検査を行うとともに、貴省本省、東京、大阪両航空局及び8空港事務所等から保管状況に係る資料、細則等の関係書類、調書等の提出を受けて、その内容を確認するなどして検査した。
(検査の結果)
8空港事務所等に保管されている可搬形電源設備98台の保管状況をみたところ、4空港事務所等(注2)に保管されている6台については、電源局舎発電機室等に保管されていた。4空港事務所等は、平時に稼働している配電盤や常設の非常用発電設備に近接していることなどから、地震による浮き上がり、転倒、水平移動等によってこれら配電盤や非常用発電設備の稼働等に影響が生ずることがないように、上記の可搬形電源設備6台をアンカーボルト等により固定することとしていた。そして、4空港事務所等は、「建築設備耐震設計・施工指針」(独立行政法人建築研究所監修。以下「建築設備耐震指針」という。)において特に重要な設備に対して採用するなどと規定されている耐震クラスSを適用した設計用標準震度を用いて耐震性が確保されるように耐震設計に係る計算を行っていた。その結果、上記の6台は地震等に十分耐え得る状態で保管されていた。
一方、7空港事務所(注3)に保管されている残りの92台については、可搬形電源設備格納庫等に保管されており、7空港事務所は、稼働している他の設備に近接していないことなどから地震時においても他の設備の稼働に影響が生ずることはないなどとして、耐震設計に係る計算を行わずに、可搬形電源設備を床面等に置くだけとしていた(表1参照)。
表1 可搬形電源設備の保管状況(単位:台)
保管官署名 | 保管場所 | 保管台数 | アンカーボルト等を用いて地震等に十分耐え得るように保管されていた台数 | 床面等に置くだけとされていた台数 | |
---|---|---|---|---|---|
1 | 新千歳空港事務所 | 可搬形電源設備格納庫等 | 12 | 0 | 12 |
2 | 仙台空港事務所 | 電源局舎可搬形発電機室 | 5 | 0 | 5 |
3 | 東京空港事務所 | 非常用機器保管庫等 | 20 | 0 | 20 |
八丈島空港庁舎内保管庫等 | 3 | 1 | 2 | ||
4 | 大阪空港事務所 | 可搬形電源設備格納庫等 | 14 | 0 | 14 |
5 | 福岡空港事務所 | 可搬形電源設備格納庫等 | 13 | 0 | 13 |
電源局舎発電機室 | 3 | 3 | 0 | ||
6 | 鹿児島空港事務所 | 可搬形電源設備格納庫 | 2 | 0 | 2 |
7 | 那覇空港事務所 | 可搬形電源設備格納庫等 | 24 | 0 | 24 |
統合庁舎発電機室 | 1 | 1 | 0 | ||
8 | 性能評価センター | 機械棟発電機室 | 1 | 1 | 0 |
計 | 98 | 6 | 92 |
前記のとおり、可搬形電源設備は、地震等により電源障害が発生した場合等に非常用発電設備の代替として航空保安施設等に電力を供給するために、保管場所から搬出して使用される重要な設備である。このため、可搬形電源設備の保管に当たっては、他の設備が近接しているかどうかにかかわらず、地震等による浮き上がり、転倒、水平移動等のために可搬形電源設備が床面、壁面等に衝突して損傷し電力を供給する機能が失われないよう、耐震設計に係る計算を行うことが必要である。そして、計算の結果、耐震性が確保されていない場合には、可搬形電源設備の形状や、保管場所の面積、他の設備の配置状況のほか、搬出時の可搬性等も考慮した設置方法の検討を行い、地震等に十分耐え得る状態で保管する必要がある。
しかし、貴省本省は、可搬形電源設備を地震等に十分耐え得る状態で保管するために必要となる耐震設計に係る計算の方法及び計算の結果耐震性が確保されていないことが判明した場合の設置方法について検討を行っていなかった。また、8空港事務所等が定めていた細則の全てにおいて、運用業務マニュアルにおいて保管官署が定めることとされている保管に関する詳細事項については規定されていなかった。
そこで、本院において、前記の7空港事務所に保管されている可搬形電源設備92台について、地震等に十分耐え得る状態で保管されているかを確認するために、次の①から③までを踏まえて、建築設備耐震指針を準用することとして耐震設計に係る試算を行った。
① 「発電設備工事設計要領」(平成24年3月国土交通省航空局制定)によれば、非常用発電設備は、想定される大地震に耐えるものとし、建築設備耐震指針に規定されている耐震クラスSを適用した設計用標準震度を用いて耐震設計に係る計算を行うこととされていること
② 可搬形電源設備と目的、用途等が類似している移動式受配電設備(注4)について、貴省は、地震等の非常時に有効に使用できるように、建築設備耐震指針に規定されている耐震クラスSを適用した設計用標準震度を用いて耐震設計に係る計算を行っていること
③ 可搬形電源設備は、建築設備には該当しないものの、建物内に保管される設備機器であり、非常用発電設備の代替として地震時において使用される重要な精密機器等であること
そして、可搬形電源設備が水平移動することにより衝突して損傷する危険性は、保管場所の面積、他の設備の配置状況等によって異なることなどから、保管場所の面積、他の設備の配置状況等にかかわらず可搬形電源設備の損傷の原因となり得る浮き上がり、転倒に対する検討を行うこととし、建築設備耐震指針に規定されている耐震クラスSの設計用標準震度からアンカーボルト等により固定されていない場合の設計用標準震度を算出して、床面等に置くだけとなっている可搬形電源設備92台について、重心の位置や重量等を基に、転倒モーメント(注5)及び抵抗モーメント(注6)を算定した。その結果、表2のとおり、4空港事務所(注7)の39台(物品管理簿価格計8億6048万余円)については、転倒モーメントが抵抗モーメントを上回っていて、設備の片側が浮き上がったり、転倒したりすることにより床面や壁面に衝突するなどして損傷するおそれがあり、地震等に十分耐え得る状態で保管されていないと認められた。
表2 地震時における可搬形電源設備の浮き上がり、転倒に対する検討についての試算の結果(単位:台、円)
保管官署名 | 床面等に置くだけとされていた台数 | 転倒モーメントが抵抗モーメントを上回っていた台数 | ||
---|---|---|---|---|
左に係る物品管理簿価格 | ||||
1 | 新千歳空港事務所 | 12 | 4 | 18,505,429 |
2 | 仙台空港事務所 | 5 | 3 | 11,936,410 |
3 | 東京空港事務所 | 22 | 18 | 409,085,257 |
4 | 大阪空港事務所 | 14 | 14 | 420,957,604 |
5 | 福岡空港事務所 | 13 | 0 | ― |
6 | 鹿児島空港事務所 | 2 | 0 | ― |
7 | 那覇空港事務所 | 24 | 0 | ― |
計 | 92 | 39 | 860,484,700 |
(改善を必要とする事態)
可搬形電源設備について、運用業務マニュアルにおいて地震等に十分耐え得る状態で保管することとされているのに、貴省本省において、そのための耐震設計に係る計算の方法及び計算の結果耐震性が確保されていないことが判明した場合の設置方法について検討しておらず、保管官署において、可搬形電源設備が地震等に十分耐え得る状態で保管されていない事態は適切ではなく、改善を図る要があると認められる。
(発生原因)
このような事態が生じているのは、貴省本省において、地震等に十分耐え得る状態で保管するために必要となる可搬形電源設備の耐震設計に係る計算の方法等について検討することの必要性についての認識が欠けていること、また、保管官署において、可搬形電源設備の保管に関する詳細事項を細則に定めること及び可搬形電源設備を地震等に十分耐え得る状態で保管する必要があることについての認識が欠けていることなどによると認められる。
可搬形電源設備は、航空機の安全かつ円滑な離着陸の支援等を行うために必要な航空保安施設等において地震、津波、落雷等の自然災害が発生して商用電源が停止した場合等であっても電力の供給が途切れないようにするために使用される重要な精密機器であることなどから、今後も非常時に備えて適切に保管する必要がある。
ついては、貴省において、搬出時の可搬性等も考慮しつつ、可搬形電源設備が地震等に十分耐え得る状態で保管され、浮き上がり、転倒、水平移動等による床面、壁面等との衝突により損傷して電力を供給する機能を失うことなく適切に保管されるよう、次のとおり改善の処置を要求する。
ア 貴省本省において、可搬形電源設備を地震等に十分耐え得る状態で保管するために必要となる耐震設計に係る計算の方法及び計算の結果耐震性が確保されていないことが判明した場合の設置方法について検討を行い、その結果を保管官署に対して示すこと
イ 保管官署において、アで示された事項に基づいて、現地の状況を踏まえて、可搬形電源設備を地震等に十分耐え得る状態で保管するために必要となる設置方法の詳細事項について細則に定めること
ウ 保管官署において、イで定めた細則に基づき、可搬形電源設備が地震等に十分耐え得る状態で保管されるよう必要な措置を講ずること