【改善の処置を要求したものの全文】
生活保護業務における情報提供ネットワークシステムを通じた情報照会の実施状況について
(令和4年10月18日付け 厚生労働大臣宛て)
標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり改善の処置を要求する。
記
生活保護は、生活保護法(昭和25年法律第144号。以下「法」という。)等に基づき、都道府県、市(特別区を含む。)又は福祉事務所を設置する町村(以下、これらを合わせて「事業主体」という。)が、生活に困窮する者に対して、その困窮の程度に応じて必要な保護を行い、その最低限度の生活の保障及び自立の助長を図ることを目的として行われるものである。
そして、保護費は、当該世帯について要保護者の年齢、世帯構成、所在地域等の別により算定される基準生活費に、各種加算の額を加えるなどして算定される最低生活費から、当該世帯における就労収入、年金の受給額等を基に収入として認定される額を控除するなどして決定されることとなっている。
このうち、収入の認定については、保護開始時及びその後の保護受給中も定期又は随時に行うこととなっている。そして、これを行うに当たり、法第29条により、事業主体は、必要があると認めるときは、官公署、日本年金機構等に対し、必要な書類の閲覧又は資料の提供を求めること(以下「法第29条調査」という。)ができることなどとなっている。また、「生活保護法による保護の実施要領について」(昭和36年厚生省発社第123号厚生事務次官通知)等によれば、事業主体は、当該世帯の資産の状況、社会保険その他社会保障的施策による受給資格の有無、その世帯における金銭収入等の全てについて綿密な調査を行い、必要に応じて関係先につき調査を行うなど収入源について直接に把握することとされている。
事業主体の生活保護を担当する部局(以下「生活保護部局」という。)は、保護の実施に当たり、各事業主体が独自に調達した生活保護システム(以下「生活保護システム」という。)を活用して保護費等の算定を行っている。
政府は、社会保障・税番号制度(以下「マイナンバー制度」という。)の導入に向けたシステム改修等の整備を行っており、平成27年度からのマイナンバー制度の導入スケジュールに合わせて、行政サービスと業務改革及び情報システムの改革に関し、関係機関が連携しつつ計画を策定し、これに沿って着実に取り組むこととした。そして、マイナンバー制度の導入により、各種給付事務等に必要な他の機関の保有する情報に関し、行政機関同士が、社会保障・税番号(以下「マイナンバー」という。)から生成された符号を基に、情報提供ネットワークシステム(以下「情報提供NWS」という。)を通じて、行政手続に必要な情報をやり取りすること(以下「情報連携」という。)などが可能になるとしている。このうち、生活保護分野において情報連携が可能な事務は、行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律(平成25年法律第27号)別表第二に定められており、事業主体は、年金給付関係情報等について、他の機関の保有する情報の提供を求めることができることとなっている(以下、情報提供NWSを通じて、他の機関に対して当該機関の保有する情報の提供を求めることを「情報照会」という。)。
貴省は、情報連携の運用に当たり、26年度から29年度までの間、都道府県及び市町村に対して、生活保護システムと情報提供NWSとを接続し、マイナンバー制度の円滑な施行に資することを目的として、生活保護システム等の改修に必要な経費等を対象に、社会保障・税番号制度システム整備費補助金を交付している。
さらに、貴省は、生活保護制度において新たに創設された進学準備給付金に係る情報について情報連携に活用できるようにするなどのために、30年度から令和2年度までの間、都道府県及び市町村に対して、生活保護システム等の改修に必要な経費を対象に、生活困窮者就労準備支援事業費等補助金(以下、社会保障・税番号制度システム整備費補助金及び生活困窮者就労準備支援事業費等補助金を合わせて「国庫補助金」という。)を交付している。
貴省は、事業主体に対して、「生活保護分野における番号制度の導入について」(平成27年厚生労働省社会・援護局保護課事務連絡)や「生活保護関係事務における年金関係情報の取扱いについての留意事項等について」(令和元年厚生労働省社会・援護局保護課事務連絡)を発出するなど、情報連携に関する通知を、情報提供NWSの整備状況等に合わせてその都度発出しており、これらの通知は多数に上っている(以下、貴省が情報連携に関して発出した通知を「情報連携通知」という。)。また、情報連携通知の構成は様々であり、情報連携通知本体のみの場合もあるが、情報連携通知本体に複数の参考資料が添付されていて、参考資料を読み解かなければならない場合が多い。
そして、情報連携通知において、情報連携を行うことにより、省略可能な書類があったり、法第29条調査に要する時間が縮減されたりするなど、事業主体において業務上の利点があること、情報連携を行うには、業務フローの確認や情報連携で入手することになる情報に係る事務処理手順を変更するなどの業務フローの見直しが必要であることなどを示している。
上記を踏まえ、事業主体の生活保護部局は、情報連携通知を基にして、保護費等の算定に当たり生活保護システムから情報提供NWSを通じての情報連携をどのように行うのかといった点について、事務処理手順を検討する必要がある。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
本院は、有効性等の観点から、事業主体が、法第29条調査において、改修した生活保護システム等を活用して情報照会を実施しているかに着眼して、平成26年度から令和2年度までの間に32都道府県(注1)の175事業主体が改修した生活保護システム等(生活保護システム等の改修に係る事業費計22億1568万余円、国庫補助金相当額計12億3947万余円)を対象として検査した。
検査に当たっては、13都県の60事業主体において、生活保護業務における情報照会の状況を聴取するなどして会計実地検査を行うとともに、21都道府県の115事業主体については、国庫補助金に関する資料の提出を受けて、その内容を確認するなどの方法により検査を行った。
(検査の結果)
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
前記175事業主体の生活保護部局における2年度の情報照会の実施状況について確認したところ、32都道府県の138事業主体は、社会保障関係手続における情報連携が開始された後、円滑に情報提供NWSを活用できるよう、貴省が発出した情報連携通知等を基に、当該事業主体の生活保護システムに適合する事務処理マニュアルを作成するなどして、職員に対して情報照会の利用を促しており、情報照会を実施していた。そして、情報照会の実施により、事業主体の業務の時間や人員の削減及び被保護者の手続に係る負担の軽減を図っていた。
一方、24都道府県の37事業主体においては、他の機関からの求めに応じて情報の提供を行うことはあるものの、情報照会は全く実施していなかった。
そこで、上記37事業主体のうち、情報照会を必要とする対象者が僅少であることなどの理由により情報照会を全く実施していなかった2事業主体を除く23都道府県の35事業主体(生活保護システム等の改修に係る事業費計2億8982万余円、国庫補助金相当額計1億4379万余円)において情報照会を全く実施していなかった要因(注2)について確認したところ、生活保護部局において、次のとおりとなっていた。
上記について、事例を示すと、次のとおりである。
<事例>
埼玉県朝霞市は、平成27年度から29年度までの間に社会保障・税番号制度システム整備費補助金(事業費計744,000円、国庫補助金相当額計495,982円)、令和元年度に生活困窮者就労準備支援事業費等補助金(事業費計1,133,000円、国庫補助金相当額755,000円)の交付を受けて、情報連携を行うための生活保護システム等の改修を行っていた。
しかし、朝霞市福祉事務所の生活保護部局では、生活保護業務において情報照会を行うには、被保護者から直接マイナンバーの提供を受ける必要があると誤認していた。さらに、被保護者から直接マイナンバーの提供を受けた場合であっても、生活保護システムにおける事務処理手順に情報照会をどのように取り入れるかについてなどの業務フローの見直しが十分でなかったことから、同福祉事務所が運用している生活保護システムに適合した事務処理マニュアルが作成されていなかった。このため、同福祉事務所の職員は、情報照会に当たってのシステム端末での操作手順及び方法が分からなかった。これらの理由により、情報照会を全く実施していなかった。
貴省は、3年1月に、全事業主体に対して、情報連携の状況を把握するためのアンケート調査を実施していた。
貴省は、暫定的な結果として、回答があった1,154福祉事務所のうち、460福祉事務所(39.8%)が、「生活保護業務において、マイナンバー情報連携を使って情報を取得したことはない」と回答したとしている。
貴省は、このアンケート調査の結果を受けて、生活保護業務における情報連携の活用の促進に向けた検討を進めているとしているものの、情報連携が活用されていない原因の詳細について把握しておらず、また、活用に向けて参考となる事例を把握するなどした上での具体的な事業主体への支援を実施していなかった。
貴省は、各都道府県に対し、管内市区町村(政令指定都市及び中核市を除く。)に情報連携通知を周知するとともに、日本年金機構等への情報照会事務が円滑に実施されるよう、情報照会の実施状況の把握や情報照会の実施に係る助言等の支援を行うことについて周知している。
しかし、前記35事業主体のうち、政令指定都市等を除く25事業主体における18都県からの情報照会の実施状況の把握や情報照会の実施に係る助言等の支援の状況を確認したところ、1県が1事業主体に対して支援を行っていたのみであった。
(改善を必要とする事態)
国庫補助金の交付を受けて、情報連携が実施できるよう生活保護システム等の改修を実施しているにもかかわらず、情報照会が全く実施されておらず、生活保護システム等の改修の効果が十分に発現されていない事態は適切ではなく、改善を図る要があると認められる。
(発生原因)
このような事態が生じているのは、事業主体において情報連携通知等の内容についての理解が十分でなかったり、都道府県において事業主体における情報照会の実施に係る助言等の支援が十分でなかったりしたことにもよるが、貴省において、次のことによると認められる。
貴省は、生活保護を始めとする社会保障分野の事務にマイナンバーを導入し、行政機関における効率的な情報の管理、利用等に資する施策を継続するとしている。
ついては、貴省において、生活保護システム等の改修を実施した事業主体が積極的に情報照会を行い、生活保護システム等の改修の効果が十分に発現されるよう、次のとおり改善の処置を要求する。