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独立行政法人住宅金融支援機構が旧住宅金融公庫から承継した賃貸住宅融資において、借受者が礼金を受領しているなど賃貸条件の制限に違反していたもの[独立行政法人住宅金融支援機構本店、6支店](140)―(156)


科目
(既往債権管理勘定)貸付金
部局等
独立行政法人住宅金融支援機構本店、6支店
貸付けの根拠
住宅金融公庫法(昭和25年法律第156号)
賃貸住宅融資の概要
賃貸住宅を建設して事業を行う者に、住宅の建設等に必要な長期資金の貸付けを行うもの
貸付先
賃貸住宅を建設して事業を行う者
貸付先の件数
17件
貸付金残高の合計
1,290,792,169円(令和元年度末)
不当と認める貸付金残高の合計
1,290,792,169円(令和元年度末)

1 賃貸住宅融資の概要

独立行政法人住宅金融支援機構(以下「機構」という。)は、平成19年4月、独立行政法人住宅金融支援機構法(平成17年法律第82号。以下「機構法」という。)に基づき、住宅金融公庫(以下「旧公庫」という。)の権利及び義務を承継して設立された。旧公庫は、同年3月まで住宅金融公庫法(昭和25年法律第156号。以下「旧公庫法」という。)に基づき、国民が健康で文化的な生活を営むに足る住宅の建設等に必要な資金で一般の金融機関で対応が困難なものを融通することなどを目的として、住宅を建設して賃貸する事業を行う者に対して35年等の長期資金の貸付け(以下「賃貸住宅融資」という。)を行っていた。そして、機構が旧公庫から承継した賃貸住宅融資の残高は、令和元年度末現在265,605,606,245円(3,307件)となっている。

賃貸住宅融資については、賃借人の保護を図ることなどの目的から、旧公庫法及び住宅金融公庫法施行規則(昭和29年大蔵・建設省令第1号。以下「旧施行規則」という。)によれば、借受者は、賃貸住宅融資により建設された賃貸住宅(以下「賃貸住宅」という。)の賃貸に当たって、家賃の3か月分(地域又は融資の種類によっては6か月分又は9か月分)を超えない額の敷金を除き、賃借人から礼金、更新料等を受領することを賃貸の条件としてはならないこととされていた。また、借受者は、解約申入れ期限を1か月よりも前とした取決めをするなど、賃借人の不当な負担となることを賃貸の条件としてはならないこととされていた。

機構法の施行に伴い旧公庫法は廃止されたが、機構法によれば、旧公庫法に基づいて行われた賃貸住宅融資に係る賃貸条件の制限は従前どおりとされている。

本院が平成21年次に上記賃貸条件の制限について検査したところ、借受者等において賃貸条件の制限があることについての認識が欠如していたり、機構において、賃貸住宅の実態調査(以下「実態調査」という。)について本店から支店へ明確な指示をしていなかったりなどしたため、借受者が賃借人から礼金を受領しているなど賃貸条件の制限に違反している事態が見受けられた。そこで、機構において、借受者等に賃貸条件の制限が遵守されるよう周知を図り、実態調査を毎年確実に実施するなどの処置を講ずるよう、機構に対して21年10月に、会計検査院法第34条の規定により是正の処置を要求し及び是正改善の処置を求めた。

機構は、上記本院の指摘を受けて、賃貸条件の制限に関する周知については、21年11月以降、機構のホームページに掲載するなどし、毎年の実態調査の実施については、23年3月に実態調査の実施方法等を定めた調査要領を策定の上、同年4月から実態調査を開始し、毎年確実に実施することとした。

その後、本院は、令和2年次の検査において、賃貸住宅融資に係る賃貸条件の制限が本院の指摘を受けて適切に遵守されているかなどに着眼して検査したところ、検査した賃貸住宅融資25件のうち22件について、借受者が賃借人から礼金を受領しているなど賃貸条件の制限に違反している事態が見受けられた。また、賃貸条件の制限に関する周知については、ホームページに掲載していたものの、平成27年度以降は賃借人や借受者等が容易に確認できる状況となっていないなど、本院の指摘の趣旨に必ずしも沿ったものとはなっていなかったり、毎年の実態調査の実施については、28年度以降は全く実施していなかったりしていた。そして、担当部署が実態調査を終了したことについて、機構内の経営に関する会議等に対して報告されないなど、機構内部において、実態調査に係る統制が十分に機能していなかったことから、本院の指摘を受けて講じた処置の一部が履行されなくなっていた。そこで、本院は、これらの事態について令和元年度決算検査報告に不当事項として掲記した。

2 検査の結果

(1)検査の観点、着眼点、対象及び方法

本院は、合規性等の観点から、賃貸住宅融資に係る賃貸条件の制限は、本院の指摘を受けて適切に遵守されているかなどに着眼して、令和3年次は、2年次の検査において把握した賃貸条件が入居募集広告に掲載されていて賃貸条件の制限に違反している可能性のある賃貸住宅融資のうち、2年次までに検査を完了するに至らなかった機構本店首都圏広域事業本部及び6支店(注1)の各管内における37件(元年度末貸付金残高計2,561,646,738円)を対象として検査した。検査に当たっては、機構本店及び3支店(注2)において、賃貸借契約書等の内容を確認するなどして会計実地検査を行うとともに、3支店(注3)について機構本店を通じて賃貸住宅融資に係る賃貸借契約書等の提出を受けるなどして検査した。

(注1)
6支店  北海道、東北、東海、近畿、中国、九州各支店
(注2)
3支店  東海、近畿、中国各支店
(注3)
3支店  北海道、東北、九州各支店

(2)検査の結果

検査したところ、機構本店首都圏広域事業本部及び6支店の各管内の賃貸住宅融資17件(元年度末貸付金残高計1,290,792,169円)において、借受者が賃借人から礼金を受領しているなど賃貸条件の制限に違反している事態が見受けられた。そして、この17件の違反内容についてみると、敷金を過大に受領していたものが4件(同計464,239,912円)、礼金を受領していたものが12件(同計996,519,080円)、更新料を受領する取決めをしていたものが4件(同計220,050,687円)、敷引き(注4)を設定していたものが3件(同計170,507,485円)、退去月の家賃について、日割計算を行わない取決めをしているなど賃借人の不当な負担となることを賃貸の条件としていたものが8件(同計662,121,349円)となっていた(一つの物件で複数の賃貸条件の制限に違反しているものがあるため、件数及び貸付金残高の計は一致しない。)。

(注4)
敷引き  賃貸借契約書において、あらかじめ敷金の一定額を退出時に返還しないと定めること

上記の事態について、事例を示すと次のとおりである。

事例

賃貸住宅を建設して事業を行う借受者Aは、中国支店管内に建設した賃貸住宅(総戸数32戸)の建設等に必要な資金として、平成12年7月に賃貸住宅融資256,700,000円(貸付期間35年。令和元年度末貸付金残高141,806,658円)を受けている。調査したところ、2年5月の時点における入居戸数30戸のうち29戸について賃貸条件の制限に違反していた。そして、この29戸の違反内容についてみると、29戸の全てにおいて礼金を受領していたり、このうちの1戸は、退去月の家賃について、日割計算を行わない取決めをしているなど賃借人の不当な負担となることを賃貸の条件としていたりしていた。

したがって、本院が是正改善の処置を求め、機構において、これを受けて実態調査を毎年確実に実施することとするなどの処置を講じたにもかかわらず、その一部が履行されなくなるなどしていたため、賃貸住宅融資について賃貸条件の制限に違反していた事態が生じていたことは適切とは認められず、賃貸住宅融資17件に係る貸付金残高1,290,792,169円が不当と認められる。

このような事態が生じていたのは、借受者等において旧公庫法及び旧施行規則に規定する賃貸条件の制限に関する認識が欠けていたことにもよるが、機構において借受者等に賃貸条件の制限を遵守させるための取組を継続的に実施することの重要性に対する認識が欠けていたことなどによると認められる。

前記の事態を部局等別・貸付先別に示すと次のとおりである。

 
部局等
貸付先
貸付年月
当初貸付金額
令和元年度末貸付金残高
不当と認める貸付金残高
        千円 千円 千円
(140)
本店
賃貸住宅事業を行う個人
7.12 262,900 119,508 119,508
(141)
13.4 60,600 12,979 12,979
(142)
14.3 541,800 176,034 176,034
(143)
17.5 274,200 113,055 113,055
(144)
北海道支店
15.9 55,000 34,653 34,653
(145)
東北支店
11.11 82,900 17,722 17,722
(146)
東海支店
7.4 151,400 64,077 64,077
(147)
14.9 91,200 56,710 56,710
(148)
近畿支店
11.2 94,800 37,482 37,482
(149)
賃貸住宅事業を行う法人
13.4 70,400 40,997 40,997
(150)
中国支店
12.2 155,600 80,411 80,411
(151)
12.7 256,700 141,806 141,806
(152)
賃貸住宅事業を行う個人
13.10 47,000 19,767 19,767
(153)
賃貸住宅事業を行う法人
14.4 390,500 238,300 238,300
(154)
九州支店
賃貸住宅事業を行う個人
9.6 149,200 49,719 49,719
(155)
11.10 74,400 29,084 29,084
(156)
12.12 128,300 58,478 58,478
(140)―(156)の計 2,886,900 1,290,792 1,290,792