【意見を表示したものの全文】
独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構が管理している取戻しが見込まれない鉱害賠償積立金の取扱いについて
(令和4年10月7日付け 資源エネルギー庁長官宛て)
標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり意見を表示する。
記
我が国の石炭鉱業は、近代化を支える基幹産業として重要な役割を果たしてきたが、石炭の採掘により広範囲にわたり農地や家屋等の地盤が沈下するなどの鉱害を発生させ、産炭地において深刻な問題をもたらしてきた。そして、このような鉱害に対する賠償制度の充実を図るために、石炭鉱害賠償担保等臨時措置法(昭和38年法律第97号。昭和43年5月以降は石炭鉱害賠償等臨時措置法。以下「賠償法」という。)が制定され、石炭又は亜炭を目的とする鉱業権者(注1)(租鉱権者(注2)を含む。以下「鉱業権者等」という。)は、鉱害賠償に要する費用の一部を鉱害賠償積立金として積み立てることとなった。その額は、「鉱害賠償積立金算定基準」(昭和38年通商産業大臣決定。以下「算定基準」という。)によれば、鉱物の試掘、採掘等のために登録を受けた一定の土地の区域(以下「鉱区」という。)に関して将来発生することが見込まれる分も含めた沈下鉱害(注3)の予想鉱害量を基礎として算定することとされた。そして、賠償法に基づき特殊法人として設立された鉱害賠償基金が、鉱害の賠償のための担保の管理業務(以下「鉱害賠償担保管理業務」という。)として鉱害賠償積立金等を管理することとなった。その後、「石炭鉱業の構造調整の完了等に伴う関係法律の整備等に関する法律」(平成12年法律第16号)により、所要の経過措置を設けた上で平成13年度末に賠償法等が廃止されたことなどに伴い、鉱害賠償担保管理業務は、鉱害賠償基金から複数の法人を経て、15年10月に独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(27年4月1日以降は国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構。以下「NEDO」という。)に、さらに、25年4月に独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」という。)に承継された。
そして、機構は、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構法(平成14年法律第94号。以下「機構法」という。)附則第6条の規定に基づき、石炭経過勘定において鉱害賠償担保管理業務に関する経理を行い、鉱害賠償積立金等を管理している。また、機構の財務諸表等によると、鉱害賠償積立金は、「鉱害賠償担保預り金」の一部として負債に計上されており、令和3事業年度(以下、事業年度を「年度」という。)末現在の残高は12億3315万余円となっている。
鉱業法(昭和25年法律第289号)第109条の規定によれば、鉱物の掘採のための土地の掘削等によって他人に損害を与えた場合には、損害発生時又は鉱業権消滅時における当該鉱区の鉱業権者等が、その損害について賠償する義務を負うこととされている(以下、賠償する義務を負うこととされる鉱業権者等を「賠償義務者」という。)。
貴庁は、賠償義務者の存否等により、鉱区を有資力鉱区と無資力鉱区に区分している。このうち、有資力鉱区は、賠償義務者が存在している鉱区(以下、有資力鉱区に係る賠償義務者を「有資力賠償義務者」、有資力鉱区に係る鉱害賠償積立金を「有資力積立金」という。)となっている。一方、無資力鉱区は、賠償義務者が存在しなかったり、賠償義務者の求めに応じ、通商産業局(平成13年1月6日以降は経済産業局)等が事業の廃止等を理由として賠償義務者が資力を有しないことの認定(以下、この認定を「無資力認定」という。)を行ったりした鉱区(以下、無資力鉱区に係る賠償義務者を「無資力賠償義務者」という。)となっている。貴庁によれば、賠償義務者が通商産業局等に対して無資力認定を求めた場合、同局等は、賠償義務者がそれまで積み立てた鉱害賠償積立金に関する一切の権利を放棄することなどを条件として無資力認定を行っていた(以下、賠償義務者が一切の権利を放棄するなどした無資力鉱区に係る鉱害賠償積立金を「権利放棄等積立金」という。)。
機構法附則第6条等の規定によりなお効力を有することとされている賠償法第6条等の規定によると、鉱区において沈下鉱害が発生して被害者に対して鉱害賠償をするなどした賠償義務者は、機構に対して取戻しの請求を行うなどして、機構から鉱害賠償積立金を取り戻せることとなっている。一方、上記取戻し以外の鉱害賠償積立金の処理については、賠償法等に定められていない。
貴庁は、16年3月に、その当時鉱害賠償担保管理業務を実施していたNEDOに対して、鉱害賠償積立金の経理処理に関する取扱いを指示している。この中で、権利放棄等積立金について、積み立てておく必要のないものまでが長期にわたり積み立てられた状況となっていることを踏まえて、民法(明治29年法律第89号)の規定による債権等の消滅時効の期間を参考に、積立原因の消滅日である累積鉱害解消の旨の公示(注4)がされた日等を始期として20年間を経過(以下、20年間の経過を「期間経過」という。)した後にNEDOの収益に計上する取扱いをすることが適当であるとしている。
NEDOにおいては、上記の指示に基づき期間経過により収益計上したものはなかったが、NEDOから鉱害賠償担保管理業務の承継を受けた機構においては、26年度以降、権利放棄等積立金について期間経過により収益計上しており、有資力積立金についても上記の指示に準じて期間経過により収益計上している。そして、機構は、鉱害賠償積立金の収益計上に当たっては、期間経過分の金額を負債の「鉱害賠償担保預り金」から減額し、同額を収益の「雑益」に計上している。
一方、機構は、機構法等に基づき鉱業権者等が積み立てた鉱害賠償積立金を管理しなければならないことを理由に、期間経過により収益計上した鉱害賠償積立金を他に活用することなく、そのまま現金等として保有している。
機構の石炭経過勘定における独立行政法人通則法(平成11年法律第103号。以下「通則法」という。)第44条の規定による積立金の処分については、機構法附則第7条の規定に基づき中期目標期間の最終年度において通則法第44条の規定により整理することとなっている。そして、経済産業大臣が、当該中期目標期間中に償還された貸付金(注5)に当該積立金を加えた金額のうち、石炭経過業務に必要な資金に充てるべき金額を勘案して機構が国庫に納付すべき金額を定めたときは、当該金額を国庫に納付しなければならないこととなっている。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
鉱害賠償積立金については、13年度末に賠償法等が廃止されてから20年余り経過した令和3年度末においても、前記のとおり、これに係る多額の現金等が他に活用されないまま保有されている。
そこで、本院は、効率性、有効性等の観点から、鉱害賠償積立金の状況はどのようになっているか、賠償義務者は鉱害賠償積立金を取り戻しているかなどに着眼して検査した。
検査に当たっては、機構が鉱害賠償担保管理業務を承継した平成25年度から令和3年度までの間に機構が管理している鉱害賠償積立金を対象として、貴庁及び機構において、機構の管理の状況、賠償義務者による取戻しの状況等について関係資料を確認するとともに、担当者から説明を聴取するなどして会計実地検査を行った。
(検査の結果)
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
3年度末における機構の財務諸表上の鉱害賠償積立金の残高12億3315万余円を鉱区別にみると、有資力積立金の残高は1441万余円である一方、権利放棄等積立金の残高は12億1873万余円となっていた。
このように権利放棄等積立金が多額となっている理由について、貴庁は、これまで積み立てた鉱害賠償積立金に関する一切の権利を放棄することなどを条件として無資力認定を行ってきたことなどもあり、無資力認定による無資力賠償義務者が増加し、機構において無資力賠償義務者が権利を放棄するなどした鉱害賠償積立金が現金等で管理されたままとなっているためとしている。
また、平成25年度から令和3年度までの間における鉱害賠償積立金の管理の状況をみると、機構は、計3億4136万余円(有資力積立金1163万余円及び権利放棄等積立金3億2973万余円)を期間経過により収益計上しており、3年度末において機構が現金等で管理している鉱害賠償積立金の残高は、表のとおり、財務諸表上の鉱害賠償積立金の残高12億3315万余円に上記の収益計上した額3億4136万余円を加えた計15億7452万余円(有資力積立金の残高2604万余円及び権利放棄等積立金の残高15億4847万余円)となっていた。
なお、前記の3年度末における財務諸表上の鉱害賠償積立金のうち権利放棄等積立金については、機構において、9年度までに12億1873万余円の全額を、期間経過の都度、収益計上する予定となっている。
表 機構が現金等で管理している鉱害賠償積立金の残高等
(単位:千円)区分 | 令和3年度末における財務諸表上の鉱害賠償積立金の残高 (A)
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平成25年度から令和3年度までの間に期間経過により収益計上した額 (B)
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3年度末において機構が現金等で管理している鉱害賠償積立金の残高 ((A)+(B))
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鉱害賠償積立金 | 1,233,153 | 341,368 | 1,574,521 | |
有資力積立金 | 14,416 | 11,631 | 26,048 | |
権利放棄等積立金 | 1,218,737 | 329,736 | 1,548,473 |
鉱害賠償積立金については、平成13年度末に賠償法等が廃止されており、新たに鉱業権者等が算定基準に基づき積み立てる必要がない状況となっている。また、前記のとおり、算定基準によれば、鉱害賠償積立金の算定の基礎となっている沈下鉱害については、採掘終了後最長でも2年半で安定するとされている。
そこで、25年度から令和3年度までの間における賠償義務者による鉱害賠償積立金の取戻しの状況をみたところ、全国において沈下鉱害は一度も発生していなかったことから、賠償義務者が鉱害賠償のために機構に対して取戻しの請求を行った例は見受けられなかった。
また、鉱害賠償以外の取戻しについてみると、有資力積立金については、一部の有資力賠償義務者により、既に沈下鉱害が安定していることを踏まえて、機構から計6628万余円を取り戻している例が見受けられた。一方、権利放棄等積立金については、機構に対して取戻しの請求を行う者がいない状況であるため、鉱害賠償以外の取戻しが行われた例もなかった。
しかし、取戻し以外の鉱害賠償積立金の処理が賠償法等において定められていないことなどのため、権利放棄等積立金は、長期にわたり現金等として保有され続けていて、他に活用されていない状況となっている。
また、機構の石炭経過勘定には3年度末現在102億7067万余円と多額の繰越欠損金が累積しているため、期間経過により収益計上した額については、現時点において機構法附則第7条の規定に基づき中期目標期間終了時に国庫納付することも見込まれない状況となっている。
(1)及び(2)のとおり、3年度末において機構が管理している権利放棄等積立金の残高15億4847万余円については、無資力賠償義務者からの取戻しが見込まれないにもかかわらず、他に活用されないまま保有され続けている状況となっている。
(改善を必要とする事態)
今後も無資力賠償義務者からの取戻しが見込まれないにもかかわらず、機構において権利放棄等積立金を管理し続けていて他に活用していない事態は適切ではなく、改善の要があると認められる。
(発生原因)
このような事態が生じているのは、貴庁において、今後も無資力賠償義務者からの取戻しが見込まれず、機構において現金等のまま管理されることとなる権利放棄等積立金について、他に活用することの検討を行っていないことによると認められる。
鉱害賠償積立金は、平成13年度末に賠償法等が廃止されて新たに鉱業権者等が積み立てる必要がない状況となっており、権利放棄等積立金については、無資力賠償義務者からの取戻しが見込まれないにもかかわらず、取戻し以外の鉱害賠償積立金の処理が定められていないことなどにより、長期にわたり積み立てられたままとなっていて、他に活用されていない状況となっている。
ついては、貴庁において、今後も無資力賠償義務者からの取戻しが見込まれない権利放棄等積立金について、必要な制度を整備するなどして国庫納付することも含めた活用を図るよう意見を表示する。