厚生労働省所管の医療保障制度には、後期高齢者医療制度、医療保険制度及び公費負担医療制度があり、これらの制度により次の医療給付が行われている。
これらの医療給付においては、被保険者((1)ウの被保護者等を含む。以下同じ。)が医療機関で診察、治療等の診療を受けた場合等又は居宅において継続して療養を受ける状態にある者が訪問看護事業所の行う訪問看護を受けた場合に、広域連合、保険者、都道府県又は市町村(以下「保険者等」という。)及び患者が、これらの費用を医療機関又は訪問看護事業所(以下「医療機関等」という。)に診療報酬又は訪問看護療養費(以下「診療報酬等」という。)として支払う。
診療報酬等の支払の手続は、次のとおりとなっている(図参照)。
図 診療報酬等の支払の手続
ア 診療等を担当した医療機関等は、診療報酬等として医療に要する費用を、診療報酬の算定方法(平成20年厚生労働省告示第59号。以下「算定基準」という。)等による所定の診療点数に単価(10円)を乗ずるなどして算定する。
イ 医療機関等は、診療報酬等のうち、患者負担分を患者に請求して、残りの診療報酬等(以下「医療費」という。)については、高齢者医療確保法に係るものは広域連合に、医療保険各法に係るものは各保険者に、また、生活保護法等に係るものは都道府県又は市町村に請求する。
このうち、保険者等に対する医療費の請求は、次のように行われている。
(ア) 医療機関等は、診療報酬請求書又は訪問看護療養費請求書(以下「請求書」という。)に医療費の明細を明らかにした診療報酬明細書又は訪問看護療養費明細書(以下「レセプト」という。)を添付して、これらを国民健康保険団体連合会又は社会保険診療報酬支払基金(以下「審査支払機関」と総称する。)に毎月1回送付する。
(イ) 審査支払機関は、請求書及びレセプトにより請求内容を審査点検した後、医療機関等ごと、保険者等ごとの請求額を算定して、その後、請求額を記載した書類と請求書及びレセプトを各保険者等に送付する。
ウ 請求を受けた保険者等は、それぞれの立場から医療費についての審査点検を行って金額等を確認した上で、審査支払機関を通じて医療機関等に医療費を支払う。
保険者等が支払う医療費の負担は次のようになっている。
ア 高齢者医療確保法に係る医療費(以下「後期高齢者医療費」という。)については、広域連合が審査支払機関を通じて支払うが、この費用は国、都道府県、市町村及び保険者が次のように負担している。
(ア) 高齢者医療確保法に基づき、原則として、国は12分の4を、都道府県及び市町村はそれぞれ12分の1を負担しており、残りの12分の6については、各保険者が納付する後期高齢者支援金及び後期高齢者の保険料が財源となっている。
(イ) 国民健康保険法に基づき、国は都道府県等が保険者として納付する後期高齢者支援金に要する費用の額の一部を負担している。
(ウ) 健康保険法に基づき、国は全国健康保険協会が保険者として納付する後期高齢者支援金に要する費用の額の一部を負担している。
イ 医療保険各法に係る医療費については、国は、患者が、①全国健康保険協会管掌健康保険の被保険者である場合は全国健康保険協会が支払った額の16.4%を、②都道府県及び市町村が行う国民健康保険の一般被保険者である場合は市町村が支払った額の41%を、③国民健康保険組合が行う国民健康保険の被保険者である場合は国民健康保険組合が支払った額の13%から47.4%までを、それぞれ負担している。
ウ 生活保護法等に係る医療費については、国は都道府県又は市町村が支払った医療費の4分の3又は2分の1を負担している。
国民医療費は、医療の高度化や人口の高齢化に伴って、平成25年度以降毎年度40兆円を超えている。また、高齢化が急速に進展する中で、国民医療費に占める後期高齢者医療費の割合は上昇傾向となっている。このような状況の中で医療費に対する国の負担も多額に上っていることから、本院は、後期高齢者医療費を中心に、合規性等の観点から、医療費の請求が適正に行われているかに着眼して検査した。
本院は、5厚生局及び12府県において、保険者等の実施主体による医療費の支払について、レセプト、各種届出書、報告書等の関係資料により会計実地検査を行うとともに、1厚生局及び1府(注)から同様の関係資料の提出を受けるなどして検査した。そして、疑義のある事態が見受けられた場合は、地方厚生局及び府県に調査及び報告を求めて、その報告内容を確認するなどの方法により検査した。
検査の結果、11府県に所在する50医療機関及び1訪問看護事業所の請求に対して137実施主体において、28年度から令和3年度までの間における医療費が、16,217件で計299,965,841円過大に支払われており、これに対する国の負担額110,871,617円は負担の必要がなかったものであり、不当と認められる。
これを診療報酬項目等の別に整理して示すと次のとおりである。
診療報酬項目等 |
実施主体
(医療機関等数) |
過大に支払われていた医療費の件数 |
過大に支払われていた医療費の額 |
不当と認める国の負担額 |
---|---|---|---|---|
件 | 千円 | 千円 | ||
①入院基本料等加算 |
60市区町村等 (16) |
4,994 | 162,231 | 58,536 |
②リハビリテーション料 |
56市町等 (24) |
7,290 | 80,371 | 30,696 |
③入院基本料等 |
56市町村等 (10) |
3,801 | 53,112 | 20,211 |
①―③の計 |
135実施主体 (50) |
16,085 | 295,714 | 109,444 |
④訪問看護療養費 |
5市町等 (1) |
132 | 4,251 | 1,427 |
①―④の計 |
137実施主体 (51) |
16,217 | 299,965 | 110,871 |
このような事態が生じていたのは、次のことなどによると認められる。
医療費が過大に支払われていた事態について、診療報酬項目等の別に、その算定方法及び検査の結果の詳細を示すと次のとおりである。
算定基準等によれば、入院基本料等加算のうち、超重症児(者)入院診療加算・準超重症児(者)入院診療加算(以下「超重症児(者)入院診療加算等」という。)については、厚生労働大臣が定める超重症の状態又は準超重症の状態にある患者に対して、1日につき所定の点数を算定することとされている。
また、入院基本料等加算のうち、療養病棟療養環境加算等については、厚生労働大臣が定める施設基準に適合している旨の届出を地方厚生(支)局長に対して行った医療機関について、1日につき所定の点数を算定することとされている。ただし、当該医療機関における医師、看護師等の数が医療法(昭和23年法律第205号)に定める標準となる数を満たしていない場合には、算定できないこととされている。
検査したところ、6府県に所在する16医療機関において、入院基本料等加算等の請求が不適正と認められるものが4,994件あった。その態様は、次のとおりである。
(ア) 厚生労働大臣が定める超重症の状態又は準超重症の状態に該当しない患者に対して、超重症児(者)入院診療加算等を算定していた。
(イ) 看護師等の数が前記の標準となる数を満たしていないのに、療養病棟療養環境加算等を算定していた。
このため、上記4,994件の請求に対して、60市区町村等において医療費が計162,231,444円過大に支払われており、これに対する国の負担額58,536,469円は負担の必要がなかったものである。
算定基準等によれば、リハビリテーション料のうち、運動器リハビリテーション料、脳血管疾患等リハビリテーション料及び廃用症候群リハビリテーション料については、厚生労働大臣が定める施設基準に適合している旨の届出を地方厚生(支)局長に対して行った医療機関が同大臣の定める患者(以下「対象患者」という。)に対して個別療法であるリハビリテーションを行った場合に、発症、手術等からそれぞれ150日、180日又は120日以内に限り、その届出に係る所定の点数を算定することなどとされている。
ただし、治療を継続することにより状態の改善が期待できるなどの対象患者については、150日を超えて算定することができるなどとされている。
また、介護保険の要介護被保険者等である対象患者に対して、必要があって150日を超えてリハビリテーションを行った場合には、所定の点数より低い点数を算定することなどとされている。
検査したところ、8府県に所在する24医療機関において、リハビリテーション料等の請求が不適正と認められるものが7,290件あった。その主な態様は、次のとおりである。
(ア) 患者に疾患の発症等があった後、新たな疾患の発症等がないのに、レセプトの摘要欄に150日以内に新たな疾患の発症等があったなどと記載して、150日以内に限り算定することとされている運動器リハビリテーション料の算定を繰り返し行うなどしていた。
(イ) 150日を超えてリハビリテーションを行った要介護被保険者等である対象患者に対して、所定の点数より低い点数で算定すべきところ、所定の点数で運動器リハビリテーション料を算定するなどしていた。
このため、上記7,290件の請求に対して、56市町等において医療費が計80,371,172円過大に支払われており、これに対する国の負担額30,696,523円は負担の必要がなかったものである。
算定基準等によれば、入院基本料のうち、療養病棟入院基本料等については、療養病棟等に入院している患者に対して、患者の疾患、状態等について厚生労働大臣が定める区分に従い、1日につき所定の点数を算定することとされている。
検査したところ、7県に所在する10医療機関において、入院基本料等の請求が不適正と認められるものが3,801件あった。その主な態様は、療養病棟入院基本料に定められた区分のうち、より低い点数の区分の状態等にある患者に対して、高い区分の点数で算定していたものである。
このため、上記3,801件の請求に対して、56市町村等において医療費が計53,112,074円過大に支払われており、これに対する国の負担額20,211,140円は負担の必要がなかったものである。
訪問看護療養費に係る指定訪問看護の費用の額の算定方法(平成20年厚生労働省告示第67号)等によれば、訪問看護療養費のうち、訪問看護基本療養費等については、訪問看護を受けようとする者等に対して、主治医から交付を受けた訪問看護指示書等に基づき、訪問看護事業所の看護師等が訪問看護を行った場合に、1日につき所定の額を算定することなどとされている。ただし、指定障害者支援施設等の入所者に対して行う訪問看護については、原則として、訪問看護基本療養費等は算定できないこととされている。
検査したところ、1県に所在する1訪問看護事業所において、訪問看護療養費の請求が不適正と認められるものが132件あった。その態様は、指定障害者支援施設の入所者に対して行った訪問看護について、訪問看護基本療養費等を算定していたものである。
このため、上記132件の請求に対して、5市町等において医療費が計4,251,151円過大に支払われており、これに対する国の負担額1,427,485円は負担の必要がなかったものである。
医療費が過大に支払われていた事態について、医療機関等の所在する府県別に示すと次のとおりである。
府県名 |
実施主体
(医療機関等数) |
過大に支払われていた医療費の件数 |
過大に支払われていた医療費の額 |
不当と認める国の負担額 |
摘要 |
---|---|---|---|---|---|
件 | 千円 | 千円 | |||
宮城県 |
18市町等 (4) |
1,508 | 28,043 | 10,215 | ①③④ |
岐阜県 |
15市村等 (4) |
1,451 | 17,440 | 6,463 | ②③ |
滋賀県 |
8市町等 (1) |
125 | 6,952 | 2,353 | ③ |
大阪府 |
33市区町村等 (11) |
3,844 | 45,082 | 17,325 | ①② |
兵庫県 |
35市町等 (6) |
3,147 | 77,172 | 28,290 | ①②③ |
奈良県 |
7市町等 (1) |
171 | 5,615 | 2,101 | ① |
岡山県 |
3市等 (1) |
126 | 5,190 | 1,866 | ② |
広島県 |
17市町等 (12) |
3,444 | 73,736 | 25,868 | ①②③ |
福岡県 |
12市町等 (6) |
1,379 | 17,662 | 6,982 | ②③ |
鹿児島県 |
3市等 (1) |
319 | 1,711 | 761 | ② |
沖縄県 |
9市町等 (4) |
703 | 21,360 | 8,640 | ①②③ |
計 |
137実施主体 (51) |
16,217 | 299,965 | 110,871 |