28件 不当と認める国庫補助金 320,501,000円
国民健康保険(前掲「国民健康保険の療養給付費負担金が過大に交付されていたもの」参照)については各種の国庫助成が行われており、その一つとして、国民健康保険法(昭和33年法律第192号)に基づき、都道府県が当該都道府県内の市町村(特別区を含む。以下同じ。)とともに行う国民健康保険について財政調整交付金が交付されている(注1)。
財政調整交付金は、都道府県及び当該都道府県内の市町村の財政の状況その他の事情に応じた財政の調整を行うため(平成29年度以前は、市町村間で医療費の水準や住民の所得水準の差異により生じている国民健康保険の財政力の不均衡を調整するため)に交付されるもので、普通調整交付金、特別調整交付金等(29年度以前は普通調整交付金と特別調整交付金)がある。
普通調整交付金は、被保険者の所得等から一定の基準により算定される収入額(以下「調整対象収入額」という。)が、医療費等から一定の基準により算定される支出額(以下「調整対象需要額」という。)に満たない都道府県(29年度以前は、市町村及び市町村の事務の一部を処理するために設けられた広域連合等(以下「市町村等」という。))に対して、衡平にその満たない額を埋めることを目途として交付されるもので、医療費等に係るもの(以下「医療分」という。)、後期高齢者支援金(注2)等に係るもの(以下「後期分」という。)及び介護納付金(注3)に係るもの(以下「介護分」という。)の合計額が交付されている。普通調整交付金の額は、「国民健康保険の調整交付金等の交付額の算定に関する省令」(昭和38年厚生省令第10号。平成30年3月31日以前は「国民健康保険の調整交付金の交付額の算定に関する省令」。以下「算定省令」という。)等に基づき、医療分、後期分及び介護分のいずれも、それぞれ当該都道府県(29年度以前は当該市町村)の調整対象需要額から調整対象収入額を控除した額に基づいて算定することとなっている。
そして、市町村等が普通調整交付金の額の算定の基礎となる資料を作成して都道府県に提出し、都道府県はこれに基づいて調整対象需要額及び調整対象収入額を算定するなどしている(29年度以前は、市町村等が調整対象需要額及び調整対象収入額を算定していた。)。また、都道府県に対して交付されている普通調整交付金は、他の公費等と合わせた上で、当該都道府県内の市町村等による療養の給付等に要する費用に充てるための財源として、当該市町村等に対して交付されている。
特別調整交付金は、都道府県及び当該都道府県内の市町村(29年度以前は市町村)について特別の事情がある場合に、その事情を考慮して都道府県(29年度以前は当該市町村等)に対して交付されるもので、特別の事情ごとに、非自発的失業軽減特別交付金(注4)、非自発的失業財政負担増特別交付金(注5)、被扶養者減免特別交付金(注6)、結核・精神病特別交付金(注7)等がある。特別調整交付金の額は、算定省令等に基づき、特別の事情ごとに算定することとなっている。
そして、市町村等が当該市町村等における特別調整交付金の額を算定し、これを特別調整交付金の額の算定の基礎となる資料として都道府県に提出し、都道府県はこれに基づくなどして特別調整交付金の額を算定している(29年度以前は、市町村等が特別調整交付金の額を算定していた。)。また、都道府県に対して交付されている特別調整交付金は、国から都道府県に補助する都道府県分と都道府県を通じて市町村に補助する市町村分とに区分されており、都道府県は、市町村分として交付された額と同額を当該市町村等に対して交付している。
財政調整交付金の交付手続について、交付を受けようとする都道府県(29年度以前は市町村等)は、厚生労働省(29年度以前は都道府県)に交付申請書及び事業実績報告書を提出し、これを受理した厚生労働省(29年度以前は都道府県)は、その内容を添付書類により、また、必要に応じて現地調査を行うことにより審査した上で、これに基づき、厚生労働省において交付決定及び交付額の確定を行うこととなっている。
本院は、28年度から令和2年度までに交付された財政調整交付金について、19都道県(注8)及び16道県の85市町村において会計実地検査を行うとともに、8府県(注9)及び10都府県の57市区町村から事業実績報告書等の関係資料の提出を受けるなどして検査した。その結果、8都府県の19市区町(注10)において、①普通調整交付金の調整対象需要額を過大に算定したり、②調整対象収入額を過小に算定したり、③特別調整交付金のうち非自発的失業軽減特別交付金等の額を過大に算定したりするなどしていたため、財政調整交付金の交付額計11,107,151,000円のうち計320,501,000円が過大に交付されていて、不当と認められる。
このような事態が生じていたのは、次のことなどによると認められる。
前記の①から③までの事態について、態様別に示すと次のとおりである。
普通調整交付金の調整対象需要額は、本来保険料で賄うべきとされている額であり、そのうち医療分の調整対象需要額は、次のとおり算定することとなっている。
このうち、一般被保険者に係る医療給付費は、療養の給付に要する費用の額から当該給付に係る被保険者の一部負担金に相当する額を控除した額と、入院時食事療養費、高額療養費等の支給に要する費用の額との合計額とすることとなっている。
1県の1市は、普通調整交付金の額の算定に当たり、負担軽減措置(注13)の対象者に係る療養の給付に要する費用等の一部について減額調整(注14)を行っていなかったなどしており、調整対象需要額を過大に算定していた。このため、普通調整交付金の額が過大となっていた。
上記の事態を示すと次のとおりである。
<事例1>
大分県大分市は、平成28、29両年度の普通調整交付金の額の算定に当たり、誤って、負担軽減措置の対象者に係る療養の給付に要する費用等の一部について減額調整を行っていなかったなどのため、一般被保険者に係る医療給付費を過大に算出しており、医療分の調整対象需要額を過大に算定していた。
そこで、適正な一般被保険者に係る医療給付費により算定した医療分の調整対象需要額に基づき普通調整交付金の額を算定すると、計112,997,000円が過大となっていた。この結果、特別調整交付金のうち過小となっていた結核・精神病特別交付金等の額8,701,000円を考慮しても、財政調整交付金計104,296,000円が過大に交付されていた。
普通調整交付金の調整対象収入額は、本来徴収すべきとされている保険料の額であり、医療分、後期分及び介護分に係るそれぞれの調整対象収入額は、一般被保険者(医療分及び後期分)又は介護納付金賦課被保険者(介護分)の数を基に算出される応益保険料額と、それらの者の所得を基に算出される応能保険料額とを合計した額となっている。
このうち、医療分、後期分及び介護分に係る応能保険料額は、一般被保険者又は介護納付金賦課被保険者の所得金額(以下「算定基礎所得金額」という。)に一定の方法により計算された率を乗じて算出することとなっている。そして、算定基礎所得金額は、保険料の賦課期日(毎年4月1日)現在において一般被保険者又は介護納付金賦課被保険者である者の前年における所得金額の合計額を基に算出することなどとなっている。
2府県の2市町は、普通調整交付金の額の算定に当たり、算定基礎所得金額を過小に算出しており、調整対象収入額を過小に算定していた。このため、普通調整交付金の額が過大となっていた。
上記の事態について、事例を示すと次のとおりである。
<事例2>
大阪府豊中市は、平成29年度の普通調整交付金の額の算定に当たり、誤って、保険料の賦課期日現在における一般被保険者及び介護納付金賦課被保険者の数を過小に集計していたため、算定基礎所得金額を過小に算出しており、医療分、後期分及び介護分の調整対象収入額をそれぞれ過小に算定していた。
そこで、適正な算定基礎所得金額により算定した調整対象収入額に基づき普通調整交付金の額を算定すると、41,418,000円が過大となっていた。このほか、特別調整交付金のうち被扶養者減免特別交付金の額が2,828,000円過大となっていた。この結果、特別調整交付金のうち過小となっていた非自発的失業財政負担増特別交付金の額2,622,000円を考慮しても、財政調整交付金41,624,000円が過大に交付されていた。
特別調整交付金のうち、非自発的失業軽減特別交付金は、雇用保険法(昭和49年法律第116号)第23条第2項又は第13条第3項に規定する会社の倒産、解雇等の理由により離職した被保険者等である非自発的失業者の属する世帯に属する一般被保険者に係る保険料の軽減に要する費用が多額である場合に交付するものである。
非自発的失業軽減特別交付金の額は、一般被保険者に係る保険料調定総額や非自発的失業者の属する世帯でかつ保険料が軽減される世帯に属する一般被保険者数等を用いた一定の計算式により算出される調整対象基準額に基づいて算定することとなっている。
5都府県の11市区は、非自発的失業軽減特別交付金の額の算定に当たり、一般被保険者に係る保険料調定総額を過大に集計するなどしており、調整対象基準額を過大に算出していた。このため、非自発的失業軽減特別交付金の額が過大となっていた。
上記のほか、6都府県の15市区は、被用者保険の被保険者の被扶養者であった者に係る保険料の減免額を誤るなどしていたため、特別調整交付金のうち、非自発的失業財政負担増特別交付金、被扶養者減免特別交付金及び結核・精神病特別交付金の額が過大となっていた。
なお、前記19市区町のうち10市区については事態の態様が重複している。
以上を部局等別・事業主体別に示すと、次のとおりである。
部局等 |
補助事業者 |
間接補助事業者 |
交付金の種類 |
年度 |
交付金交付額 |
左のうち不当と認める額 |
摘要 |
|
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
千円 | 千円 | |||||||
(107) | 厚生労働本省 |
埼玉県 |
新座市
(事業主体) |
特別調整交付金(非自発的失業軽減特別交付金等) |
平成 30、 令和元 |
29,457 | 5,532 | 一般被保険者に係る保険料調定総額を過大に集計していたものなど |
(108) | 同 | 東京都 |
渋谷区
(事業主体) |
特別調整交付金(非自発的失業軽減特別交付金) |
平成 30、 令和元 |
41,963 | 4,842 | 非自発的失業による保険料軽減世帯に係る保険料調定総額を過小に集計していたもの |
(109) | 同 | 同 | 板橋区
(事業主体) |
特別調整交付金(非自発的失業軽減特別交付金等) |
平成 30、 令和元 |
118,580 | 13,881 | 一般被保険者に係る保険料調定総額を過大に集計していたものなど |
(110) | 同 | 同 | 町田市
(事業主体) |
同 | 平成 30、 令和元 |
51,478 | 15,604 | 同 |
(111) | 同 | 神奈川県 |
平塚市
(事業主体) |
同 | 平成 30、 令和元 |
25,494 | 5,509 | 同 |
(112) | 同 | 同 | 小田原市
(事業主体) |
特別調整交付金(被扶養者減免特別交付金) |
平成 30、 令和元 |
18,274 | 5,019 | 被用者保険の被保険者の被扶養者であった者に係る保険料の減免額を過大に算定していたもの |
(113) | 同 | 静岡県 |
静岡市
(事業主体) |
特別調整交付金(非自発的失業軽減特別交付金等) |
平成 30、 令和元 |
39,833 | 5,269 | 一般被保険者数を過小に集計していたものなど |
(114) | 同 | 同 | 沼津市
(事業主体) |
同 | 平成 30、 令和元 |
40,995 | 18,686 | 一般被保険者に係る保険料調定総額を過大に集計していたものなど |
(115) | 同 | 同 | 熱海市
(事業主体) |
同 | 平成 30、 令和元 |
4,224 | 3,167 | 同 |
(116) | 同 | 大阪府 |
守口市
(事業主体) |
特別調整交付金(被扶養者減免特別交付金) |
30 | 5,688 | 1,599 | 被用者保険の被保険者の被扶養者であった者に係る保険料の減免額を過大に算定していたもの |
(117) | 同 | 同 | 和泉市
(事業主体) |
特別調整交付金(非自発的失業軽減特別交付金等) |
平成 30、 令和元 |
23,672 | 13,053 | 一般被保険者に係る保険料調定総額を過大に集計していたものなど |
(118) | 同 | 福岡県 |
宗像市
(事業主体) |
特別調整交付金(結核・精神病特別交付金) |
平成 30、 令和元 |
82,725 | 15,163 | 結核性疾病及び精神病に係る医療給付費を過大に算出していたもの |
(119) | 秋田県 |
南秋田郡八郎潟町
(事業主体) |
― | 普通調整交付金 |
29 | 45,865 | 2,038 | 調整対象収入額を過小に算定していたもの |
(120) | 埼玉県 |
新座市
(事業主体) |
― | 特別調整交付金(非自発的失業軽減特別交付金等) |
28、29 |
21,482 | 2,865 | 一般被保険者に係る保険料調定総額を過大に集計していたものなど |
(121) | 東京都 |
品川区
(事業主体) |
― | 特別調整交付金(非自発的失業軽減特別交付金) |
28、29 |
40,147 | 1,869 | 非自発的失業による保険料軽減世帯に係る保険料調定総額を過小に集計していたもの |
(122) | 同 | 板橋区
(事業主体) |
― | 特別調整交付金(非自発的失業軽減特別交付金等) |
28、29 |
111,282 | 6,358 | 一般被保険者に係る保険料調定総額を過大に集計していたものなど |
(123) | 同 | 西東京市
(事業主体) |
― | 特別調整交付金(被扶養者減免特別交付金) |
28、29 |
16,919 | 4,854 | 被用者保険の被保険者の被扶養者であった者に係る保険料の減免額を過大に算定していたもの |
(124) | 神奈川県 |
横浜市
(事業主体) |
― | 特別調整交付金(非自発的失業軽減特別交付金等) |
28 | 208,387 | 2,056 | 一般被保険者に係る保険料調定総額を過大に集計していたものなど |
(125) | 同 | 平塚市
(事業主体) |
― | 同 | 28、29 |
29,295 | 6,714 | 同 |
(126) | 同 | 小田原市
(事業主体) |
― | 特別調整交付金(被扶養者減免特別交付金) |
28 | 7,351 | 802 | 被用者保険の被保険者の被扶養者であった者に係る保険料の減免額を過大に算定していたもの |
(127) | 静岡県 |
静岡市
(事業主体) |
― | 特別調整交付金(非自発的失業軽減特別交付金等) |
28、29 |
37,953 | 4,341 | 一般被保険者数を過小に集計していたものなど |
(128) | 同 | 沼津市
(事業主体) |
― | 同 | 28、29 |
40,010 | 11,968 | 一般被保険者に係る保険料調定総額を過大に集計していたものなど |
(129) | 同 | 熱海市
(事業主体) |
― | 特別調整交付金(非自発的失業軽減特別交付金) |
28、29 |
3,474 | 2,397 | 一般被保険者に係る保険料調定総額を過大に集計していたもの |
(130) | 大阪府 |
豊中市
(事業主体) |
― | 普通調整交付金、特別調整交付金(被扶養者減免特別交付金) |
29 | 2,179,814 | 41,624 | 調整対象収入額を過小に算定していたものなど |
(131) | 同 | 枚方市
(事業主体) |
― | 特別調整交付金(被扶養者減免特別交付金) |
28、29 |
18,428 | 4,667 | 被用者保険の被保険者の被扶養者であった者に係る保険料の減免額を過大に算定していたもの |
(132) | 同 | 和泉市
(事業主体) |
― | 特別調整交付金(非自発的失業軽減特別交付金) |
28、29 |
19,700 | 11,151 | 一般被保険者に係る保険料調定総額を過大に集計していたもの |
(133) | 福岡県 |
宗像市
(事業主体) |
― | 特別調整交付金(結核・精神病特別交付金) |
29 | 559,058 | 5,177 | 結核性疾病及び精神病に係る医療給付費を過大に算定していたもの |
(134) | 大分県 |
大分市
(事業主体) |
― | 普通調整交付金 |
28、29 |
7,285,603 | 104,296 | 調整対象需要額を過大に算定していたもの |
(107)―(134)の計 | 11,107,151 | 320,501 |
(注) 国民健康保険法の改正に伴い、同一の事業主体に係るものであっても、平成30年度以降と29年度以前とを区分して記述している。