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  • 令和2年度|
  • 第4章 国会及び内閣に対する報告並びに国会からの検査要請事項に関する報告等|
  • 第3節 特定検査対象に関する検査状況

第11 北陸新幹線(金沢・敦賀間)の整備に係る工期遅延及び事業費増加の状況等について


検査対象
国土交通省、独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構
北陸新幹線(金沢・敦賀間)の整備を行う事業の概要
北陸新幹線のうち、完成して開業している高崎・長野間及び長野・金沢間に続いて、金沢・敦賀間を整備して路線を延伸するもの
北陸新幹線(金沢・敦賀間)の整備に係る事業費の執行額
1兆0004億円(平成24年度~令和2年度)
上記に係る整備新幹線整備事業費補助の交付額
1317億円(平成24年度~令和2年度)

1 検査の背景

(1)北陸新幹線整備事業の概要

北陸新幹線は、全国新幹線鉄道整備法(昭和45年法律第71号。以下「全幹法」という。)の規定に基づき、昭和48年11月に整備計画が決定され、独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構(平成15年9月30日以前は日本鉄道建設公団。以下「機構」という。)が建設主体(注1)として整備を行っている整備新幹線の一つである。

北陸新幹線のうち、高崎・長野間は9年10月に、長野・金沢間は27年3月にそれぞれ完成して開業しており、現在は、金沢・敦賀間(路線延長約125.2km)について、24年6月以降、機構により整備が進められている(以下、北陸新幹線の金沢・敦賀間の整備を行う事業を「北陸新幹線整備事業」という。参考図参照)。

全幹法等によれば、建設主体は、国土交通大臣が決定した整備計画に基づいて、工事の区間、工事完了予定時期(以下「工期」という。)、事業費等を記載した工事実施計画を作成し、あらかじめ営業主体(注2)に協議した上で国土交通大臣の認可を受けなければならないとされており、これを変更しようとするときも同様とされている。

機構は、北陸新幹線整備事業について、24年6月に用地、土木構造物関係等に係る工事実施計画(その1)の認可を受けて、工期を26年度末に予定される長野・金沢間の開業からおおむね10年強後としていた。その後、「整備新幹線の取扱いについて」(平成27年1月政府・与党申合せ)等を踏まえて、29年10月に認可された軌道、電気等の開業設備の整備に係る工事実施計画(その2)では、事業費が工事実施計画(その1)と合わせて1兆1858億円となり、工期が3年前倒しした34年度末(令和4年度末)となった。

(注1)
建設主体全幹法第6条の規定に基づき国土交通大臣が指名する新幹線鉄道の建設を行う法人
(注2)
営業主体全幹法第6条の規定に基づき国土交通大臣が指名する新幹線鉄道の営業を行う法人。北陸新幹線整備事業については西日本旅客鉄道株式会社

(参図)

北陸新幹線(金沢・敦賀間)の概要図

北陸新幹線(金沢・敦賀間)の概要図_画像

(2)事業費増加等に係る事案の判明、その後の検証、業務改善命令等の経緯

機構は、平成31年2月に、労務単価の上昇、消費税率の引上げ、東日本大震災を踏まえた耐震設計基準の改定等の要因により、北陸新幹線整備事業の事業費を2263億円増額して1兆4121億円とする工事実施計画の変更認可申請を行い、同年3月に認可を受けた。その後、令和2年11月に、事業費が更に増加して認可額1兆4121億円を2880億円上回る見込みであり、かつ、工期が4年度末から1年半程度遅延する見込みであることが明らかとなった。

国土交通省は、工期まで2年強となった時点で遅延の見込みが判明したこと、また、同一事業における2度目の事業費増加であることを踏まえて、2年11月に、外部有識者からなる「北陸新幹線の工程・事業費管理に関する検証委員会」(以下「検証委員会」という。)を設置し、①今般の事業費増加・工期遅延に至った事実関係の検証、②原因究明と再発防止策の検討、③現在の工程短縮策の検証、④更なる工程短縮策・事業費縮減策の検討を行うこととした。そして、検証委員会は、同年12月に、上記のうち①、③及び④の検証・検討結果について中間報告書を取りまとめ、現場の情報が機構本社に正確に伝わっていなかったこと、機構本社のチェック機能が十分でなかったこと、国土交通省鉄道局の機構に対する監理・監督が不十分であったことなどを課題として指摘し、それぞれに対する改善の方向性を示した。また、上記の中間報告書において、工期については、線区全体の工期遅延の主要因となっている敦賀駅工区における人員増強や建築工事の施工方法の見直し、監査・検査期間の短縮により約6か月遅延を回復し、平成31年3月認可の工事実施計画における工期(令和4年度末)から1年程度の遅延に抑えられる見込みであるとされている。事業費については、線区全体の工期遅延の主要因となっている敦賀駅工区以外の工区で行う予定となっていた工程短縮策の一部について内容を精査するなどした結果、約222億円の縮減を図ることができ、同工事実施計画における事業費1兆4121億円から約2658億円の増加に抑えられる見込みであるとされている。

国土交通省は、検証委員会による事業費増加・工期遅延に至った事実関係の検証結果を踏まえて、2年12月に、機構に対して、独立行政法人通則法(平成11年法律第103号。以下「通則法」という。)の規定に基づき、元年度の業務実績評価の結果に関して、業務運営の抜本的な改善に関する命令(国鉄事第469号。以下「業務改善命令」という。)を発出し、機構は、3年1月に、国土交通省に対して、「業務運営の抜本的な改善に関する命令を受けての改善措置について(ご報告)」(鉄運総総第210128001号等)を報告した。同報告において、機構は、工程・事業費管理の責任者を小松市、福井市及び敦賀市にそれぞれ配置すること、1か月以上の工期遅延や工事ごとに1億円以上の工事費の増加が見込まれる場合の本社への報告をルール化すること、工程と事業費を同時かつ総合的に審議する事業総合管理委員会を設置すること、関係自治体・国土交通省・営業主体・機構等で構成する「北陸新幹線金沢・敦賀間工程・事業費管理連絡会議」等を設置することなどを改善措置として示している。

そして、3年3月に、機構は、検証委員会の中間報告書を踏まえて、事業費を2658億円増額して1兆6779億円とし、工期を1年後ろ倒しして5年度末とした工事実施計画の変更認可申請を行い、同月に認可を受けた。

検証委員会は、引き続き前記の「②原因究明と再発防止策の検討」を行って3年6月に最終報告書を公表し、工程管理・事業費管理の仕組み・ルールの見直し、他の公共事業を参考にした発注・契約方法の改善、受注環境の改善等について、機構において取り組むべき課題があるなどとした。そして、EVM(注3)の考え方を参考にした工程と事業費を連動して管理する手法や施工者の技術力を活用するような新たな契約・入札方式の導入、受注者、関係自治体等との情報共有、透明性の確保等を、これらの課題への対応の方向性として示すなどした。

(注3)
EVMEarned Value Managementの略。作業の達成度を金額換算した出来高で示すことで、事業の進捗と事業費の状況を統一的に把握・管理する事業管理手法

(3)工程及び事業費の管理体制等

ア 機構における工程及び事業費の管理体制

機構の組織は、本社、東京支社、大阪支社(3年4月以降は北陸新幹線建設局)、北海道新幹線建設局、九州新幹線建設局等からなり、北陸新幹線整備事業については、土木工事、建築工事、軌道工事等を大阪支社が担い、電気・機械工事等を東京支社が担っている。

工程及び事業費の管理体制については、従来、本社に、事業費を審議する総額管理委員会(委員長:副理事長)、工程を審議する工程管理委員会(委員長:副理事長)、工程管理委員会の下に「北陸新幹線部会」(部会長:担当役員)等が設置されていた(いずれも業務改善命令を受けた改善措置により廃止されて新たに事業総合管理委員会等が設置されている。)。また、各支社局には、事業費、工程等に関する事項を審議する工事管理委員会(委員長:支社長等)が設置されている。各支社局は、認可額を基に、各工事(おおむね契約件名単位)に事業費を割り付け、節減額を差し引くなどした実行目標額を設定した上で、各時点の事業費の所要額(以下「事業費見込額」という。)を実行目標額と比較するなどして事業費管理を行っている。

イ 機構における事業費管理等の在り方に係る業務改善

機構は、平成29年4月に、機構全体が一体となって事業を強力に推進する体制を構築するために、組織改正を実施しており、鉄道建設事業に関する事業費管理、工程管理及びリスク管理を客観的にチェックする部署として、事業監理部を設置している。また、機構は、組織改正に先行して、事業費管理等の在り方に係る業務改善の一環として、28年10月に「総額管理、工程管理及びリスク管理における当面の運用について」(計画部長制定。以下「管理運用通知」という。)を発出し、①事業費見込額等の状況を定期的に理事会に報告すること、②事業費見込額が認可額を上回る場合は、部外の関係者との事前調整等を行う前に総額管理委員会で審議することとし、理事会において経営判断を行うこと、③工程管理については、工程管理委員会や部会において、リスク管理の視点を重視して議論を行うこと、④各支社局との情報共有については、本社主管課は、総額及び工程に影響を及ぼす懸念のある事象を認知した場合は、速やかに本社の計画部計画課(29年4月以降は事業監理部事業監理課)に報告することなどを定めている。

ウ 機構の内部統制

機構は、事業実施部署以外の者による内部統制として、図表1のとおり、理事会、内部統制委員会等の仕組みを設けている。

図表1 機構における内部統制に関する仕組み

理事会
機構は、独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構理事会規程(平成15年10月機構規程第8号)を整備し、理事長、副理事長、理事長代理及び理事をもって構成する理事会を設置して、鉄道建設関係業務に関する基本的事項等について審議することとしている。
工程管理委員会、総額管理委員会等(いずれも業務改善命令を受けた改善措置により廃止)の審議結果に関する事項については理事会に報告しなければならないとされているほか、(3)イのとおり、事業費見込額に関して定期的に理事会に報告することとされている。
同規程によれば、機構に設置された監事は、理事会に出席し、意見を述べることができることとされている。
内部統制委員会
機構は、平成26年6月の通則法改正を受けて、業務方法書に基づき内部統制の推進に関する規程(平成27年3月機構規程第57号)を整備し、理事長を委員長とする内部統制委員会を設置するなど内部統制の推進体制を構築した上で、同委員会を中心に、機構のミッションや中期目標の達成を阻害する要因(リスク)の把握を行うなど、内部統制の充実・強化を図ることとしている。
内部統制委員会は、リスクを把握し、発生可能性及び発生した場合の影響度について評価し、これを踏まえてリスクを「重点対応リスク」(既に顕在化したリスク又は特に重要なリスク)と「通常対応リスク」に分類することとされており、令和元、2両事業年度において、北陸新幹線整備事業は、重点対応リスクに分類されている。
重点対応リスクについては、当該リスクに関する事業を所掌する委員(担当理事)がリスクに対する取組計画を作成し、内部統制委員会に報告することとされており、北陸新幹線整備事業に係る取組計画においては、想定されるリスクとして「開業予定時期の遅延」及び「事業費の認可額超過」が記載されている。
内部監査
本社の監査部は、内部監査規程(平成15年10月機構規程第180号)に基づき、本社、支社等の業務の実施状況等に関して、実地、書面その他必要と認める方法により内部監査を行っている。
内部監査の終了後は、監査結果報告書を作成して理事長に報告することとなっている。

エ 独立行政法人制度における目標設定、業務実績評価等

機構は、通則法に定める中期目標管理法人に分類されている。通則法によれば、主務大臣は、中期目標管理法人の中期目標を定め、中期目標管理法人は、中期目標を達成するための中期計画を作成して主務大臣の認可を受けるとともに、毎事業年度の年度計画を策定することとされている。

そして、中期目標管理法人は、毎事業年度又は中期目標の期間における業務実績について、主務大臣の評価を受けることとされている。独立行政法人の評価に関する指針(平成26年9月総務大臣決定)によれば、主務大臣による評価は当該法人の業務運営の改善等に活用されることが求められており、目標・計画の達成及び進捗状況を的確に把握することなどにより評価が適正かつ厳正に行われ、評価結果に基づき業務の改善が促されることにより、評価の実効性が確保されるとされている。

機構の主務大臣である国土交通大臣は、機構の第4期中期目標(30年度~令和4年度)において、整備新幹線整備事業について事業費・工程管理の徹底を指示するとともに、事業費については「想定できなかった現地状況に対応する必要性が生じた等、工事実施計画の認可等の後に不測の事態が生じた場合を除き、認可等の際の事業費を上回らないようにする」とし、北陸新幹線整備事業の工期については、完成・開業を目指す時期として「平成34年度末」と明記している(令和3年3月に「安全確保を大前提としつつ、令和5年度末の完成・開業に向けて最大限努力する。」に変更)。また、元年度の業務実績評価においては、北陸新幹線整備事業で工期遅延につながる様々な問題が顕在化するなどしており、関係者が一体となって問題解決に向けた対応策を協議していく必要があるとして、整備新幹線整備事業に係る評定を当初「C」(中期計画における所期の目標を下回っており、改善を要する。)として機構に通知していたが、検証委員会の検証により明らかとなった事実を踏まえて2年12月に評定を「D」(中期計画における所期の目標を下回っており、業務の廃止を含めた抜本的な改善を求める。)に変更し、当該評価の結果に基づき、前記の業務改善命令を発している。

(4)北陸新幹線整備事業の事業費等

全幹法等によれば、機構が行う新幹線鉄道建設に関する事業費は、営業主体(JR各社)から支払を受ける新幹線鉄道に係る鉄道施設の貸付料等をもって充てる額(以下「貸付料等充当額」という。)を除いた額の3分の2を国が、残りの3分の1を当該新幹線鉄道の存する都道府県(北陸新幹線整備事業については石川県及び福井県)が負担することとされている。

機構は、独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構法(平成14年法律第180号)に基づき、業務に応じて建設勘定、海事勘定、地域公共交通等勘定、助成勘定、特例業務勘定の五つの勘定により区分経理を実施しており、新幹線鉄道に係る鉄道施設の建設等については建設勘定で経理している。北陸新幹線整備事業が開始された平成24年度以降について資金の流れを概括的に示すと図表2のとおりである。

そして、北陸新幹線整備事業に係る各年度の事業費について、予算及び決算の推移を示すと図表3のとおりであり、24年度から令和2年度までに1兆0004億余円の事業費が執行され、国から機構に対して整備新幹線整備事業費補助1317億余円が交付されている。

図表3 北陸新幹線整備事業の事業費に係る予算及び決算の推移(単位:百万円)

年度 平成
24年度
25年度 26年度 27年度 28年度 29年度 30年度 令和
元年度
2年度
予算額注(1) 940 7,997 14,642 30,500 90,000 136,790 225,000 263,800 275,000 1,044,669
  国負担分 626 2,000 6,137 11,174 20,006 51,090 21,398 34,146 22,342 168,923
    整備新幹線整備事業費補助 2,000 6,137 11,174 20,006 32,181 21,398 27,195 15,392 135,487
    既設新幹線譲渡収入等注(2) 626 18,908 6,950 6,950 33,436
  地方公共団体負担金 313 1,000 3,068 5,587 10,003 25,545 10,699 17,073 11,171 84,461
    石川県 124 339 621 3,473 4,536 9,221 5,089 5,889 3,650 32,947
    福井県 188 660 2,447 2,113 5,467 16,323 5,609 11,183 7,520 51,514
  貸付料等充当額注(3) 4,997 5,435 13,738 59,990 60,154 192,901 212,580 241,485 791,283
前年度からの繰越額 156 2,807 9,895 13,637 30,747 39,786 71,426 81,003 249,460
  整備新幹線整備事業費補助 1,534 5,500 8,082 10,106 12,066 8,887 10,163 56,340
執行額 783 5,348 6,912 27,399 72,890 127,631 193,479 254,222 311,829 1,000,497
  整備新幹線整備事業費補助 465 1,743 9,020 17,982 30,171 24,627 25,920 21,864 131,795
翌年度への繰越額 156 2,807 9,895 13,637 30,747 39,786 71,426 81,003 44,174 293,634
  整備新幹線整備事業費補助 1,534 5,500 8,082 10,106 12,066 8,887 10,163 3,691 60,032
  • 注(1) 事業費の予算額は、毎年度、国土交通省が機構から進捗状況に基づく事業費の見込みを聞き取った上で決定するものである。なお、他線区からの流用額等を含む。
  • 注(2) 後年度の既設新幹線譲渡収入を返済財源とする民間金融機関からの借入金収入(後年度繰入金充当収入)を含む。
  • 注(3) 貸付料等充当額は、各年度において、整備新幹線全体の貸付料等充当額(営業主体からの貸付料等から既設線区に係る租税及び管理費、借入金の元利償還金等を除いた額)を、整備中の各線区の配分基準値に応じて案分することなどにより国土交通大臣が算定するものである。
  • 注(4) 他線区からの流用が翌年度に行われたなどのため、「予算額」+「前年度からの繰越額」-「執行額」が「翌年度への繰越額」と一致しない年度がある。

なお、国土交通省によると、3年3月の事業費増加額2658億円に対する財源措置については、機構の特例業務勘定の資金を活用することなどにより事業費に充当可能となる貸付料計1934億円、国負担としての既設新幹線譲渡収入482億円及び地方公共団体負担241億円により措置することとしている。

2 検査の観点、着眼点、対象及び方法

(1)検査の観点及び着眼点

前記のとおり、北陸新幹線整備事業について、工期遅延や事業費増加が見込まれるなどしたことを端緒として、検証委員会による検証が行われ、これを踏まえて、通則法に基づく業務実績評価が変更され、機構に対して業務改善命令が発出されている。そして、これらの検証等においては、機構の管理体制等について課題が指摘されるなどしている。

そこで、本院は、上記の状況を踏まえつつ、経済性、効率性、有効性等の観点から、北陸新幹線整備事業に係る工期遅延や事業費増加は、どのような原因により生じ、どのような状況となっていたか、これらに対して機構はどのような対応を執り、国土交通省は通則法に基づく業務実績評価等をどのように行っていたかなどに着眼して検査した。

(2)検査の対象及び方法

検査に当たっては、平成24年度から令和2年度までの間の北陸新幹線整備事業に係る工事契約等を対象として、機構の大阪支社及び東京支社において、契約書、工事設計図書等の関係書類、工程・事業費の管理実績やこれに基づく対応実績を示す資料、及び現地の状況を確認するなどして会計実地検査を行うとともに、国土交通本省及び機構本社から対応実績を示す資料等を徴したり、担当者から説明を聴取したりして検査した。

3 検査の状況

(1)工期遅延の状況、主な要因等

ア 工期遅延の状況

(ア) 工事実施計画における工期の設定状況

整備新幹線に係る開業までの流れは、図表4に示すとおりである。

北陸新幹線整備事業に係る工期については、前記のとおり、平成24年6月認可の工事実施計画において、長野・金沢間の開業からおおむね10年強後としていた。その後、27年1月の政府・与党申合せにおいて、工期を3年前倒しし、34年度末の完成・開業を目指すこととされるとともに、在来線との乗換利便性の確保について別途与党において検討を行うなどとされた。

国土交通省によると、同申合せに当たり、「整備新幹線に係る政府・与党ワーキンググループ」において、工期前倒しに伴う財源上の課題のほか、ラムサール条約(昭和55年条約第28号)に基づき湿地登録された中池見湿地付近のルート確定や、用地買収の短縮といった技術的課題について検討した結果、3年前倒しは実現可能と判断したとしており、同ワーキンググループの資料については、構成員ではない機構とも必要に応じて適宜共有していたとしている。ただし、機構によると、同ワーキンググループ等において、3年前倒しの実現可能性について直接意見を聴取されたことはないとしている。

そして、同申合せの直後である27年2月の機構の北陸新幹線部会においては、3年前倒しを達成するための前提条件として、「28年度末までの用地取得・更地化完了」「敦賀駅での乗換利便性向上策については考慮していない」などが挙げられていた。

その後、29年5月に敦賀駅での乗換利便性向上策として上下乗換線(注4)の追加が正式決定され、また、29年8月時点において、用地取得率は9割、更地化率は8割となっているなど、上記の前提条件が一部満たされていない状況であったものの、機構は、同月に、福井県と用地取得に関する協力や期限等について取り決めた確認書を交わしてそのめどが立ったなどとして、3年前倒しと上下乗換線追加を反映した工事実施計画の認可申請を行った。

(注4)
上下乗換線敦賀駅の既設在来線ホームから離れた位置に新幹線ホームを新設することから、乗換利便性の向上を図るために、新幹線ホームの真下に在来線ホームを新設することで、乗換時の移動が上下方向のみとなり、乗換時間の短縮につながるもので、新幹線の駅として初めての構造になる。
(イ) 工区ごとの遅延の状況

機構は、29年10月の時点で、工期を3年前倒しするためには大部分の工区で31年度末(令和元年度末)の土木工事完了が必要としており、当時の工程表において、全58工区の軌道開放時期(土木工事から次工程の設備工事に引き渡す時期)は、各工区で異なるもののおおむね平成31年度末(令和元年度末)としていた。

そこで、工区ごとの遅延の状況をみるために、各工区の実際の軌道開放時期を確認したところ、図表5のとおり、3年6月時点で軌道開放していた50工区のうち、上記の工程表に対して遅れのなかったものが12工区、6か月以内の遅れがあったものが16工区、6か月超1年以内の遅れがあったものが22工区などとなっていた。

図表5 58工区における軌道開放時期の状況(令和3年6月時点)

令和3年6月時点で、軌道開放が完了していた工区 50工区
  軌道開放時期が、平成29年10月時点の工程表に対して遅れのなかったもの 12工区
  6か月以内の遅れがあったもの 16工区
  6か月超~1年以内の遅れがあったもの 22工区
令和3年6月時点で、軌道開放が未完了となっていた工区 8工区
  令和3年6月時点の軌道開放予定時期が、平成29年10月時点の工程表における軌道開放予定時期に対して6か月超~1年以内の遅れとなっているもの注(2) 4工区
  1年超の遅れとなっているもの 4工区
  • 注(1) 同一工区の中で軌道開放時期が複数ある場合、最も遅い時期で集計している。
  • 注(2) 平成29年10月時点の工程表において、令和2年度以降に軌道開放予定時期を設定していた工区があるため、3年6月時点で軌道開放が未完了でも遅れが1年以内となっているものがある。

イ 工期遅延の主な要因

上記の軌道開放時期の遅延は、工事の一時中止といった土木工事自体の遅れや前工程である用地取得の遅れなど様々な要因によるものであるが、線区全体の工期に影響する重要工区でない場合や、後工程である設備工事との調整により回復可能である場合もあり、必ずしもその全てが線区全体の工期遅延に直結するものではない。そこで、検証委員会の中間報告書において線区全体の工期遅延の主要因とされた(ア)加賀トンネルの3工区及び(イ)敦賀駅工区の遅れについて詳しくみると、次のとおりとなっていた。

(ア) 加賀トンネルの3工区

中間報告書によれば、2年3月に盤ぶくれ(注5)によるクラックが確認され、早急に対策工事を実施し、対策工事実施後に経過観察をすることになったことから、対策工事に7か月、経過観察に3か月が必要になり、合計で10か月遅れる見込みとなったとされている。

(注5)
盤ぶくれ地下水や大気にさらされたトンネル下部の地盤に、粘土鉱物の膨張が生ずることなどにより、トンネル下部の地盤が隆起する現象。機構によると、盤ぶくれのメカニズムには未解明な部分が残っている。

検査したところ、大阪支社は、トンネル掘削に先立ち、外部有識者を構成員とするトンネル施工技術委員会を設置し、同委員会で施工方法等について審議しており、審議の結果を踏まえて、盤ぶくれ対策を考慮した方法により施工していた。加賀トンネルについては、事前に盤ぶくれに対応した施工方法で工事を行ったものの、一部区間において隆起が確認され、同委員会において変位を継続的に確認することとしていた。その後、2年3月にクラックが確認されたことを受けてトンネル施工技術委員会に状況を説明し、同委員会において、クラックの原因が盤ぶくれであると断定できないものの、その可能性を否定できないとされ、予防保全的に対策を実施することとされたことから、施工方法、範囲等を検討した上で、加賀トンネルの3工区の全延長6,670ⅿのうち953ⅿにわたり固定ボルトを挿入するなどの対策工を進めていた。これにより、加賀トンネルの北工区、中工区及び南工区の軌道開放時期は、平成29年10月時点の工程表においては31年度末(令和元年度末)又は平成32年度末(令和2年度末)とされていたのに対して、3年6月時点では3年10月又は11月の予定となっていて、工期遅延の要因の一つとなった。

(イ) 敦賀駅工区

中間報告書によれば、上下乗換線を追加することにより大幅な設計変更が生じたこと、必要な作業員及び資機材が集まらなかったり、土木・建築・電気工事の同時施工による工程短縮が困難であることが判明したりしたことなどから、最終的に4年度末開業から1年の遅れとなったとされている。

検査したところ、3年前倒しの契機となった政府・与党申合せ直後の平成27年2月の工程表では、おおむね、29年4月に土木工事に着手して4年後の32年度末(令和2年度末)に完了する予定としており、前記平成31年度末(令和元年度末)の土木工事完了と比べて既に1年遅れていたが、機構はこの1年遅れについて土木工事後に行う設備工事を短縮することなどにより回復する工程を見込み、平成29年3月に土木工事を契約していた。

その後、29年5月の上下乗換線追加の決定により、再設計が必要になり、再設計の結果、新幹線構造物のみならず在来線構造物に対する耐力も必要になったため、当初契約時と比べて鉄筋量が約1.7倍、コンクリート量が約1.5倍になるなど構造物がより大きくなった。また、再設計に伴って駅付近の河川付け替え工事に係る河川管理者との設計協議をやり直したことなどによる工事着手の遅れ、駅1階部に在来線ホームを新設することによる各種施設追加や施工ヤードの制約、作業員及び資機材の不足等も相まって、土木工事の更なる遅れが見込まれた。大阪支社は、昼夜施工や土木・建築・電気工事の同時施工等の工程短縮策を図ろうとしたが想定のとおり進まず、結果として工期遅延の要因の一つとなった。

(2)事業費増加の状況、主な要因等

ア 事業費増加の状況及び主な要因

今般の事業費増加について、増加額とその要因別内訳の経過を、(a)令和2年6月に開催された大阪支社工事管理委員会の資料で機構本社に報告されていたもの、(b)同年7月に機構本社で開催された総額管理委員会の資料、(c)今般の事業費の増加が判明したことを受けて同年11月に機構及び国土交通省が関係自治体に報告した資料、(d)検証委員会の中間報告書を踏まえた3年3月の認可額に係る資料によりみたところ、図表6のとおりとなっていた。

図表6 事業費増加の要因別内訳の経過

要因 令和2年6月時点
(大阪支社資料)
2年7月時点
(総額管理委員会資料)
2年11月時点
(機構・国土交通省資料)
3年3月時点
(認可額)
(a)注(9) (b) (c) (d)
① 物価上昇に伴うもの注(1) 267億円 905億円 905億円 901億円
② 不調・不落に伴うもの(PC桁工事)注(2) 403億円 338億円 718億円 718億円
③ 不調・不落に伴うもの(建築工事)注(3) 352億円 380億円
④ 工程短縮に伴うもの注(4) 696億円 899億円 899億円 686億円
⑤ 地質不良対策に伴うもの注(5) 323億円 323億円 203億円 203億円
⑥ 生コン不足対策に伴うもの注(6) 144億円 144億円 144億円 144億円
⑦ 法令改正に伴うもの注(7) 11億円 11億円 11億円 11億円
①~⑦以外のもの注(8) 467億円 5億円
総額 2670億円 3000億円 2880億円 2658億円
  • 注(1) ①は、労務費、資機材費等の高騰に伴う増加額である。
  • 注(2) ②は、PC桁工事の不調・不落による積算単価の見直し等に伴う増加額である。
  • 注(3) ③は、建築工事の不調・不落による見積活用方式等の採用に伴う増加額である。
  • 注(4) ④は、地域外の労働者や資機材の活用、昼夜施工の実施等に伴う増加額である。
  • 注(5) ⑤は、加賀トンネルの盤ぶくれへの対策工の実施に伴う増加額である。
  • 注(6) ⑥は、工事が一時期に集中したことによる生コンクリートの供給不足を解消するための対策の実施に伴う増加額である。
  • 注(7) ⑦は、毒物及び劇物指定令の一部を改正する政令(平成30年政令第197号)が施行されたことによるトンネル工事の吹付コンクリート急結材の変更等に伴う増加額である。
  • 注(8) ⑧は、大阪支社における必要額の精査に伴う増加額等である。
  • 注(9) 大阪支社工事管理委員会資料において、①~⑧の要因別の金額合計(2663億円)と総額(2670億円)は異なっている。

(a)から(d)までの事業費増加額の要因別内訳に一部相違があることから、その算出過程が分かる根拠資料の提出を機構に求めて確認したところ、(a)については、工区ごとに必要額の積上げにより算定していた。一方、(b)については、機構本社が、大阪支社による(a)の資料のほか、一部については見込みにより自ら改めて算定した概算金額を基に要因別に再整理したものとなっており、機構本社によると、①物価上昇に伴うもの及び④工程短縮に伴うものに係る地域外の労働者及び資機材の活用による施工体制の増強等に伴う増加額について、工区ごとの内訳等を根拠資料に基づき示すことができないとしている。そして、(c)については、⑤地質不良対策に伴うものの金額に関して、加賀トンネルの盤ぶくれ対策を軌道工事の施工前に実施することとしたため、(b)から120億円縮減したものであり、(d)については、前記のとおり、検証委員会の中間報告書を踏まえて、(c)から222億円縮減したものとなっていた。

また、平成27年1月の政府・与党申合せでは、あらかじめ予定されていた事業費の範囲内で工期の3年前倒しを目指すとされており、国土交通省によると、これは用地取得に要する期間の短縮によって28年度末までに用地取得・更地化が完了すれば事業費の増加は生じないと整理されたものであるが、前記のとおり、同年度末までに用地取得・更地化は完了しなかった。これに伴い、その後の工事が一時期に集中したこともあり、工事の不調・不落(注6)が多数発生したり、生コンクリート(以下「生コン」という。)の供給不足が発生したりするとともに、遅延を回復するために昼夜施工等の工程短縮策が必要となるなどしていて、図表6の②、③、④、⑥等の要因による事業費増加の少なくとも一部には、工期3年前倒しが影響しているものと思料される。

(注6)
不調・不落入札において応札者がなく不成立になることを不調といい、入札において予定価格以内の応札者がおらず不成立になることを不落という。

イ 契約額等の増加の状況

(ア) 契約額の状況

前記のとおり、機構は、認可額を基に各工事に実行目標額を割り付けて、当該実行目標額と事業費見込額を比較するなどして事業費を管理している。各時点の事業費見込額は、契約済みの額と今後契約予定(変更契約を含む。)の額との合計額であるため、アの事業費増加額は、契約締結(変更契約を含む。)により増加が顕在化した部分と将来的に増加が見込まれる部分とで構成されることとなる。そこで、このうち顕在化している増加額をみるために、31年3月の認可額1兆4121億円を基に割り付けられた実行目標額に対する各工事の契約額の状況をみたところ、次のとおりとなっていた。

すなわち、図表7のとおり、大阪支社が31年3月時点で実行目標額を割り付けていた106工事(当初契約額の平均54億3360万余円、最小3億2616万余円、最大168億9660万余円)のうち、同時点の実行目標額に対して契約額が1億円以上超過しているものが、令和元年8月末時点で14工事(超過額計95億余円)、2年8月末時点で42工事(同515億余円)、3年3月末時点で56工事(同1168億余円)となっており、事業の進捗に伴って、契約額が実行目標額を超過することとなった工事数及びその超過額が増加している状況が見受けられた。

図表7 106工事のうち実行目標額に対して契約額が1億円以上超過しているものの推移

令和元年8月末時点 2年8月末時点 3年3月末時点
工事数 14工事 42工事 56工事
超過額 95億円 515億円 1168億円

また、上記の106工事について、当初契約額に対する契約額の増加状況を確認したところ、図表8のとおり、当初契約額計5759億余円に対して3年3月末時点の契約額は計8901億余円と3141億余円増加(当初契約額に対して54.5%増加)しており、当初契約額から3割以上増加していたものは、54工事(増加額2783億余円、増加割合83.5%)となっていた。このうち、契約額の増加額が最も大きい「北陸新幹線、敦賀駅高架橋他」工事については、前記上下乗換線の追加等に伴い、平成29年3月の当初契約額114億余円に対して令和3年3月末時点の契約額は367億余円と253億余円増加(221%増加)していた。

図表8 106工事に係る当初契約額に対する契約額の増加状況

当初契約額
(A)
令和3年3月末の契約額
(B)
増加額
(C)=(B)―(A)
増加割合
(C)/(A)
106工事 5759億円 8901億円 3141億円 54.5%
  うち54工事(注)   3331億円   6115億円   2783億円   83.5%
  • (注) 令和3年3月末の契約額が当初契約額から3割以上増加していた54工事
(イ) 要因別の契約額等の増加状況

図表6の要因別内訳のうち、(d)の認可額において①の物価上昇という全般的な要因によるもの以外で最も金額が大きいとされている②及び③の不調・不落に伴うものは、用地取得・更地化の完了が遅延したことに伴い、その後の工事が一時期に集中するなどした結果、作業員や資機材等の不足、これらの需給ひっ迫による実勢価格の高騰等により、工事の不調・不落が多数発生したことへの対策に伴う増加である。そこで、積算書等によりその増加の詳細を確認したところ、次のとおりとなっていた。

②不調・不落に伴うもの(PC桁工事)についてみると、現場製作工法(注7)を前提に標準的な積算をしていた14工事のうち7工事が不調・不落となっていた。機構は、不調・不落となった工事のほか、不調・不落が見込まれた工事を含む計18工事について、上記不調・不落要因のうち特に作業員不足等を解消するために、プレキャスト工法(注8)を採用した上で、特別調査(注9)を用いた積算を行っていた。この対策が積算額に及ぼす影響については、対策前後でそれぞれ発注範囲が異なるなどのため単純な比較が困難であるが、1工事を例に対策前後で発注範囲を同一にして比較すると、積算額が2億1589万余円から4億3642万余円へと約2.0倍に増加していた。

さらに、プレキャスト工法で特別調査による積算を行った上記18工事のうち10工事が不調・不落となっており、機構は、これらを含む計14工事について、近隣工区等の既契約工事の受注者から徴した見積りを積算に採用するなどして、当該既契約工事の設計変更により追加していた。この対策が積算額に与える影響をみると、上記14工事の積算額が169億0349万余円から230億8396万余円へと約1.4倍に増加していた。

(注7)
現場製作工法工事現場に施工ヤードを設けて鉄筋コンクリートを打設するなどしてPC桁等の部材を製作すること。鉄筋組立、型枠組立等のための人工、場所及び資機材が必要になる。
(注8)
プレキャスト工法工場で部材を製作すること。現場製作工法と比較して鉄筋組立、型枠組立等に要する人工、場所及び資機材を削減できる一方、汎用品でなくPC桁のような特注品の場合や近隣の工場で対応できず運搬費がかかる場合は一般的に高価となる。
(注9)
特別調査社会情勢を考慮した労務、資材等の取引価格を外部委託業務によって調査するものであり、機構の土木関係積算標準・積算要領によれば、物価資料(刊行物である積算参考資料をいう。)等に材料単価が掲載されておらず、また、工事費に占める材料費の割合が高い場合等において用いられることとされている。

③不調・不落に伴うもの(建築工事)についてみると、標準的な積算をしていた10工事のうち8工事が不調・不落となっていた。機構は、不調・不落となった工事のほか、不調・不落が見込まれた工事を含む計11工事について、その対策として、見積活用方式(注10)を用いた積算を行っていた。この対策が積算額に及ぼす影響については、②と同様に単純な比較が困難であるが、1工事を例にみると、標準的な積算を見積活用方式を用いた積算に変更することにより、積算額が29億9293万余円から44億0268万余円へと約1.5倍に増加していた。

(注10)
見積活用方式通常の歩掛かり及び単価を用いた積算額と実勢価格との間にかい離が生じている場合に、入札参加者から見積りの提出を受けて、その見積りを参考に予定価格を積算する方法であり、国土交通省における採用事例を参考に平成25年度以降機構において採用されている。

前記②及び③のほか、①、④、⑤、⑥等の要因による契約額等の増加については、図表9に示す状況となっていた。

図表9 要因別の契約額等の増加状況

要因 増加等の概要
①物価上昇に伴うもの
契約条項に基づき物価上昇に応じて契約額を増加させる変更契約が、平成31年4月から令和3年3月までの2年間に延べ71回行われ、同変更契約による増加額は計50億余円となっていた(注1)
④工程短縮に伴うもの
機構は、橋りょう工事計9工事において、工程短縮等のために、現場製作工法からプレキャスト工法に変更した上で、当該工事の受注者から徴した見積りを採用するなどして設計変更しており、1工事を例にみると、これにより積算額が8億5056万余円から26億5586万余円へと約3.1倍に増加していた。
また、機構は、工事の施工編成数を増やして同時並行で作業を行うなどのために、地域外の労働者を含めた作業員を確保する方法として、支出実績を踏まえて契約変更する工事契約(注2)を106工事のうち93工事で締結しており、令和3年3月までに竣工した23工事のうち4工事において、これに係る費用計3290万余円が発生していた。
⑤地質不良対策に伴うもの
機構は、加賀トンネルの北工区、中工区及び南工区の3工区において、盤ぶくれへの対策工として固定ボルト計1876本の施工を完了しており、当該対策工に係る積算額は、令和3年7月時点で変更契約が未済であるため費用が未確定となっている南工区の対策工(固定ボルト計920本)に係る分を除いて、北工区及び中工区(固定ボルト計956本)で計6億2976万余円となっていた。
⑥生コン不足対策に伴うもの
仮設プラント等を用いた生コン供給者と機構との間で締結した履行協定(注3)に定める供給単価は、1m3当たり当初では平均40,479円であったものが、協定締結後における骨材の高騰等により平均54,230円へと大幅に増額変更されていた。そして、この変更後の供給単価に基づく生コンの積算額は、令和3年7月時点で変更契約が未済であるため費用が未確定となっている鯖江市の仮設プラントに係る分を除いて、計50億9438万余円となっており、標準単価を用いた積算額計11億6974万余円と比較して4倍超の増加となっていた。
その他の要因
機構は、「総価契約単価合意方式について(通達)」(平成23年3月鉄業契第110302001号等)において、既契約工事に設計変更により新規工種を追加するときは、変更契約における当該工種に係る工事費の積算に当たり、落札率を乗じないこととしている。北陸新幹線整備事業においては、不調・不落対策として既契約工事に設計変更で別工事を追加する場合(要因②では14工事が該当)や、工期確保のために詳細設計前に類似工事の図面等を参考に工事の発注を行い、その後、詳細設計が終わった段階で工事を設計変更する場合(106工事のうち52工事が該当)が多数あり、これらの設計変更において新規工種の追加に該当するものがあれば、この追加された新規工種に係る工事費の積算に当たり落札率を乗じていない。
上記の通達に基づく取扱いにより落札率を乗じていない追加された新規工種に係る積算額は、平成31年4月から令和3年3月までの2年間において、延べ204回の設計変更に係る計589億余円となっており、それぞれの工事の落札率を乗じた場合と比較して18億余円大きくなっていた。
  • 注(1) 同変更契約による増加のほか、平成31年4月から令和3年3月までの2年間に当初契約を締結していて、物価上昇による影響が既に当初契約額に反映されるなどしているものもある。
  • 注(2) 「適正な価格による契約について(通知)」(平成26年5月鉄業契第140519001号等)に基づき、発注者が契約時に明示した労働者確保等の方策に変更が生じ、土木関係積算標準の金額相当では適正な工事の実施が困難となった場合に、対象となる費用(遠隔地の労働者に係る宿泊費等)の最終的な支出実績を踏まえて契約変更する工事契約のこと
  • 注(3) 仮設プラント及びプラント船を用いた生コンの供給体制は、i)機構と生コン供給者で締結した履行協定において供給量及び1m3当たりの供給単価を定め、ii)機構から土木工事を請け負った受注者は、履行協定に定める供給単価等により供給者から生コンの供給を受けることとする売買契約を締結した上で供給を受け、iii)機構は、受注者との工事契約を設計変更することにより、履行協定に定める供給単価を基に受注者に支払うこととしていた。

このように、様々な要因により、事業の進捗に伴って現に契約額が実行目標額を大きく上回ったり、当初契約額に対して契約額が大きく増加したりなどしている状況が見受けられた。

(3)工期遅延及び事業費増加に対して機構が執った対応

ア 工期遅延に対して機構が執った対応

北陸新幹線整備事業に係る今般の工期遅延について、機構の対応状況をみると、次のとおりとなっていた。

平成29年10月の工事実施計画(その2)認可後における工事の進捗状況について、30年9月に開催された北陸新幹線部会では、完成が34年度末(令和4年度末)から9か月遅延することが、また、同部会の審議結果の報告を受けて平成30年12月に開催された工程管理委員会では、最大リスクを考慮すると完成が4か月以上遅延することが審議されていた。

大阪、東京両支社では、令和元年5月に工程に関する会議を開催して、工程上大きな課題があることにより軌道開放が1年以上超過して開業に大きな影響を与える工区を「最重点管理工区」として設定し、「敦賀駅」「敦賀車両基地」「深山トンネル」の3工区がこれに該当するとして重点的に工程管理していくことを確認していた。その後、同年9月に開催された北陸新幹線部会及び同年11月に開催された工程管理委員会では、これらの最重点管理工区について昼夜施工等の厳しい前提条件を基に作成した「チャレンジ工程」であっても、完成が4年度末から5か月遅延となる見通しであることなどが審議されていた。

本社及び両支社は、その後も工程短縮を図るための検討を重ねて、主要国道を半年以上にわたり昼夜全面通行止めにすることや、工事の集中により作業員や資機材の確保が困難な状況となっている中で昼夜施工を長期間にわたり行うことなど、実現可能性が乏しい前提条件を基に作成された「スーパーチャレンジ工程」と称する工程を用いて検討を続けていた。そして、2年1月に開催された北陸新幹線部会では、上記のような前提条件を基に作成した工程により審議を行った上で、あらゆる前提条件が成立すれば、4年度末完成が可能という見通しが立ったという結論を得ていた。

一方、その後も工期が遅延する見込みである状況が継続しており、2年7月に開催された理事会では、上記の北陸新幹線部会で4年度末完成を確認したものの、前提条件が成立していない工区が発生し、工期遅延リスクがある旨の報告が行われていた。そして、前提条件の状況をみたところ、国道の昼夜全面通行止めについては、道路管理者との協議により断念していたり、昼夜施工については、必要人員数の作業員を確保することができず想定していた施工ができなかったりなどしていて、工程短縮のために重要なものは現に成立していなかった。

機構は、平成28年10月に発出した管理運用通知において、工程管理委員会及び部会では工程に関するリスク管理の視点を重視して議論を行うとしていたが、上記の対応状況をみると、工期遅延リスクが前提条件の実現可能性を踏まえて適切に評価されていないなど、リスク管理の視点を重視した議論は十分に行われていなかった。

また、リスク管理等を客観的にチェックする部署として設置された事業監理部は、令和2年1月の北陸新幹線部会に出席しており、工期遅延の可能性が高い状況を認識していたと思料される。しかし、同部によると、工程管理委員会は年1回の開催を基本としていたため適時に開催されず、同部が認識した状況を工程管理委員会の審議結果として理事会に報告する機会がなかったとしており、工期遅延リスクに関する情報が前記同年7月の理事会まで報告されておらず、客観的にチェックされた工期遅延リスクに関する情報は適時に組織内で共有されていなかった。

イ 事業費増加に対して機構が執った対応

北陸新幹線整備事業に係る今般の事業費増加について、機構の対応状況をみると、次のとおりとなっていた。

平成31年3月の工事実施計画の変更認可後に機構本社で開催された実行目標額の設定に関する会議において、想定を上回る物価上昇や工事契約の不調・不落対策等に伴う事業費の更なる増額リスクにより、事業費が認可額を630億円以上超過する可能性があることが既に審議されていた。

その後、令和元年11月頃には、本社主管課と大阪支社の間で事業費が2000億円程度不足することについて認識を共有していた。また、2年2月を目途に総額管理委員会を開催する予定であったが、増額の精査が終わらなかったことから同月までに総額管理委員会は開催されなかった。そして、同年7月に開催された総額管理委員会において、事業費は3000億円増加することなどが審議されていた。

総額管理委員会は、事業費に相当影響があることなどが予想される場合に開催することとされており、また、管理運用通知においては、事業費見込額が認可額を上回る場合は総額管理委員会で審議を行うなどとされていたが、認可額を上回る事業費の増加が見込まれてから前記⑵ア②及び③の不調・不落対策や⑥の生コン不足対策等による増加額の精査に時間を要したためとして、総額管理委員会は1年以上開催されていなかった。そのため、機構は、適時に総額管理委員会を開催して事業費の精査状況や対応方針について審議を行うことができていなかった。

ア及びイのとおり、管理運用通知に基づく対応は必ずしも適時適切に執られておらず、また、工事の進捗状況、事業費見込額の状況等については、別々に検討が行われており、機構において、工程管理、事業費管理及びリスク管理の在り方に係る業務改善の一環として構築した体制は十分に機能していなかった。

(4)内部統制等の状況

ア 機構の内部統制の状況

検証委員会による検証や国土交通省による業務改善命令では、機構本社のチェック機能が十分でなかったことなどが指摘されているが、事業実施部署以外の者による内部統制については言及されていない。

そこで、北陸新幹線整備事業に係る工期遅延等に関して、機構における事業実施部署以外の者による内部統制の状況をみたところ、図表10のとおり、理事会において、工期遅延の可能性や事業費見込額が認可額を上回る可能性等が事業監理部から報告され、監事監査の結果として工期変更の必要性に関する所見が示されたにもかかわらず、具体的な措置等が講じられていなかったり、内部統制委員会に工期遅延の可能性が高い状況となっていることや事業費の増加額が報告されていなかったりなどしていて、機構が構築している内部統制は十分に機能していない状況となっていた。

図表10 北陸新幹線整備事業に係る工期遅延等に関する機構の内部統制の状況

理事会
理事会においては、次の事項が事業監理部等から報告されていた。
  • ・工期遅延の可能性等(平成30年12月及び令和元年11月)
  • ・具体的な金額は示されていないものの、事業費見込額が認可額を上回る可能性があること(令和元年6月及び同年12月)
  • ・監事監査の結果として、工期変更の必要性を適時適切に見極められるよう配意すべき旨の所見(令和2年3月及び同年6月)
しかし、これらの報告に対して、具体的な措置やフォローアップは講じられていなかった。
内部統制委員会
令和元年9月の北陸新幹線部会において工期が5か月遅延する見通しであることが審議されていたにもかかわらず、同年11月の内部統制委員会では、取組計画への対応状況として、上記の工期遅延リスクに係る情報は報告されていなかった。
2年6月の内部統制委員会では、「北陸部会において、前提条件(一部工区で昼夜施工を実施するための地元の合意や作業員の確保等)があるものの、4年度末の完成・開業に向けた工程を確認」した旨が取組計画への対応状況として報告されているが、前提条件を成立させることが極めて困難であることは記載されておらず、工期遅延リスクが高くなっている事態は報告されていなかった。
また、2年5月には国土交通省に事業費の3000億円増額を報告していたにもかかわらず、上記2年6月の内部統制委員会では、急激な物価変動、不調・不落対策、急速施工等による事業費への影響の精査を要する旨が報告されていて、増加額は報告されていなかった。
内部監査
令和2年度の内部監査計画では、地方機関における各部門の業務実施状況について監査を行うこととされているが、本社監査部によると、令和2年10月に行われた大阪支社への監査は、大阪支社工事管理委員会等が規程等に則り適正に実施されているかに着目したものであったとしており、北陸新幹線整備事業に係る工事の進捗遅延や事業費増加に関して監査結果報告は行われていなかった。

イ 国土交通大臣による業務実績評価等の状況

国土交通省は、全幹法に基づき、建設主体である機構に新幹線鉄道の建設を指示し、工事実施計画の認可に当たり、過去の新幹線整備の実績を参考にして工期及び事業費の妥当性を判断するなどしていた。事業実施期間中においては、機構から当該年度までの予算の累計額や工事の実施状況が記載された工事進捗月報の提出を受けるなどしていたが、同月報には事業費の執行状況や工事の進捗状況は記載されておらず、検証委員会によれば、機構に対する能動的な情報収集は十分でなかったとされている。なお、上記の指摘を受けて、同省は、2年12月に鉄道局内に「独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構監理・監督室」(室長:鉄道局長)を設置するなどしている。

また、通則法に基づく業務実績評価の状況をみると、国土交通大臣は、平成29年度の業務実績評価において、北陸新幹線整備事業等の1度目の事業費増加を踏まえて評定を「C」とした上で、「神奈川東部方面線の反省を踏まえた工程・コスト管理を徹底する仕組み(会議体の設置等)が不十分であった点は、改善策を講じる必要がある」などとし、30年7月以降、同省が自ら事務局となって、機構、自治体、営業主体等からなる「工事進捗管理検討会」を不定期に開催していた。しかし、同検討会では、施工上の課題の解決に重点が置かれ、工程・事業費全体の課題について十分に情報共有がなされておらず、工程・コスト管理を徹底する仕組みとして必ずしも十分に機能していなかったことから、過去の評価に基づく業務の改善は必ずしも実効性を伴っていなかった。なお、1(2)のとおり、業務改善命令を受けた改善措置として、新たに「北陸新幹線金沢・敦賀間工程・事業費管理連絡会議」等が設置されている。

その後、国土交通大臣は、30年度の業務実績評価において、工程管理及び事業費管理を適切に行っているとして評定を「B」とし、令和元年度の業務実績評価においては、前記のとおり、評定を当初「C」としていたが、検証委員会の検証により明らかとなった事実を踏まえて「D」に変更している。変更後の評価が適正であるとすると、結果として、当初の評価については、必ずしも中期目標の達成状況等を的確に反映した評価ではなかったこととなる。同省は、評価のための業務実績の把握に当たり、機構から提出された業務実績等報告書と理事長及び監事へのヒアリングのほか、通常業務の中で、機構から随時必要に応じて受ける報告により工事の進捗状況を把握し、評価にも活用していたとしている。一方、検証委員会の中間報告書によれば、機構からの報告が正確かつ十分なものではなかったとされるとともに、前記のとおり、同省から機構に対する能動的な情報収集も十分ではなかったとされている。

4 本院の所見

北陸新幹線整備事業に係る工期遅延や事業費増加の事案については、当初想定できなかった地質条件等の外部条件が影響していた部分も認められる一方、工期の3年前倒しや用地取得・更地化の遅れに伴う工事集中等により、不調・不落や生コン不足が発生するとともに、遅延を回復するための工程短縮策が必要となるなど、工期が事業費に一部影響を与えていると思料される状況がみられた。また、工期遅延及び事業費増加に関する機構及び国土交通省における対応や内部統制等には課題が見受けられたところである。

そして、機構及び同省は、検証委員会の検証等を踏まえ、業務運営の抜本的な改善等を図った上で、5年度末の完成・開業に向けて最大限努力するとともに、北海道新幹線等の他の事業を確実に推進できる体制を整えることとしている。

ついては、機構及び同省において、上記体制の整備を引き続き進めて工程や事業費に係る適切な報告及び能動的な情報収集に努めるとともに、法人の業務運営が中期目標等に基づき行われ、的確な業務実績の把握に基づく適正な業務実績評価を通じて法人の業務改善が促されるという独立行政法人制度のPDCAサイクルの仕組みが確実に機能するよう留意することが肝要である。

また、機構において、北陸新幹線を含む整備新幹線の整備が適切かつ効率的に行われるよう、次のような点に留意する必要がある。

ア 機構における工程管理、事業費管理及びリスク管理の在り方に係る業務改善の一環として構築した体制が十分に機能していなかったことなどを踏まえて、新たに設置した会議体等において、工程と事業費を一体として管理し、工期遅延や事業費増加の情報を適時適切に共有し、そのリスクを適切に評価した上で、実効性のある対応に努めること

イ アに加えて、その実効性をより高めるために、事業実施部署以外の者による内部統制の強化を検討すること

本院としては、北陸新幹線を含む整備新幹線整備事業の実施状況等について、引き続き注視していくこととする。