関東地方整備局(以下「整備局」という。)は、東京国際空港において平成28年度から令和2年度までの間に、国際線地区と国内線地区を結ぶために延長2,168.8mの地下の道路トンネル(以下「際内トンネル」という。)を整備するなどの工事(以下「トンネル工事」という。)を工事費78,271,140,470円で実施している。
整備局は、際内トンネルの整備に当たり、シールド工法を用いており、鋼製の円筒形掘削機(シールドマシン)を推進させて地盤を掘削し、掘削機の後部においてセグメントと呼ばれるブロックをリング状に組み立てる一次覆工を行うなどしてトンネルを築造している。そして、際内トンネルについては、2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会の開催により増加が見込まれる空港利用者の利便性向上のため、それまでに供用を開始できるよう、一次覆工に当たっては鋼製材の内部にコンクリートを打設した合成セグメント等を使用することとして、一次覆工の後で更にコンクリートをセグメントの内側に巻き立てる二次覆工を省略することとし、工期の短縮を図るなどしている。
そして、際内トンネルには、火災時の排煙を目的としてジェットファン8基を設置することとしており、東京航空局が、元、2両年度にトンネル工事とは別にジェットファンの設置工事を実施している。
二次覆工を省略する場合、ジェットファン等の設置のためにセグメントの組立後にアンカーを設置するとアンカーとセグメントの鉄筋に干渉が生ずるおそれがあることから、整備局は、東京航空局からインサート(注1)計96本をあらかじめ埋め込んだセグメント(以下、インサートを埋め込んだセグメントを「インサート付きセグメント」という。)を工場で製作して、ジェットファンの設置位置に組み立てるよう依頼を受けて、平成29年3月に設計変更を行うなどしていた。
整備局は、トンネル工事の施工を「トンネル標準示方書(シールド工法編)・同解説」(土木学会編。以下「示方書」という。)等に基づいて実施している。示方書によれば、シールドの掘進に際しては、シールドのローリング(注2)等の状況を測定してシールドの位置と姿勢を把握する掘進管理測量を行わなければならないとされている。また、一次覆工は、掘進完了後速やかに所定の方法に従い、正確かつ堅固に施工しなければならないとされており、出来形管理は事前に定めた管理基準を用いて設計値と実測値の対比を行い、構造物が設計図書に示された出来形を満足するようにしなければならないとされている。
本院は、合規性等の観点から、トンネル工事におけるインサートの設置に係る設計が適切に行われているかなどに着眼して、整備局において、設計図面、特記仕様書等の設計図書及び現地の状況を確認するなどして会計実地検査を行った。
検査したところ、次のとおり適切とは認められない事態が見受けられた。
シールド工法においては、シールドの掘進時にローリングによるずれが生ずるおそれがあることから、インサートを用いてジェットファンを所定の位置に取り付けるためには、ローリングによるトンネルの中心軸周りのずれに対する許容範囲を示した出来形管理値を定め、これに基づいて出来形管理を行う必要があると認められる。
しかし、整備局は、際内トンネルの形状が円形断面であることから、躯体の安全性に影響を及ぼすことはないなどとして、特記仕様書等の設計図書において、インサート付きセグメントのローリングによるずれに係る出来形管理値を定めていなかった。
そのため、トンネル工事においては、ローリングによるずれに係る出来形管理が行われず、その結果、インサート付きセグメントに最大372mmのローリングによるずれが生ずるなどしていた。
そして、ジェットファン8基のうち6基を取り付けるためのインサート計60本については、ローリングによるずれが生じていたことにより、ジェットファンを取り付ける作業スペースを設けられなかったり、当該ずれた位置に取り付けたのでは建築限界(注3)を確保できなくなっていたりなどしていて、当該インサートを用いることができない状況となっていた(参考図参照)。
したがって、トンネル工事のうち、ジェットファン6基を取り付けるためのインサート計60本に係る設置工事は、設計図書においてローリングによるずれに係る出来形管理値を定めておらず、設計が適切でなかったため、インサート付きセグメントにローリングによるずれが生ずるなどしており、当該インサートを用いてジェットファンを取り付けることができない状況となっていて、工事の目的を達しておらず、これに係る工事費相当額3,153,067円が不当と認められる。
このような事態が生じていたのは、整備局において、インサート付きセグメントの設置に当たり、ローリングによるずれに係る出来形管理値を定めることについての理解が十分でなかったことなどによると認められる。
なお、東京航空局は、ジェットファンが取り付けられない状態のままでは際内トンネルを供用することはできないことから、手直し工事を実施し、ジェットファンの取付けを行っていた。
(参考図)
本来のジェットファンの設置位置の概念図
ローリングによるずれが生じた場合のジェットファンの設置位置の概念図