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雇用保険のキャリアアップ助成金の支給が適正でなかったもの[厚生労働本省、7労働局](63)


会計名及び科目
労働保険特別会計(雇用勘定) (項)高齢者等雇用安定・促進費
部局等
厚生労働本省(支給庁)
7労働局(支給決定庁)
支給の相手方
7事業主
キャリアアップ助成金の支給額の合計
41,096,120円(平成29年度~令和3年度)
不当と認める支給額
38,246,120円(平成29年度~令和3年度)

1 保険給付の概要

(1) キャリアアップ助成金

キャリアアップ助成金(以下「助成金」という。)は、雇用保険で行う事業である雇用安定事業及び能力開発事業の一環として、雇用保険法(昭和49年法律第116号)等に基づき、期間の定めがある労働契約を締結する者(以下「有期契約労働者」という。)等の企業内でのキャリアアップ(注1)を支援するために、キャリアアップに向けた取組を実施した事業主に対して国が経費等を助成するものである。助成金の対象となる取組には、人材育成コース(同コースは、平成30年度に人材開発支援助成金に統合されたが、29年度以前に訓練計画届の提出があった場合は同コースとなる。)、正社員化コース等がある。

(注1)
キャリアアップ  職務経験又は職業訓練等(職業訓練又は教育訓練をいう。)の職業能力の開発の機会を通じて、職業能力の向上並びにこれによる将来の職務上の地位及び賃金をはじめとする処遇の改善が図られること

(2) 助成金の支給

助成金の支給を受けようとする事業主は、対象者、目標、計画期間等が記載されたキャリアアップ計画書を管轄の都道府県労働局(以下「労働局」という。)に提出して受給資格の認定を受けることとなっている。また、助成金の対象となる取組のうち、人材育成コースについては、上記キャリアアップ計画書のほか、実施する職業訓練の内容等が記載された訓練計画届を労働局に提出して受給資格の認定を受けることとなっている。

そして、人材育成コースの支給要件は、事業主が、受給資格認定に係る訓練計画に基づき職業訓練を実施することなどとなっている。また、正社員化コースの支給要件は、事業主が、①上記のキャリアアップ計画書に記載された計画期間内に労働協約又は就業規則等に基づき、有期契約労働者を正規雇用労働者に転換すること、②転換後6か月以上の期間継続して雇用し、転換後6か月間における基本給、賞与及び定額で支給されている諸手当を含む賃金の総額(以下「賃金総額」という。)を転換前の6か月間の賃金総額と比較して5%以上(令和3年度以降は、賃金総額から賞与を除いた額を3%以上)増額させていることなどとなっている。

助成金の支給を受けようとする事業主は、人材育成コースについては、訓練計画実施期間の終了した日の翌日から起算して2か月以内に、支給申請書に出勤簿、賃金台帳等の関係書類のほか、職業訓練の実施内容等を記載した実施状況報告書(以下「訓練実施状況報告書」という。)を添えて、労働局に提出することとなっている。また、正社員化コースについては、有期契約労働者を正規雇用労働者に転換等した後、6か月分の賃金を支給した日の翌日から起算して2か月以内に、支給申請書に雇用契約書等の関係書類を添えて、労働局に提出することとなっている。

支給申請書等の提出を受けた労働局は、関係書類等に基づいて、事業主やその申請内容が助成金の支給要件を満たしているかなどについて審査をした上で支給決定を行い、これに基づいて厚生労働本省は、助成金の支給を行うこととなっている。

また、労働局は、偽りその他不正の行為により本来受けることのできない支給を受けようとした事業主に対して不支給とすること、偽りその他不正の行為により本来受けることのできない支給を受けた事業主に対して、支給した助成金の全部又は一部の支給決定を取り消して返還の手続を行うことなどとなっている。

2 検査の結果

(1) 検査の観点、着眼点、対象及び方法

本院は、合規性等の観点から、事業主に対する助成金の支給決定が適正に行われているかに着眼して、平成29年度から令和3年度までの間に助成金の支給を受けた事業主から54事業主を選定して、助成金の支給の適否について、厚生労働本省及び5労働局(注2)において会計実地検査を行うとともに、11労働局(注3)に対して調査及び報告を行うように求めて、その結果を確認するなどして検査した。

検査に当たっては、事業主から提出された支給申請書等の書類により会計実地検査を行うとともに、労働局から提出された支給データの内容を確認することなどにより検査して、適正でないと思われる事態があった場合には、更に当該労働局に調査及び報告を求めて、その報告内容を確認するなどの方法により検査した。

(注2)
5労働局  千葉、石川、愛知、京都、福岡各労働局
(注3)
11労働局  北海道、千葉、東京、石川、愛知、京都、大阪、奈良、岡山、徳島、福岡各労働局

(2) 検査の結果

検査の結果、7労働局管内において平成29年度から令和3年度までの間に助成金の支給を受けた7事業主は、人材育成コースにおいて、訓練計画に基づく職業訓練を実施していないのに実施したと偽ったり、正社員化コースにおいて、有期契約労働者を正規雇用労働者に転換した後に賃金総額を5%以上増額させていないのに増額させたと偽ったりするなどして助成金の支給を申請していた。このため、これらの7事業主に対する助成金の支給額計41,096,120円のうち計38,246,120円は支給の要件を満たしていなかったもので支給が適正でなく、不当と認められる。

このような事態が生じていたのは、事業主が誠実でなかったため、支給申請書等の記載内容が事実と相違していたにもかかわらず、上記の7労働局において、これに対する審査が十分に行われないまま支給決定を行っていたことなどによると認められる。

前記の事態について、事例を示すと次のとおりである。

事例

愛知労働局は、事業主Aから、平成28年4月1日から33年3月31日までを計画期間とする人材育成コース及び正社員化コースに係るキャリアアップ計画書を28年3月に、また、人材育成コースに係る訓練計画届を同月から29年7月までにそれぞれ提出を受けて、助成金の受給資格を認定していた。

そして、同労働局は、事業主Aから、28年4月から同年7月まで、29年4月から同年7月まで、同年8月から同年11月までの間に受講者3人に対して受給資格認定に係る訓練計画に基づく職業訓練を実施したとして、28年9月から30年1月までに3件の支給申請書等の提出を受けて、これらの書類に基づき、29年4月から30年8月までに人材育成コースに係る助成金計864,200円の支給決定を行い、この支給決定に基づき、厚生労働本省は29年4月から30年8月までに同額を事業主Aに支給した。

しかし、事業主Aは、上記の訓練計画に基づく職業訓練を実施していないにもかかわらず、実施したとする虚偽の訓練実施状況報告書を提出していたことから、人材育成コースに係る助成金864,200円の全額が支給の要件を満たしていなかった。

また、同労働局は、事業主Aから、有期契約労働者6人を令和元年6月から2年7月までに正規雇用労働者に転換し、賃金総額を5%以上増額させたとして、同年1月から3年2月までに5件の支給申請書等の提出を受けて、これらの書類に基づき、2年8月から3年7月までに正社員化コースに係る助成金計3,720,000円の支給決定を行い、この支給決定に基づき、厚生労働本省は2年11月から3年8月までに同額を事業主Aに支給した。

しかし、事業主Aは、賃金総額の増額は1%に満たないにもかかわらず、転換後に賃金総額を5%以上増額させたとする虚偽の賃金台帳等を提出するなどしていたことから、正社員化コースに係る助成金3,720,000円の全額が支給の要件を満たしていなかった。

なお、これらの適正でなかった支給額については、本院の指摘により、全て返還の処置が執られた。

これらの適正でなかった支給額を労働局ごとに示すと次のとおりである。

労働局名
本院の調査に係る事業主数
不適正受給事業主数
左の事業主に支給した助成金
左のうち不当と認める助成金
      千円 千円
北海道
1 1 8,254 8,254
千葉
7 1 691 691
東京
2 1 19,950 19,950
石川
2 1 600 600
愛知
14 1 4,584 4,584
京都
6 1 1,200 1,200
奈良
4 1 5,815 2,965
36 7 41,096 38,246