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可搬型端末の調達に当たり、機器の更改の要否等を十分に検討するなどして調達数量を算定することを周知徹底するよう是正改善の処置を求め、及び貸与先の決定に当たり、希望調査の対象範囲を十分に検討することを周知徹底したり、市町村において長期間にわたって使用されていない可搬型端末について、その理由を把握した上で、貸与を継続する必要性の検討等を行う体制を整備したりなどするよう改善の処置を要求したもの


科目
業務経費、一般管理費
部局等
日本年金機構本部
可搬型端末の概要
日本年金機構において、被保険者等からの相談等に対応したり、国民年金事務を実施する市町村に貸与したりするなどのために調達した、社会保険オンラインシステムに接続して年金個人情報を閲覧できるノート型のパソコン及びその周辺機器
調達した可搬型端末の台数及びリース料、保守費等の契約金額相当額
3,226台 47億1731万余円(平成30年度~令和6年度)
受給資格期間短縮用端末の更改の要否等を検討することなく調達数量を算定していた可搬型端末の台数並びにリース料及び保守費の支払金額相当額
257台3625万円(背景金額) (平成30年度~令和2年度)
他の契約で既に調達されているため調達する必要がなかった可搬型端末の台数並びにリース料及び保守費の支払金額相当額(1)
471台6309万円(令和元、2両年度)
希望調査に対して回答がなかった市町村に対しても一律に貸与するとして調達数量を算定していた可搬型端末の台数並びにリース料及び保守費の支払金額相当額
220台2947万円(背景金額) (令和元、2両年度)
貸与を希望する市町村に貸与されていない可搬型端末の台数並びにリース料及び保守費の支払金額相当額(2)
165台2210万円(令和元、2両年度)
貸与先の市町村において長期間にわたって使用されていない可搬型端末の台数並びにリース料及び保守費の支払金額相当額(3)
209台2858万円(平成30年度~令和2年度)
(1)から(3)までの計
845台1億1377万円

【是正改善の処置を求め及び改善の処置を要求したものの全文】

可搬型端末の調達等について

(令和3年10月26日付け
日本年金機構理事長
宛て)

標記について、下記のとおり、会計検査院法第34条の規定により是正改善の処置を求め、及び同法第36条の規定により改善の処置を要求する。

1 可搬型端末等の概要

(1)可搬型端末の導入の経緯等

貴機構は、日本年金機構法(平成19年法律第109号)、国民年金法(昭和34年法律第141号)等に基づき、厚生労働省から委任又は委託を受けて、年金事業の実施に必要な事務を円滑に処理し、被保険者等の利便の向上に資するため、年金個人情報の管理等を行う社会保険オンラインシステム等の運用を行っており(注1)、当該システムを利用して、被保険者等からの年金見込額、年金記録に関する相談等に対応する業務(以下「年金相談等業務」という。)を実施するなどしている。また、市町村(特別区を含む。以下同じ。)は、国民年金法等に基づき、国民年金に係る被保険者資格の取得等に関する届出の受理等の事務を実施するほか、当該事務に付随して市町村が国と協力・連携して実施する年金記録に関する相談等の事務等を実施している(以下、これらの事務を合わせて「国民年金事務」という。)。

そして、年金相談等業務及び国民年金事務の実施に当たり、貴機構は、社会保険オンラインシステムに接続して年金個人情報を閲覧できるノート型のパソコン及びその周辺機器(以下、これらを合わせて「可搬型端末」という。)を導入し、貴機構で使用したり、市町村に無償で貸与したりしており、その導入経緯については、次のとおりである(図1参照)。

(注1)
厚生労働省は、平成22年1月1日に社会保険庁が廃止されたことに伴い、従来、社会保険庁が所掌していた事業に関する事務を所掌しており、国民年金法等に基づき、電子情報処理組織の運用を行うこととされている。

ア 貴機構が使用する出張相談用端末

貴機構は、年金事務所等に設置した年金相談窓口において年金相談等業務を実施するとともに、市町村の庁舎等に赴いて出張相談業務を実施しており、その際、可搬型端末(以下「出張相談用端末」という。)を携行して使用している。

出張相談用端末については、「可搬型照会用窓口装置の配付基準等」(平成28年シ企指2016―41)で定められた配付基準に基づいて、出張相談業務を実施している各年金事務所当たり1台が基本として配布されている。そして、貴機構は、平成28年11月の国民年金法等の改正により、年金の受給資格期間が25年から10年に短縮されることに伴い、相談件数の一時的な増加が想定されることから、年金事務所内の年金相談窓口を臨時に増設する必要があるなどとして、29年3月に配付基準を見直しており、当面の取扱いとして、同年4月から、追加で出張相談用端末を配布している(以下、当該出張相談用端末を「受給資格期間短縮用端末」という。)。

イ 市町村が使用する年金相談用端末

社会保険庁は、相談体制の一層の充実を図るなどとして、20年3月から、希望する市町村に対して可搬型端末を無償で貸与しており、社会保険庁の廃止後は、貴機構が貸与していた(以下、従前から市町村へ貸与するために調達している可搬型端末を「年金相談用端末」という。)。年金個人情報については、年金事務所等に電話で問い合わせることもできるが、貴機構は、年金相談用端末を使用することにより、迅速かつ正確に照会することが可能となり、被保険者等へのサービスが向上するとして、市町村に年金相談用端末を引き続き貸与している。

ウ 市町村が使用するねんきんネット代替用端末

貴機構は、インターネット回線を利用して市町村の職員が年金個人情報を確認できるシステム(以下「市町村用ねんきんネット」という。)を導入して、国民年金事務に利用していた。その後、貴機構は、令和元年度中に運用に必要なサーバ等の機器の耐用年数(注2)が到来することに伴い、その在り方について検討した結果、市町村用ねんきんネットについては、同年12月を目途に廃止することとされた。そのため、貴機構は、代替措置として、可搬型端末(以下「ねんきんネット代替用端末」という。)を新たに利用することとし、希望する市町村に対して、2年1月から無償で貸与することとした。

なお、これらの可搬型端末は、導入経緯はそれぞれ異なるものの、いずれも同等の仕様であり、現在、貴機構が市町村に貸与している年金相談用端末及びねんきんネット代替用端末は、ほぼ同一の用途で国民年金事務に使用されている。

(注2)
耐用年数  貴機構では、重要な会計方針において、リース資産については、リース期間を耐用年数とすることとされている。

(2)可搬型端末の調達等

ア 可搬型端末の調達に係る手続

日本年金機構会計規程(平成22年規程第50号)等によれば、売買、賃貸、請負その他の契約を締結する場合には、公告して申込みさせることによる一般競争入札の方法により、これを締結するものとされている。そして、調達担当部署の長は、契約を締結しようとするときは、需給の状況、数量の多寡、履行期間の長短等を考慮して、予定価格を適正に定めなければならないこととされている。

イ 可搬型端末の契約の概要

出張相談用端末及び年金相談用端末の耐用年数の到来に伴い、元年度に機器の更改を行うこととなった。このため、貴機構は、平成30年4月に、令和6年7月までの約6年間にわたる可搬型端末のリース、保守等を含む委託契約(以下「30年契約」という。)を、契約金額64億1860万余円(変更後の契約金額64億6420万余円、このうち可搬型端末に係る契約金額相当額20億8513万余円)で株式会社エヌ・ティ・ティ・データ及びNTTファイナンス株式会社と締結して、可搬型端末1,216台を調達し、元年5月から7月にかけて順次、機器の更改を行っている(図1参照)。

また、前記のとおり、市町村用ねんきんネットの廃止に伴い、元年度に新たにねんきんネット代替用端末の調達を行うこととなった。このため、貴機構は、元年6月に、6年7月までの約5年間にわたる可搬型端末のリース、保守等に係る委託契約(以下「元年契約」という。)を、契約金額25億9200万円(変更後の契約金額26億3217万余円、全額が可搬型端末に係るもの)で上記の2社と締結して、可搬型端末2,010台を調達し、希望する市町村に対して、2年1月から無償で貸与を開始している(図1参照)。

ウ 市町村に対する可搬型端末の貸与等に関する調査

市町村用ねんきんネットの廃止に伴い、新たにねんきんネット代替用端末を利用することとなったことから、市町村における可搬型端末の需要を把握するために、厚生労働省により、平成30年2月に市町村に対して可搬型端末の貸与等に関する意向調査(以下「厚労省調査」という。)が行われた。そして、貴機構は、元年契約におけるねんきんネット代替用端末の調達に当たり、厚労省調査の結果に基づくなどして調達数量の算定を行っている。また、ねんきんネット代替用端末の貸与が開始されるのは、厚労省調査から約2年後の令和2年1月となることなどから、貴機構は、元年5月に具体的な貸与先や貸与台数を決定するための希望調査(以下「機構調査」という。)を行い、その結果に基づいてねんきんネット代替用端末を貸与している。

図1 可搬型端末の導入の経緯(概念図)

可搬型端末の導入の経緯(概念図)

(3)年金相談用端末及びねんきんネット代替用端末の運用

年金相談用端末及びねんきんネット代替用端末については、市町村から貸与申請書の提出を受けて、貴機構と市町村との間で貸与に係る契約を締結しており、毎年度、契約期間を更新するなどしている。そして、貴機構は、年金相談用端末及びねんきんネット代替用端末が使用目的に沿って使用されていることを確認するために、当該契約に基づき、市町村に対して、年金相談用端末及びねんきんネット代替用端末を用いて年金個人情報の照会を行った件数を記載した業務実施報告書を定期的に提出させている。

2 本院の検査結果

(検査の観点、着眼点、対象及び方法)

可搬型端末の調達額は多額に上っており、運用期間も長期にわたることから、可搬型端末の使用実績や市町村からの貸与希望の状況を踏まえた経済的かつ効率的な調達及び運用を行うことが重要である。

そこで、本院は、経済性、効率性等の観点から、可搬型端末の調達数量の算定が適切に行われているか、調達した可搬型端末が適切に市町村に貸与されているかなどに着眼して、30年契約及び元年契約で調達した可搬型端末計3,226台(可搬型端末に係る契約金額相当額計47億1731万余円、2年度末までの支払金額相当額計24億1716万余円)を対象として、厚生労働本省、貴機構本部及び47年金事務所において会計実地検査を行った。

検査に当たっては、契約書、貸与申請書、業務実施報告書等の関係書類を確認するとともに、貴機構から可搬型端末の使用状況に関する調書の提出を受けるなどして検査した。

(検査の結果)

検査したところ、30年契約及び元年契約で調達した可搬型端末計3,226台の2年度末時点における配布、貸与等の状況は表1のとおりとなっており、配布・貸与用計3,078台のうち、計1,003台が、配布又は貸与をされておらず、本部等において保有されている状況となっていた。

表1 可搬型端末の配布、貸与等の状況(令和2年度末)(単位:台)

契約
保守用 配布・貸与用
未配布・未貸与 配布・貸与中
年金事務所等 市町村 その他
(注)
30年契約 138 1,078 88 426 561 3 1,216
元年契約 10 2,000 915 0 1,085 0 2,010
148 3,078 1,003 426 1,646 3 3,226
  • (注) 国民年金保険料の収納事業に係る受託事業者に貸与しているもの

また、年金事務所等に配布された426台のうち、配布を受けてからの期間が12か月以上(新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴う緊急事態措置の実施期間が含まれる月数を除く。)となっている420台の使用実績についてみると、表2のとおり、111台が全く使用されていない状況となっていた。さらに、市町村に貸与された1,646台のうち、貸与期間が12か月以上(同上)となっている1,201台の使用実績についてみると、表3のとおり、209台が全く使用されていない状況となっており、上記の111台と合わせて計320台が全く使用されていない状況となっていた。

表2 年金事務所等に配布された出張相談用端末の使用実績(単位:台)

契約
使用実績
なし
1か月当たりの平均使用日数
1日未満 1日以上
5日未満
5日以上
10日未満
10日以上
20日未満
20日以上
30年契約 111 118 170 13 8 0 420
  • (注) 1か月当たりの平均使用日数は、緊急事態措置の実施期間を含む全期間の平均となっている。

表3 市町村に貸与された年金相談用端末及びねんきんネット代替用端末の使用実績(単位:台)

契約
使用実績
なし
1か月当たりの平均照会件数
10件未満 10件以上
100件未満
100件以上
1,000件未満
1,000件以上
30年契約 83 85 142 230 21 561
元年契約 126 159 213 142 0 640
209 244 355 372 21 1,201
  • (注) 1か月当たりの平均照会件数は、緊急事態措置の実施期間を含む全期間の平均となっている。

そこで、このような状況となっている経緯について、更に検査したところ、次のような事態が見受けられた((1)イ及び(3)の事態には重複しているものがある。)。

(1)可搬型端末の調達に当たり、調達数量の算定が適切に行われていない事態

ア 30年契約における可搬型端末の調達に当たり、受給資格期間短縮用端末の更改の要否等を十分に検討することなく、更改前の配布台数に基づいて調達数量を算定しているもの

貴機構は、30年契約における可搬型端末の調達に当たり、配付基準見直し後の半年間(平成29年4月から9月まで)の平均の年金事務所等への配布台数及び市町村への貸与台数計979台に予備機分を見込んで1.1を乗ずるなどして、配布・貸与用を1,078台と算定していた。そして、貴機構は、当該1,078台に保守用の138台を合わせた計1,216台を調達していた。

前記のとおり、貴機構は、国民年金法等の改正に伴う一時的な相談件数の増加を見込んだ当面の取扱いとして、従前から配布していた出張相談用端末に加えて、29年4月から年金事務所に受給資格期間短縮用端末257台を配布しており、受給資格期間の短縮に係る年金請求の勧奨を今後も継続的に行うとして、当該257台を含めた配布台数に基づいて調達数量を算定していた。

しかし、受給資格期間短縮用端末については、①当面の取扱いとして配布されており、継続的に同等の需要が生じることは見込まれないこと、②実際に更改が行われるのは30年契約を締結した30年4月から約1年が経過した令和元年5月以降であることなどから、相談件数等の変化を想定して、更改の要否等を十分に検討した上で調達数量を算定する必要があるのに、貴機構は、こうした検討を十分に行うことなく、一律に当該257台についても更改していた。そして、現に、2年度末時点で111台が全く使用されていない状況となっていた。

したがって、可搬型端末の調達数量の算定に当たり、受給資格期間短縮用端末257台(2年度末時点の支払金額相当額3625万余円)の更改の要否等を十分に検討することなく、配布台数に基づいて調達数量を算定している事態は適切とは認められない。

イ 元年契約におけるねんきんネット代替用端末の調達に当たり、30年契約で更改する年金相談用端末の台数を調達数量に含めていたり、厚労省調査に対して回答がなかった市町村に対しても一律に貸与するとして調達数量を算定していたりしているもの

前記のとおり、貴機構は、平成30年4月に1,216台の年金相談用端末等を調達している。また、ねんきんネット代替用端末の調達に先立って、同年2月に、全1,741市町村を対象とした厚労省調査が行われ、1,521市町村から回答があった。厚労省調査によれば、当該1,521市町村のうち382市町村は調査時点で年金相談用端末計449台の貸与を受けていると回答しており、これに加えて新たに747市町村から計1,224台の貸与の希望があった。これを踏まえて、貴機構は、ねんきんネット代替用端末の調達数量について、厚労省調査において回答があった既貸与分の更改用449台及び新規希望分の1,224台に、回答がなかった220市町村への貸与用として220台を加えた計1,893台とし、これに予備機分を見込んで1.05を乗ずるなどして2,000台と算定していた(表4参照)。そして、貴機構は、当該2,000台に保守用の10台を合わせた計2,010台を令和元年6月に契約を締結して調達していた。

表4 厚労省調査の結果と貴機構による調達数量の算定内容(単位:市町村、台)

厚労省調査の結果
(1,741市町村対象)
回答市町村(1,521市町村)
設問項目 回答種別 市町村数
(台数)
貸与の有無 うち、可搬型端末の貸与を受けていた市町村数(貸与台数) 382
449
うち、可搬型端末の貸与を受けていなかった市町村数 1,139
貸与希望の有無(注) うち、貸与を希望すると回答した市町村数(希望台数) 747
1,224
うち、貸与を希望しないと回答した市町村数 721
未回答市町村(220市町村)
機構による調達数量の算定内容 4491,224220)×1.05+10(保守用)≒2,010
  • (注) 当該設問に無回答の市町村があったことから、市町村数の合計は回答市町村数と一致しない。

しかし、上記の449台分については、貸与を希望した台数ではなく、年金相談用端末の既貸与台数であり、30年契約において、年金相談用端末の当該更改分は既に調達されているため、元年契約におけるねんきんネット代替用端末の調達数量に加える必要はなかった。

したがって、当該449台に予備機分を見込んで1.05を乗じた471台(2年度末までの支払金額相当額6309万余円)を加えて調達数量を算定している事態は適切とは認められない。

また、表4のとおり、厚労省調査に回答した1,521市町村のうち貸与を希望しなかった市町村が721市町村と半数程度を占めている状況であった。しかし、貴機構は、調達に先立って改めて希望調査を行うなどすることなく、厚労省調査に回答しなかった220市町村に対して、一律に1台ずつ貸与するとして調達数量を220台(2年度末までの支払金額相当額2947万余円)と算定していた。そして、現に、2年度末時点で、当該220市町村に対して、ねんきんネット代替用端末は77台しか貸与されていない状況となっていた。

したがって、市町村における需要の状況を考慮することなく、一律に未回答市町村の全てに対して貸与するとして調達数量を算定している事態は適切とは認められない。

(2)元年契約において調達されたねんきんネット代替用端末が貸与を希望している市町村に貸与されていない事態

貴機構は、ねんきんネット代替用端末の貸与に先立ち、元年5月に、全1,741市町村のうち、廃止される前の市町村用ねんきんネットを利用するなどしていた1,321市町村を対象にして、機構調査を行っていた。そして、貴機構は、機構調査の結果に基づいて、ねんきんネット代替用端末を貸与していた。

しかし、機構調査の対象外となっていた残りの420市町村についてみると、表5のとおり、厚労省調査で貸与を希望していた市町村が106市町村見受けられた。前記のとおり、貴機構は、厚労省調査の結果に基づいて、貸与希望があった新規分の貸与用を1,224台と算定して調達していた。そして、これらの中には、上記の106市町村が貸与を希望していたねんきんネット代替用端末165台(2年度末までの支払金額相当額2210万余円)が含まれているにもかかわらず、機構調査の対象外となっていたことから、当該106市町村には、2年度末時点においても、ねんきんネット代替用端末は1台も貸与されていない状況であった。

したがって、前記のとおり、多数の未配布・未貸与となっている可搬型端末が存在する一方で、調達数量に含まれているねんきんネット代替用端末が貸与を希望している市町村に貸与されていない事態は適切とは認められない。

表5 厚機構調査で対象外となっていた市町村及び厚労省調査による希望台数(単位:市町村、台)

市町村数 厚労省調査による希望台数
全市町村 1,741 1,224
機構調査の対象市町村 1,321 1,059
機構調査の対象外市町村 420 165
うち、厚労省調査で貸与を希望していた市町村 106 165

(3)市町村において長期間にわたって使用されていないのに、その理由を把握した上で、貸与を継続する必要性を検討していない事態

前記のとおり、市町村に貸与されている年金相談用端末及びねんきんネット代替用端末のうち、全く使用されていない可搬型端末が209台と多数生じている状況となっている。

そこで、本院の求めに応じて、貴機構が、年金相談用端末及びねんきんネット代替用端末のそれぞれについて、市町村において使用されていない理由を確認したところ、2年度末時点で年金相談用端末の貸与を受けていて使用実績がなかった72市町村のうちの49市町村及びねんきんネット代替用端末の貸与を受けていて使用実績がなかった114市町村のうちの102市町村からそれぞれ回答を得た。その結果、図2のとおり、いずれも「年金事務所等への問合せで対応可能なため」と回答した市町村が最も多くなっているなど、そもそも貸与を継続する必要性について疑問があると考えられる回答が多く見受けられた一方、「操作方法を理解した人員等がいないため」など、使用の意向はあるものの使用できていないと考えられる回答も見受けられた。

図2 使用実績のない市町村が年金相談用端末又はねんきんネット代替用端末を使用しない理由

使用実績のない市町村が年金相談用端末又はねんきんネット代替用端末を使用しない理由

しかし、貴機構は、前記のとおり、貸与した年金相談用端末及びねんきんネット代替用端末の使用実績について、業務実施報告書により定期的に照会件数の実績を把握していたのに、それらは使用目的に沿って使用されていることを確認する目的で提出させていたことから、長期間にわたって使用されていない理由についてはこれまで把握しておらず、貸与を継続する必要性を検討していなかった。

したがって、長期間にわたって使用実績がない年金相談用端末及びねんきんネット代替用端末が209台(2年度末までの支払金額相当額2858万余円)と多く見受けられているのに、貴機構が、市町村において、それらが使用されていない理由を把握した上で、貸与を継続する必要性を検討していない事態は、適切とは認められない。

(是正改善及び改善を必要とする事態)

貴機構において、可搬型端末の調達数量の算定が適切に行われていない事態は適切ではなく、是正改善を図る要があると認められる。また、ねんきんネット代替用端末が貸与を希望している市町村に貸与されていない事態及び市町村で長期間にわたって使用されていないのに、その理由を把握した上で、貸与を継続する必要性を検討していない事態は適切ではなく、改善を図る要があると認められる。

(発生原因)

このような事態が生じているのは、貴機構において、次のことなどによると認められる。

ア 可搬型端末の調達数量の算定に当たって、当面の取扱いとして配布していた受給資格期間短縮用端末を多く含んでいたり、他の契約においても可搬型端末を調達するなどしていたり、厚労省調査に回答しなかった市町村があったりしているにもかかわらず、相談件数等の変化を想定して更改の要否等を十分に検討したり、他の契約において調達される可搬型端末との関係を十分に確認したり、市町村における需要の状況を考慮したりして調達数量を算定する必要性についての認識が欠けていること

イ ねんきんネット代替用端末の市町村への貸与に当たって、機構調査の対象範囲に係る検討が十分でないこと

ウ 市町村が長期間にわたって可搬型端末を使用していない場合に、その理由を把握した上で、貸与を継続する必要性を検討したり、当該理由に応じた対策を講じたりする体制が整備されていないこと

3 本院が求める是正改善の処置及び要求する改善の処置

貴機構は、被保険者等に対するサービス向上のために、引き続き、可搬型端末を年金事務所等に配布したり、市町村に貸与したりしていくこととしており、今後も、機器の更改を定期的に行うことが見込まれる。

ついては、貴機構において、今後、可搬型端末の調達、貸与等が適切に行われるよう、次のとおり是正改善の処置を求め及び改善の処置を要求する。

ア 相談件数等の変化を想定して更改の要否等を十分に検討したり、他の契約において調達される可搬型端末との関係について十分に確認したり、市町村における需要の状況を考慮したりして調達数量を算定するよう関係部署に周知徹底すること(会計検査院法第34条の規定により是正改善の処置を求めるもの)

イ 貸与先の決定に当たり、貸与を希望している市町村に可搬型端末が適切に貸与されるよう、希望調査の対象範囲を十分に検討するよう関係部署に周知徹底するとともに、機構調査の対象外となっていた市町村に対して希望調査を行い、その結果に基づいてねんきんネット代替用端末を貸与すること(同法第36条の規定により改善の処置を要求するもの)

ウ 市町村に貸与している可搬型端末について、長期間にわたって使用されていない場合に、その理由を把握した上で、貸与を継続する必要性を検討したり、当該理由に応じた対策を講じたりするための体制を整備して、貸与を継続する必要がないものが生じた場合には、他用途も含めた利活用について検討するようにすること(同法第36条の規定により改善の処置を要求するもの)