気象庁は、各地の気象台、測候所、特別地域気象観測所(以下「特地観測所」という。)等の施設(以下、これらを合わせて「地上気象観測施設」という。)において、観測装置等により気温、風向、風速、降水量等の地上気象観測を行っている。
地上気象観測施設における観測装置は、温度計、風向風速計、雨量計等の気象測器と、観測装置本体で構成されており、観測装置本体は気象庁の観測局舎、国の合同庁舎(以下「合同庁舎」といい、合同庁舎等の建物の一部を使用することを「入居」という。)等の建物内に設置されるなどしている。また、地上気象観測施設のうち特地観測所は、有人で観測を行っていた測候所等が無人化されて自動で観測を行っている施設であり、令和3年度末現在で全国94か所に設置されている。
気象庁は、各地の地上気象観測施設について、観測装置等に電力供給を行う商用電源が災害時等に途絶した場合(以下「停電時」という。)においても観測を継続するために、地上気象観測施設の種類に応じておおむね24時間分から72時間分までの電力供給が可能な非常用電源を整備するなどして、停電時における観測継続体制の確保を図っている。
特地観測所については、気象庁は、従前から非常用電源として24時間分の蓄電池設備を設置するなどしていたが、平成30年北海道胆振東部地震の際に長期にわたる停電が発生し、一部の特地観測所等において観測データに欠落が生じた。そこで、気象庁は、全国94特地観測所のうち既に72時間分の非常用電源を整備するなどしていた13特地観測所を除いた81特地観測所において停電時における観測継続体制を72時間分に強化することとした。そして、81特地観測所において、元年度に、既設の蓄電池設備を撤去し、新たに蓄電池設備と太陽光発電設備を組み合わせて計72時間分の非常用電源(以下「本件非常用電源」という。)を整備するなどしている。
本件非常用電源の整備に当たっては、気象庁本庁が整備に係る方針(以下「整備方針」という。)を決定し、整備方針に基づき、気象庁本庁や各管区気象台等において計98件(契約金額計3億4550万余円)の契約を締結している。そして、気象庁本庁は、整備方針において、特地観測所が入居している合同庁舎に非常用の自家発電設備が整備されていても、停電が長期化した場合に備蓄燃料が不足したり、自家発電設備が故障等により正常に稼働しなかったりするなどの管理上の懸念があるとして、自家発電設備の有無にかかわらず81特地観測所に一律に本件非常用電源を整備することにしている。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
本院は、経済性等の観点から、特地観測所における非常用電源の整備事業は現地の状況等を踏まえて適切に実施されているかなどに着眼して検査した。
検査に当たっては、6管区気象台等(注1)管内の81特地観測所に整備された本件非常用電源(整備費相当額計3億4393万余円)を対象として、気象庁本庁及び5管区気象台(注2)において、各管区気象台から提出を受けた80特地観測所に係る調書や契約書等の関係書類を確認するとともに、このうち25特地観測所に赴いて現地の状況等を確認するなどして会計実地検査を行った。また、残りの1特地観測所についても調書の提出を受けてその内容を確認するなどして検査した。さらに、合同庁舎に入居している特地観測所については合同庁舎の管理官署から調書の提出を受けてその内容を確認するなどして検査した。
(検査の結果)
検査したところ、81特地観測所のうち17特地観測所では、本件非常用電源の整備事業の実施時において、入居する合同庁舎内に観測装置本体が設置されていて、合同庁舎の商用電源から電力が供給されていた。そして、17特地観測所のうち15特地観測所については合同庁舎に非常用の自家発電設備が整備されており、そのうち10特地観測所については、合同庁舎の自家発電設備が起動するまでの短時間は気象庁の蓄電池設備から電力の供給を受ける必要があるものの、自家発電設備の起動後は合同庁舎の自家発電設備から電力供給が受けられる状況となっていた。
気象庁本庁は、前記のとおり、整備方針において、特地観測所が入居している合同庁舎に非常用の自家発電設備が整備されていても、停電が長期化した場合に備蓄燃料が不足したり、自家発電設備が故障等により正常に稼働しなかったりするなどの管理上の懸念があるとして、自家発電設備の有無にかかわらず81特地観測所に一律に本件非常用電源を整備することにしていた。しかし、気象庁本庁は、整備方針を決定する際に、合同庁舎の自家発電設備に係る管理状況について管理官署に確認していなかった。
そこで、10特地観測所について、自家発電設備の仕様、燃料タンクの容量等に基づき自家発電設備の連続運転可能時間を算出したところ、7特地観測所については72時間以上となっており(表参照)、いずれの管理官署も事前に調整することにより入居官署の業務継続等の必要に応じて燃料を備蓄することは可能であるとしていた。
また、7特地観測所について、入居する合同庁舎の管理官署に自家発電設備の管理状況を確認したところ、いずれの管理官署も保守契約を締結するなどして停電時に自家発電設備が正常に稼働するよう保守、定期点検等を実施していて、故障等により正常に稼働しない可能性は相当程度低い状況となっていた。
表 特地観測所が入居している合同庁舎における自家発電設備の状況
管区気象台等名 | 特地観測所名 | 特地観測所が入居している合同庁舎名 | 合同庁舎に自家発電設備が整備されていた特地観測所 | 停電時に自家発電設備から電力供給が受けられる状況となっていた特地観測所 | 自家発電設備の連続運転可能時間 (単位:時間) |
自家発電設備の連続運転可能時間が72時間以上となっていた特地観測所 |
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札幌 | 岩見沢 | 岩見沢地方合同庁舎 | 〇 | 〇 | 11 | |
倶知安 | 倶知安地方合同庁舎 | 〇 | 〇 | 72 | 〇 | |
根室 | 根室地方合同庁舎 | 〇 | 〇 | 72 | 〇 | |
江差 | 江差地方合同庁舎 | 〇 | 〇 | 179 | 〇 | |
仙台 | 宮古 | 宮古北部港湾合同庁舎 | 〇 | |||
大船渡 | 大船渡合同庁舎 | |||||
新庄 | 新庄合同庁舎 | 〇 | 〇 | 78 | 〇 | |
小名浜 | 小名浜地方合同庁舎 | |||||
東京 | 飯田 | 飯田高羽合同庁舎 | 〇 | |||
敦賀 | 敦賀地方合同庁舎 | 〇 | 〇 | 20 | ||
大阪 | 舞鶴 | 舞鶴港湾合同庁舎 | 〇 | |||
宇和島 | 宇和島港湾合同庁舎 | 〇 | 〇 | 122 | 〇 | |
宿毛 | 宿毛運輸総合庁舎 | 〇 | ||||
福岡 | 厳原 | 厳原地方合同庁舎 | 〇 | 〇 | 145 | 〇 |
牛深 | 牛深運輸総合庁舎 | 〇 | 〇 | 7 | ||
油津 | 油津港湾合同庁舎 | 〇 | ||||
沖縄 | 名護 | 名護地方合同庁舎 | 〇 | 〇 | 87 | 〇 |
計 | 17特地観測所 | 15特地観測所 | 10特地観測所 | 7特地観測所 |
したがって、7特地観測所については、入居する合同庁舎の自家発電設備から72時間以上の電力供給が可能となっていたことから、管理官署に対して自家発電設備の整備状況及び管理状況を十分に確認し、非常用電源として活用するための調整を行っていれば、自家発電設備を活用することにより停電時における72時間分の観測継続体制を確保することができる状況であったと認められた。
このように、本件非常用電源の整備事業の実施に当たり、入居する合同庁舎の自家発電設備を活用することにより停電時における72時間分の観測継続体制を確保することができた特地観測所についても一律に非常用電源の整備対象としていた事態は適切ではなく、改善の必要があると認められた。
(節減できた整備費相当額)
前記の7特地観測所について、入居する合同庁舎の自家発電設備を活用することとして本件非常用電源の整備事業の対象から除いていれば、自家発電設備が起動するまでの短時間の電力供給に必要となる蓄電池設備として、更新時期を迎えていた4特地観測所に係る蓄電池設備の更新費計117万余円(試算額)を考慮したとしても、本件非常用電源に係る整備費相当額は計3億1282万余円となり、前記の整備費相当額3億4393万余円との差額3111万余円が節減できたと認められた。
(発生原因)
このような事態が生じていたのは、気象庁本庁において、本件非常用電源の整備事業の実施に当たり、合同庁舎の管理官署に対して自家発電設備の整備状況及び管理状況を確認するなどして自家発電設備を活用することについての検討が十分でなかったことなどによると認められた。
上記についての本院の指摘に基づき、気象庁本庁は、4年8月に管区気象台等に対して事務連絡を発して、合同庁舎等に入居している特地観測所等の地上気象観測施設において非常用電源の整備事業を実施する場合には、合同庁舎等の管理官署等に対して自家発電設備の整備状況及び管理状況を確認し、活用の可否について事前に管理官署等と調整を行った上で自家発電設備を活用することにより、経済的に実施するよう周知する処置を講じた。