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  • 第3章 個別の検査結果|
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  • 意見を表示し又は処置を要求した事項

(5) 施設整備補助金により社会福祉施設等に整備した非常用設備等について、都道府県等に対して耐震性を確保する必要があることを周知するとともに、耐震性が確保されているか確認するに当たっての留意点等を示すことなどにより、地震による停電時等に有効に機能するよう改善の処置を要求したもの


会計名及び科目
一般会計 (組織)厚生労働本省 (項)社会福祉施設整備費
(項)介護保険制度運営推進費
部局等
厚生労働本省
補助の根拠
予算補助
補助事業者
都、道、府1、県13、市66、区3、町10、村1(うち事業主体、村1)
間接補助事業者(事業主体)
259事業主体
非常用設備等整備補助事業の概要
地震等の災害による停電時等にも、社会福祉施設等の機能を維持し、医療的配慮や日常生活上の支援が必要な入所者等の安全を確保するために、事業主体が整備する非常用設備等に対して国が補助するもの
検査の対象とした事業主体数、事業所数及び補助対象事業費
260事業主体 354事業所 52億3906万余円
(平成30年度~令和2年度)
上記に係る国庫補助金等交付額
29億4571万余円
整備した非常用設備等について地震の際に有効に機能しないおそれがある事業主体数、事業所数及び補助対象事業費
45事業主体 55事業所 7億1909万余円
(平成30年度~令和2年度)
上記に係る国庫補助金等交付額
3億8426万円(背景金額)

【改善の処置を要求したものの全文】

施設整備補助金により社会福祉施設等に整備した非常用設備等の耐震性の確保の状況について

(令和4年10月13日付け 厚生労働大臣宛て)

標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり改善の処置を要求する。

1 施設整備補助金の概要等

(1) 施設整備補助金の概要

貴省は、「防災・減災、国土強靭化のための3か年緊急対策」(平成30年12月閣議決定)、「安心と成長の未来を拓く総合経済対策」(令和元年12月閣議決定)等を踏まえて、災害時に医療的配慮や日常生活上の支援が必要な入所者等の安全を確保するため、これらの要配慮者の入所する高齢者関係施設、障害児者関係施設等の社会福祉施設等の非常用自家発電設備及び受水槽等の給水設備(以下、これらを合わせて「非常用設備等」という。)の整備を推進することとし、平成30年度第2次補正予算から、非常用自家発電設備の整備に係る事業を、令和元年度補正予算から、給水設備の整備に係る事業をそれぞれ実施している(以下、両事業を合わせて「非常用設備等整備補助事業」という。)。そして、貴省は、地方公共団体が行う高齢者関係施設への非常用設備等の整備に、又は社会福祉法人等が行う高齢者関係施設への非常用設備等の整備に対し都道府県若しくは市町村(特別区を含む。以下同じ。)が補助する事業に、地域介護・福祉空間整備等施設整備交付金を交付している。また、社会福祉法人等が行う障害児者関係施設への非常用設備等の整備に対し都道府県又は政令指定都市若しくは中核市が補助する事業に、社会福祉施設等施設整備費補助金を交付している(以下、地域介護・福祉空間整備等施設整備交付金及び社会福祉施設等施設整備費補助金を合わせて「施設整備補助金」、社会福祉法人等が行う非常用設備等の整備に対し都道府県又は市町村が補助する事業に施設整備補助金を交付する場合の都道府県又は市町村を「都道府県等」、施設整備補助金により非常用設備等を整備する地方公共団体又は社会福祉法人等を「事業主体」、施設整備補助金により非常用設備等を整備する社会福祉施設等を「事業所」という。)。

(2) 施設整備補助金の交付手続

都道府県等が補助する事業に施設整備補助金を交付する場合の交付手続は、貴省が定めた「地域介護・福祉空間整備等施設整備交付金交付要綱」(平成24年厚生労働省発老0717第2号別紙)、「社会福祉施設等施設整備費国庫補助金交付要綱」(平成17年厚生労働省発社援第1005003号別紙。以下、両者を合わせて「交付要綱」という。)等によると、次のとおりとなっている。

① 都道府県等は、事業主体の申請等に基づき、国庫補助の対象とする事業所を選定して、事前協議書を取りまとめ、地方厚生(支)局を経由して貴省本省に提出する。

② 貴省本省及び地方厚生(支)局は、当該事前協議書を審査し、貴省本省は、都道府県等を通じて事業主体に事業採択の内示を行う。

③ 地方厚生(支)局は、内示を受けた事業主体から都道府県等を通じて提出された交付申請書を審査した上で、交付決定を行う。

④ 地方厚生(支)局は、事業主体による施設整備の実施後に、事業主体から都道府県等を通じて提出された事業実績報告書の内容を審査の上、施設整備補助金の額の確定を行う。

(3) 施設整備補助金により整備する非常用設備等の耐震性の確保

貴省によれば、施設整備補助金により整備する非常用設備等の目的は、地震等の災害による停電・断水時にも、社会福祉施設等の機能を維持し、医療的配慮や日常生活上の支援が必要な入所者等の安全を確保するためのものであることから、整備する非常用設備等について耐震性の確保等に係る必要な措置がなされていることを前提に、都道府県等は施設整備補助金を交付するなどとしている。一方、交付要綱等においては、事業主体が施設整備補助金により整備する非常用設備等について耐震性を確保する必要性等は示されていない。

2 本院の検査結果

(検査の観点、着眼点、対象及び方法)

前記のとおり、非常用設備等は、社会福祉施設等が地震等の災害による停電時等においてもその機能を維持し、医療的配慮や日常生活上の支援が必要な入所者等の安全を確保するために必要となるものであることから、非常用設備等が地震の際にも有効に機能するよう耐震性を確保することが重要である。

そこで、本院は、有効性等の観点から、施設整備補助金により整備した非常用設備等は、地震による停電時等において有効に機能するよう整備されているかなどに着眼して、平成30年度から令和2年度までの間に、貴省又は16都道府県(注1)及び79市区町から、地域介護・福祉空間整備等施設整備交付金の交付を受けて非常用設備等を整備した204事業主体(注2)の282事業所(補助対象事業費計31億1214万余円、国庫補助金等交付額計19億3811万余円)及び社会福祉施設等施設整備費補助金の交付を受けて非常用設備等を整備した60事業主体(注2)の72事業所(補助対象事業費計21億2691万余円、国庫補助金等交付額計10億0760万余円)計260事業主体(注2)の354事業所(補助対象事業費計52億3906万余円、国庫補助金等交付額計29億4571万余円)を対象として検査を実施した。

検査に当たっては、11都道府県及び61市区町において、203事業主体の284事業所から提出された事業実績報告書や非常用設備等の契約書、施工写真、現地の状況等を確認するなどして会計実地検査を行うとともに、5県及び19市区町村(貴省から直接交付を受けた1村を含む。)から、57事業主体の70事業所に係る事業実績報告書や非常用設備等の契約書、施工写真等の提出を受けてその内容を確認するなどして検査した。また、貴省本省において、非常用設備等整備補助事業における耐震性の確保に関する考え方等について聴取するなどして会計実地検査を行った。

(注1)
16都道府県  東京都、北海道、大阪府、千葉、神奈川、長野、岐阜、静岡、愛知、兵庫、和歌山、愛媛、高知、福岡、長崎、熊本各県
(注2)
地域介護・福祉空間整備等施設整備交付金の交付を受けて非常用設備等を整備した204事業主体のうち4事業主体は、社会福祉施設等施設整備費補助金の交付を受けて非常用設備等を整備した60事業主体のうち4事業主体と重複している。

(検査の結果)

貴省は、前記のとおり、都道府県等に対して、事業主体が整備する非常用設備等について耐震性を確保する必要性等を交付要綱等において示していない。そして、非常用設備等の耐震性の確保等に係る必要な措置がなされていることを前提に都道府県等が施設整備補助金を交付しているなどとして、地方厚生(支)局において耐震性が確保されているか確認することとはしていなかった。

一方、検査した16都道府県及び80市区町村において、事業主体が整備する非常用設備等について耐震性が確保されていることを確認しているかみたところ、15都道府県及び69市区町においては、耐震性の確保について、事業主体が適切に措置していると考えていること、交付要綱等にその必要性が示されていないことなどの理由から、耐震性が確保されているか確認していなかった。

そこで、上記の15都道府県及び69市区町から施設整備補助金の交付を受けた232事業主体の316事業所において、整備した非常用設備等の耐震性が確保されているかについて、事業主体に確認した。

その結果、7道府県及び26市区町から施設整備補助金の交付を受けた45事業主体が、55事業所において、平成30年度から令和2年度までの間に整備した非常用設備等(補助対象事業費計7億1909万余円、国庫補助金等交付額計3億8426万余円。表参照)について、事業主体が契約書や仕様書等において耐震性を確保することや耐震性が確保されていることが分かる資料の作成を請負会社に対して求めていなかったため、事業主体は非常用設備等の整備時に上記の資料の提出を受けていなかった。

このため、上記の55事業所において、施設整備補助金により整備した非常用設備等について、耐震性が確保されているか確認できない状況となっていた。これらの非常用設備等については、必要な耐震性が実際に確保されていない場合は、地震の際に有効に機能しないおそれがある。

前記のとおり、非常用設備等の耐震性を確保する必要性は交付要綱等において示されておらず、耐震性の確保のための基準としてどのような基準を用いるかは各事業主体に委ねられているが、国や地方公共団体等が実施する設備機器等の設置工事における技術上の指針として「建築設備耐震設計・施工指針」(独立行政法人建築研究所監修。以下「耐震設計指針」という。)が広く用いられており、また、検査の対象とした前記の354事業所のうち上記の55事業所を除いた大半の事業所においても、非常用設備等の耐震設計計算を行う際に耐震設計指針が用いられていた。そして、耐震設計指針によれば、設備機器は原則として地震の際に移動し又は転倒しないようにアンカーボルト等により鉄筋コンクリートの基礎等に固定することなどとされている。

そこで、上記の55事業所が整備した非常用設備等について、アンカーボルト等による固定の状況に着目し、耐震設計指針を参考にするなどして検証を試みたところ、次のような状況となっていた。

ア 非常用設備等がアンカーボルト等により鉄筋コンクリートの基礎に固定されていなかったもの

1県及び4市町から施設整備補助金の交付を受けた6事業主体は、7事業所において、平成30年度又は令和元年度に非常用自家発電設備を整備した(補助対象事業費計4811万余円、国庫補助金等交付額計3264万余円。表参照)。しかし、整備した地域では地震が少ないなどの理由から、非常用自家発電設備をアンカーボルト等により鉄筋コンクリートの基礎に固定することまではしておらず、耐震設計指針に照らしてみると、耐震対策が行われていない状態となっていた。

そして、上記の7事業所において整備された非常用自家発電設備が耐震設計指針とは異なる施工がなされていることから、当該施工で耐震性が確保されているか事業主体や当該事業主体を通じて請負会社に確認したところ、耐震性が確保されていることを示す資料は提出されなかった。

イ 非常用設備等がアンカーボルトにより固定されているが、耐震設計指針によればアンカーボルトに作用する引抜力が許容引抜力を上回るなどしていたもの

2県から地域介護・福祉空間整備等施設整備交付金の交付を受けた2事業主体は、2事業所において、2年度に給水設備を整備した(補助対象事業費計5196万円、国庫補助金等交付額計2494万余円。表参照)。しかし、当該給水設備は、アンカーボルトにより鉄筋コンクリートの基礎に固定されているが、耐震性が確保されていることが分かる資料がなかったため、耐震性が確保されているか確認できない状況となっていた。

そこで、上記の2事業所において整備された給水設備について、事業主体を通じて請負会社の協力を得て耐震性が確保されているか確認したところ、請負会社は、給水設備の固定について耐震設計指針を用いて実際の施工状況に対応する耐震設計計算を行った計算書を今回新たに作成した。その結果、給水設備を固定するアンカーボルトに地震時に作用する引抜力(注3)が許容引抜力(注3)を上回るなどして耐震設計計算上安全とされる範囲に収まっていなかった。

(注3)
引抜力・許容引抜力  「引抜力」とは、機器等に地震力が作用する場合に、ボルトを引き抜こうとする力が作用するが、このときのボルト1本当たりに作用する力をいう。また、当該ボルトに作用することが許容される引抜力の上限を「許容引抜力」という。

ウ 非常用設備等がアンカーボルトにより固定されているが、使用されたアンカーボルトの強度が不明であるなどのため、耐震性が確保されているか確認できなかったもの

ア及びイを除く46事業所に整備された非常用設備等は、アンカーボルトにより鉄筋コンクリートの基礎に固定されているが、事業主体や事業主体を通じて協力が得られた請負会社において保管している資料等では、使用されたアンカーボルトの強度が不明であるなどのため、耐震性が確保されているか検証を試みたものの確認できない状況となっていた。

表 整備した非常用設備等が地震の際に有効に機能しないおそれがある事業所

(単位:千円)
事業所が所在する都道府県 補助事業者数
(都道府県等)
ア 非常用設備等がアンカーボルト等により鉄筋コンクリートの基礎に固定されていなかったもの
イ 非常用設備等がアンカーボルトにより固定されているが、耐震設計指針によればアンカーボルトに作用する引抜力が許容引抜力を上回るなどしていたもの
ウ 非常用設備等がアンカーボルトにより固定されているが、使用されたアンカーボルトの強度が不明であるなどのため、耐震性が確保されているか確認できなかったもの
事業所数
国庫補助金等交付額
事業所数
国庫補助金等交付額
事業所数
国庫補助金等交付額
事業所数
国庫補助金等交付額
北海道 北海道及び5市 3 15,698 12 100,567 15 116,265
千葉県 4市 1 1,904 4 25,140 5 27,044
東京都 1市1区 2 55,762 2 55,762
神奈川県 神奈川県及び1市 1 8,964 1 21,734 1 2,145 3 32,843
長野県 長野県 2 8,287 2 8,287
岐阜県 2市 2 14,715 2 14,715
愛知県 1市 1 2,675 1 2,675
大阪府 大阪府及び3市 1 4,168 5 22,355 6 26,523
兵庫県 兵庫県 2 8,820 2 8,820
和歌山県 和歌山県及び5市町 1 1,914 9 60,288 10 62,202
福岡県 1市 3 12,353 3 12,353
長崎県 2市 3 13,565 3 13,565
熊本県 熊本県 1 3,212 1 3,212
7 32,648 2 24,946 46 326,672 55 384,266

(改善を必要とする事態)

施設整備補助金による非常用設備等の整備に当たり、耐震性が確保されているか確認できず、地震の際に有効に機能しないおそれがある事態は適切ではなく、改善を図る要があると認められる。

(発生原因)

このような事態が生じているのは、貴省において、次のことなどによると認められる。

  • ア 事業主体が整備する非常用設備等について、耐震性の確保等に係る必要な措置がなされていることを前提に都道府県等が施設整備補助金を交付していると考えていて、都道府県等に対して、耐震性を確保する必要があることなどを示していないこと
  • イ 地方厚生(支)局が施設整備補助金の事前協議書等を審査する際に、非常用設備等の耐震性の確保について確認する具体的な内容を定めていないこと

3 本院が要求する改善の処置

貴省は、「激甚化する風水害や切迫する大規模地震等への対策」等の取組の更なる加速化・深化を図ることとし、3年度から7年度までの5か年に追加的に必要となる事業規模等を定め、重点的かつ集中的に対策を講ずる「防災・減災、国土強靱化のための5か年加速化対策」(令和2年12月閣議決定)に基づき、非常用自家発電設備の整備を進めることにより、停電時においてもライフラインの確保を可能とするなどの対策を実施している。

ついては、貴省において、事業主体が施設整備補助金により整備する非常用設備等が地震による停電時等に有効に機能するよう、次のとおり改善の処置を要求する。

  • ア 都道府県等に対して、事業主体が施設整備補助金により整備する非常用設備等が地震時に転倒することなどがないよう耐震性を確保する必要があることを周知するとともに、施設整備補助金の事前協議等に当たって、当該非常用設備等の耐震性の確保の必要性、及び耐震性が確保されていることが分かる資料を整備しておくことが必要であることを事業主体に周知するなど、耐震性が確保されているか確認するに当たっての留意点等を示すこと
  • イ 都道府県等に対して、非常用設備等の耐震性の確保に係る項目を加えた事前協議等に用いるチェックリスト等を示すことにより、地方厚生(支)局において都道府県等が確認した内容を基に審査できるようにすること