会計検査院は、福島第一原発事故に伴い放射性物質に汚染された廃棄物及び除去土壌等の処理状況等について、合規性、経済性、効率性、有効性等の観点から、①除染の取組等の実施状況や効果はどのようになっているか、②放射性物質に汚染された廃棄物及び除去土壌等の処理はどのように行われているか、③中間貯蔵施設に係る用地の取得状況、施設の整備状況、除去土壌等の輸送の実施状況はどのようになっているか、④放射性物質に汚染された廃棄物及び除去土壌等の最終処分への取組の実施状況はどのようになっているかなどに着眼して検査した。
検査の結果の主な内容は、次のとおりである。
除染特別地域における除染等の実施状況についてみると、環境省は、除染による空間線量率の低減効果を評価し公表しており、これについて、会計検査院において、測定箇所ごとに、事前測定、事後測定及び事後モニタリングの空間線量率を比較して集計したところ、事後測定の結果が事前測定を下回っていないものが計12,894か所見受けられ、これらは除染の効果が確認できなかった。環境省の除染の効果に係る評価結果は、事前測定から事後測定までの測定間隔が短い箇所と長い箇所のデータが混在していたり、また、当該測定間隔が比較的長くなっていたりしていて、自然減衰やウエザリングに起因する線量低減効果が相当程度影響していると思料された(51リンク参照)。
除染適正化に向けた取組状況についてみると、環境省は、29年度に除染が完了して不適正事案の件数が減少しているとして、30年度以降、不適正除染に係る通報があった場合の情報集約を行っておらず、事案の公表も行っていなかった(NUM2-2リンク参照)。
除去土壌等の管理についてみると、補助対象除染により生じた土壌等が埋設保管されたとされている箇所に住宅が建築されていて、補助対象除染により生じた土壌等の保管状態が確認できず、補助対象除染により生じた土壌等の管理が適切とは認められない事態や、除去土壌の実際の保管数量よりも少ない数量が除去土壌等保管台帳に記載されるなどしていた事態が見受けられた(87リンク参照)。
廃棄物仮置場等の設置場所の災害対策についてみると、環境省が令和元年12月から2年2月までの間に、廃棄物仮置場24か所を対象に確認したところ、5か所が津波浸水想定区域内や洪水浸水想定区域内に設置されていることが判明したが、この点検には、ため池浸水想定区域内に設置されていないかの確認は含まれていなかった。また、環境省が元年10月から2年4月までの間に、指定廃棄物一時保管場所379か所を対象に確認したところ、130か所が洪水浸水想定区域内等や土砂災害警戒区域内等に設置されていることが判明し、このうち13か所は、対策が必要であるかについて追加の検討が必要としている。一方、この点検には、津波浸水想定区域内又はため池浸水想定区域内に設置されていないかの確認は含まれていなかった。さらに、環境省が元年12月から2年2月までの間に、除染特別地域内の除染仮置場170か所のうち洪水浸水想定区域内等又は土砂災害警戒区域内等に設置されている159か所を対象に現地調査を行うなどしたところ、1か所については対策が必要であるとして、元年度末現在において除去土壌を中間貯蔵施設へ搬出している。一方、この点検には、津波浸水想定区域内又はため池浸水想定区域内に設置されていないかの確認は含まれていなかった(NUM3-3リンク参照)。
中間貯蔵施設に係る用地の取得状況についてみると、中間貯蔵施設予定地の面積は15,994,087㎡であり、元年度末現在で、公有地等及び民有地を合わせた取得済面積は合計11,642,084㎡(全体面積15,994,087㎡の72.8%)となっている(NUM4-1リンク参照)。
施設の整備及び稼働の状況についてみると、仮設灰処理施設については、2年3月に仮設灰処理施設(双葉工区その1)が、同年4月に仮設灰処理施設(双葉工区その2)が稼働を開始している(108リンク参照)。
廃棄物貯蔵施設については、搬入見込量110,000㎥に基づき保管容量が決定された廃棄物貯蔵施設3施設のうち、整備済みとなっている2施設については、2年4月末までに溶融処理済ばいじん330㎥が搬入済みとなっている(109リンク参照)。
受入・分別施設については、環境省が平成28年度に2工区、29年度に5工区、30年度に2工区の整備を開始しており、29年6月から令和元年度末までのこれら9工区(整備費計163億2801万余円)における受入分別処理可能量計3,661,000㎥に対して、累計受入分別処理実績は計3,494,125㎥(受入分別処理可能量の95.4%)となっている(112リンク参照)。
土壌貯蔵施設については、環境省が元年度末までに10工区を整備(整備費計672億3451万余円)しており、元年度末現在の土壌貯蔵施設の貯蔵容量は10工区計3,028,524㎥となっているのに対して、累計貯蔵実績は計2,091,337㎥(貯蔵容量の69.1%)となっている(113リンク参照)。
中間貯蔵施設への除去土壌等の輸送についてみると、環境省は、平成26年度から令和元年度末までの間に、福島県内の除染仮置場等から中間貯蔵施設に計6,683,133㎥の除去土壌等を輸送している(NUM4-3リンク参照)。
福島県外における状況についてみると、元年度末現在、福島県外で保管されている指定廃棄物は計27,576tとなっていて、指定廃棄物の保管が行われている都県では、長期管理施設の設置のめどが立っていないことなどから、一時保管が継続している状況が見受けられる。会計検査院において、これらの指定廃棄物について、元年度末現在における放射能濃度を試算したところ、8,000Bq/kg以下になっている指定廃棄物の保管量は、20,133t(元年度末現在の指定廃棄物の保管量全体の73.0%)と推定される結果となった。そして、放射能濃度の自然減衰により、指定取消しの対象となり得る放射能濃度が8,000㏃/㎏以下の指定廃棄物は今後更に増加することが見込まれる(122リンク参照)。
開発戦略の中間評価及び見直しの状況についてみると、変更戦略の検討対象とする除去土壌等の発生見込量については、約1330万㎥とされ、特定復興再生拠点区域を含めて帰還困難区域の除染で発生した(発生することが見込まれる)除去土壌等については、定量的な推計が困難であるとして発生見込量に含まれていないことが明記された。開発戦略検討会において、最終処分量について、除去土壌の再生利用を見込まないケースゼロから、洗浄処理まで実施してできるだけ再生利用するケースⅣまでの五つのケースを想定した上で、最大で1291.9万㎥、最小で3.4万㎥と推計されている(NUM5-2リンク参照)。
特定復興再生拠点区域において発生することが見込まれる除去土壌等の量及び放射能濃度についてみると、環境省は、特定復興再生拠点区域における除染で発生が見込まれる除去土壌等の量について、最小でも1,612,981㎥、最大では1,988,257㎥と推計している。そして、特定復興再生拠点区域における除染により発生した除去土壌のうち、元年度末までに中間貯蔵施設に搬入された除去土壌176,781㎥の放射能濃度をみると、再生利用可能な8,000㏃/㎏以下の土壌を得るためには中間貯蔵施設への搬入を開始してから30年後までの自然減衰に加えて高度分級技術(分級+摩砕等)による処理等が必要となるものが36,823㎥(搬入済みの除去土壌の量の20.8%)となっていて、比較的高濃度の除去土壌が一定割合含まれていた(131リンク参照)。
政府は、緊急除染、先行除染や段階的な災害廃棄物等の処理に引き続き、事故由来放射性物質による環境の汚染が人の健康又は生活環境に及ぼす影響を速やかに低減することを目的として制定された放射性物質汚染対処特措法の枠組みの下で、除染の事業、汚染廃棄物や除去土壌の処理事業等を実施してきた。
その結果、福島県内においては、平成29年3月までに帰還困難区域を除く除染特別地域11市町村の面的除染が、30年3月までに除染実施区域36市町村全域の除染がそれぞれ完了し、福島県外においては、29年3月までに57市町村全域で除染が完了したとされている。
一方、福島第一原発事故の発生から10年が経過して、除去土壌等や指定廃棄物の保管が長期化し、また、一部において適切とは認められない除去土壌の保管が見受けられるなど、その適正な管理や最終処分に向けた取組の重要性はますます増している。
帰還困難区域における特定復興再生拠点区域の除染等が実施されているところであり、除染、廃棄物処理、中間貯蔵施設事業及び最終処分への取組は、今後更なる加速化が求められている。
ついては、環境省において、今後、次の点に留意して、福島第一原発事故に伴い放射性物質に汚染された廃棄物及び除去土壌等の処理に適切に取り組む必要がある。
ア 現在実施している特定復興再生拠点区域の除染の工事において自然減衰やウエザリングに起因する線量低減効果の影響をできるだけ排除して除染の効果を統一的に確認できるよう、測定間隔を可能な限り一定にして速やかに測定を実施するなどの手法を検討すること
イ 現在実施している特定復興再生拠点区域の除染の工事についても、不適正除染に関する通報があった場合、引き続き現地調査、調査結果に基づく対応等を行うとともに、情報集約や事案の公表を行うなどして、再発防止に取り組むこと
ウ 補助対象除染により生じた土壌等について、現場保管場所における保管状況が確認できない事態が見受けられることから、補助対象除染により生じた土壌等の適正な保管に向けて、同種の事態の再発を防止するために、補助対象除染により生じた土壌等の保管状況を適切に把握するよう関係市町村に徹底を図ること
エ 除去土壌等保管台帳の記載等が実態と異なっていた事態が見受けられることから、関係市町村に対して、除去土壌等の実際の保管量等が除去土壌等保管台帳に正確に記載されているかどうかを改めて確認し、必要に応じて記載内容の見直しを行うよう徹底を図ること
オ 指定廃棄物一時保管場所及び除染仮置場については津波浸水想定区域内に設置されていないかの確認を、廃棄物仮置場、指定廃棄物一時保管場所及び除染仮置場についてはため池浸水想定区域内に設置されていないかの確認をそれぞれ行い、必要に応じて廃棄物又は除去土壌等を飛散流出の可能性が低い箇所へ搬出したり、飛散流出を防止するための対策を実施したりすること。また、災害が発生した場合に指定廃棄物が飛散流出するおそれのある指定廃棄物一時保管場所については、指定廃棄物を飛散流出の可能性が低い箇所へ搬出したり、必要に応じて飛散流出を防止するための対策を実施したりするなど、指定廃棄物の安全な保管に努めること
カ 福島県外における指定廃棄物の放射能濃度を適時適切に確認した上で、指定取消しなどにより指定廃棄物の処理を促進し廃棄物の量の縮減を図ることが可能となるよう、放射能濃度が8,000Bq/kg以下の廃棄物は通常の処理方法でも技術的に安全に処理することが可能であるとされていることについて、一時保管者、指定取消し後の処理責任者等に対する説明や情報発信を更に進めること
キ 特定復興再生拠点区域で今後発生する除去土壌等の量や放射能濃度を速やかに推計し、その結果を踏まえて、最終処分に向けた取組を行うこと
以上のとおり報告する。
会計検査院としては、福島第一原発事故に伴い放射性物質に汚染された廃棄物及び除去土壌等の処理状況等について、今後も引き続き検査していくこととする。