農林水産本省(以下「本省」という。)は、新型コロナウイルス感染症の感染拡大で失われた外食を利用する消費者の流れを取り戻し、外食における消費を促すことで、飲食業に対する需要喚起を図ることを目的として、購入した食事券を使用するなどして飲食店における飲食の提供の対価を支払った消費者に対して給付金を給付するGo To Eatキャンペーン(以下「イート事業」という。)を令和2年度以降実施している。そして、本省は、イート事業のうち佐賀県内において食事券の発行、販売、回収、回収後の飲食店への代金の振込等を行う食事券発行委託事業を、株式会社佐賀広告センター(以下「佐賀事務局」という。)との間で委託契約を締結して、2年8月から4年1月までの間に実施している。
委託契約書によれば、本省は、委託事業が終了して佐賀事務局から実績報告書の提出を受けたときは、当該委託事業が委託契約の内容に適合するものであるかどうかについて検査を行い、適合すると認めたときは、委託事業に要した経費の実支出額と委託契約書に定める委託費の限度額(以下「支払限度額」という。)のいずれか低い額を委託費の額として確定し、その支払を行うことなどとされている。
そして、本省は、本件委託事業の終了に伴い佐賀事務局から実績報告書等の提出を受け、検査を行った結果、実施した事業の内容が委託契約の内容に適合すると認定し、本件委託事業の実施に要したとする人件費、事業費等の実支出額の合計額493,148,179円が、支払限度額493,608,963円を下回ることから、委託費の額を493,148,179円と確定して、その支払を行っている。
委託契約書によれば、本件委託事業における人件費の算定に当たっては、「委託事業における人件費の算定等の適正化について」(平成22年22経第961号農林水産省大臣官房経理課長通知。以下「適正化通知」という。)に従うこととされており、適正化通知によれば、人件費は、委託事業の従事者ごとに、1時間当たりの単価(以下「時間単価」という。)に委託事業に従事した直接作業時間数を乗じて算定することとされている。
そして、時間外手当の支給対象とならない管理職の職員(以下「管理者」という。)の人件費については、原則として、次式のとおり算定することとされている。この場合、時間単価は、給料、管理職手当を含む諸手当等の年間総支給額と年間法定福利費等との合計額(以下「年間総支給額等」という。)を年間総所定労働時間(1年間の所定労働時間の合計時間数であり、時間外労働時間を含まない。以下同じ。)で除して算定し、直接作業時間数には、時間外労働時間を含めることはできないこととされている。
(原則的な算定方法)
ただし、委託事業の遂行上やむを得ず従事した時間外労働については、例外として、直接作業時間数に委託事業に従事した時間外労働時間を含めることができるとされており、この場合の人件費については、次式のとおり、時間単価は、年間総支給額等を年間総実労働時間(年間総所定労働時間に委託事業及び自主事業等に従事した時間外労働時間を加えた時間数。以下同じ。)で除して算定し、これに委託事業に従事した時間外労働時間を含めた直接作業時間数を乗ずることとされている。
(例外的な算定方法)
本院は、合規性等の観点から、委託費の算定は適正に行われているかなどに着眼して、本件委託事業を対象として、本省及び佐賀事務局において、実績報告書等の関係書類を確認するなどして会計実地検査を行った。
検査したところ、次のとおり適正とは認められない事態が見受けられた。
佐賀事務局は、本件委託事業に係る全従事者31名について、人件費の実支出額を計33,579,760円と算定していた。そして、上記31名のうち、時間外手当の支給対象とならない管理者6名に係る人件費の実支出額について、年間総支給額等を年間総所定労働時間で除して時間単価を算定し、これに本件委託事業に従事した時間外労働時間を含めた直接作業時間数を乗じて算定していた。
しかし、前記のとおり、直接作業時間数に委託事業に従事した時間外労働時間を含める場合には、時間単価については、年間総支給額等を年間総所定労働時間ではなく年間総実労働時間で除して算定する必要があった。
そこで、前記の管理者6名について、業務日誌やパソコンの使用履歴等により把握した各人の年間総実労働時間に基づき時間単価を算定するなどして、全従事者31名に係る人件費の適正な実支出額を算定すると計27,209,523円となる。
したがって、上記の人件費に基づき本件委託事業に要した経費の実支出額を算定すると、適正な委託費の額は486,140,919円となり、委託費の支払額493,148,179円との差額7,007,260円が過大に支払われていて、不当と認められる。
このような事態が生じていたのは、佐賀事務局において委託事業における人件費の算定方法についての理解が十分でなかったこと、本省において実績報告書等の検査が十分でなかったことなどによるものと認められる。