【適宜の処置を要求し及び是正改善の処置を求め並びに改善の処置を要求したものの全文】
空き家対策事業における空き家等の除却等について
(令和4年10月19日付け 国土交通大臣宛て)
標記について、下記のとおり、会計検査院法第34条の規定により是正の処置を要求し及び是正改善の処置を求め、並びに同法第36条の規定により改善の処置を要求する。
記
貴省は、居住の用に供することが著しく不適当な住宅が集合することなどにより生活環境の整備が遅れている地区における住環境の整備改善等のために、平成22年度から、市区町村が行う空き家対策のための取組を支援することを目的とした社会資本整備総合交付金の基幹事業の一つとして空き家再生等推進事業を実施している。
また、適切な管理が行われていない空き家等が防災、衛生、景観等の地域住民の生活環境に深刻な影響を及ぼしていることに鑑み、地域住民の生命、身体又は財産を保護するとともに、その生活環境の保全を図り、あわせて空き家等の活用を促進するため、空き家等に関する施策に関し、必要な事項を定めることにより、空き家等に関する施策を総合的かつ計画的に推進し、もって公共の福祉の増進と地域の振興に寄与することを目的として、27年に、空家等対策の推進に関する特別措置法(平成26年法律第127号)が施行された。貴省は、同法に基づき、28年度から、空き家対策総合支援事業を実施して市区町村における空き家対策の取組を推進している。
そして、貴省は、空き家再生等推進事業については社会資本整備総合交付金を、空き家対策総合支援事業については当該事業に係る補助金(以下、これらを合わせて「補助金等」という。)を、これらの事業により空き家等の除却等をした所有者等に補助金等を交付する市区町村に交付している。
空き家再生等推進事業及び空き家対策総合支援事業(以下、これらを合わせて「空き家対策事業」という。)の実施に当たって、市区町村(政令指定都市を除く。(注1))が所有者等に対し、除却等に要した経費について補助する場合の申請等の手続については、おおむね次のとおり行うこととなっている(図参照)。
図 空き家対策事業の申請等の手続
空き家再生等推進事業の補助の対象となる空き家等の種類は、小規模住宅地区等改良事業制度要綱(平成9年建設省住整発第46号)に基づき、空き家住宅、空き建築物及び不良住宅となっており、空き家対策総合支援事業の補助の対象となる空き家等の種類は、住宅市街地総合整備事業制度要綱(平成16年国住市第350号)に基づき、不良住宅、空家住宅等など表のとおりとなっている。
表 空き家対策事業において補助の対象となる空き家等の種類等
事業 |
空き家等の種類 | 要件 |
跡地の公益的利用の要否 |
---|---|---|---|
空き家再生等推進事業 | 空き家住宅 | 使用されておらず今後も居住の用に供される見込みのない住宅 | 要 |
空き建築物 | 使用されておらず今後も従来の用途に供される見込みのない建築物 | ||
不良住宅 | 主として居住の用に供される建築物又は建築物の部分でその構造又は設備が著しく不良であるため居住の用に供することが著しく不適当なもので、住宅の不良度の評点が100以上のもの | 不要 | |
空き家対策総合支援事業 | |||
特定空家等 | そのまま放置すれば倒壊等著しく保安上危険となるおそれのある状態等にあると認められる空家等 | ||
空家住宅等 | 建築物又はこれに附属する工作物であって居住その他の使用がされていないことが常態であるもの | 要 |
(注) 地方公共団体が所有し、又は管理するものを含む。
表のうち、不良住宅の要件については、住宅地区改良法(昭和35年法律第84号)において、主として居住の用に供される建築物又は建築物の部分でその構造又は設備が著しく不良であるため居住の用に供することが著しく不適当なものとなっている。そして、同法施行規則(昭和35年建設省令第10号)の別表に定められた「住宅の不良度の測定基準による測定表」(以下「測定表」という。)の評定項目に基づき、住宅の基礎、柱、屋根等の構造又は給水等の設備について、その構造又は設備の腐朽及び破損の程度等に係る不良度を測定し、その評点が100以上であるものを不良住宅として取り扱うこととなっている。
また、空き家住宅、空き建築物及び空家住宅等(以下、これらを合わせて「空き家住宅等」という。)の除却に当たっては、小規模住宅地区等改良事業制度要綱、住宅市街地総合整備事業制度要綱(以下、これらを合わせて「要綱」という。)等に基づき、除却後の跡地を地域活性化のための計画的利用に供すること(以下「跡地の公益的利用」という。)が要件となっている。そして、貴省は跡地の公益的利用の例として、ポケットパーク、防災空地等を示している。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
本院は、合規性、有効性等の観点から、空き家対策事業の実施に当たり、市区町村において、不良住宅として除却した空き家等は主として居住の用に供される建築物等を対象としているか、住宅の不良度の測定を測定表の評定項目に基づいた方法により行っているか、空き家住宅等の跡地の公益的利用は要綱等に照らして適切に行われているかなどに着眼して、28年度から令和2年度までの間に19都道県(注2)の334市区町村において実施された空き家対策事業のうち空き家等の除却に係る11,321件(事業費計104億0184万余円、補助金等交付額計50億1902万余円)を対象として検査した。
検査に当たっては、貴省本省及び19都道県167市区町村において、交付申請書、実績報告書、所有者等から提出された除却に係る申請書、契約書等を確認するなどして会計実地検査を行うとともに、上記の167市区町村を含めた19都道県334市区町村については、実績報告書、2年度末現在の実施状況に関する特別調書等の提出を受けて、その内容を確認するなどの方法により検査した。
(検査の結果)
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
前記19都道県の334市区町村のうち18都道県の297市区町村が不良住宅としての除却に要した経費を補助した10,834件(事業費計76億4079万余円、補助金等交付額計36億8999万余円)についてみたところ、3道県の6市町(注3)が除却した36件(事業費計1448万余円、補助金等交付額計739万余円)は、倉庫、牛舎等として使用されていたものであり、主として居住の用に供されていなかったことから、不良住宅の要件を満たしていなかった。
また、6道県の14市町の507件は、住宅の不良度の測定について、測定表の評定項目に基づいた方法ではなく従前から当該市町の事業として実施していた空き家等の除却に係る事業において用いていた測定方法によって実施するなどしていた。そこで、改めて、上記の14市町に対して測定表に基づいた測定を求め、関係資料の提出を受けて測定結果を確認したところ、3町(注4)の28件(事業費計1400万円、補助金等交付額計700万円)については、不良度の評点が100未満となり、不良住宅の要件を満たしていなかった。
上記の事態について、事例を示すと次のとおりである。
<事例1> 主として居住の用に供されていなかったことから不良住宅の要件を満たしていなかったもの
豊後大野市は、令和元年度に空き家対策事業として、同市在住のAが行った自己所有の木造2階建て建築物1棟の除却工事に対し、同市の補助金254,000円を交付したとして、これに対する社会資本整備総合交付金127,000円の交付を受けていた。同市は、Aからの補助申請を受けて、当該建築物の不良度の測定を行い、評点が110となったことから、これを不良住宅として同市の補助金を交付していた。しかし、当該建築物は、Aが居住する母屋と同じ敷地内に建てられた倉庫として利用されていたものであり、主として居住の用に供されていなかったことから、不良住宅の要件を満たしていなかった。
空き家住宅等の除却に要した経費の補助は、跡地の公益的利用が要件とされていることから、市区町村は、跡地が実際に地域活性化に資するものとなっているか把握し、この要件が確実に履行されているか確認する必要がある。そこで、前記19都道県の334市区町村のうち15道県の76市町村が空き家住宅等の除却に要した経費を補助した487件(事業費計27億6104万余円、補助金等交付額計13億2902万余円)について、除却後の跡地が要綱等に基づきポケットパーク、防災空地等として利用されるなど跡地の公益的利用が適切に行われているかについてみたところ、2道県の2市町(注5)の134件については、市町において、周辺住民等に対する跡地の公益的利用の用途等の周知の状況や実際の利用の状況を確認していなかった。このうち1市(注6)が空き家住宅等の除却に要した経費を補助した68件(事業費計4092万余円、補助金等交付額計1839万余円)は、既に跡地に新たに個人の住宅が建築されていたり、土地の形状が傾斜地等であり跡地の公益的利用を行うことがそもそも困難な土地であったりなどしていて、跡地の公益的利用が行われていない状況となっていた。このような状況となっている理由を確認したところ、市の補助金の交付要綱等において、跡地の公益的利用の目的、必要期間等について所有者等の同意等を書面等で得ることなどが具体的に定められておらず、跡地の公益的利用の必要性等について所有者等に十分な説明がされていなかったことなどによるものとなっていた。
また、残る2道県の2市町の66件(事業費計3733万余円、補助金等交付額計1689万余円)についても、除却後の跡地を雪捨て場にしたとしていたが、市町において、自治会の回覧等により周辺住民等に対して跡地の公益的利用の用途等が周知されているか確認していなかったり、跡地の公益的利用の状況を確認していなかったりしていたため、跡地が実際に地域活性化に資するものとなっているか把握していない状況となっていた。
上記の事態について、跡地の公益的利用が行われていない事例を示すと次のとおりである。
<事例2> 跡地の公益的利用が行われていないもの
輪島市は、平成30年度に空き家対策事業として、同市在住のBが行った自己所有の木造2階建て建築物1棟の除却工事に対し、同市の補助金340,000円を交付したとして、これに対する社会資本整備総合交付金153,000円の交付を受けていた。
同市は、交付要綱において、跡地の公益的利用の必要期間や跡地の公益的利用について所有者の同意を書面等で得ることなどについて具体的な定めを設けていなかった。そして、同市は、所有者に対する跡地の公益的利用の必要性等についての説明を、補助金の申請時に主に口頭で行ったとしているが、その際、所有者の同意を得られたかどうかについては、記録が残されていない状況となっていた。また、30年12月に当該建築物の除却が完了した後、31年1月からBの親族が居住するための新たな住宅が建築され、令和4年4月時点においても、当該住宅にBの親族が居住している状況となっており跡地の公益的利用が行われていなかった。そして、同市は、跡地の公益的利用の状況について確認していなかった。
上記(1)及び(2)の事態に係る件数は計198件(事業費計1億0675万余円、補助金等交付額計4968万余円)となる。
(是正及び是正改善並びに改善を必要とする事態)
市町が実施した空き家対策事業において、不良住宅の要件を満たしていないものを不良住宅として除却していたものに補助金等が交付されている事態は適切ではなく、是正及び是正改善を図る要があると認められる。また、空き家住宅等の跡地が実際に地域活性化に資するものとなっているか市町が把握していない事態及び跡地の公益的利用が行われていない事態は適切ではなく、改善を図る要があると認められる。
(発生原因)
このような事態が生じているのは、市町において、不良住宅は主として居住の用に供される建築物等が対象であること、住宅の不良度の測定に当たっては測定表の評定項目に基づいた方法により行うことについての理解が十分でないこと、空き家住宅等の除却に当たり、跡地が実際に地域活性化に資するものとなっているか把握することの必要性についての認識が欠けていること、事業の実施前に所有者等に跡地の公益的利用の必要性等を十分に説明することなどについての認識が欠けていることにもよるが、貴省において、次のことなどによると認められる。
空き家対策事業は、近年、社会問題となっている空き家等の増加を抑制するための施策である一方、本来は所有者等の第一義的な責任の下で適切に行うべき空き家等の除却に対する直接的な公的助成という側面も有している。
ついては、貴省において、空き家対策事業が適切に実施されるよう、次のとおり是正の処置を要求し及び是正改善の処置を求め並びに改善の処置を要求する。