日本放送協会(以下「協会」という。)は、放送法(昭和25年法律第132号)に基づき、公共の福祉のために、あまねく日本全国において受信できるように豊かで、かつ、良い放送番組による国内基幹放送を行うことなどを目的として設立された法人であり、業務活動の効率的運営に資することを目的として、経理規程等を定めている。経理規程等によれば、透明性の確保及び経済性に留意し効率的な調達に努めるとされ、契約は競争によることを原則とし、入札(一般競争入札等)、競争見積(注1)等の適切な方法をもって行うとされている。このうち、競争見積は、複数業者体制による契約とする場合等契約の性質又は目的が入札に適さないときなどに採用できるとされている。
協会本部は、本部及び全国の53放送局(以下、これらを合わせて「放送局等」という。)が使用する複写機本体及び付加装置(以下、これらを合わせて「複写機本体等」という。)を賃借により調達するために、年間借用料金及び1枚当たりの保守料金単価を定めた基本契約(契約期間3年間)を複数の業者と締結している。そして、放送局等は、基本契約に基づき、基本契約を締結した複数の業者のうちから契約相手方とする業者に注文書を送付し、当該業者から注文請書を受領して複写機本体等の賃借契約を締結している。
また、協会本部は、基本契約の仕様書において、契約相手方に複写機ごとの設置箇所、使用枚数等のデータ(以下「実績データ」という。)を提出させることとしている。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
本院は、合規性、経済性等の観点から、複写機の調達は、経理規程等に基づき、透明性及び競争性が確保され、経済的なものとなっているかなどに着眼して、平成30年度から令和2年度までの複写機の調達に係る支払金額計24億0328万余円を対象として、協会本部において、複写機の調達に係る契約書、仕様書等の関係書類を確認するとともに、9放送局(注2)において、複写機の使用実態を確認するなどして会計実地検査を行った。
(検査の結果)
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
協会本部は、複写機の調達に当たり、公告して申込みをさせることにより契約の透明性及び競争性が確保される一般競争入札によらず、競争見積により、契約期間を平成30年度から令和2年度までの3年間とする基本契約を5者と締結していた。
協会本部は、公共メディアとして放送番組等の確実な送出のためには、放送局等からの様々な要望に応じなければならず、複写機の調達に当たって複数の業者と契約を締結することが必要であるとしていた。そして、複写機本体の機能は業者ごとに異なること、また、特定の業者が装備する特殊な付加装置について放送局等の自由な選択を可能としなければならないことから、1者が契約相手方となる一般競争入札は実施できず、競争見積を実施しているとしていた。
しかし、複写機本体について基本契約書を確認したところ、5者は、協会本部が仕様書で示した高速機・中速機・低速機の処理枚数区分等に従い各要件を満たす機種を提示していて、おおむね同様の仕様となっていた。また、付加装置について注文請書等を確認したところ、複数の業者で同様の機能となっており、特定の業者しか提供できないものは見受けられなかった。
さらに、協会本部は、複写機の調達に当たり、全国の機器台数、利用枚数等の予定数量を算出することが困難であることも一般競争入札ができない理由の一つとしていた。しかし、前記のとおり、契約相手方に実績データを提出させていたことから、調達予定数量を算出することは可能であった。
したがって、協会が調達している複写機は、特定の業者しか提供できないものではなく広く使用されている汎用機器であり、実績データに基づくなどして調達予定数量を算出して一般競争入札を実施することは可能であったと認められた。
(1)のとおり、協会本部は、複写機の調達に当たり、一般競争入札によらず、競争見積により契約を締結していたが、その支払額のうちの大部分を占める保守料金の単価についてみると次のとおりとなっていた。
協会本部は、5者から見積書を徴した結果、A社の見積価格が最も低額な価格(以下、この価格を「見積最低価格」という。)であったため、見積最低価格を上限としてA社以外の4者(以下「4者」という。)と価格交渉を行った。しかし、4者からは、見積価格を下げることは市況から困難である旨の申出を受けたことから、協会本部は、A社とは見積最低価格で契約する一方で、4者とはA社より高額な前回契約額と同額の見積価格(4者同額)のまま契約を締結していた。そして、少なくとも記録が確認できた平成24年度以降同じ5者とそれぞれ契約を締結していた。
したがって、支払総額の大部分を占める保守料金の単価は、透明性及び競争性が確保されておらず、割高になっているおそれがあると認められた。
そこで、保守料金単価を比較するために、独立行政法人等のうち全国規模で事業所を有し、計算証明規則(昭和27年会計検査院規則第3号)等に基づき本院に契約書類を提出していた8法人に係る複写機の保守契約についてみたところ、協会と同様に一定規模の台数を同時期に一括調達の対象にしているものが3法人において5契約見受けられた。そして、協会と大多数の複写機を調達している4者との間の契約の保守料金単価を上記3法人5契約の保守料金単価と比較してみると、表のとおり、モノクロにおいて、高速機が1.89倍から5.30倍まで、中速機が1.65倍から3.97倍まで、低速機が2.61倍から4.85倍までとなり、カラーにおいて、中速機が1.41倍から2.33倍まで、低速機が2.19倍から2.51倍までとなり、それぞれ割高になっていた。
表 保守料金単価比較表(単位:円/枚)
処理枚数区分 | モノクロ/ カラー |
協会と4者との間の保守料金単価 注(2) | 3法人5契約の保守料金単価 注(3) | 保守料金単価の比較(倍) | |||
---|---|---|---|---|---|---|---|
最低額① | 最高額② | 最低額③ | 最高額④ | ①/④ | ②/③ | ||
高速機 (60~89枚/分) |
モノクロ | 2.1 | 2.6 | 0.49 | 1.11 | 1.89 | 5.30 |
カラー | 11.8 | ― 注(4) | ― | ||||
中速機 (40~59枚/分) |
モノクロ | 2.5 | 2.7 | 0.68 | 1.51 | 1.65 | 3.97 |
カラー | 12.8 | 5.49 | 9.04 | 1.41 | 2.33 | ||
低速機 (~39枚/分) |
モノクロ | 2.9 | 3.3 | 0.68 | 1.11 | 2.61 | 4.85 |
カラー | 13.8 | 5.49 | 6.28 | 2.19 | 2.51 |
これらのことから、本件競争見積による複写機の調達は、一般競争入札を実施することが可能であったにもかかわらず、これを実施しなかったことにより透明性及び競争性が確保されておらず、経済的な価格により契約を締結していなかった事態は適切ではなく、改善の必要があると認められた。
(節減できた保守料金の支払額)
前記の3法人5契約全てにおいて、保守料金単価が設定されている中速機について、最も高額な単価モノクロ1.51円、カラー9.04円を用いて30年度から令和2年度までの実績データに基づき試算したところ、協会の中速機の保守料金は、平成30年度2億2989万余円、令和元年度2億2274万余円及び2年度1億5279万余円、計6億0542万余円が、それぞれ1億5266万余円、1億4564万余円及び9934万余円、計3億9765万余円となり、これらの差額7722万余円、7709万余円及び5344万余円、計2億0777万余円が節減できたと認められた。
(発生原因)
このような事態が生じていたのは、協会本部において、本件複写機の調達に当たり、一般競争入札を実施することにより、透明性及び競争性を確保し、経済的な価格により契約を締結することについての検討が十分でなかったことなどによると認められた。
上記についての本院の指摘に基づき、協会は、複写機の調達に当たり、複写機本体等の台数及び使用枚数の調達予定数量を算出した上で、これらの必要事項を記載した適切な仕様書等を提示して、一般競争入札を実施することにより、透明性及び競争性を確保し、経済的な価格により3年2月に契約を締結するとともに、4年度以降の複写機の調達も一般競争入札により実施することとする処置を講じた。