【改善の処置を要求したものの全文】
農業農村整備事業等における公共測量の手続の実施について
(令和4年10月13日付け 農林水産大臣宛て)
標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり改善の処置を要求する。
記
貴省は、土地改良法(昭和24年法律第195号)等に基づき、農業の生産性の向上等に資することなどを目的として、国営かんがい排水事業、農業競争力強化基盤整備事業等の農業農村整備事業等を、自ら事業主体となって実施するほか、都道府県、市町村等が事業主体となって実施する場合に事業の実施に要する経費の一部を補助している。そして、各事業主体は、農業農村整備事業等の一環として、同事業等に係る調査、計画、設計、施工、用地取得、換地、管理等に用いるために、各種の測量を実施している。
上記の測量には、既設の基準点(注1)に基づき、新設される基準点等の位置又は標高を定める基準点測量、工事後の一筆ごとの土地の境界点の位置を定め、これを現地に標示して当該土地の形状及び地積を確定する確定測量等の種別がある。
測量法(昭和24年法律第188号)は、国若しくは公共団体が費用の全部若しくは一部を負担し若しくは補助して実施する測量又はこれらの測量の結果を利用する測量について、測量の重複を除き、測量の正確さを確保することなどを目的として、その実施の基準等を定めている。そして、同法等によれば、国又は公共団体が費用の全部又は一部を負担し又は補助して実施するなどする測量(注2)のうち、既設の基準点を2点以上使用して実施するなど、規模や精度に関する一定の要件を満たすものは、公共測量に該当するとされている。
同法等によれば、公共測量を計画する事業主体(以下「測量計画機関」という。)は、測量の標準的な作業方法を定めることにより規格を統一するとともに、必要な精度を確保するために、観測機械の種類、観測法、計算法等を規定した作業規程を定め、あらかじめ国土交通大臣の承認を得なければならず、測量計画機関は、当該作業規程に基づいて公共測量を実施しなければならないこととされている。
そして、同法等によれば、公共測量を実施する場合は、測量計画機関から国土地理院に計画書及び測量成果を提出するなどの手続を行わなければならないこととされており、その手続の流れを示すと図のとおりである(以下、同法等に基づき測量計画機関及び国土地理院が行う手続を「公共測量の手続」という。)。
図 公共測量の手続の流れ
公共測量の手続を行うことにより、測量成果は、その精度が確保され、当該測量計画機関が実施する後続の工事等や他の測量計画機関が他の測量目的で実施する公共測量において基準として使用することができるようになるほか、地理情報システム(GIS)(注3)の背景図とされるなど様々な用途に利活用されることになっている。そして、既成の測量成果が利活用されることで、測量の重複が省かれ、コスト縮減等の効果が発現されることになっている。
国土地理院は、公共測量の手続が適切に行われるよう、公共測量の意義や手続について解説した「公共測量の手引」を作成し、測量計画機関に対して周知している。
基準点測量により新設される基準点の位置には、コンクリート部に金属標を埋設するなどした恒久的な標識(以下「永久標識」という。)又はプラスチック杭等による一時標識を測量標として設置することとなっている。前記のとおり、公共測量の測量成果については国土地理院において一般の閲覧に供されるが、このうち永久標識が設置された基準点に係る情報については、国土地理院が運用するインターネット上の「基準点成果等閲覧サービス」に掲載され、他の測量計画機関等がより簡単に閲覧することなどができるようになっている。
貴省は、測量法に基づき地方農政局等の測量計画機関が直轄事業において行う公共測量について「測量作業規程」(平成9年7月農林水産省構造改善局制定。令和3年2月最終改正)を定め、国土交通大臣の承認を得ている。同規程は、主に測量の標準的な作業方法を定めているものであるが、公共測量の手続を適切な時期に行わなければならないことなどについても規定している。また、貴省は、補助事業においても農業農村整備事業等に係る公共測量が適切に実施されるよう、都道府県に対して同規程を技術的な助言として参考送付しており、都道府県は、管内市町村等に対して同規程を参考送付するなどしている。そして、都道府県、市町村等の各測量計画機関は、同規程を準用するなどしてそれぞれ作業規程を定め、国土交通大臣の承認を得た上で、これに基づき農業農村整備事業等に係る公共測量を実施している。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
本院は、効率性等の観点から、公共測量の手続を適切に行うことにより、他の測量計画機関等がその測量成果を様々な用途に利活用できる状況になっているかなどに着眼して検査した。検査に当たっては、令和元、2両年度に、国営かんがい排水事業等9事業(注4)の農業農村整備事業等により4農政局(注5)管内の20測量計画機関及び11県(注6)管内の139測量計画機関の計159測量計画機関が締結した、公共測量に該当する測量に係る業務を含む契約(注7)計1,434契約(直轄事業102契約、契約額計22億2779万余円のうち測量業務費相当額計9億3760万余円。補助事業1,332契約、契約額計109億9669万余円(国庫補助金等交付額計62億4543万余円)のうち測量業務費相当額計63億6490万余円(同計35億7234万余円))を対象として検査を実施した。
また、検査に当たっては、貴省本省及び11県管内の46測量計画機関において、公共測量に係る計画書、仕様書、測量成果等の書類を確認するなどして会計実地検査を行ったり、上記の159測量計画機関から調書の提出を受けてその内容を分析したりするとともに、国土地理院から公共測量の手続について見解を徴するなどして検査した。
(検査の結果)
検査したところ、前記159測量計画機関の1,434契約のうち58測量計画機関(注8)の93契約(直轄事業8測量計画機関17契約、補助事業50測量計画機関76契約)における測量業務については、測量計画機関が国土地理院に計画書及び測量成果を提出するなどしていて、公共測量の手続が行われていた。そして、その測量成果は、国土地理院において一般の閲覧に供されるなどしていた。
一方で、契約数全体の9割以上に当たる145測量計画機関(注8)の1,341契約(直轄事業19測量計画機関85契約(測量業務費相当額計7億2725万余円)、補助事業126測量計画機関1,256契約(測量業務費相当額計56億9431万余円、国庫補助金等交付額計31億9466万余円))における測量業務については、既設の基準点を2点以上使用するなどしていて、公共測量に該当するにもかかわらず、測量計画機関が国土地理院に計画書及び測量成果を提出しておらず、公共測量の手続を行っていなかった。このため、上記の1,341契約に係る測量成果については、公共測量としての精度が確保されていることを客観的に確認できない状況になっていた。そして、これらの測量成果については、国土地理院において一般の閲覧に供されておらず、また、このうち46契約については、永久標識が設置された基準点に係る情報が基準点成果等閲覧サービスにおいても掲載されていなかった。これらのことから、他の測量計画機関等が測量成果を様々な用途に利活用できる状況となっていなかった。
そこで、上記の145測量計画機関に対して、国土地理院に計画書及び測量成果を提出しなかった理由を確認したところ、公共測量に該当する場合には公共測量の手続を行うことが必要であること自体を知らなかったことによるものが558契約(上記の1,341契約に対する割合41.6%)となっていた。また、公共測量に該当する場合には公共測量の手続が必要であることは知っていたが、既設の基準点を2点以上使用するなどしていても、小規模な測量や後続の工事等で測量標が亡失する可能性が高い測量は公共測量に該当しないと誤解していたり、当該測量計画機関において従前から同種の測量について公共測量の手続を行っていなかった測量は公共測量に該当しないと誤解していたりするなど、測量計画機関の誤解によるものが647契約(同48.2%)となっていた。
そして、貴省においては、前記のとおり、公共測量の手続を行わなければならないことについて、直轄事業に係る測量作業規程を定めたり、補助事業を実施する都道府県に対して同規程を参考送付したりするなどしているものの、同規程には、公共測量の手続に係る測量法の該当条項が挙げられているのみとなっていた。そして、同規程がそのような記載内容であるにもかかわらず、農業農村整備事業等の一環として実施する測量に関して、どのようなものが公共測量に該当するかなどについて事務連絡等を発出して周知するなどの対応も執っておらず、測量計画機関において公共測量の手続が適切に行われるために必要な指導又は助言を十分に行っていなかった。
前記の事態について、事例を示すと次のとおりである。
<事例>
大分県は、大分県日田市の杉河内地区(地区面積0.16km²)において、ほ場整備を行う地区の境界を明確にするために、令和元年度に農業競争力強化基盤整備事業に係る国庫補助金の交付を受けて、同県西部振興局を測量計画機関として、基準点測量、用地測量等の測量業務を事業費1557万余円(国庫補助金交付額856万余円)で実施している。
同局は、当該測量業務において、既設の基準点3点を使用して基準点測量により基準点75点を設置し、これらの基準点に基づき用地測量等を実施していることから、当該測量は公共測量に該当する。また、上記基準点75点のうち5点については永久標識を設置している。
しかし、同局は、公共測量に該当する場合には公共測量の手続を行うことが必要であることは知っていたものの、当該測量は1km²未満の範囲における小規模な測量であり、公共測量には該当しないものであると誤解していた。その結果、同局は、国土地理院に計画書を提出しておらず、その技術的助言を受けることなく公共測量を実施していた。そして、当該公共測量の測量成果を国土地理院に提出しておらず、その審査も受けていなかった。このため、当該測量成果については、公共測量としての精度が確保されていることを客観的に確認できない状況になっていた。そして、国土地理院において一般の閲覧に供されておらず、また、上記の永久標識が設置された基準点5点については、基準点に係る情報が基準点成果等閲覧サービスにおいても掲載されていなかった。これらのことから、他の測量計画機関等が近接する道路や河川の整備等に係る測量等において当該測量成果を利活用できる状況となっていなかった。
(改善を必要とする事態)
測量計画機関が公共測量の手続を適切に行っていないため、その測量成果について、公共測量としての精度が確保されていることを客観的に確認できない状況となっていたり、国土地理院において一般の閲覧に供されていなかったりなどしていて、他の測量計画機関等が様々な用途に利活用できる状況になっていない事態は適切ではなく、改善を図る要があると認められる。
(発生原因)
このような事態が生じているのは、測量計画機関において、公共測量の手続についての理解が十分でないことにもよるが、貴省において、農業農村整備事業等の一環として測量を実施する場合に公共測量の手続を適切に行うことについて測量計画機関に対して十分に指導又は助言を行っていないことによると認められる。
農業農村整備事業等の実施に伴う公共測量は、今後も全国で多数実施されることが見込まれる。そして、測量成果について、公共測量としての精度を確保したり、国土地理院において一般の閲覧に供されるようにしたりして、他の測量計画機関等が様々な用途に利活用できるようにするためには、公共測量の手続を適切に行っていく必要がある。
ついては、貴省において、測量計画機関が農業農村整備事業等の一環として測量を実施する場合には、公共測量に該当する測量について計画書及び測量成果を国土地理院に提出するなどの公共測量の手続を適切に行うよう、地方農政局等の測量計画機関に対して十分に指導するとともに、地方農政局等を通じるなどして都道府県、市町村等の測量計画機関に対して十分に助言を行うなどの改善の処置を要求する。