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(2) 新型コロナウイルス感染症緊急包括支援交付金(医療分)(新型コロナウイルス感染症対策事業及び新型コロナウイルス感染症重点医療機関体制整備事業に係る分)が過大に交付されていたもの[9都道府県](68)―(99)


32件 不当と認める国庫補助金 5,509,189,000円

新型コロナウイルス感染症緊急包括支援交付金(医療分)(新型コロナウイルス感染症対策事業及び新型コロナウイルス感染症重点医療機関体制整備事業に係る分)は、「令和2年度新型コロナウイルス感染症緊急包括支援交付金の交付について」(令和2年厚生労働省発医政0430第1号・厚生労働省発健0430第5号。以下「交付要綱」という。)等に基づき、新型コロナウイルス感染症患者及び新型コロナウイルス感染症疑い患者(以下、合わせて「コロナ患者等」という。)を入院させるための病床の確保等について支援を行うことにより、公衆衛生の向上を図ることなどを目的として、国が都道府県に対して交付するものである(以下、新型コロナウイルス感染症対策事業及び新型コロナウイルス感染症重点医療機関体制整備事業を合わせて「病床確保事業」という。)。

交付要綱等によれば、交付の対象は、都道府県が行う事業、又は市区町村や民間団体等で都道府県が適切と認める者が行う事業に対して都道府県が補助する事業(以下「都道府県補助事業」という。)に要する経費とするとされている。

そして、本件交付金の交付額の算定方法は、都道府県補助事業については次のとおりとされている。

① 厚生労働大臣が必要と認めた額(基準額)と、対象経費の実支出額とを比較して少ない方の額を選定する。

② ①により選定された額と総事業費から寄附金その他の収入額を控除した額とを比較して少ない方の額に本件交付金の交付率(10分の10)を乗じて得た額と、都道府県が補助した額とを比較して少ない方の額とする。

交付要綱等によれば、病床確保事業の対象となる病床は、都道府県が厚生労働省に協議した病床に限るものとされ、コロナ患者等を入院させるために確保した病床(以下「確保病床」という。)のうち空床となっている病床及びコロナ患者等を受け入れるために休床とした休止病床(注1)からなっている。

(注1)
休止病床  コロナ患者等を受け入れる医療機関において、看護職員等をコロナ患者等が収容される病棟に配置換えするために当該看護職員等が従来配置されていた病棟を閉鎖したり、感染予防の見地から多床室に収容するコロナ患者等を1名のみとし、多床室の残りの病床を空床としたりするなどのために、休床とする既存の病床

交付要綱等によれば、前記①の基準額の算定に当たっては、確保病床、休止病床の別に定められた病床確保料の上限額を使用することとされている。

このうち、確保病床については、当該病床に係る診療報酬の区分に応じた病床確保料を適用することとされ、医療機関の種別、病床区分(ICU(注2)、HCU(注3)及びICU・HCU以外の病床)ごとに1日1床当たりの上限額が定められている(表参照)。

また、休止病床については、当該病床を休止する前の診療報酬の区分に応じた病床確保料を適用することとされ、医療機関の種別、病床区分(ICU、HCU、療養病床(注4)及びICU・HCU・療養病床以外の病床)ごとに1日1床当たりの上限額が定められている(表参照)。

なお、前記診療報酬の区分に関して、「診療報酬の算定方法」(平成20年厚生労働省告示第59号)等によれば、入院料等に係る診療点数については、特定集中治療室管理料1から同4まで、ハイケアユニット入院医療管理料1及び同2等に区分されており、これらの診療点数は、厚生労働大臣が当該区分ごとに定めた施設基準に適合しているものとして地方厚生局長等に届け出た場合に算定できることとされている。

(注2)
ICU  Intensive Care Unitの略。集中治療室のことであり、厚生労働大臣が定める施設基準に適合している医療機関において、生命の危機にひんした重症患者を24時間体制で集中的に治療するための専門の病室
(注3)
HCU  High Care Unitの略。高度治療室のことであり、厚生労働大臣が定める施設基準に適合している医療機関において、ICUに入室するほどではないものの、重症化や急変のリスクがある患者を入室させる病室
(注4)
療養病床  慢性期の患者を長期療養を目的として入院させるための病床

表 確保病床及び休止病床に係る病床確保料の上限額(単位:円/日)

区分
注(1)
重点医療機関
注(3)
協力医療機関
その他医療機関
注(2)
特定機能病院等
一般病院
確保病床 ICU 1床当たり 436,000 301,000 301,000 97,000
HCU 1床当たり 211,000 211,000 211,000
注(4)41,000
ICU・HCU以外の病床 1床当たり 74,000 71,000 52,000 16,000
休止病床 ICU 1床当たり 436,000 301,000 301,000 97,000
HCU 1床当たり 211,000 211,000 211,000
注(4)41,000
療養病床 1床当たり 16,000 16,000 16,000 16,000
ICU・HCU・療養病床以外の病床 1床当たり 74,000 71,000 52,000 16,000
  • 注(1) 新型コロナウイルス感染症患者専用の病院や病棟を設定する医療機関として都道府県が指定する医療機関
  • 注(2) 高度の医療の提供、高度の医療技術の開発及び評価並びに高度の医療に関する研修を実施する能力を備え、それにふさわしい人員配置、構造設備等を有するものとして医療法(昭和23年法律第205号)の規定に基づき厚生労働大臣の承認を得た病院(特定機能病院)及びECMO(体外式膜型人工肺)による治療を行うなど特定機能病院と同程度に重症の新型コロナウイルス感染症患者を受け入れている病院
  • 注(3) 新型コロナウイルス感染症疑い患者の専用の個室を設定して同患者を受け入れ、必要な医療を提供する医療機関として都道府県が指定する医療機関
  • 注(4) その他医療機関におけるHCU1床当たりの欄に掲げた41,000円は、重症患者又は中等症患者を受け入れ、酸素投与、呼吸モニタリングなどが可能な病床を確保する場合の金額を示している。

病床確保料の対象については、交付要綱等において、患者の入院期間中であって空床ではない日は病床確保料の対象とならないこととなっており、この理由について、同省によれば、入退院日当日を含む患者の入院期間中は入院料等に係る診療報酬の支払対象となるためであるとしている。また、病床確保料のうちHCUの病床確保料の対象となる病床は、ハイケアユニット入院医療管理料1等の入院料を算定している病床となっている。

都道府県は、交付要綱等、都道府県が定めた要綱等に基づき、病床確保事業を実施する医療機関、市区町村等の事業主体に対して、本件交付金を原資とした都道府県の補助金(以下「県補助金」という。)を交付している。そして、県補助金の交付額は、次のとおり算定することなどとなっている。

① 確保病床については、交付要綱等に確保病床分として定められた1日1床当たりの病床確保料の上限額に、コロナ患者等を受け入れるために空床としていた延べ病床数(以下「延べ空床数」という。)を乗ずるなどして算定する。

② 休止病床については、交付要綱等に休止病床分として定められた1日1床当たりの病床確保料の上限額に、コロナ患者等を受け入れるために休止病床としていた延べ病床数(以下「延べ休止病床数」という。)を乗ずるなどして算定する。

また、都道府県は、事業主体から事業実績報告書等の提出を受けたときは、これらの内容を審査して取りまとめの上、厚生労働大臣に提出することになっている。

本院は、13都道府県(注5)及び県補助金の交付を受けた106事業主体において、令和2年度に交付された本件交付金(コロナ患者退院後の消毒経費等に係る分を除く。)を対象に会計実地検査を行った。その結果、9都道府県の32事業主体において、本件交付金の交付対象事業費計5,509,189,000円が過大に算定されており、これに係る本件交付金計5,509,189,000円が過大に交付されていて、不当と認められる。

このような事態が生じていたのは、32事業主体において制度の理解が十分でなかったり、本件交付金の交付の対象となる延べ病床数の確認が十分でなかったりしたこと、9都道府県において事業主体から提出された事業実績報告書等の審査が十分でなかったこと、厚生労働省において9都道府県に対する指導が十分でなかったことなどによると認められる。

前記の事態について、態様別に示すと次のとおりである。

  • ア 患者が入院していて空床や休止病床となっていないのに、当該入院期間中に係る病床数を延べ空床数や延べ休止病床数に算入して、延べ空床数や延べ休止病床数を過大に計上するなどしていたもの
    9都道府県、32事業主体 過大交付額計2,408,663,000円
  • イ 延べ空床数や延べ休止病床数の一部に、1日1床当たりの単価がより高額な病床区分の病床確保料を適用するなどしていたもの
    3都県、4事業主体(注6) 過大交付額計3,100,526,000円
(注5)
13都道府県  東京都、北海道、大阪府、群馬、千葉、神奈川、愛知、滋賀、奈良、和歌山、高知、福岡、鹿児島各県
(注6)
3都県、4事業主体  アの9都道府県、32事業主体と重複している。

上記の事態について、事例を示すと次のとおりである。

事例

神奈川県は、同県が定めた要綱等に基づき、独立行政法人労働者健康安全機構関東労災病院に対して、令和2年4月1日から3年3月31日までの間に、確保病床について延べ空床数が計5,397床、休止病床について延べ休止病床数が計14,135床あったとして、計延べ19,532床に係る県補助金3,828,792,000円を交付していた。そして、同県は、同病院に係る交付対象事業費を3,828,792,000円と算定して、同額の本件交付金の交付を受けていた。

ⅰ 延べ空床数を過大に計上するなどしていた事態

同病院は、上記延べ空床数の算出に当たり、患者の入院期間中は退院日当日まで患者が入院していて空床となっていないなどしていたのに、当該退院日に係る病床数等延べ514床を延べ空床数に算入していて、本件交付金の交付対象とならない確保病床延べ514床を過大に計上していた。

これにより、同病院は、過少に計上していた休止病床延べ388床を考慮しても、交付対象とならない確保病床延べ126床を過大に計上していた。

ⅱ より高額な病床区分の病床確保料を適用していた事態

同病院は、事業実績報告書等において、①2年4月18日から同年4月30日まで、同年6月7日から3年1月11日まで及び同年3月18日から同年3月31日までの各期間は、確保病床については1日当たり29床が、休止病床については1日当たり21床が、それぞれHCUの病床確保料(1日当たりの単価211,000円)を適用する病床に該当するとしていた。また、②2年5月1日から同年6月6日まで及び3年1月12日から同年3月17日までの各期間は、確保病床については1日当たり29床が、休止病床については1日当たり71床が、それぞれHCUの病床確保料を適用する病床に該当するとしていた。

そして、同病院が関東信越厚生局神奈川事務所に提出した報告書によれば、①の各期間は1日当たり50床、②の各期間は1日当たり100床が、それぞれハイケアユニット入院医療管理料1を算定する病床であるとしていた。

しかし、上記のハイケアユニット入院医療管理料1を算定する病床に係る看護師の配置状況等を確認したところ、厚生労働大臣が定めたハイケアユニット入院医療管理料1を算定するための施設基準に適合していてハイケアユニット入院医療管理料1を算定できる病床数は、①の各期間については50床中16床のみ、②の各期間については100床中28床のみであった。

このため、前記の①及び②の各期間の確保病床1日当たり29床のうち、1日1床当たりの単価がより高額なHCUの病床確保料を適用できるのは、①の各期間については16床のみであり、残りの13床は、ICU・HCU以外の病床の病床確保料(同71,000円)を適用すべきであった。また、②の各期間については28床のみであり、残りの1床は、ICU・HCU以外の病床の病床確保料を適用すべきであった。さらに、前記の①の各期間の休止病床1日当たり21床及び②の各期間の休止病床1日当たり71床については、いずれも1日1床当たりの単価がより高額なHCUの病床確保料を適用することはできず、ICU・HCU・療養病床以外の病床の病床確保料(同71,000円)を適用すべきであった(次表参照)。

(表) HCUの病床確保料の適用状況(単位:床)

期間 事業実績報告書等においてHCUの病床確保料を適用していた1日当たりの病床数 左のうちHCUの病床確保料を適用できる1日当たりの病床数 HCUの病床確保料を適用できない1日当たりの病床数
(A) (B) (C)=(A)-(B)
確保病床 休止病床 確保病床 休止病床 確保病床 休止病床
①の各期間 令和2年4月18日~2年4月30日 29 21 16 0 13 21
2年6月7日~3年1月11日
3年3月18日~3年3月31日
②の各期間 2年5月1日~2年6月6日 29 71 28 0 1 71
3年1月12日~3年3月17日

したがって、適正な延べ空床数及び延べ休止病床数並びに適正な病床区分の病床確保料により交付対象事業費を算定すると1,617,646,000円となり、前記の交付対象事業費3,828,792,000円との差額2,211,146,000円が過大に算定されており、これに係る本件交付金2,211,146,000円が過大に交付されていた。

以上を事業主体別に示すと、次のとおりである。

 
部局等
補助事業者
間接補助事業者
(事業主体)
年度
交付対象事業費
左に対する交付金交付額
不当と認める交付対象事業費
不当と認める交付金交付額
摘要
          千円 千円 千円 千円  
(68)
北海道
北海道
国立大学法人北海道大学北海道大学病院
2 1,615,026 1,615,026 444,867 444,867
(69)
千葉県
千葉県
国立大学法人千葉大学医学部附属病院
2 3,122,777 3,122,777 39,240 39,240
(70)
東京都
東京都
独立行政法人国立病院機構東京医療センター
2 2,114,068 2,114,068 141,852 141,852
(71)
独立行政法人国立病院機構東京病院
2 1,733,254 1,733,254 61,199 61,199 ア、イ
(72)
独立行政法人地域医療機能推進機構東京蒲田医療センター
2 803,294 803,294 33,299 33,299
(73)
稲城市立病院
2 1,581,000 1,581,000 46,015 46,015
(74)
国家公務員共済組合連合会九段坂病院
2 225,396 225,396 22,592 22,592
(75)
社会医療法人社団森山医会森山記念病院
2 442,001 442,001 19,899 19,899
(76)
医療法人社団福寿会福寿会舎人病院
2 151,798 151,798 6,390 6,390
(77)
医療法人社団大坪会三軒茶屋病院
2 337,923 337,923 6,034 6,034
(78)
医療法人社団津端会京葉病院
2 3,728 3,728 2,128 2,128
(79)
医療法人財団正明会山田記念病院
2 50,410 50,410 1,988 1,988
(80)
公益社団法人地域医療振興協会東京北医療センター
2 989,016 989,016 240,760 240,760
(81)
学校法人昭和大学昭和大学病院附属東病院
2 424,154 424,154 25,347 25,347
(82)
公益財団法人がん研究会有明病院
2 338,018 338,018 13,926 13,926
(83)
学校法人国際医療福祉大学国際医療福祉大学三田病院
2 360,231 360,231 9,977 9,977
(84)
神奈川県
神奈川県
独立行政法人労働者健康安全機構関東労災病院
2 3,828,792 3,828,792 2,211,146 2,211,146 ア、イ
(85)
川崎市立多摩病院
2 3,650,896 3,650,896 959,392 959,392 ア、イ
(86)
横浜市立みなと赤十字病院
2 2,272,663 2,272,663 19,946 19,946
(87)
公立大学法人横浜市立大学附属市民総合医療センター
2 1,808,545 1,808,545 843,195 843,195
(88)
医療法人沖縄徳洲会湘南鎌倉総合病院
2 1,114,761 1,114,761 103,782 103,782
(89)
社会医療法人財団石心会川崎幸病院
2 205,366 205,366 29,090 29,090
(90)
社会医療法人ジャパンメディカルアライアンス海老名総合病院
2 1,047,231 1,047,231 27,481 27,481
(91)
社会福祉法人ワゲン福祉会総合相模更生病院
2 852,865 852,865 2,230 2,230
(92)
愛知県
愛知県
名古屋市
(名古屋市立東部医療センター)
2 1,329,364 1,329,364 4,215 4,215
(93)
滋賀県
滋賀県
日本赤十字社大津赤十字志賀病院
2 856,757 856,757 24,495 24,495
(94)
大阪府
大阪府
独立行政法人国立病院機構大阪医療センター
2 2,652,246 2,652,246 29,504 29,504
(95)
奈良県
奈良県
奈良市(市立奈良病院)
2 805,620 805,620 17,763 17,763
(96)
福岡県
福岡県
地方独立行政法人福岡市立病院機構福岡市民病院
2 1,081,803 1,081,803 47,101 47,101 ア、イ
(97)
国家公務員共済組合連合会浜の町病院
2 1,611,462 1,611,462 6,997 6,997
(98)
社会医療法人雪の聖母会聖マリア病院
2 2,472,731 2,472,731 29,689 29,689
(99)
学校法人久留米大学(久留米大学病院)
2 2,370,166 2,370,166 37,650 37,650
(68)―(99)の計 42,253,362 42,253,362 5,509,189 5,509,189  
  • 注(1) 摘要欄のア及びイは前記の態様に対応している。
  • 注(2) 令和3年10月1日以降は医療法人徳洲会湘南鎌倉総合病院
  • 注(3) 令和3年4月1日以降は公立大学法人名古屋市立大学医学部附属東部医療センター