独立行政法人日本スポーツ振興センター(以下「センター」という。)は、センターが設置するスポーツ施設及び附属施設を運営するなどのために、独立行政法人日本スポーツ振興センター会計規則(平成15年度規則第13号。以下「会計規則」という。)等に基づいて契約を締結することとなっている。
会計規則等によれば、契約担当役は、貸借の契約をする場合においては、公告して申込みをさせることにより競争に付さなければならないことなどとされている。そして、一般競争入札に付し、公告内容に基づき申込みをした落札者と契約するときは、公告で示した仕様書の内容によって締結しなければならないことになっている。また、公告で示した仕様書の内容によって落札者が契約を結ばない場合は、仕様書の内容を変更した上で改めて公告して一般競争入札に付するなどする必要がある。
センターは、日本のスポーツ史に関する資料等の博物館資料約6万件(個人や団体から寄託された2,000件以上の博物館資料を含む。)及び歴代オリンピック大会報告書等の図書館資料約16万冊(以下、これらを合わせて「収蔵品」という。)の収集・保存等を行う秩父宮記念スポーツ博物館・図書館(以下「秩父宮博物館」という。)を管理して運営している。
秩父宮博物館は、国立霞ヶ丘競技場陸上競技場(以下「旧国立競技場」という。)に設置されていたが、旧国立競技場の解体及び同地での新たな国立競技場の建設が決定されたことに伴い、センターは、秩父宮博物館を再設置するまでの間、収蔵品を仮保管する必要が生じた。このため、センターは、平成26年2月に、同年4月1日から令和2年3月31日までを賃貸借期間として、東京都足立区綾瀬所在の倉庫(倉庫棟の2階及び3階並びに事務所棟の1階及び2階。以下「綾瀬倉庫」という。)を保管場所として6年間賃借する賃貸借契約(以下「当初契約」という。)を賃貸借料301,766,400円(消費税等抜き)で一般競争契約により日本通運株式会社首都圏支店移転引越第三営業部(平成31年4月14日以前は日本通運株式会社東京引越支店、令和3年4月1日以降は日本通運株式会社関東甲信越ブロックロジスティクスビジネスユニット移転引越第三営業部。以下「会社」という。)と締結していた。
また、センターは、秩父宮博物館を(仮称)神宮外苑地区市街地再開発事業による移転後の秩父宮ラグビー場に設置することの検討に伴い収蔵品の仮保管期間を延長することとした。このため、2年3月に、同年4月1日から3年3月31日までを賃貸借期間として、綾瀬倉庫を引き続き1年間賃借する賃貸借契約(以下「延長契約」という。)を賃貸借料50,294,400円(消費税等抜き)で随意契約により会社と締結していた。
本院は、合規性等の観点から、賃貸借契約に係る契約手続は会計規則等に基づいて適正に行われているかなどに着眼して、当初契約の賃貸借料325,907,712円(消費税等込み)及び延長契約の賃貸借料55,323,840円(消費税等込み)、計381,231,552円(消費税等込み)を対象として、センター本部において、契約書等の関係書類及び現地を確認するなどして会計実地検査を行った。
検査したところ、次のとおり適切とは認められない事態が見受けられた。
センターは、当初契約について、賃貸借物件が博物館・図書館の資料という特殊な物の保管場所であるとして、賃貸借物件の立地条件を東京23区内とし、国立代々木競技場にある収蔵庫との業務連携を図るために同競技場を基点として半径5km以内にあること、収蔵品を水害から守るために洪水ハザードエリア外に立地していることなどを仕様書で示して、平成25年9月に公告した。そして、センターは同年11月に一般競争入札を実施し、会社が落札した。その後、センターは同月に会社から賃貸借物件とする予定であった上記の立地条件に適合する東京都世田谷区若林所在の倉庫(以下「若林倉庫」という。)の貸出しができなくなった旨の連絡を受け、同時に、代替案として賃貸借物件を若林倉庫から綾瀬倉庫に変更すること、及びこの場合には、センターが別途発注する予定であった倉庫内部の湿度管理等を行うための空調工事等について、会社が費用を負担して実施することを提案された。この提案について、センターは、綾瀬倉庫が、国立代々木競技場から直線距離で約16km離れていたり、東京都足立区の洪水ハザードマップで浸水深が2m以上5m未満(当初契約締結時。令和2年8月に公表された国土交通省の洪水ハザードマップでは5m以上10m未満とされている。)と想定される浸水区域に所在していたりしていて仕様書における立地条件を満たしていないものの、東京23区内であり人と収蔵品の移動に支障はなく、また、賃借する倉庫棟は2階と3階であるため業務上水害の影響はないと考えた。その上で、賃貸借料とは別に発生することを見込んでいた倉庫の空調工事等に係る費用が不要となることを考慮すれば、条件的に良いものであると判断した。そして、平成26年2月に、賃貸借物件を綾瀬倉庫として、落札額で当初契約を締結し、その後令和2年3月に、引き続き1年間綾瀬倉庫を賃借する延長契約を締結していた。
しかし、センターは、前記のとおり契約に関する仕様書に保管場所の立地条件を国立代々木競技場から半径5km以内で洪水ハザードエリア外に立地している物件と示していたことから、同競技場から約16km離れていたり、洪水ハザードエリア内に立地していたりする物件でも良いとするのであれば、入札の公正性を期するとともに、競争性を確保して経済性を追求するために、会社と契約を締結せず、仕様書の内容を変更した上で、改めて公告して一般競争入札に付する必要があった。
また、センターは、前記のとおり、業務上水害の影響はないと判断して仕様書の内容を満たしていない綾瀬倉庫を賃借する当初契約を締結していた。しかし、想定される洪水が発生した場合、事務所棟の1階及び2階並びに倉庫棟の1階共用部分が浸水するのに加えて、歩道と同じ高さに設置された高圧キャビネット内の開閉器等が水没して商用電源が途絶して、倉庫棟のエレベータが停止して収蔵品の搬入・搬出が不可能となったり、空調設備等が停止し倉庫内の湿度が上昇して収蔵品が汚損したりするおそれがある状況となっていた。
さらに、センターは、綾瀬倉庫を賃借する当初契約を締結するに当たって、綾瀬倉庫を対象とした見積書や空調工事の見積書を提出させるなどして綾瀬倉庫の賃貸借料を精査することなく、若林倉庫の賃貸借料に基づいた落札額で当初契約を締結していた。
したがって、センターが、改めて一般競争入札に付することなく公告で示した仕様書の内容を満たしていない物件を賃借する契約を締結していたこと、及び公告で示した仕様書の内容を満たしていない当初契約の賃貸借期間を1年間延長していたこと、並びにこれらの結果、想定される洪水が発生した場合に収蔵品が汚損するおそれがある状況となっていたことなどは適切でなく、前記2契約の賃貸借料381,231,552円(消費税等込み)は不当と認められる。
このような事態が生じていたのは、センターにおいて、賃貸借契約を締結するに当たり、会計規則等を遵守して契約手続を適正に行うことの認識が欠けていたことなどによると認められる。