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  • 令和3年度|
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  • (1) 工事の設計が適切でなかったもの

擁壁の設計が適切でなかったもの[佐賀県](234)


(1件 不当と認める国庫補助金 1,651,888円)

 
部局等
補助事業者等
(事業主体)
補助事業等
年度
事業費
国庫補助対象事業費
左に対する国庫補助金等交付額
不当と認める事業費
国庫補助対象事業費
不当と認める国庫補助金等相当額
          千円 千円 千円 千円
(234)
佐賀県
佐賀県
社会資本整備総合交付金
(道路)
2、3 84,658
(84,658)
48,255 2,898
(2,898)
1,651

この交付金事業は、佐賀県が、唐津市七山木浦地内において、一般県道鳥巣浜崎停車場線の交通の安全性を確保し、利便性を向上させるために、擁壁工、舗装工等を実施したものである。

このうち擁壁工は、重力式擁壁の上部にブロック積擁壁を載せた既設の擁壁等(以下「下段既設擁壁」という。)の上部に行った盛土の土留めなどを目的としてL型擁壁(延長20.0m、高さ2.25m~2.5m)を設置するものである(参考図1参照)。

同県は、擁壁の設計を「道路土工 擁壁工指針」(社団法人日本道路協会編。以下「指針」という。)等に基づいて行うこととしている。そして、本件工事の設計業務を設計コンサルタントに委託し、設計図面、設計計算書等の成果品を検査して受領した上で、この成果品に基づき施工することとしていた。

指針によれば、擁壁の設計に当たっては、自重、載荷重、土圧等の荷重を考慮することとされており、これらの荷重について滑動、転倒及び支持に対して所定の安全率を確保するよう擁壁自体の安定性の照査並びに背面盛土及び基礎地盤を含む斜面全体としての安定性の検討を行うこととされている。そして、二段以上の多段ブロック積擁壁については、上段の擁壁の重量が下段の擁壁に対して載荷重として作用することなどから、背面盛土及び基礎地盤を含む斜面全体としての安定に問題があるので、原則として避けなければならないこととされている。また、やむを得ず二段以上の多段ブロック積擁壁を用いる場合は、下段の擁壁に悪影響が及ばないように上段の擁壁と下段の擁壁の間に2m以上の小段を設けるなどの対策を講ずる必要があるとされている。その上で、下段の擁壁に対して上段の擁壁からの荷重の影響が考えられるときは、その影響を考慮して、各段における擁壁自体の安定性の照査に加えて、斜面全体としての安定性の検討を行うこととされている。

しかし、同県は、本件工事の設計において、下段既設擁壁の上段に新たにL型擁壁を設置することにより、斜面全体が多段ブロック積擁壁と同じ構造となり、上段の擁壁の重量が下段既設擁壁に対して載荷重として作用することになるにもかかわらず、下段既設擁壁と上段に新設するL型擁壁との間に2m以上の小段を設けるなどの検討を行っていなかった。そして、現地の状況を確認したところ、新たにL型擁壁を設置した延長20.0mのうち10.0mの区間については2m以上の小段が確保されておらず、最も狭い小段幅は1.15mとなっていて、下段既設擁壁に対して、上段に新設したL型擁壁等からの荷重の悪影響が及ぶおそれがある状況となっていた。また、これ以外の区間については、下段の擁壁に対して、上段の擁壁からの荷重の影響が考えられるかどうかの検討を行っていなかった。

そこで、本院が、上段に新たにL型擁壁を設置した20.0mの区間において、L型擁壁を設置したことによる載荷重の増加の影響を考慮して、各段における擁壁自体の安定性及び斜面全体の安定性について確認したところ、次のとおりとなっていた。

① 下段既設擁壁のうちブロック積擁壁は、6.1mの区間において、滑動に対する安定について、安全率が常時で0.98から1.10まで、地震時で0.52から0.88までとなっていて、許容値である常時1.50、地震時1.20をいずれも大幅に下回るなどしていた。

② 下段既設擁壁のうち重力式擁壁は、①の区間に含まれる2.6mの区間において、転倒に対する安定について、地震時に擁壁に作用する擁壁背面の土圧等による水平荷重及び擁壁の自重等による鉛直荷重の合力の作用位置が、擁壁の底版(幅1.649m)中央から前面側に最大で0.925m、最小で0.807mの位置となり、転倒に対して安全であるとされる範囲0.550mを大幅に逸脱するなどしていた。

③ 上段に新たに設置したL型擁壁と下段既設擁壁を一体とした斜面全体については、②と同じ区間において、すべりに対する安定について、安全率が常時で0.861から0.876まで、地震時で0.764から0.844までとなっていて、許容値である常時1.20、地震時1.00をいずれも大幅に下回っていた。

以上のとおり、上段に新たにL型擁壁を設置したことにより、6.1mの区間に係る下段既設擁壁の安定性及び同区間中の2.6mの区間に係る斜面全体としての安定性がそれぞれ確保されない状態となっていて、この6.1mの区間と一体的な構造となっている下段既設擁壁の延長13.68mの区間については、下段既設擁壁が滑動等したり、斜面全体が滑ったりするおそれがある。そして、この区間の下段既設擁壁が滑動等したり、斜面全体として滑ったりした場合には、この区間の上段に新たに設置したL型擁壁(延長14.0m)もその影響を受けて滑動等することとなる(参考図2参照)。

したがって、本件L型擁壁(延長14.0m)等(工事費相当額計2,898,050円)は、設計が適切でなかったため、所要の安全度が確保されていない状態となっており、これに係る交付金相当額計1,651,888円が不当と認められる。

このような事態が生じていたのは、同県において、委託した設計業務の成果品に誤りがあったのに、これに対する検査が十分でなかったこと、指針等の理解が十分でなかったことなどによると認められる。

(参考図1)

各擁壁の断面図(概念図)

重力式擁壁の上部にブロック積擁壁を載せた既設の擁壁等(以下「下段既設擁壁」という。)の上部に行った盛土の土留めなどを目的としてL型擁壁(延長20.0m、高さ2.25m~2.5m)を設置するものである。

(参考図2)

各擁壁の縦断図(概念図)

下段既設擁壁が滑動等したり、斜面全体として滑ったりした場合には、この区間の上段に新たに設置したL型擁壁(延長14.0m)もその影響を受けて滑動等することとなる。