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  • 意見を表示し又は処置を要求した事項

家庭学習のための通信機器整備支援事業により整備したモバイルWi―Fiルータ等について、事業主体に使用が低調となっている理由を確認させた上で家庭学習における使用を促進するための方策を検討して周知したり、家庭学習以外での有効活用を図るための方法等を検討して周知したりして、使用促進や有効活用が図られるよう意見を表示したもの


会計名及び科目
一般会計 (組織)文部科学本省 (項)初等中等教育振興費
部局等
文部科学本省
補助の根拠
予算補助
補助事業者(事業主体)
278事業主体
補助事業
家庭学習のための通信機器整備支援事業
補助事業の概要
公立の小学校、中学校、高等学校等の児童生徒が学校教育活動の一環として行う家庭学習に必要となるインターネットへの接続機能を有するモバイルWi―Fiルータ等の貸与を目的とした購入費を補助するもの
検査の対象としたルータの整備台数及び整備に係る国庫補助金交付額
222,892台 20億2816万余円(令和2、3両年度)
上記のうち令和2年度に整備したルータの最大貸与率が50%未満となっている事業主体において家庭学習に使用されていないルータの台数及び国庫補助金相当額
101,614台 9億1706万円

【意見を表示したものの全文】

家庭学習のための通信機器整備支援事業により整備したモバイルWi―Fiルータ等の使用状況について

(令和4年10月19日付け 文部科学大臣宛て)

標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり意見を表示する。

1 家庭学習のための通信機器整備支援事業の概要

貴省は、公立学校情報機器整備費補助金交付要綱(令和2年文部科学大臣決定。以下「要綱」という。)に基づき、公立の小学校、中学校、高等学校等(以下「補助対象校」という。)において児童生徒1人1台の学習者用コンピュータ(タブレット等の端末。以下「端末」という。)等の情報機器を整備するために必要とする経費を補助することにより、多様な子供たちを誰一人取り残すことのない、公正に個別最適化された学びを全国の学校現場で実現させることを目的として、地方公共団体等に対して公立学校情報機器整備費補助金(以下「補助金」という。)を交付している。

補助金の対象となる事業のうち、「家庭学習のための通信機器整備支援事業」(以下「補助事業」という。)は、都道府県及び市町村(東京都の特別区、市町村の組合及び広域連合を含む。以下、これらを合わせて「事業主体」という。)に対し、補助対象校の児童生徒が、学校教育活動の一環としてインターネットを利用して行う家庭における学習活動(以下「家庭学習」という。)に必要となるインターネットへの接続機能を有するモバイルWi―Fiルータ等の可搬型通信機器(以下「ルータ」という。)の貸与を目的とした購入費を補助するものである。

補助事業は、新型コロナウイルス感染症等による学校の臨時休業等の緊急時においても児童生徒が学習を継続できるよう、児童生徒の学びの保障と教育の機会均等の観点から、経済的にインターネット環境を整えられない家庭に対してルータを貸与することで、家庭学習が可能となるよう支援を行うものである。

要綱等によれば、補助事業における補助金の交付額は、事業主体における就学援助等受給世帯(注1)の児童生徒数にルータ1台当たりの補助金の交付上限額(1万円)を乗じた額等と、実際のルータの購入費のうち補助の対象となる額とを比較して、いずれか少ない額とすることとされている。

(注1)
就学援助等受給世帯  就学援助費を受給している世帯、高校生等奨学給付金を受給している世帯又は特別支援教育就学奨励費(第1段階の支弁区分に限る。)を受給している世帯

貴省は、「公立学校情報機器整備費補助金に関する自治体向けFAQ」(令和2年事務連絡。以下「FAQ」という。)等を発して、事業主体に対して補助事業により整備したルータの使用に関する情報提供を行っており、FAQ等において、補助事業により整備したルータについては、緊急時に限らず平時においても有効に活用することとしている。そして、整備したルータの校外活動等への活用や、就学援助等受給世帯以外への貸与についても可能としているが、経済的にインターネット環境を整えられない家庭に対する支援という補助事業の趣旨を踏まえた適切な運用を事業主体に対して求めている。

2 本院の検査結果

(検査の観点、着眼点、対象及び方法)

本院は、有効性等の観点から、補助事業により整備したルータが有効に使用されているかなどに着眼して検査した。

検査に当たっては、令和2、3両年度に21都道府県(注2)の278事業主体が整備したルータ計222,892台に係る補助金交付額計20億2816万余円を対象に、貴省本省及び16都道県(注3)の89事業主体において、契約書、実績報告書等や、ルータの使用状況を確認するなどして会計実地検査を行うとともに、21都道府県の189事業主体については、21都道府県からルータの使用状況に係る調書の提出を受け、この内容を分析するなどして検査した。

(注2)
21都道府県  東京都、北海道、大阪府、岩手、宮城、秋田、山形、埼玉、神奈川、新潟、石川、山梨、岐阜、静岡、三重、兵庫、奈良、山口、愛媛、大分、沖縄各県
(注3)
16都道県  東京都、北海道、岩手、秋田、山形、埼玉、神奈川、新潟、石川、山梨、岐阜、三重、兵庫、奈良、愛媛、大分各県

(検査の結果)

検査したところ、次のような事態が見受けられた。

(1) ルータの使用状況

2年度中に整備したルータは、3年度末時点で納品から1年以上経過していることになる。

そこで、2年度に補助事業を実施した242事業主体が整備したルータ計178,325台(補助金交付額計16億1101万余円)の3年度末までの使用状況についてみたところ、納品から1年以上経過したルータの事業主体ごとの最大貸与台数(家庭へ貸与されていたピーク時点での台数をいう。以下同じ。)の合計は、表1のとおり、65,010台となっていて、整備したルータの台数との差113,315台分(補助金相当額10億2741万余円)は3年度末までに一度も貸与されておらず、家庭学習に使用されていない状況となっていた。

表1 令和2年度に整備したルータの使用状況

都道府県数 事業
主体数
整備台数
(台)
左に係る補助金交付額(円) 令和3年度末までの事業主体ごとの最大貸与台数の合計(台) 3年度末までに貸与されておらず家庭学習に使用されていない台数(台) 左に係る補助金相当額(円)
A B C=A-B
21 242 178,325 1,611,014,000 65,010 113,315 1,027,411,602

そして、上記の242事業主体について、3年度末までの事業主体ごとの最大貸与率(2年度に補助事業により整備したルータ台数に占める最大貸与台数の割合。以下同じ。)の状況をみると、表2のとおり、193事業主体(全体の79.7%)において、最大貸与率が50%未満と低調となっていた。さらに、上記193事業主体のうち31事業主体(全体の12.8%)においては、整備したルータが家庭学習に全く使用されていない状況となっていた。

表2 令和2年度に整備したルータの事業主体ごとの最大貸与率の状況

  令和3年度末までのルータの最大貸与率
うち最大貸与率が50%未満の計
50%以上 30%以上
50%未満
10%以上
30%未満
10%未満
A B C D うち0%
(整備したルータが家庭学習に全く使用されていない)
A+B+C+D B+C+D
事業主体数
(全体に対する割合)
49
(20.2%)
36
(14.8%)
51
(21.0%)
106
(43.8%)
31
(12.8%)
242
(100%)
193
(79.7%)
上記の事業主体において3年度末までに貸与されておらず家庭学習に使用されていない台数(台) 11,701 16,352 30,677 54,585 7,138 113,315 101,614
上記に係る補助金相当額
(円)
110,346,782 143,740,197 296,429,676 476,894,947 67,239,000 1,027,411,602 917,064,820

このように、家庭学習における使用を目的として整備したルータの最大貸与率が50%未満と低調となっている193事業主体において、ルータ計101,614台分(補助金相当額9億1706万余円)が、納品から1年以上にわたって家庭学習に使用されていない状況となっていた。

(2) ルータの最大貸与率が低調となっている主な要因等

事業主体は、2年度にルータを整備するに当たり、事業主体が実施したインターネット環境の有無等に係るアンケート調査の結果や就学援助等受給世帯の児童生徒数等に基づいて必要台数を算定したとしているが、前記のとおり、多くの事業主体において、ルータの最大貸与率が低調となっていた。

そこで、前記193事業主体のうち、ルータの最大貸与率が低調となっている主な要因を把握しているとしている141事業主体について、当該要因の内容を確認したところ、表3のとおり、「ルータの貸出希望者が想定より少ないため」としているものが74事業主体と最も多く、次いで「家庭学習が進んでいないため」としているものが56事業主体となっていた。

表3 事業主体が把握しているルータの最大貸与率が低調となっている主な要因

  主な要因
ルータの貸出希望者が想定より少ないため 家庭学習が進んでいないため その他
A 家庭におけるインターネット環境の整備が進んだため その他 B 家庭学習は緊急時のみ実施する方針となっているため 家庭への端末の持帰りについて検討中のため その他 C A+B+C
事業主体数 74 60 14 56 28 23 5 11 141

ア ルータの貸出希望者が想定より少ないことの主な理由

 「ルータの貸出希望者が想定より少ないため」としている上記の74事業主体について、主な理由を確認したところ、「家庭におけるインターネット環境の整備が進んだため」としているものが、表3のとおり、60事業主体と約8割を占めていた。ルータの貸出希望者が想定より少ないのは、事業主体が必要台数の算定の際に実施したインターネット環境の有無等に係るアンケート調査の内容が必ずしも十分でなかったことなどにもよると考えられるが、60事業主体の中には、家庭におけるインターネット環境の整備が進んだことの理由として、新型コロナウイルス感染症の感染拡大の中で、インターネット環境を整備した家庭が増加したとしているものも見受けられた。

上記について、事例を示すと次のとおりである。

事例1

新潟市は、令和2年度に、同市が実施した各家庭に対するインターネット環境の有無等に係るアンケート調査の結果等に基づいて、ルータ計12,000台(補助金交付額計8103万余円)を整備し、3年4月から貸与を希望する家庭に対してルータの貸出しを開始していて、端末の積極的な活用等の観点から、3年8月以降、家庭への端末の持帰りを原則としている。

しかし、同市では、3年度末までのルータの最大貸与台数が計1,075台(最大貸与率8.9%)と低調となっていた。

この理由について、同市は、ルータの整備前である2年7月に各家庭に実施した前記インターネット環境の有無等に係る調査の結果と、整備後である3年10月に学校に実施した簡易調査の結果とを比較して、インターネット環境を整備していない家庭の割合が半数以上減少しており、新型コロナウイルス感染症の感染拡大の中で家庭におけるインターネット環境の整備が進んだためなどとしている。

イ 家庭学習が進んでいないことの主な理由

表3において、「家庭学習が進んでいないため」としている56事業主体について、その主な理由を確認したところ、「家庭学習は緊急時のみ実施する方針となっているため」や、「家庭への端末の持帰りについて検討中のため」などとなっており、それぞれ、家庭学習においてルータを使用する機会が少なかったり、家庭学習が開始されていなかったりすることなどが主な理由となっていた。

上記について、事例を示すと次のとおりである。

事例2

旭川市は、令和2年度に、新型コロナウイルス感染症の感染拡大による一斉の臨時休業に備えるためとして、就学援助等受給世帯の児童生徒数に基づいて、ルータ計4,400台(補助金交付額計3794万余円)を整備し、3年4月から学校の臨時休業等の緊急時にルータの貸出しを開始している。

しかし、同市では、3年度末までのルータの最大貸与台数が計126台(最大貸与率2.8%)と低調となっていた。

この理由について、同市は、地域一斉の臨時休業は慎重に検討する必要があるとの国の方針を踏まえ、地域一斉の臨時休業は行わず、また、平時における家庭への端末の持帰りについて検討中であるためなどとしている。

前記のとおり、貴省は、ルータの家庭学習における使用に関して、FAQ等において、平時においても有効に活用することや、就学援助等受給世帯以外への貸与について補助事業の趣旨を踏まえた適切な運用を事業主体に対して求めている。しかし、FAQ等では、貸与が可能であるかどうかの具体的な判断基準は示されていないことなどから、事業主体の中には、緊急時や就学援助等受給世帯に対してのみ貸与が認められると認識しているものも見受けられた。このように、貴省はルータの家庭学習における使用に関して一定の情報提供を行っているものの、事業主体においてルータの使用を検討するための情報提供としては十分でないものとなっていた。

(3) 今後の家庭学習における使用見込等

補助事業により整備したルータについて、平時の家庭学習の実施や家庭への端末の持帰りの開始により家庭学習が進む事業主体においては、今後のルータの使用が一定程度見込まれるものの、家庭学習が進まない事業主体や家庭におけるインターネット環境の整備が進んだ事業主体においては、今後、家庭学習を目的として貸与するルータの台数の大幅な増加は必ずしも期待できないと思料される。

そこで、前記の2、3両年度に278事業主体が整備したルータ222,892台について、4年度以降、家庭学習における使用が見込まれるか、事業主体がそれぞれの状況を踏まえて独自に試算した使用見込数を徴取したところ、計142,711台については、今後の家庭学習における使用が見込まれるとされていた。

一方で、計80,181台(上記の整備台数222,892台と今後の家庭学習における使用が見込まれるとした台数142,711台との差)については、今後の家庭学習における使用が見込まれないとされていた。

また、本来の目的である家庭学習における使用が見込まれないルータが相当数見受けられることを踏まえると、これらのルータについては、家庭学習における使用の妨げとならない範囲で、何らかの活用を検討することが重要であると考えられる。この点に関し、前記のとおり、貴省は、FAQ等において、校外活動等への活用について、補助事業の趣旨を踏まえた適切な運用を事業主体に対して求めている。しかし、FAQ等では、上記以外の用途については特段示されておらず、家庭学習において使用される見込みがないルータの活用方法について明確となっていないことなどから、事業主体の中には、活用方法の検討が困難となっているものも見受けられた。このように、貴省はルータの家庭学習以外の他の用途での活用に関して一定の情報提供を行っているものの、事業主体においてルータの活用方法を適切に検討するための情報提供としては十分でないものとなっていた。

(改善を必要とする事態)

家庭学習における使用を目的として整備したルータについて、納品から1年以上にわたって家庭学習において使用されていないものが多数あり、今後使用される見込みがないものも多数ある事態は適切ではなく、改善の要があると認められる。

(発生原因)

このような事態が生じているのは、新型コロナウイルス感染症の感染拡大の中で先行きが予見し難い状況にあったことなどにもよるが、貴省において、次のことなどによると認められる。

  • ア 事業主体が補助事業により整備したルータを家庭学習において使用促進するための方策の検討及びその結果の事業主体に対する情報提供が十分でないこと
  • イ 事業主体が家庭学習における使用を目的としてルータを貸与することが困難な場合に、家庭学習における使用の妨げとならない範囲で補助事業で整備したルータの有効活用を図るための用途や方法の検討及びその結果の事業主体に対する情報提供が十分でないこと

3 本院が表示する意見

このように、家庭学習において使用されていないルータが多数あり、今後使用される見込みがないものも多数ある状況等を踏まえると、整備したルータの全てが家庭学習で使用されたり、家庭学習以外で有効活用されたりすることは必ずしも期待できないと思料されるものの、貴省は、平時から持ち帰った端末を活用した自宅等での学習を行うことは、学校の臨時休業等の緊急時における学びの継続を円滑に行う観点からも有効であるなどとしており、今後も学校外における端末等の活用を進めていくことが見込まれる。

ついては、貴省において、補助事業により整備したルータが、今後、可能な限り有効に活用されるなどするよう、次のとおり意見を表示する。

  • ア ルータの家庭学習における使用が低調となっている理由を事業主体に確認させた上で、これを踏まえ、ルータの家庭学習における使用を促進するための方策を検討し、その結果を事業主体に対して周知すること
  • イ 家庭学習における使用の妨げとならない範囲でルータの家庭学習以外での有効活用を図るための用途や方法を検討し、その結果を踏まえ、参考となる事例を紹介するなど適切な活用方法を事業主体に対して周知すること