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  • 令和3年度|
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  • (1) 工事の設計が適切でなかったもの

ガードレール及びブロック積擁壁の設計が適切でなかったもの[熊本県](233)


(1件 不当と認める国庫補助金 2,084,528円)

 
部局等
補助事業者等
(事業主体)
補助事業等
年度
事業費
国庫補助対象事業費
左に対する国庫補助金等交付額
不当と認める事業費
国庫補助対象事業費
不当と認める国庫補助金等相当額
          千円 千円 千円 千円
(233)
熊本県
熊本県
河川等災害復旧
平成29~令和元
51,868
(46,241)
36,807 2,623
(2,618)
2,084

この補助事業は、熊本県が、平成28年熊本地震により被災した一般県道稲生野甲佐線等の道路路肩部分、法面等を復旧するために、石・ブロック積(張)工、防護柵工等を実施したものである。

このうち、石・ブロック積(張)工は、法面を保護するために、ブロック積擁壁(高さ1.7m~3.9m、延長計86.5m)を築造するなどしたものであり、防護柵工は、車両が道路路肩部分から法面へ転落するのを防止するために、延長計122.1mにわたって、支柱を土中に埋め込む構造等のガードレールを設置するなどしたものである(参考図1及び2参照)。そして、同県は、本件工事の設計業務を設計コンサルタントに委託し、設計図面、設計計算書等の成果品を検査して受領した上で、この成果品に基づき施工することとしていた。

同県は、ブロック積擁壁の設計を「道路土工 擁壁工指針」(社団法人日本道路協会編。以下「指針」という。)等に基づいて行うこととしており、指針等によれば、擁壁の設計に当たっては、自重、土圧等の荷重に加えて、設置箇所の状況等の条件によっては、特に考慮しなければならない荷重として衝突荷重等の荷重を考慮することとされていて、これらの荷重について擁壁自体の安定性の照査及び部材の安全性の照査(以下「応力計算等」という。)を行うこととされている。ただし、ブロック積擁壁については、土圧が小さい場合等には、応力計算等を行うことなく指針に示された擁壁の直高と背面勾配等の関係表等に基づく設計により施工することができるとされている。また、ガードレールを擁壁の頂部に直接設ける場合には、車両がガードレールに衝突する際の衝突荷重を考慮して応力計算等を行うこととされている。

また、同県は、ガードレールの設計を「車両用防護柵標準仕様・同解説」(社団法人日本道路協会編)等に基づいて行うこととしており、同解説によれば、衝突荷重に対するガードレールの支柱の支持力は、支柱を土中に埋め込む場合には、支柱の背面土が反力として抵抗するため、支柱1本が関与する背面土の質量(以下「背面土質量」という。)を算出するなどして評価することとされている。

そして、同県は、本件工事のブロック積擁壁の設計において、前記の関係表等に基づき、ブロック積擁壁の安全性の検討を行ったところ、擁壁の直高等が安全とされる範囲内に収まっていたことなどから、設計上安全であるとしていた。

しかし、同県は、ガードレールが近接して設置等されたブロック積擁壁の延長計9.2mの区間(うち本件工事でガードレールを設置した区間3.5m、既設のガードレールを存置した区間5.7m。参考図1参照)について、その背面の地盤に設置等したガードレールの設計において、支柱の支持力についての検討を行っていなかった。

そこで、上記の延長計9.2mの区間におけるガードレールの支柱の支持力について、背面土質量により評価するなどして確認したところ、同支柱がブロック積擁壁に近接した位置に設置等されていたことから、同支柱の背面土質量は、必要とされる背面土質量0.82tを大幅に下回る0.25t又は0.34tとなっていて、同支柱は所要の支持力が得られていなかった。このため、当該区間のガードレールに車両が衝突した場合、ブロック積擁壁には、設計時に想定していなかった衝突荷重が作用することとなる。

また、上記の延長計9.2mの区間とは別の既設のガードレールを頂部に直接設けていたブロック積擁壁の延長1.3mの区間(参考図2参照)について、ガードレールをブロック積擁壁の頂部に直接設けていたのに、ブロック積擁壁の設計において、衝突荷重を考慮した応力計算等を行っていなかった。

そこで、これらのブロック積擁壁の延長計10.5mの区間について、指針等に基づき衝突荷重を考慮して応力計算等を行ったところ、ブロック積擁壁のコンクリートに生ずる曲げ引張応力度(注)は、延長計9.2mの区間においては最大で0.52N/mm²、延長1.3mの区間においては1.74N/mm²となり、いずれも許容曲げ引張応力度(注)0.33N/mm²を大幅に上回っていて、設計計算上安全とされる範囲に収まっていなかった。

したがって、前記の延長計9.2mの区間のうち本件工事で設置した3.5mの区間に係るガードレール、上記の延長9.2m及び1.3mの計10.5mの区間に係るブロック積擁壁等(工事費相当額2,623,724円)は、設計が適切でなかったため、所要の安全度が確保されていない状態になっており、これに係る国庫補助金相当額2,084,528円が不当と認められる。

このような事態が生じていたのは、同県において、委託した設計業務の成果品に誤りがあったのに、これに対する検査が十分でなかったことなどによると認められる。

(注)
曲げ引張応力度・許容曲げ引張応力度  「曲げ引張応力度」とは、材の外から曲げようとする力がかかったとき、そのために材の内部に生ずる力のうち引張側に生ずる力の単位面積当たりの大きさをいう。その数値が設計上許される上限を「許容曲げ引張応力度」という。

(参考図1)

ガードレール、ブロック積擁壁等の概念図(延長計9.2mの区間)

背面の地盤に設置等したガードレールの設計において、支柱の支持力についての検討を行っていなかった。

(参考図2)

ガードレール、ブロック積擁壁等の概念図(延長1.3mの区間)

ブロック積擁壁の設計において、衝突荷重を考慮した応力計算等を行っていなかった。