32件 不当と認める国庫補助金 5,509,189,000円
新型コロナウイルス感染症緊急包括支援交付金(医療分)(新型コロナウイルス感染症対策事業及び新型コロナウイルス感染症重点医療機関体制整備事業に係る分)は、「令和2年度新型コロナウイルス感染症緊急包括支援交付金の交付について」(令和2年厚生労働省発医政0430第1号・厚生労働省発健0430第5号。以下「交付要綱」という。)等に基づき、新型コロナウイルス感染症患者及び新型コロナウイルス感染症疑い患者(以下、合わせて「コロナ患者等」という。)を入院させるための病床の確保等について支援を行うことにより、公衆衛生の向上を図ることなどを目的として、国が都道府県に対して交付するものである(以下、新型コロナウイルス感染症対策事業及び新型コロナウイルス感染症重点医療機関体制整備事業を合わせて「病床確保事業」という。)。
交付要綱等によれば、交付の対象は、都道府県が行う事業、又は市区町村や民間団体等で都道府県が適切と認める者が行う事業に対して都道府県が補助する事業(以下「都道府県補助事業」という。)に要する経費とするとされている。
そして、本件交付金の交付額の算定方法は、都道府県補助事業については次のとおりとされている。
① 厚生労働大臣が必要と認めた額(基準額)と、対象経費の実支出額とを比較して少ない方の額を選定する。
② ①により選定された額と総事業費から寄附金その他の収入額を控除した額とを比較して少ない方の額に本件交付金の交付率(10分の10)を乗じて得た額と、都道府県が補助した額とを比較して少ない方の額とする。
交付要綱等によれば、病床確保事業の対象となる病床は、都道府県が厚生労働省に協議した病床に限るものとされ、コロナ患者等を入院させるために確保した病床(以下「確保病床」という。)のうち空床となっている病床及びコロナ患者等を受け入れるために休床とした休止病床(注1)からなっている。
交付要綱等によれば、前記①の基準額の算定に当たっては、確保病床、休止病床の別に定められた病床確保料の上限額を使用することとされている。
このうち、確保病床については、当該病床に係る診療報酬の区分に応じた病床確保料を適用することとされ、医療機関の種別、病床区分(ICU(注2)、HCU(注3)及びICU・HCU以外の病床)ごとに1日1床当たりの上限額が定められている(表参照)。
また、休止病床については、当該病床を休止する前の診療報酬の区分に応じた病床確保料を適用することとされ、医療機関の種別、病床区分(ICU、HCU、療養病床(注4)及びICU・HCU・療養病床以外の病床)ごとに1日1床当たりの上限額が定められている(表参照)。
なお、前記診療報酬の区分に関して、「診療報酬の算定方法」(平成20年厚生労働省告示第59号)等によれば、入院料等に係る診療点数については、特定集中治療室管理料1から同4まで、ハイケアユニット入院医療管理料1及び同2等に区分されており、これらの診療点数は、厚生労働大臣が当該区分ごとに定めた施設基準に適合しているものとして地方厚生局長等に届け出た場合に算定できることとされている。
表 確保病床及び休止病床に係る病床確保料の上限額(単位:円/日)
区分 | 注(1) 重点医療機関 |
注(3) 協力医療機関 |
その他医療機関 | ||
---|---|---|---|---|---|
注(2) 特定機能病院等 |
一般病院 | ||||
確保病床 | ICU 1床当たり | 436,000 | 301,000 | 301,000 | 97,000 |
HCU 1床当たり | 211,000 | 211,000 | 211,000 | 注(4)41,000 |
|
ICU・HCU以外の病床 1床当たり | 74,000 | 71,000 | 52,000 | 16,000 | |
休止病床 | ICU 1床当たり | 436,000 | 301,000 | 301,000 | 97,000 |
HCU 1床当たり | 211,000 | 211,000 | 211,000 | 注(4)41,000 |
|
療養病床 1床当たり | 16,000 | 16,000 | 16,000 | 16,000 | |
ICU・HCU・療養病床以外の病床 1床当たり | 74,000 | 71,000 | 52,000 | 16,000 |
病床確保料の対象については、交付要綱等において、患者の入院期間中であって空床ではない日は病床確保料の対象とならないこととなっており、この理由について、同省によれば、入退院日当日を含む患者の入院期間中は入院料等に係る診療報酬の支払対象となるためであるとしている。また、病床確保料のうちHCUの病床確保料の対象となる病床は、ハイケアユニット入院医療管理料1等の入院料を算定している病床となっている。
都道府県は、交付要綱等、都道府県が定めた要綱等に基づき、病床確保事業を実施する医療機関、市区町村等の事業主体に対して、本件交付金を原資とした都道府県の補助金(以下「県補助金」という。)を交付している。そして、県補助金の交付額は、次のとおり算定することなどとなっている。
① 確保病床については、交付要綱等に確保病床分として定められた1日1床当たりの病床確保料の上限額に、コロナ患者等を受け入れるために空床としていた延べ病床数(以下「延べ空床数」という。)を乗ずるなどして算定する。
② 休止病床については、交付要綱等に休止病床分として定められた1日1床当たりの病床確保料の上限額に、コロナ患者等を受け入れるために休止病床としていた延べ病床数(以下「延べ休止病床数」という。)を乗ずるなどして算定する。
また、都道府県は、事業主体から事業実績報告書等の提出を受けたときは、これらの内容を審査して取りまとめの上、厚生労働大臣に提出することになっている。
本院は、13都道府県(注5)及び県補助金の交付を受けた106事業主体において、令和2年度に交付された本件交付金(コロナ患者退院後の消毒経費等に係る分を除く。)を対象に会計実地検査を行った。その結果、9都道府県の32事業主体において、本件交付金の交付対象事業費計5,509,189,000円が過大に算定されており、これに係る本件交付金計5,509,189,000円が過大に交付されていて、不当と認められる。
このような事態が生じていたのは、32事業主体において制度の理解が十分でなかったり、本件交付金の交付の対象となる延べ病床数の確認が十分でなかったりしたこと、9都道府県において事業主体から提出された事業実績報告書等の審査が十分でなかったこと、厚生労働省において9都道府県に対する指導が十分でなかったことなどによると認められる。
前記の事態について、態様別に示すと次のとおりである。
上記の事態について、事例を示すと次のとおりである。
<事例>
神奈川県は、同県が定めた要綱等に基づき、独立行政法人労働者健康安全機構関東労災病院に対して、令和2年4月1日から3年3月31日までの間に、確保病床について延べ空床数が計5,397床、休止病床について延べ休止病床数が計14,135床あったとして、計延べ19,532床に係る県補助金3,828,792,000円を交付していた。そして、同県は、同病院に係る交付対象事業費を3,828,792,000円と算定して、同額の本件交付金の交付を受けていた。
ⅰ 延べ空床数を過大に計上するなどしていた事態
同病院は、上記延べ空床数の算出に当たり、患者の入院期間中は退院日当日まで患者が入院していて空床となっていないなどしていたのに、当該退院日に係る病床数等延べ514床を延べ空床数に算入していて、本件交付金の交付対象とならない確保病床延べ514床を過大に計上していた。
これにより、同病院は、過少に計上していた休止病床延べ388床を考慮しても、交付対象とならない確保病床延べ126床を過大に計上していた。
ⅱ より高額な病床区分の病床確保料を適用していた事態
同病院は、事業実績報告書等において、①2年4月18日から同年4月30日まで、同年6月7日から3年1月11日まで及び同年3月18日から同年3月31日までの各期間は、確保病床については1日当たり29床が、休止病床については1日当たり21床が、それぞれHCUの病床確保料(1日当たりの単価211,000円)を適用する病床に該当するとしていた。また、②2年5月1日から同年6月6日まで及び3年1月12日から同年3月17日までの各期間は、確保病床については1日当たり29床が、休止病床については1日当たり71床が、それぞれHCUの病床確保料を適用する病床に該当するとしていた。
そして、同病院が関東信越厚生局神奈川事務所に提出した報告書によれば、①の各期間は1日当たり50床、②の各期間は1日当たり100床が、それぞれハイケアユニット入院医療管理料1を算定する病床であるとしていた。
しかし、上記のハイケアユニット入院医療管理料1を算定する病床に係る看護師の配置状況等を確認したところ、厚生労働大臣が定めたハイケアユニット入院医療管理料1を算定するための施設基準に適合していてハイケアユニット入院医療管理料1を算定できる病床数は、①の各期間については50床中16床のみ、②の各期間については100床中28床のみであった。
このため、前記の①及び②の各期間の確保病床1日当たり29床のうち、1日1床当たりの単価がより高額なHCUの病床確保料を適用できるのは、①の各期間については16床のみであり、残りの13床は、ICU・HCU以外の病床の病床確保料(同71,000円)を適用すべきであった。また、②の各期間については28床のみであり、残りの1床は、ICU・HCU以外の病床の病床確保料を適用すべきであった。さらに、前記の①の各期間の休止病床1日当たり21床及び②の各期間の休止病床1日当たり71床については、いずれも1日1床当たりの単価がより高額なHCUの病床確保料を適用することはできず、ICU・HCU・療養病床以外の病床の病床確保料(同71,000円)を適用すべきであった(次表参照)。
(表) HCUの病床確保料の適用状況(単位:床)
期間 | 事業実績報告書等においてHCUの病床確保料を適用していた1日当たりの病床数 | 左のうちHCUの病床確保料を適用できる1日当たりの病床数 | HCUの病床確保料を適用できない1日当たりの病床数 | ||||
---|---|---|---|---|---|---|---|
(A) | (B) | (C)=(A)-(B) | |||||
確保病床 | 休止病床 | 確保病床 | 休止病床 | 確保病床 | 休止病床 | ||
①の各期間 | 令和2年4月18日~2年4月30日 | 29 | 21 | 16 | 0 | 13 | 21 |
2年6月7日~3年1月11日 | |||||||
3年3月18日~3年3月31日 | |||||||
②の各期間 | 2年5月1日~2年6月6日 | 29 | 71 | 28 | 0 | 1 | 71 |
3年1月12日~3年3月17日 |
したがって、適正な延べ空床数及び延べ休止病床数並びに適正な病床区分の病床確保料により交付対象事業費を算定すると1,617,646,000円となり、前記の交付対象事業費3,828,792,000円との差額2,211,146,000円が過大に算定されており、これに係る本件交付金2,211,146,000円が過大に交付されていた。
以上を事業主体別に示すと、次のとおりである。
部局等 |
補助事業者 |
間接補助事業者
(事業主体)
|
年度 |
交付対象事業費 |
左に対する交付金交付額 |
不当と認める交付対象事業費 |
不当と認める交付金交付額 |
摘要
|
|
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
千円 | 千円 | 千円 | 千円 | ||||||
(68) | 北海道 |
北海道 |
国立大学法人北海道大学北海道大学病院 |
2 | 1,615,026 | 1,615,026 | 444,867 | 444,867 | ア |
(69) | 千葉県 |
千葉県 |
国立大学法人千葉大学医学部附属病院 |
2 | 3,122,777 | 3,122,777 | 39,240 | 39,240 | ア |
(70) | 東京都 |
東京都 |
独立行政法人国立病院機構東京医療センター |
2 | 2,114,068 | 2,114,068 | 141,852 | 141,852 | ア |
(71) | 同 | 同 | 独立行政法人国立病院機構東京病院 |
2 | 1,733,254 | 1,733,254 | 61,199 | 61,199 | ア、イ |
(72) | 同 | 同 | 独立行政法人地域医療機能推進機構東京蒲田医療センター |
2 | 803,294 | 803,294 | 33,299 | 33,299 | ア |
(73) | 同 | 同 | 稲城市立病院 |
2 | 1,581,000 | 1,581,000 | 46,015 | 46,015 | ア |
(74) | 同 | 同 | 国家公務員共済組合連合会九段坂病院 |
2 | 225,396 | 225,396 | 22,592 | 22,592 | ア |
(75) | 同 | 同 | 社会医療法人社団森山医会森山記念病院 |
2 | 442,001 | 442,001 | 19,899 | 19,899 | ア |
(76) | 同 | 同 | 医療法人社団福寿会福寿会舎人病院 |
2 | 151,798 | 151,798 | 6,390 | 6,390 | ア |
(77) | 同 | 同 | 医療法人社団大坪会三軒茶屋病院 |
2 | 337,923 | 337,923 | 6,034 | 6,034 | ア |
(78) | 同 | 同 | 医療法人社団津端会京葉病院 |
2 | 3,728 | 3,728 | 2,128 | 2,128 | ア |
(79) | 同 | 同 | 医療法人財団正明会山田記念病院 |
2 | 50,410 | 50,410 | 1,988 | 1,988 | ア |
(80) | 同 | 同 | 公益社団法人地域医療振興協会東京北医療センター |
2 | 989,016 | 989,016 | 240,760 | 240,760 | ア |
(81) | 同 | 同 | 学校法人昭和大学昭和大学病院附属東病院 |
2 | 424,154 | 424,154 | 25,347 | 25,347 | ア |
(82) | 同 | 同 | 公益財団法人がん研究会有明病院 |
2 | 338,018 | 338,018 | 13,926 | 13,926 | ア |
(83) | 同 | 同 | 学校法人国際医療福祉大学国際医療福祉大学三田病院 |
2 | 360,231 | 360,231 | 9,977 | 9,977 | ア |
(84) | 神奈川県 |
神奈川県 |
独立行政法人労働者健康安全機構関東労災病院 |
2 | 3,828,792 | 3,828,792 | 2,211,146 | 2,211,146 | ア、イ |
(85) | 同 | 同 | 川崎市立多摩病院 |
2 | 3,650,896 | 3,650,896 | 959,392 | 959,392 | ア、イ |
(86) | 同 | 同 | 横浜市立みなと赤十字病院 |
2 | 2,272,663 | 2,272,663 | 19,946 | 19,946 | ア |
(87) | 同 | 同 | 公立大学法人横浜市立大学附属市民総合医療センター |
2 | 1,808,545 | 1,808,545 | 843,195 | 843,195 | ア |
(88) | 同 | 同 |
医療法人沖縄徳洲会湘南鎌倉総合病院 |
2 | 1,114,761 | 1,114,761 | 103,782 | 103,782 | ア |
(89) | 同 | 同 | 社会医療法人財団石心会川崎幸病院 |
2 | 205,366 | 205,366 | 29,090 | 29,090 | ア |
(90) | 同 | 同 | 社会医療法人ジャパンメディカルアライアンス海老名総合病院 |
2 | 1,047,231 | 1,047,231 | 27,481 | 27,481 | ア |
(91) | 同 | 同 | 社会福祉法人ワゲン福祉会総合相模更生病院 |
2 | 852,865 | 852,865 | 2,230 | 2,230 | ア |
(92) | 愛知県 |
愛知県 |
名古屋市
(名古屋市立東部医療センター)
|
2 | 1,329,364 | 1,329,364 | 4,215 | 4,215 | ア |
(93) | 滋賀県 |
滋賀県 |
日本赤十字社大津赤十字志賀病院 |
2 | 856,757 | 856,757 | 24,495 | 24,495 | ア |
(94) | 大阪府 |
大阪府 |
独立行政法人国立病院機構大阪医療センター |
2 | 2,652,246 | 2,652,246 | 29,504 | 29,504 | ア |
(95) | 奈良県 |
奈良県 |
奈良市(市立奈良病院) |
2 | 805,620 | 805,620 | 17,763 | 17,763 | ア |
(96) | 福岡県 |
福岡県 |
地方独立行政法人福岡市立病院機構福岡市民病院 |
2 | 1,081,803 | 1,081,803 | 47,101 | 47,101 | ア、イ |
(97) | 同 | 同 | 国家公務員共済組合連合会浜の町病院 |
2 | 1,611,462 | 1,611,462 | 6,997 | 6,997 | ア |
(98) | 同 | 同 | 社会医療法人雪の聖母会聖マリア病院 |
2 | 2,472,731 | 2,472,731 | 29,689 | 29,689 | ア |
(99) | 同 | 同 | 学校法人久留米大学(久留米大学病院) |
2 | 2,370,166 | 2,370,166 | 37,650 | 37,650 | ア |
(68)―(99)の計 | 42,253,362 | 42,253,362 | 5,509,189 | 5,509,189 |