環境調査研修所(以下「研修所」という。)は、平成30年度に、30年度から令和2年度までの3年契約として、環境サポート共同事業体(以下「JV」という。)に、総合評価落札方式による一般競争後の随意契約により「環境省環境調査研修所施設の管理・運営業務」を契約金額107,045,130円(平成30年度分34,777,944円、令和元年度分35,589,886円、2年度分36,677,300円)で請け負わせて実施している。
本件業務は、研修所の管理及び運営に係る19業務で構成されており、このうち管理人業務、日常清掃業務及び研修生等受入準備清掃業務の3業務は、本件契約の仕様書によれば、次のとおり実施することとされている。
ア 管理人業務は、研修所施設の管理運営、研修生・講師の入退所に係る事務、ボイラー設備の管理等を行うものであり、表のとおり、研修が実施される平日(平日は月曜日から金曜日まで(祝日等の閉所日を除く。)をいう。以下同じ。)は、日中に主任管理人1名を含む2名、夜間に1名の管理人をそれぞれ配置することとされ、研修が実施されない平日は、日中に主任管理人1名を配置することなどとされている。
イ 日常清掃業務は、研修所の本館、実習棟、特殊実習棟、第2特殊実習棟、研修棟、宿泊棟、厚生棟の内部、建物周囲の敷地等の清掃作業を行うものであり、作業は、研修が実施される平日は毎日実施することとされ、宿泊棟については、研修が実施された週の土曜日にも実施することなどとされている。
ウ 研修生等受入準備清掃業務は、各研修コース終了日直後の土曜日に宿泊棟の宿泊室の清掃等を行うものであり、研修生等が利用した宿泊室の清掃、次回の研修において研修生等の利用予定がある宿泊室へのシーツの配布等を行うこととされている。
研修所は、入札時において、入札参加者に対し、本件業務に要する経費の見積りの参考とするため、過去の研修の日程を示している。そして、研修所は、過去の研修の日程に基づく研修実施日数等により管理人及び清掃員の配置人数及び配置日数を設定し、これを基礎として予定価格を積算するとともに、入札参加者等はこれを応札価格等の算定の基礎とするなどしており、過去の研修の日程が契約金額の算定の基礎となっている。
また、環境省は、本院が平成29年10月に環境大臣に対して「会議開催等業務に係る契約における仕様書等の変更手続等について」により会計検査院法第34条の規定による是正改善の処置を求めたことに対し、「請負契約(役務等)の契約事務手続マニュアル」(平成30年9月環境省大臣官房会計課)を策定しており、これによれば、おおむね契約金額1000万円以上の業務で、人数・回数の減による変更があった場合で、減要因により想定される変更額(予定価格ベース)が100万円を超える場合については、減額の契約変更を行うこととされている。そして、変更契約に当たっては、「契約成立当時その前提となった事情が著しく変更し、その事情の変更が当事者の予見し得ないものであって、かつ、その事情が変更の当事者の責めに帰さないもの」とされており、変更の理由がやむを得ない事情によるものであること、契約金額が増額又は減額となる場合、当初契約金額に対する増額又は減額が合理的なものであることなどが求められるとされている。
本院は、合規性、経済性等の観点から、業務の内容に予見し得ない変更が生じたときは、実際に行われた業務の内容を踏まえて適切に契約金額の変更が実施されているかなどに着眼して、本件契約を対象として、研修所において、契約書、仕様書、予定価格調書、検査調書、支払関係書類等の関係資料により、また、JVの構成員である株式会社KSP・EAST及び高橋工業株式会社において、従業員の本件業務への従事状況を確認するなどして会計実地検査を行った。
検査したところ、次のとおり適切とは認められない事態が見受けられた。
研修所は、新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえて令和2年3月に2年度研修計画を変更して、同年4月及び5月の研修を中止することとした。そして、それ以降も研修実施の見込みが立たなかったため、2年度には研修所における研修は全く行われていなかった。このため、研修所が契約金額の算定の前提としていた過去の研修の日程に基づく業務量と、同年度における実際の業務量との間に、次のとおり著しい差異が生じていた。
ア 管理人業務について、過去の研修の日程に基づき研修が実施される平日を162日とし、その日中に管理人を各2名配置することとして積算されていたが、実際には研修が実施されなかったことから、仕様書に基づき全て1名の配置となっていた。また、研修が実施される平日の夜間については、管理人を1名配置することとして積算されていたが、実際には同様に仕様書に基づき、全く配置されていなかった。
イ 日常清掃業務について、研修期間内の土曜日を26日とし、清掃員を各3名配置して宿泊棟の清掃業務を実施することとして積算されていたが、実際には研修が実施されなかったことから、仕様書に基づき、当該清掃業務は全く実施されていなかった。
ウ 研修生等受入準備清掃業務について、各研修コース終了直後の土曜日を32日とし、清掃員を各2名配置して宿泊棟の宿泊室の清掃業務を実施することとして積算されていたが、実際には研修が実施されなかったことから、仕様書に基づき、当該清掃業務は全く実施されていなかった。
そして、前記契約金額の算定の前提となっている業務量と2年度における実際の業務量の差異は、100万円を超える契約金額の減額要因となることが事前に見込まれるものであった。また、同年度において研修が全く行われなかったことについては、契約締結時に契約当事者が予見し得ないものであって、かつ、その事情の変更が当事者の責めに帰さない著しい事情変更によるものであったと認められる。しかし、研修所は、契約金額を減額する契約変更を行わないまま契約金額の全額を請負業者に支払っていた。
したがって、本件業務に係る管理人業務、日常清掃業務及び研修生等受入準備清掃業務について、実施されていなかった業務に係る人件費等を契約金額から減額する契約変更を適切に行ったとして適正な契約金額を算定すると、96,339,233円となり、前記の契約金額107,045,130円との差額10,705,897円が過大となっていて、不当と認められる。
このような事態が生じていたのは、研修所において、契約金額の算定の前提としていた業務量と実際の業務量に著しい差異が生ずる場合に、契約金額を変更する契約変更を行う必要性についての認識が欠けていたことなどによると認められる。