検疫所は、検疫法(昭和26年法律第201号)等に基づき、令和2年2月以降、入国者に対して新型コロナウイルス感染症の感染の有無について検査を実施し、その結果、陽性が確定した者のうち隔離が必要と判断された者について、感染症指定医療機関等(以下「医療機関」という。)に委託して、当該医療機関に搬送し、入院させた上で、治療等を行っている。そして、当該隔離は、本人の意思に基づくものではないことから、厚生労働省は、当該隔離に要した費用(以下、このうち入院に係る医療に要した費用を「コロナ入院費」という。)の全額を国の負担とすることとしている。
また、消費税法(昭和63年法律第108号)等によれば、国内において事業者が事業として対価を得て行った資産の譲渡等には消費税(地方消費税を含む。以下同じ。)を課すこととされている。一方、同法によれば、資産の譲渡等のうち健康保険法(大正11年法律第70号)等の規定に基づく療養又は医療に類するものとして政令で定めるものについては、消費税は課さないこととされており、検疫法の規定に基づく入院に係る医療はこれに該当する。このため、コロナ入院費には、消費税は課されないこととなる。
検疫所は、コロナ入院費、当該入院時に利用したサービスに係る費用等について、委託先の医療機関から提出された請求書等により、所要の確認を行って金額を確定し、医療機関に支払っている。
そして、我が国への入国者の多数を占める空港等を所管している5検疫所(注1)は、元年度から3年度までの間にそれぞれの委託先である延べ98医療機関(注2)に対してコロナ入院費等として計918,293,845円を支払っている。
本院は、合規性等の観点から、コロナ入院費等の支払が適切に行われているかなどに着眼して、上記コロナ入院費等の支払を対象として、厚生労働本省及び5検疫所において関係書類を確認するなどの方法により会計実地検査を行った。
検査したところ、上記の延べ98医療機関に対するコロナ入院費等の支払のうち、5検疫所の延べ19医療機関(注3)に対する支払について、次のとおり適切とは認められない事態が見受けられた。
5検疫所は、上記の19医療機関に対して、元年度から3年度までの間に、コロナ入院費等として計563,073,609円を支払っていたが、当該支払に係る請求額の内訳を19医療機関から5検疫所に送付された請求書等により確認したところ、このうち計469,660,545円の支払に係る請求額には、コロナ入院費等に10%を乗ずるなどして算定した消費税相当額計42,706,273円が含まれていた。
しかし、前記のとおり、コロナ入院費については消費税は課されないこととなっていることから、5検疫所は、上記請求額のうちコロナ入院費に係る消費税相当額計42,686,866円を支払う必要はなかったと認められる。
したがって、支払う必要がなかった上記のコロナ入院費に係る消費税相当額を除くなどして適正な支払額を算定すると、計520,487,803円となり、支払額計563,073,609円との差額42,585,806円の支払が過大となっていて不当と認められる。
このような事態が生じていたのは、委託先の医療機関においてコロナ入院費の請求に際しての消費税の取扱いについての理解が十分でなかったことにもよるが、5検疫所においてコロナ入院費に係る消費税の取扱いについての理解が十分でなかったことなどによると認められる。
コロナ入院費等に係る過大支払額を検疫所別に示すと、次のとおりである。
検疫所名 |
医療機関数 | 支払額(A) | 適正な支払額(B) | 過大支払額(A-B) | |
---|---|---|---|---|---|
円 | 円 | 円 | |||
(55) | 成田空港検疫所 | 6 | 308,785,586 | 281,822,472 | 26,963,114(注) |
(56) | 東京検疫所 |
4 | 51,887,159 | 47,178,345 | 4,708,814 |
(57) | 名古屋検疫所 |
4 | 95,307,008 | 92,655,122 | 2,651,886 |
(58) | 関西空港検疫所 | 4 | 98,438,185 | 90,479,238 | 7,958,947 |
(59) | 福岡検疫所 |
1 | 8,655,671 | 8,352,626 | 303,045 |
(55)―(59)の計 | 19 | 563,073,609 | 520,487,803 | 42,585,806 |
(注) 過大支払額は、成田空港検疫所の委託先である2医療機関における請求金額の記載誤りによる過小支払額計101,060円を差し引いた金額である。