東日本電信電話株式会社(以下「東会社」という。)及び西日本電信電話株式会社(以下「西会社」という。)は、電気通信事業法(昭和59年法律第86号。以下「法」という。)に基づき、電柱等を総務省令で定める技術基準に適合するように維持しなければならないこととなっている。また、法第44条第1項及び第2項に基づいて両会社がそれぞれ定めた事業用電気通信設備管理規程(平成27年社長達東第81―13号)及び事業用電気通信設備管理規程(平成27年社長達第2号)(以下、これらを合わせて「管理規程」という。)によれば、両会社は、電気通信役務の確実かつ安定的な提供の確保を期するために、電柱等の管理において、作業手順・管理方法をドキュメント化することなどの推進を図ることとされており、管理規程に基づき、電柱の維持管理に関する点検の作業手順や管理方法等を「設備点検マニュアル」(以下「点検マニュアル」という。)等で定めている。
点検マニュアルによれば、東会社においては木柱は1年、コンクリートポール(以下「CP」という。)及び鋼管柱(以下、CP及び鋼管柱を合わせて「CP等」という。)は10年の周期で、西会社においては木柱は1年、CP等は5年の周期で定期点検を実施することとされている。また、西会社は、令和元年度以降、CP等の定期点検の点検数量が同数程度になるよう、各地域事業本部管内をそれぞれ五つのエリアに分割して、エリア単位に点検年度を設定して、5年で全てのエリアについて点検(以下「エリア点検」という。)を実施することとしている。
両会社は、定期点検の実施に当たって、電柱の点検業務を効率的に行うために導入した設備点検端末(以下「点検AP」という。)を使用して、東会社は「設備点検端末(ビジュアル版)操作マニュアル」及び「設備点検端末(ビジュアル版)運用マニュアル(点検作業者編)」、西会社は「保全DB・設備点検AP業務運用マニュアル」(以下、これらを合わせて「点検APマニュアル」という。)等に基づき、ひび割れ及びケーブル張力の不均衡等による荷重(以下「不平衡荷重」という。)の有無等の点検項目について不良箇所がないか目視等により確認することとしている。そして、確認した結果を点検APに入力して、不良の程度が高いものから順にAA、A、B、C及びDのランク(以下「不良ランク」という。)を判定することなどとしている。
点検結果について、東会社は、元年10月まで、点検APを使用したり、直接入力したりして、点検結果等の情報を管理するためのシステムである設備状況管理システム(以下「管理システム」という。)に登録していた。また、西会社は、元年6月まで、各点検項目について確認した結果を紙の点検票に記入して不良ランクを判定した後に、その内容を管理システムへ直接入力して登録していた。そして、東会社は元年11月以降、西会社は同年7月以降、点検APを使用して、複数の不良設備等を統合的に解消していくなどのために開発した保全データベース(以下「保全DB」という。)に点検結果を登録し、点検結果等の情報を一元的に管理することとしている。
また、両会社において管理システムに登録されていた点検結果等の情報は、保全DBの開発時に管理システムから保全DBに移行されている。
両会社は、点検マニュアル等に基づき、保全DBに登録された点検結果を基に、毎年度、定期点検の対象となる電柱(以下「点検対象電柱」という。)を選定して作成した点検リストに基づいて定期点検を実施したり、更改の対象となる電柱(東会社においては不良ランクがBランク以上、西会社においては不良ランクがAランク以上の電柱)について不良ランクがAAランクのものから順に更改したり、更改の対象とならない電柱についてその不良内容に応じた不平衡荷重の除去等の措置を講じたりなどすることとなっている。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
両会社によると、電柱は、屋外に設置されているため、自然環境による経年劣化等により住民等の安全を損なう危険性があることから、これらを未然に防止するために設備点検が必要不可欠であり、両会社はその結果を基に適切な時期に電柱を更改することが重要であるとしている。
そこで、本院は、合規性等の観点から、電柱の定期点検は点検マニュアルに定められた点検周期に基づいて適切に実施されているか、不良ランクは点検項目について確認した結果に基づき適切に判定されているかなどに着眼して検査した。
検査に当たっては、東会社の6事業部(注1)の20支店(注2)管内の電柱3,387,014本(固定資産価額相当額(注3)3200億6604万余円)、西会社の6地域事業本部(注4)の10支店(注5)管内の電柱2,802,122本(同4267億7158万余円)を対象として、両会社から保全DBのデータ提出を受けて(東会社は2年3月、西会社は同年11月)その内容を分析した。そして、東会社の本社及び3事業部(注6)並びに西会社の本社及び3地域事業本部(注7)において、電柱の維持管理の状況について担当者から説明を聴取するなどして会計実地検査を行うとともに、東会社の3事業部(注8)及び西会社の3地域事業本部(注9)については、電柱の維持管理に関する書類等の提出を受けて、その内容を確認するなどして検査した。
(検査の結果)
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
保全DBのデータを基に、定期点検が適切に実施されているかみたところ、点検リストの作成に当たり、東会社は、私有地等で立入りができなかったことなどのため点検が実施できなかった電柱を抽出するための条件を設定していなかったり、電柱を設置してからの経過年数を算出していなかったりしていて、これらの電柱を点検対象電柱に選定していなかった。このため、前回の点検年月日等からの点検周期を超過していたのに定期点検を実施していなかった電柱が2,433本(固定資産価額相当額2億2991万余円)見受けられた。
また、西会社は、エリア点検を実施するエリア以外に設置されていて定期点検の実施が必要な電柱を抽出するための条件を設定していなかったり、電柱の建設年月を確認していなかったりしていて、これらの電柱を点検対象電柱に選定するなどしていなかった。このため、前回の点検年月日等からの点検周期を超過していたのに定期点検を実施していなかった電柱が31,962本(同48億6790万余円)見受けられた。
そして、両会社において点検マニュアルに定められた点検周期に基づいた定期点検を実施していなかったことから、電柱の劣化の進行や新たな不良箇所の把握が遅れるなどしていて、電柱の安全性が十分に確保されていないおそれがある状況となっていると認められた。
両会社は、点検結果について、前記のとおり、東会社は元年10月まで、西会社は同年6月まで、管理システムへ直接入力するなどして登録していた。そして、両会社は、管理システムに登録されていた点検結果等の情報を保全DBに移行するとともに、東会社は元年11月以降、西会社は同年7月以降、点検APを使用して、保全DBに点検結果を登録している。
そこで、保全DBのデータを基に、不良ランクが適切に登録されているかみたところ、東会社において、管理システムへ点検結果を直接入力して登録する際に、その入力に誤りなどがあった。このため、不良ランクが登録されていなかった電柱が7,563本(固定資産価額相当額7億1468万余円)見受けられ、不良ランクに応じた措置を適時適切に講ずることができないなど電柱の安全性が十分に確保されていないおそれがある状況となっていた。
また、西会社において、管理システムへ点検結果を直接入力して登録する際に、その入力に誤りがあったり、管理システムの点検項目欄が全て空欄となっていて、これらの情報の移行を受けた保全DBにおいて不良ランクを判定することができない状況となっていたりなどしていた。このため、不良ランクが登録されていなかった電柱が53,134本(同80億9246万余円)見受けられ、不良ランクに応じた措置を適時適切に講ずることができないなど電柱の安全性が十分に確保されていないおそれがある状況となっていた。
点検マニュアル等によると、CPに屈曲が発生しているなどの場合は、不良ランクをAAランクと判定することとなっている。また、電柱に不平衡荷重が発生している場合は、ケーブル張力に対して必要な支線が設置されていないことなどの不平衡荷重の発生要因を点検APに入力して、保全DBに登録することとなっている。そして、CPに横ひび割れが発生している場合において、同時に不平衡荷重が発生している場合は不良ランクをAランク、不平衡荷重が発生していない場合は不良ランクをBランクと判定することなどとなっている。
そこで、保全DBのデータを基に、不良内容に応じて不良ランクが適切に判定されているかみたところ、CPに屈曲が発生しているなどと登録されているのに不良ランクがAAランクとなっていなかった。また、不平衡荷重の発生要因が登録されていることから「横ひび割れ(不平衡荷重が発生している)」と登録すべきなのに「横ひび割れ(不平衡荷重が発生していない)」と登録されていて、不良ランクがAランクとなっていないなどしていた。これらのため、東会社で610本(固定資産価額相当額5764万余円)、西会社で735本(同1億1194万余円)の電柱について、不良ランクの判定が誤っており、不良ランクに応じた措置を適時適切に講ずることができないなど電柱の安全性が十分に確保されていないおそれがある状況となっていた。
現に、両会社において、保全DBのデータの分析結果を基に、不平衡荷重の発生要因が登録されているのに「横ひび割れ(不平衡荷重が発生していない)」と登録されていて不良ランクがBランクとなっていた電柱を抽出して確認したところ、CPに横ひび割れと不平衡荷重が同時に発生していたことから、当該電柱は不良ランクをAランクと判定すべきであった。
このように、両会社において、点検マニュアルに定められた点検周期に基づいた定期点検を実施していなかった事態、不良ランクが登録されていなかった事態及び不良ランクの判定が誤っていた事態は適切ではなく、改善の必要があると認められた。
(発生原因)
このような事態が生じていたのは、次のことなどによると認められた。
ア 両会社の本社において、点検対象電柱を漏れなく選定して点検リストを作成できるよう、点検対象電柱を選定する際の抽出条件が適切に設定されているかなどについての確認が十分でなかったこと、また、両会社の本社並びに事業部等及び地域事業本部等において、毎年度、点検対象電柱を選定する際に、保全DB等の情報を基に点検周期を超過している電柱がないか確認し、選定した電柱について確実に定期点検を実施することについての理解が十分でなかったこと
イ 両会社の本社並びに事業部等及び地域事業本部等において、点検結果を管理システム等へ登録するなどした際に、不良内容及び不良ランクが点検マニュアル等に基づき適切なものとなっているかについての確認が十分でなかったこと、また、不良ランクに応じた措置を適時適切に講ずることにより電柱の安全性を十分に確保することについての理解が十分でなかったこと
ウ 両会社の本社並びに事業部等及び地域事業本部等において、横ひび割れと不平衡荷重が同時に発生している場合の点検AP等への入力方法等についての理解が十分でなかったこと
上記についての本院の指摘に基づき、両会社の本社は、3年8月までに、事業部等及び支店等に対して指示文書を発するなどして次のような処置を講じた。
ア 点検対象電柱を漏れなく選定して点検リストを作成できるよう、点検対象電柱を選定する際の抽出条件を適切に設定するなどするとともに、点検マニュアルに定められた点検周期に基づいた定期点検を実施していなかった電柱について、3年度末までに点検を実施して、点検結果を保全DBに的確に登録することとした。また、毎年度、点検対象電柱を選定する際に、保全DB等の情報を基に点検周期を超過している電柱がないか確認し、選定した電柱について確実に定期点検を実施するよう周知徹底した。
イ 不良ランクが登録されていなかった電柱及び不良ランクの判定が誤っていた電柱について、再点検が必要な電柱の点検を3年度末までに実施して適切に不良ランクの判定を行い、点検結果を保全DBに的確に登録することとした。また、不良ランクに応じた措置を適時適切に講ずることにより電柱の安全性を十分に確保するよう周知徹底した。
ウ 横ひび割れと不平衡荷重が同時に発生している場合の点検APへの具体的な入力方法等について、点検APマニュアル等に定めて、点検APへの入力及び点検結果の確認を適切に行うよう周知徹底した。