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(2) 保有するデータを活用するなどして雇用調整助成金等と休業支援金等の重複支給や休業支援金等の二重支給の有無を確認することなどとして、その具体的な方法を策定するよう是正改善の処置を求め、重複支給又は二重支給が確認されたものについて不正受給額等を返還させる措置を講ずるよう適宜の処置を要求し、及び、リスクの所在等に十分に留意して雇用調整助成金等に関する実地調査の対象とする事業主の範囲を設定することとする見直しを行うことなどとして、その具体的な方法を策定するよう改善の処置を要求したもの


会計名及び科目
一般会計 (組織)厚生労働本省 (項)高齢者等雇用安定・促進費
労働保険特別会計(雇用勘定) (項)地域雇用機会創出等対策費
部局等
厚生労働本省、33労働局
雇用調整助成金等の概要
休業等を行った事業主に対して、事業主が支払った休業等に係る賃金の額に相当する額を対象として助成を行うなどするもの
休業支援金等の概要
休業していながら休業手当が支給されない労働者に対して、休業開始前の賃金の額等により算定した額を支給するもの
重複して支給されていた雇用調整助成金等及び休業支援金等の額並びに重複支給に関連して判明した雇用調整助成金等及び休業支援金等の不正受給額(1)
31労働局 1億6133万円(令和2、3両年度)
同一月の休業を対象として二重に支給されていた休業支援金等の額(2)
12労働局 2271万円(令和2、3両年度)
実地調査の対象を選定するためのリストに掲載されていない事業主を検査した結果判明した雇用調整助成金等の不正受給額(3)
3労働局 1億3315万円(令和2、3両年度)
(1)から(3)までの計
3億1719万円

【適宜の処置を要求し及び是正改善の処置を求め並びに改善の処置を要求したものの全文】

雇用調整助成金等及び休業支援金等の支給に関する事後確認の実施について

(令和4年8月4日付け 厚生労働大臣宛て)

標記について、下記のとおり、会計検査院法第34条の規定により是正の処置を要求し及び是正改善の処置を求め並びに同法第36条の規定により改善の処置を要求する。

1 雇用調整助成金等及び休業支援金等の事後確認の概要等

(1) 雇用調整助成金等の概要等

ア 雇用調整助成金等の概要

雇用調整助成金は、雇用保険法(昭和49年法律第116号)等に基づき、景気の変動、産業構造の変化その他の経済上の理由により事業活動の縮小を余儀なくされた場合等に、雇用する雇用保険被保険者について休業又は教育訓練(以下「休業等」という。)を行った事業主に対して、事業主が支払った休業等に係る賃金の額(以下「休業手当」という。)に相当する額を対象として助成を行うなどするものである。

雇用調整助成金については、令和2年1月以降、新型コロナウイルス感染症による雇用への影響が続く中で、特例として、支給対象となる事業主の要件を緩和するなどの措置が講じられた(以下、この特例を「コロナ特例」という。)。また、貴省は、雇用保険被保険者以外の労働者についても、新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた措置の対象とするために、2年4月に緊急雇用安定助成金の制度を創設した。この制度は、雇用保険被保険者以外の労働者を対象としていること、教育訓練を含まないこと以外は、コロナ特例による雇用調整助成金とほぼ同様の内容となっている(以下、雇用調整助成金と緊急雇用安定助成金を合わせて「雇用調整助成金等」という。)。

イ 雇用調整助成金等の支給状況

雇用調整助成金等の支給状況については、表1のとおり、2年4月1日から4年3月31日までの間に、6,093,948件の支給決定が行われていて、支給決定額は計5兆5043億8698万余円となっている。

表1 雇用調整助成金等の支給状況

(単位:件、千円)
助成金名 令和2年度 3年度
支給決定件数 支給決定額 支給決定件数 支給決定額 支給決定件数 支給決定額
雇用調整助成金 2,284,982 2,941,065,484 2,395,939 2,148,819,538 4,680,921 5,089,885,022
緊急雇用安定助成金 682,419 214,438,426 730,608 200,063,537 1,413,027 414,501,963
2,967,401 3,155,503,911 3,126,547 2,348,883,075 6,093,948 5,504,386,986

(注) 金額は千円未満を切り捨てているため、合計しても一致しないものがある。

(2) 休業支援金等の概要等

ア 休業支援金等の概要

貴省は、休業していながら休業手当が支給されない労働者に対する措置として、2年6月に、新型コロナウイルス感染症等の影響により事業主に休業させられている期間の賃金の支払を受けることができなかった雇用保険被保険者に対して休業開始前の賃金の額等により算定した額を支給する新型コロナウイルス感染症対応休業支援金(以下「休業支援金」という。)の制度を創設した。また、貴省は、同時に雇用保険被保険者以外の労働者(公務員を除く。)に対して休業支援金に準じて支給する新型コロナウイルス感染症対応休業支援給付金(以下「休業給付金」という。)の制度を創設した(以下、休業支援金と休業給付金を合わせて「休業支援金等」という。)。

イ 休業支援金等の支給状況

休業支援金等の支給状況については、表2のとおり、2年7月10日から4年3月31日までの間に、3,907,521件の支給決定が行われていて、支給決定額は計2844億4941万余円となっている。

表2 休業支援金等の支給状況

(単位:件、千円)
助成金名 令和2年度 3年度
支給決定件数 支給決定額 支給決定件数 支給決定額 支給決定件数 支給決定額
休業支援金 320,304 30,038,822 759,370 61,462,742 1,079,674 91,501,565
休業給付金 818,336 59,717,258 2,009,511 133,230,593 2,827,847 192,947,851
1,138,640 89,756,081 2,768,881 194,693,336 3,907,521 284,449,417
  • 注(1) 令和2年度は2年7月10日以降
  • 注(2) 金額は千円未満を切り捨てているため、合計しても一致しない。

(3) 雇用調整助成金等及び休業支援金等の事後確認の概要

ア 支給の迅速化を踏まえた事後確認の取組

貴省は、雇用調整助成金等及び休業支援金等の支給を迅速化するために、書類不備のない申請は、原則、2週間以内で支給することを目指すこととして、記載事項や添付書類を削減するなど申請書類の簡素化を行ったり、実施計画届の提出を不要として実施計画に関する審査を行わないなど、雇用調整助成金等又は休業支援金等の支給決定の際に行う審査(以下「事前審査」という。)の迅速化を行ったりするなどの取組を行っている。そして、貴省は、これらの取組を行う一方で、雇用調整助成金等又は休業支援金等の支給後に不正受給(注1)の有無等の確認に取り組むことにより適切な支給を確保するとしている(以下、この確認を「事後確認」という。)。

(注1)
不正受給  偽りその他不正の行為により本来受けることのできない雇用調整助成金等又は休業支援金等の支給を受けること

イ 雇用調整助成金等及び休業支援金等に係る不正受給の状況並びに雇用調整助成金等に係る不正受給への対応

貴省によれば、2年4月から4年3月までの間に、495件の雇用調整助成金等に関する不正受給(不正受給額計63億2329万余円(雇用調整助成金47億5933万余円、緊急雇用安定助成金15億6396万余円))及び221件の休業支援金等に関する不正受給(不正受給額計3億4723万余円(休業支援金9521万余円、休業給付金2億5201万余円))が判明して、返還を求める措置を講じたとしている。

貴省本省は、雇用調整助成金等に係る不正受給への対応の一環として、2年10月に、都道府県労働局(以下「労働局」という。)へ通知を発した。さらに、3年10月にも労働局へ通知を発して、雇用調整助成金等の不正受給の増加や顕在化が憂慮されるとして、引き続き雇用調整助成金等の迅速な支給を図りつつ、不正受給への対応を強化するとした(以下、貴省本省が3年10月に発した通知を「本省通知」という。)。そして、本省通知によれば、労働局は、雇用調整助成金等の迅速な支給に影響を及ぼさない範囲で、不正受給に対応するためのチームを編成し、事後確認の一環として、雇用調整助成金等の支給を受けた事業主の事業所を訪問して行う調査(以下「実地調査」という。)に取り組むことなどとされている。

2 本院の検査結果

(検査の観点、着眼点、対象及び方法)

雇用調整助成金等や休業支援金等については、迅速な支給が要請されていることなどから、申請書類の簡素化が行われるなどしており、不正受給に対応するためには、事後確認を適切に実施することが重要となっている。一方、労働局は引き続き迅速な支給を行わなければならない状況にあり、また、各労働局によって事務負担、人員配置等が一様ではなく、実際に実地調査を実施できる対象には限りがある。このような状況の下で実地調査を実施する対象を選定するに当たっては、貴省が保有するデータを活用するなどして不正受給の可能性があるものを抽出したり、不正な支給申請が行われるリスクの所在等に留意して対象とする範囲を設定した上で適切に決定したりする必要がある。

そこで、本院は、合規性等の観点から、上記の事情を踏まえて事後確認が適切に実施されているかなどに着眼して、2、3両年度に支給決定された雇用調整助成金等及び休業支援金等計5兆7888億3640万余円を対象として検査した。

検査に当たっては、貴省本省において、事後確認の実施に関する考え方等を確認したり、8労働局(注2)において、事後確認の実施状況を確認したりなどして会計実地検査を行うとともに、1労働局(注3)から事後確認の実施状況に関する調書の提出を受けて、その内容を確認するなどして検査した。また、貴省本省から、47労働局における、2年4月から4年2月までに支給決定が行われた雇用調整助成金等及び休業支援金等に係る支給データの提出を受けて、その内容を分析するとともに、当該分析結果に基づき47労働局に疑義の確認を求めて、その報告結果を確認するなどの方法により検査した。

(注2)
8労働局  北海道、埼玉、千葉、長野、静岡、愛知、京都、福岡各労働局
(注3)
1労働局  東京労働局

(検査の結果)

検査したところ、次のような事態が見受けられた。

(1) データが十分に活用されておらず、雇用調整助成金等と休業支援金等を重複して支給している事態の有無に関する事後確認が適切に行われていないなどの事態

同一労働者の同一期間における同一事業主の下での休業については、事業主が休業している労働者へ休業手当を支払っているか否かに応じて、雇用調整助成金等の支給が行われることになるか、休業支援金等の支給が行われることになるかが分かれることから、雇用調整助成金等と休業支援金等が重複して支給されること(以下「重複支給」という。)は制度上あり得ない。このため、重複支給が行われている場合には、少なくともいずれかが事実に基づくことなく支給されていることになることから、重複支給の有無について適切に確認を行う必要がある。

一方で、貴省本省において、外部からの通報等により休業支援金等の不正受給が疑われる場合に実施する調査の際には重複支給の有無を確認するよう労働局に対して指示しているが、それ以外の場合には、事前審査や事後確認の際に重複支給の有無に着眼した確認を行うことについて労働局に指示していない。

しかし、貴省本省は、雇用調整助成金等及び休業支援金等に係る支給データを保有しており、当該支給データを分析することにより、重複支給の可能性がある雇用調整助成金等や休業支援金等を抽出して、これらについての確認を労働局に指示することが可能であると思料された。

そこで、検査の対象とした雇用調整助成金等及び休業支援金等計5兆7888億3640万余円のうち、その大半を占める2年4月から4年2月までに支給決定が行われたものに係る47労働局全ての支給データについて貴省本省から提出を受けて、これらを分析することにより、雇用調整助成金等を支給した事業主名と休業支援金等を支給した労働者を雇用する事業主名が一致するなど、重複支給の可能性がある雇用調整助成金等及び休業支援金等を抽出し、各労働局に対して支給申請書等の照合等による重複支給の有無についての確認を求めた。

その結果、31労働局(注4)において、199事業主に雇用されていた437労働者の休業を対象として重複支給が行われている事態が見受けられて、これらの事態に係る雇用調整助成金等の支給額は1億1433万余円、休業支援金等の支給額は1億4084万余円となっていた。そして、これらの雇用調整助成金等及び休業支援金等については、労働者が休業手当の支払を受けているのに休業手当の支払を受けていないこととして休業支援金等を支給申請するなどの態様により、少なくともいずれかが事実に基づくことなく支給されていることになる。このため、重複支給されている事態について、不正受給の態様が明らかになり、不正受給額の特定に至っている場合には当該不正受給額を、不正受給額の特定に至っていない場合には重複支給となっていた額のうち支給額の少ない方の額を、それぞれ事実に基づくことなく支給されている額として算定すると、その額は計1億0017万余円(不正受給額599万余円、重複支給となっていた額のうち支給額の少ない方の額9417万余円)に上ると認められる状況となっていた。

また、本院は、重複支給が行われていることにより不正受給の特定に至った事業主又は労働者を対象にして、重複支給とは別に、雇用調整助成金等又は休業支援金等の不正受給が見受けられないかなどについても労働局に調査を求めた。その結果、重複支給が見受けられた事業主やそれらの事業主に雇用されていた労働者において、重複支給に係る不正受給の態様と同様の態様が見受けられるなどしていて、重複支給に係るものとは別に、雇用調整助成金等5277万余円及び休業支援金等838万余円を不正に受給している事態が見受けられた。

このように、雇用調整助成金等又は休業支援金等計1億6133万余円について、重複支給が行われていたり、不正に受給されたりしていた。

(注4)
31労働局  福島、茨城、栃木、群馬、埼玉、千葉、東京、神奈川、新潟、石川、山梨、長野、岐阜、静岡、愛知、三重、滋賀、京都、大阪、兵庫、奈良、和歌山、岡山、広島、山口、愛媛、高知、福岡、佐賀、宮崎、沖縄各労働局

(2) データが十分に活用されておらず、休業支援金等について同一月の休業を対象として再度の支給申請が行われて二重に支給している事態の有無に関する事後確認が行われていないなどの事態

休業支援金等について同一月の休業を対象として再度の支給申請が行われていないかについては、労働局が行う休業支援金等の申請内容に関する事前審査に際して、このような申請を行っていることが疑われる場合を除いて、確認を行うこととはなっていない。また、貴省本省は、労働局に対して、休業支援金等について同一月の休業を対象として再度の支給申請が行われて二重に支給している事態(以下「二重支給」という。)が生じていないかについての事後確認を指示していないことなどから、支給後に、二重支給が生じている可能性に着眼した事後確認が行われることにはなっていない。

しかし、事前審査に際して支給申請を行った労働者の支給履歴を網羅的に確認することにはなっておらず、二重支給が生じている可能性が残ることから、二重支給の有無について適切に確認を行う必要がある。そして、貴省本省は、休業支援金等に係る支給データを保有しており、当該支給データを分析することにより、二重支給の可能性がある休業支援金等を抽出して、これらについての確認を労働局に指示することが可能であると思料された。

そこで、本院は、貴省本省から提出を受けた前記の休業支援金等に係る支給データを分析して、二重支給の可能性がある休業支援金等を抽出し、28労働局(注5)に対して支給申請書の照合等による事実関係の確認を求めた。

その結果、12労働局(注6)において、164事業主に雇用されていた185労働者について二重支給が見受けられた。そして、これらの事態に係る休業支援金等を単純に合計すると4772万余円となり、二重支給となっている休業支援金等のうち、支給額の少ない方の額を不適正なものであるとして不適正な支給額を算定すると、2271万余円に上ると認められる状況となっていた。

(注5)
28労働局  北海道、宮城、福島、栃木、埼玉、千葉、東京、神奈川、新潟、石川、福井、山梨、長野、岐阜、静岡、愛知、京都、大阪、兵庫、奈良、岡山、広島、山口、香川、福岡、大分、鹿児島、沖縄各労働局
(注6)
12労働局  東京、神奈川、石川、長野、静岡、愛知、大阪、奈良、岡山、福岡、鹿児島、沖縄各労働局

(3) 雇用調整助成金等の支給に関する実地調査の対象とする事業主の範囲がリスクの所在等を踏まえて設定されていない事態

本省通知によれば、実地調査の対象は、労働局が事前審査を行う際に不正であるとは判断できないものの申請内容等に疑義が見受けられた事業主、不正受給に関する情報提供があった事業主等の中から選定することなどとされている。そして、労働局は、これらの事業主をあらかじめリスト化しておき、当該リストの中から実地調査の対象を選定することとされている(以下、実地調査の対象を選定するためのリストを「選定リスト」という。)。また、選定リストの中から実地調査の対象を選定する場合には、適切に優先度を付すことなどとされている。

本院は、事後確認について、令和2年度決算検査報告に掲記した「新型コロナウイルス感染症の影響による労働者の休業等に対応するための雇用調整助成金等の支給等について」において、「緊急雇用安定助成金については、対象となる雇用保険被保険者以外の労働者に関する情報を厚生労働省が管理していないことから、雇用関係がない者を雇用関係があるとすることにより雇用調整助成金等を不正に受給しても、そのことが露見しないのではないかという誤った認識を不正行為者に生じさせて、必要な書類を偽造するなどして不正な支給申請を行うリスクが相対的に高い状況となっていることなどに留意して、事後確認を行うことが肝要である。」と記述しているところである。

しかし、9労働局(注7)において、4年3月末において選定リストに掲載されていた3,922事業主について、掲載された契機の状況等を確認したところ、①事前審査の際に申請内容に疑義があったことによるものが2,358事業主、②不正受給に関する情報提供があったことによるものが1,562事業主、③併給している他の助成金で疑義があったことによるものが2事業主となっていて、選定リストの対象とする範囲の設定は上記の本院が示したリスクの所在等を十分に踏まえたものとはなっていないおそれがあると思料された。

そこで、本院は、選定リストに掲載されていない事業主、すなわち、既に雇用調整助成金等の支給を受けた事業主のうち、事前審査の際に申請内容に疑義が見受けられたとされた事業主及び不正受給に関する情報提供があるなどした事業主以外の事業主(以下、これらの事業主を「実地調査の対象範囲外の事業主」という。)の中から、雇用保険被保険者を対象とする雇用調整助成金の支給を受けていない一方で、雇用保険被保険者以外の労働者を対象とする緊急雇用安定助成金については多額に上る支給を受けているなど不正受給のリスクが相対的に高いと思料される8労働局(注2)管内の66事業主を抽出して、このうち50事業主に対して会計実地検査を行うとともに、残りの16事業主については労働局から支給申請書及び添付書類の提出を受けるなどして検査した。その結果、表3のとおり、3労働局管内の6事業主において、雇用している労働者は存在しないのに労働者を雇用したこととするなどして、雇用調整助成金等計1億3315万余円を不正に受給している事態が見受けられた。

(注7)
9労働局  北海道、埼玉、千葉、東京、長野、静岡、愛知、京都、福岡各労働局

表3 選定リストに掲載されていない事業主の検査により判明した不正受給の状況

労働局名 事業主 受給した雇用調整助成金等 不正に受給していた雇用調整助成金等の額(円) 主な態様
種類 対象期間 金額(円)
北海道 A 雇用調整助成金 令和2年4月~3年3月 18,346,922 18,346,922 従業員を休業させたとしていたが、そのうちの大部分は従業員を勤務させていた。
埼玉
B 緊急雇用安定助成金 2年4月~2年10月 28,800,000 28,800,000 従業員を休業させたとしていたが、従業員は架空の者であり休業の事実はなかった。
C 緊急雇用安定助成金 2年11月~3年4月 7,845,000 7,845,000 同上(事例参照)
D 緊急雇用安定助成金 2年11月~3年4月 7,860,000 7,860,000 同上(事例参照)
福岡
E 緊急雇用安定助成金 2年8月~3年9月 41,602,588 41,602,588 従業員を休業させたとしていたが、当該従業員は取引先関係者の氏名を利用したものであり、休業の事実はなかった。
F 緊急雇用安定助成金 2年9月~3年10月 28,697,200 28,697,200 休業させた従業員に対して一定額の休業手当を支払ったとしていたが、実際の支払額はそれを下回る金額であった。
3労働局 6事業主 133,151,710 133,151,710  

上記の事態について、事例を示すと次のとおりである。

事例

C社及びD社は、新型コロナウイルス感染症の感染拡大による影響を受けて、労働者各7名計14名を令和2年11月から3年4月までの期間に休業させたとして、シフト表、賃金台帳等を支給申請書に添付するなどして埼玉労働局に対して支給申請を行って、緊急雇用安定助成金計1570万余円の支給を受けていた。

そして、同労働局は、両社が書面上支給要件を満たしていて、申請内容に不自然な点が見受けられなかったことなどから、緊急雇用安定助成金の支給後、選定リストに両社を掲載することとはしておらず、実地調査の対象としていなかった。しかし、両社は、雇用保険被保険者を対象とする雇用調整助成金の支給を受けていない一方で、雇用保険被保険者以外の労働者を対象とする緊急雇用安定助成金については多額に上る支給を受けているなど、不正受給のリスクが相対的に高いと思料されたことから、本院は、両社の事業所に赴いて会計実地検査を行った。

その結果、両社の支給申請は、両社の実質的な経営者であるGが、事業資金を得るために、事実に基づくことなく申請したものであることが判明した。すなわち、両社が雇用したとしている各7名計14名の労働者は全て架空の者であり、実際には雇用している労働者は存在しないのに、虚偽のシフト表及び賃金台帳を添付することなどにより、緊急雇用安定助成金計1570万余円の全額を不正に受給していた。

そして、9労働局が選定リストの範囲の設定に当たり用いた事由と本院が今回検査を行うこととした事由とのそれぞれに係るリスクの状況について、9労働局が実地調査の対象とする範囲の事業主の中から選定した事業主に対する実地調査の結果と、本院が実地調査の対象範囲外の事業主の中から選定した事業主に対する検査の結果とを比較すると、前者の調査済みの事業主に対する不正受給を行っていた事業主の割合が約5.7%であったのに対して、後者の同割合は約9.0%となっていた。また、1事業主当たりの不正受給金額をみたところ、貴省の調査により2年4月から4年3月までに判明した緊急雇用安定助成金の1事業主当たり平均不正受給金額は985万余円であったのに対して、本院が実地調査の対象範囲外の事業主の中から選定した事業主に対する検査の結果判明した緊急雇用安定助成金の1事業主当たり平均不正受給金額は2296万余円となっていた。

このように、9労働局が実地調査の対象を選定する基となる選定リストの対象として設定した事業主の範囲は、不正な支給申請を行うリスクの所在等について十分に留意されたものであるとはいえない状況となっていた。

(是正及び是正改善並びに改善を必要とする事態)

重複支給の有無に関する事後確認が適切に行われておらず、重複支給となっているものの把握及びそれに対する措置が講じられていない事態や、二重支給の有無に関する事後確認が行われておらず、二重支給となっているものの把握及びそれに対する措置が講じられていない事態は適切ではなく、是正及び是正改善を図る要があると認められる。また、実地調査の対象とする事業主の範囲がリスクの所在等を踏まえて設定されておらず、対象範囲外の事業主に不正受給が見受けられている事態は適切ではなく、改善を図る要があると認められる。

(発生原因)

このような事態が生じているのは、次のことなどによると認められる。

  • ア 貴省本省において、労働局が雇用調整助成金等及び休業支援金等の迅速な支給に取り組んでいて重複支給の有無に関する事前審査を実施するのに制約がある中で、休業支援金等の不正受給が疑われる場合については重複支給の有無を確認することとしていたものの、それ以外の場合については保有するデータを活用するなどして重複支給の有無の事後確認を行う必要性についての検討が十分でないこと
  • イ 貴省本省において、労働局が休業支援金等の迅速な支給に取り組んでいて二重支給の有無に関する事前審査を実施するのに制約がある中で、保有するデータを活用するなどして二重支給の有無の事後確認を行う必要性についての検討が十分でないこと
  • ウ 貴省本省において、不正受給への対応を強化する際に、不正な支給申請が行われるリスクの所在等について適切に留意して実地調査の対象とする事業主の範囲を設定する必要性についての検討が十分でないこと

3 本院が要求する是正の処置及び求める是正改善の処置並びに要求する改善の処置

貴省は、新型コロナウイルス感染症の影響により経済活動が急速に縮小した状態が続く中、労働者の雇用を維持するために雇用調整助成金等及び休業支援金等の迅速な支給に取り組んできたところである。一方で、迅速な支給のために、申請書類の簡素化が行われるなどしていること、時間の経過とともに事後確認の困難さが増すと思料されることなどから、事後確認を適切に行うことにより不正受給等に対応することが重要である。

ついては、貴省本省において、事後確認を適切に行うことにより、雇用調整助成金等及び休業支援金等の適正な支給を確保するよう、次のとおり是正の処置を要求し及び是正改善の処置を求め並びに改善の処置を要求する。

  • ア ①休業支援金等の不正受給が疑われる場合以外についても保有するデータを活用するなどして事後確認の一環として重複支給の有無を確認することとするとともに、②重複支給が見受けられた事業主やそれらの事業主に雇用されていた労働者において重複支給に係るものとは別に同様の態様等により不正受給が行われていないかという点にも留意して調査を行うこととして、①及び②の具体的な方法を策定すること、また、既に重複支給が確認された雇用調整助成金等及び休業支援金等について事実関係を特定して不正受給額を返還させる措置を講ずること(会計検査院法第34条の規定により是正の処置を要求し及び是正改善の処置を求めるもの)
  • イ 保有するデータを活用するなどして事後確認の一環として二重支給の有無を確認することとして、その具体的な方法を策定すること、また、既に二重支給が確認された休業支援金等について不適正な支給額を特定して返還させる措置を講ずること(同法第34条の規定により是正の処置を要求し及び是正改善の処置を求めるもの)
  • ウ 実地調査の対象とする事業主の範囲を設定するに当たり、不正な支給申請を行うリスクが想定される事業主が取り込まれることとなるよう、リスクの所在等に十分に留意して実地調査の対象とする事業主の範囲を設定することとする見直しを行い、見直し後においてリスクの程度を適切に評価することにより付した優先度に基づき実地調査の対象とする事業主を選定することとして、その具体的な方法を策定すること(同法第36条の規定により改善の処置を要求するもの)