会計検査院は、前記要請の公的統計の整備に関する業務の実施状況等に関する各事項について、合規性、経済性、効率性、有効性等の観点から、①各府省等における公的統計の整備に関する業務の実施体制はどのようになっているか、各府省等と地方公共団体との連携はどのようになっているか、②公的統計の整備に関する予算の執行状況はどのようになっているか、同業務の実施状況はどのようになっているか、毎勤不適切事案によって発生した雇用保険等の追加給付の実施状況等はどのようになっているか、③公的統計に対する点検検証等の取組状況はどのようになっているか、④公的統計の利用状況はどのようになっているか、法に基づく二次的利用の状況はどのようになっているかに着眼して検査した。
検査の結果の主な内容は、次のとおりである。
統計従事職員の人数についてみると、総務省の公表資料では平成24年度では2,047人、直近5か年度では27年度1,938人、28年度1,899人、29年度1,904人、30年度1,947人、令和元年度1,953人となっており、平成28年度までは24年度と比較して減少して推移し、29年度は28年度と比較して微増となっている。30年度には統計改革の推進に必要な体制の整備等のために、内閣府等3府省の人員が増員されるなどしている(21リンク参照)。
統計主管課の統計専任職員に係る人件費等の費用は法定受託事務として国がその全額を支出している(NUM1-2-iリンク参照)。統計専任職員の実際の配置職員に係る人件費をみると、統計作成に係る業務の必要性等のため事務委託費により措置される配置定数を上回る数の職員を配置していたり、事務委託費の算定基準となる職員の等級と実際に配置されている職員の等級との相違が生じていたりすることもあって、27年度から令和元年度までの11都道府県における統計主管課の人件費は、人件費に係る国からの事務委託費の額を上回っていた。統計主管課の人件費に対する都道府県の負担割合について、5か年度の計でみると18.8%から34.6%となっていて、これらの財源には都道府県予算が充てられていた(26リンク参照)。
11府省等の平成27年度から令和元年度までの統計事業に係る予算の執行額は計2227億余円となっており、当初予算額に、補正予算額、流用等増減額及び繰越額を加除した予算現額計2349億余円に対して94.8%となっていた。また、上記の予算現額2349億余円と執行額2227億余円との差額122億余円については、間接費等として統計以外に係る経費と合わせて執行されていたり、不用額となっていたりしていた(31リンク参照)。
調査計画に定められた調査方法と各統計調査の実態との整合性が取れていないのに、31年の一斉点検において報告されていないものがないかなどについて11都道府県等において検査したところ、4府省が所管する8統計調査を実施した全ての年度において、調査計画では調査票の提出方法として郵送が定められていないにもかかわらず、調査対象者の要望があった場合等に郵送により調査票の提出を受けるなどしている状況が見受けられた(NUM2-2-i-iリンク参照)。
312地方公共団体のうち5道府県及び43市区町の計48地方公共団体において、調査員管理システムの利用状況を検査したところ、調査員管理システムを利用して調査員名簿の管理等を行っていると認められる地方公共団体は、1府及び5市町の計6地方公共団体(12.5%)となっていて、調査員管理システムの利用が低調となっていた(56リンク参照)。
厚生労働省において、雇用保険等の追加給付の実施状況をみたところ、3年3月末時点では、雇用保険、労災保険及び船員保険の追加給付の人数並びに追加給付費等は、それぞれ延べ13,405,875人、188億7867万余円(平成31年1月末時点における追加給付の試算額に占める割合63.8%)、延べ347,339人、180億6087万余円(同70.7%)及び延べ10,279人、14億8556万余円(同85.8%)、雇用調整助成金の追加給付の対象件数及び追加給付費等は、延べ170,334件、11億2491万余円(同34.7%)であり、これらの追加給付費等の合計は、395億5002万余円(同65.8%)であった(58リンク参照)。
31年の一斉点検において、不適切な対応があったとされた179統計調査のうち、中止予定又は1回限りの実施とされている11統計調査を除いた168統計調査に係るその後の対応状況について検査したところ、令和2年11月時点で、109統計調査が「対応済」となっていた。一方、「対応中」が42統計調査、「対応予定」が17統計調査、「検討中」が1統計調査となっていた。これらについては、次回の統計調査で「対応済」となる予定であるとされていたり、新型コロナウイルス感染症等の対応のために対応が延期されていたりしているなどとされていた(NUM3-1-uリンク参照)。
e-Statにおいて登録されている統計データの数は、元年度末現在において628となっていた(69リンク参照)。第Ⅲ期基本計画によれば、平成30年以降、一般統計調査のほか、業務統計及び加工統計を含め、所管する統計データをe-Statに登録することとされている。また、統計情報データベースへのデータ登録を計画的に実施することとされている。しかし、令和2年9月末時点において公表期限を経過した調査結果等について、e-Statへの登録状況を確認したところ、調査結果等が一切登録されていないものが13府省等において281統計等(4一般統計調査及び277業務統計等)見受けられたほか、直近の調査結果等が登録されていないものが5省において32統計等(1基幹統計、15一般統計調査及び16業務統計等)となっていた(70リンク参照)。さらに、登録方法別の登録数をみると、元年度末時点において、統計表ファイルとしての登録数は627統計等となっていた。一方、統計情報データベースとしての登録数は261統計等となっており、登録のためにデータを加工する作業が必要になることなどから、統計表ファイルとしての登録数に比べて少なくなっていた(72リンク参照)。
統計センターにおいて、統計データ利活用センターのオンサイト利用の状況を確認したところ、オンサイト施設に設置されたパーソナルコンピュータのログイン件数をみると、利用が進んでいるとはいえない状況と思料された(77リンク参照)。
公的統計は、国及び地方公共団体の政策運営のみならず、事業者及び国民の意思決定に不可欠な情報であり、社会の発展を支える情報基盤として必要な統計を提供することは政府の基本的な行政サービスの一つであり、極めて重要なものである。一方で、厚生労働省による毎勤不適切事案を始めとする不祥事により、雇用保険等の追加給付による追加的な費用が生じたり、それらを踏まえて実施された31年の一斉点検の結果、多くの統計調査において問題が見受けられたりしたことなどから、国民の政府統計に対する信頼を大きく損なう結果となっており、一刻も早い信頼の回復に努める必要がある。
ついては、総務省、厚生労働省、その他の各府省等、統計センター等は、次の点に留意するなどして、公的統計の整備を適切かつ効果的に実施するよう努める必要がある。
ア 総務省政策統括官においては、調査計画と異なる調査方法により調査を行っている実態が常態化していないか、今後、各府省等が実施する統計調査について、調査方法等の実態把握を行い、調査計画の変更又は調査方法等の見直しが想定されるなどの事態が見受けられた場合には、その結果を踏まえ、適正化に努めること
イ 総務省においては、調査員管理システムの利用状況が低調であることや、調査員管理システムを利用していない理由を踏まえて、地方公共団体への連絡調整会議等を通じて実情や課題を把握することにより、調査員管理システムの見直しも含めた今後の方策について速やかに検討すること
ウ 厚生労働省等においては、毎勤不適切事案によって発生した雇用保険等の追加給付等について、経費の節減等に留意しつつ、迅速かつ的確な追加給付等の実施に努めること
エ 各府省等においては、統計を作成している関係部門に対し、e-Statが国民にワンストップサービスを提供するためのポータルサイトとなっている趣旨を周知した上で、e-Statに調査結果等が登録されていない統計等については、登録の促進を図ること。また、第Ⅲ期基本計画において、統計情報データベースによるデータ提供を計画的に実施することとなっていることに鑑み、統計表ファイルのみならず、利用者がシステムにおいて直接データを編集する機能を有する統計情報データベースとしての登録件数を一層拡充すること
オ 総務省及び統計センターにおいては、第Ⅲ期基本計画において、調査票情報等の提供及び活用を推進するために、オンサイト利用について、利用拠点や利用可能なデータの段階的拡充に取り組むこととなっていることに鑑み、オンサイト利用が可能な統計調査数の目標を定めるなど、更なる利用促進のための取組を行うこと
以上のとおり報告する。
会計検査院としては、国による公的統計の整備に関する業務の実施状況等について、今後も注視していくこととする。