居住者(日本国内に住所を有するなどの個人)に対して国内において剰余金の配当、利益の配当、剰余金の分配等(以下、これらを合わせて「配当等」という。)の支払をする者は、所得税法(昭和40年法律第33号)第181条の規定等に基づき、その支払の際、配当等について所得税及び復興特別所得税(注1)(以下「所得税等」という。)を徴収して、これを国に納付(以下「源泉徴収」という。)するとともに、同法第225条の規定に基づき、支払を受ける者、株式の数等、配当等の金額、源泉徴収税額等を記載した「配当、剰余金の分配、金銭の分配及び基金利息の支払調書」(以下「支払調書」という。)を税務署長に提出することなどとなっている。配当等については、原則として、源泉徴収における所得税等の税率が同法第182条の規定等に基づき20.42%となっている。
そして、居住者が内国法人から支払を受ける上場株式等に係る配当等のうち、その支払に係る基準日等において、発行済株式等の総数等に対する株式等の保有割合(以下「持株割合」という。)が3%以上の者(以下「大口の個人株主」という。)が当該内国法人から支払を受ける配当等及び非上場会社の個人株主が支払を受ける配当等については、一回に支払を受ける金額が10万円以下である場合を除き、源泉徴収後に、支払を受けた配当等に係る所得(以下「配当所得」という。)として他の各種の所得金額と合計するなどして課税総所得金額を算定することとなっている。そして、課税総所得金額に対して、区分ごとに定められた累進税率(課税総所得金額の区分に応じ、同法第89条の規定に基づき5%から45%までの税率が適用される。)を乗じ、配当控除をするなどして所得税等の額を計算する総合課税方式により確定申告を行うこととなっている。確定申告は、同法第120条の規定に基づき、申告書を税務署長へ提出することにより行うこととなっている。
なお、居住者が内国法人から支払を受ける上場株式等に係る配当等のうち、その支払に係る基準日等において、大口の個人株主以外の株主が当該内国法人から支払を受ける配当等については、租税特別措置法(昭和32年法律第26号)の規定等により、源泉徴収における所得税等の税率を15.315%にするとともに、源泉徴収のみで課税関係が終了する確定申告不要方式又は他の所得と区分して15.315%の税率で所得税等の額を計算する申告分離課税方式により確定申告を行うことなどが選択できる(以下、これらの特例を合わせて「申告不要配当特例等」という。)こととなっている。
税務署は、事務処理の適正、効率化を図ることなどを目的として、事務処理手続について国税庁が定めた個人課税事務提要に基づき、居住者から提出された申告書の記載誤り等について形式的な確認を実施することとなっている。その後、配当等の支払をする者から税務署に提出された支払調書のデータ(以下「支払調書データ」という。)等の各種情報に照らして、申告内容が適正であるかについて審理する申告審理を行うこととなっているが、配当所得に係る申告審理の手順等について、個人課税事務提要等には具体的に記載されていない。
そして、税務署は、これらの申告審理等の結果を受けて、行政指導や税務調査による是正等を図ることとなっている。
国税庁は、居住者に対して、ウェブサイトに手引や質疑応答集を掲載したり、その内容を冊子にして税務署の窓口へ備え付けたりなどしており、これらの方法により、申告不要配当特例等や配当所得の確定申告の方法等に関する周知を図っているとしている。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
前記のとおり、大口の個人株主及び非上場会社の個人株主が支払を受ける配当等については、原則、源泉徴収後に配当所得として総合課税方式により確定申告を行うこととなっている。
そこで、本院は、合規性、有効性等の観点から、大口の個人株主及び非上場会社の個人株主が支払を受けた配当は、配当所得として総合課税方式により申告されているか、税務署の申告審理の際に効果的な確認が行われているかなどに着眼して検査した。
検査に当たっては、国税庁から支払調書データの提出を受けるなどして、次の①及び②の個人株主を選定した。
そして、前記の支払調書データにより配当の受取状況等を確認した上で、国税庁に申告書等の提出の有無を確認して、国税庁から、提出があった者に係る申告書等の提出を受けるなどして検査した。
また、7税務署(注5)において、配当所得に係る申告審理の実施状況について、国税庁において、課税資料の活用に関する税務署への指導及び配当所得の確定申告に関する居住者への周知の状況等について、それぞれ聴取するなどして会計実地検査を行った。
(検査の結果)
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
前記大口の個人株主2,025人(配当の額計2194億4536万余円)及び非上場個人株主1,237人(同531億0705万余円)が支払を受けた配当について、配当所得として総合課税方式により申告されているか確認したところ、大口の個人株主は平成30年分及び令和元年分の計129人(同10億0104万余円)、非上場個人株主は平成30年分及び令和元年分の計20人(同3億1786万余円)、合計149人(同13億1891万余円)がそれぞれ申告書等を提出していなかったり、申告書等に配当所得として計上していなかったりしていて、総合課税方式により申告を行っていない状況となっていた。
なお、上記のうち、申告書等が提出されていて、配当所得以外の他の所得の状況等が一定程度把握できた大口の個人株主計102人及び非上場個人株主計12人、合計114人に係る配当について、配当所得として総合課税方式により申告を行ったと仮定して試算(注6)したところ、所得税等の額が増加すると見込まれる大口の個人株主は、平成30年分及び令和元年分の計65人(所得税等の額の増加見込額8153万余円)、非上場個人株主は、平成30年分及び令和元年分の計9人(同2150万余円)、合計74人(同1億0303万余円)となっていた。
また、総合課税方式による累進税率が源泉徴収税率を下回ることなどにより、所得税等の額が減少すると見込まれる大口の個人株主は、平成30年分及び令和元年分の計41人(所得税等の額の減少見込額2060万余円)、非上場個人株主は、平成30年分及び令和元年分の計3人(同112万余円)、合計44人(同2172万余円)となっていた。
税務署は、前記のとおり、個人課税事務提要に基づき、支払調書データ等の各種情報に照らして申告内容が適正であるかについて申告審理を行うこととなっているが、配当所得に係る申告審理の手順等について、個人課税事務提要等には具体的に記載されていない。
そこで、国税庁に対して配当所得に係る申告審理の手順等に関する税務署への指導状況を確認したところ、大口の個人株主及び非上場会社の個人株主が支払を受けた配当に関し、配当所得として総合課税方式により申告されているかについてあらかじめ支払調書データの源泉徴収税額等を分析することにより申告不要配当特例等の適用の可否を推定し、その結果を活用して効果的な確認を行うといった一連の具体的な手順等を定めた上で税務署に示していなかった。
そして、7税務署において配当所得に係る申告審理の実施状況を聴取したところ、上記の配当が配当所得として適正に申告されているかについて、支払調書データを端緒とした申告審理の手順を定めるなどして申告審理を行っている税務署は見受けられず、申告審理の際に効果的な確認が行われていない状況となっていた。
国税庁は、前記のとおり、居住者に対して、ウェブサイトや冊子により申告不要配当特例等や配当所得の確定申告の方法等について周知を図っているとしているが、上記ウェブサイト等の記載内容を確認したところ、大口の個人株主及び非上場会社の個人株主が支払を受ける配当について、配当所得として総合課税方式により申告を行うことが必要であることや、大口の個人株主が支払を受ける配当について、申告不要配当特例等が適用できないことを明確に記載しておらず、居住者に対する周知が必ずしも十分に行われているとはいえない状況となっていた。
このように、大口の個人株主及び非上場会社の個人株主が支払を受けた配当に関し、配当所得として総合課税方式により申告を行っていないものが一定数見受けられるのに、国税庁において、税務署に対して、配当所得に係る申告審理を行うに当たって、配当所得として総合課税方式により申告されているかについて支払調書データを端緒とした具体的な申告審理の手順等を定めた上で示しておらず、税務署における申告審理が十分に行われていなかったり、国税庁において、居住者に対して上記の配当については配当所得として総合課税方式により申告しなければならないことを十分周知していなかったりしていた事態は適切ではなく、改善の必要があると認められた。
(発生原因)
このような事態が生じていたのは、次のことなどによると認められた。
上記についての本院の指摘に基づき、国税庁は、次のような処置を講じた。
ア 大口の個人株主及び非上場会社の個人株主が支払を受けた配当に係る申告審理を行うに当たって、配当所得として総合課税方式により申告されているかについて支払調書データを端緒とした具体的な申告審理の手順等を定め、4年8月に事務連絡を発し、各国税局等を通じて全国の税務署に周知した。
イ 大口の個人株主及び非上場会社の個人株主が支払を受ける配当は配当所得として総合課税方式により申告を行う必要があることについて、4年8月に国税庁のウェブサイト等に明確に記載するなどして、居住者に対して周知した。