防衛省は、自衛隊等の使用に供する施設を新たに取得したり、既に取得した施設を改修したりするなどのための建設工事を毎年度実施している。
建設工事の実施に当たっては、土砂の搬入・搬出を行うなどのため工事用車両が工事区域外の道路等を頻繁に通行することで、当該工事用車両に付着するなどした土砂により道路等を汚損することがある。そのため、防衛省は、各建設工事の実施内容等を考慮して、工事区域外の道路等の汚損が想定される場合には、周辺環境への配慮のために、道路等の清掃(以下「道路清掃」という。)を作業員(以下「道路清掃員」という。)が行うことにより、汚損を除去するなどして原状に回復することとしている。道路清掃員が行う作業内容は、主に工事用車両等が出入りすることになる工事区域の出入口周辺の道路等に落下した土砂等を竹ぼうきで掃いたり、放水したりして取り除くなどの比較的軽微なものとなっている。そして、防衛省は、道路清掃員に係る費用(以下「道路清掃員費」という。)については、建設工事に係る工事費の積算に計上することとしている。
防衛省は、同省が実施する建設工事のうち、土木工事に係る工事費の積算については、同省が定めた「土木工事積算基準」(平成28年防整技第7175号別紙第1)及び「土木工事積算価格算定要領」(令和2年防整技第15262号別冊第1等)等に基づき行うこととしている。また、建築工事に係る工事費の積算については、国土交通省大臣官房官庁営繕部が制定した「公共建築工事積算基準」及び「公共建築工事共通費積算基準」(いずれも平成15年国営計第196号)等に基づき行うこととしている。これらの基準によれば、所定の率により算定される共通仮設費には、現場事務所の設置、準備及び後片付けなどの費用が含まれており、これに含まれない費用は、必要に応じて別途計上することとされている。そして、所定の率により算定される共通仮設費には、工事区域外の道路清掃を行う道路清掃員費が含まれていないことから、防衛省は、必要に応じて工事費の積算に道路清掃員費を計上することとしており、道路清掃員費の積算に当たり必要な事項は「警備員等及び監督官事務所備品等算定要領」(平成28年防整技第7178号別紙。以下「算定要領」という。)に定めている。算定要領によれば、道路清掃員費の算定に当たっては、工事の内容、工事場所、工事現場の状況等を勘案の上、算定要領に基づき適正に行うことなどとされており、道路清掃員費の労務単価については軽作業員の単価(8時間単価)を適用すること、道路清掃に係る必要日数を計上することとされているが、道路清掃に係る1人日当たりの原則的な清掃時間数(以下「必要時間数」という。)については定められていない。建設工事を実施する地方防衛局等は、道路清掃員費の積算について、算定要領に必要時間数が定められていないため、建設工事ごとに必要時間数を定め、これに工事期間のうち道路清掃を予定する総日数(以下「清掃日数」という。)を乗じ、これを1人日当たりの作業時間数である8時間で除して道路清掃に係る必要日数を算出している。そして、この必要日数に軽作業員の労務単価を乗じて道路清掃員費を算定している(次式参照)。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
本院は、経済性等の観点から、道路清掃員費の積算に当たり、必要日数の算出の基となる必要時間数が適切に計上されているかなどに着眼して、10防衛局等(注)が令和元、2両年度に完了させた建設工事に係る契約のうち、工事費の積算に道路清掃員費を計上して道路清掃を実施していた292契約(工事費計1108億0936万余円、道路清掃員費の積算額計5億7188万余円)を対象として、防衛省内部部局及び10防衛局等において、契約書、積算書、特記仕様書等の関係資料を確認したり、調書の提出を受け、その内容を確認したりするなどして会計実地検査を行った。
(検査の結果)
前記のとおり、算定要領においては、道路清掃員費の積算に用いる必要日数の算出の基となる必要時間数が定められていない。
そこで、10防衛局等が実施した前記の292契約について、道路清掃に係る必要日数の算出のために用いた必要時間数を確認したところ、1時間から40時間と区々となっていた。なお、必要時間数が8時間を超えるものについては、道路清掃員を複数人配置し、1人当たりの作業時間数を8時間等として実施することを見込んでいたものである。
そして、建設工事ごとの必要時間数の算出根拠について確認したところ、上記292契約のうち7防衛局が実施した28契約については、滑走路等の周辺で行う工事であり、工事用車両に付着するなどした土砂により粉じん等が発生することにより航空機の運用に影響を与えるおそれがあり、工事実施中は道路等の汚損に常時対応する体制を確保する必要があることから、必要時間数を8時間等としていた。
しかし、残りの10防衛局等が実施した264契約については、必要時間数を1時間から40時間としているが、その算出根拠を十分に確認することができなかった。また、必要時間数として、道路清掃員を複数人配置することとして8時間を超えるなど長時間を見込んでいた建設工事と2時間等の短時間を見込んでいた建設工事とを比較したところ、清掃目的や作業内容に大きな違いが見受けられなかった。
そこで、10防衛局等から提出を受けた調書を基にするなどして適切な必要時間数を検討したところ、以下の理由から、特段の理由がない場合には、原則として工事区域ごとに工事作業の区切りである午前の工事終了時及び午後の工事終了時に各1時間、計2時間程度としても、必要な作業を行えるものと認められた。
このように、道路清掃員費の積算において、滑走路等の周辺で行う工事を除き、必要日数の算出の基となる必要時間数について、明確な算出根拠がないまま必要以上の時間数を見込んでいた事態は適切ではなく、改善の必要があると認められた。
(低減できた道路清掃員費の積算額)
前記264契約のうち、明確な算出根拠がないまま必要時間数を2時間を超えるものとしていた10防衛局等が実施した208契約について必要時間数を2時間として道路清掃員費を修正計算すると、これに係る積算額計4億4559万余円は計1億0996万余円となり、道路清掃員費の積算額を約3億3560万円低減できたと認められた。
(発生原因)
このような事態が生じていたのは、地方防衛局等において、道路清掃員費の積算に当たり、道路清掃の目的等を踏まえた適切な必要時間数を計上することの理解が十分でなかったことにもよるが、防衛省内部部局において、算定要領に道路清掃員費の積算に用いる必要日数の算出の基となる原則的な必要時間数を明確に定めていなかったことによると認められた。
上記についての本院の指摘に基づき、防衛省内部部局は、4年3月に算定要領を改正するなどして、必要日数の算出の基となる必要時間数について2時間を標準とすることを明確に定めるとともに、地方防衛局等に対して通知を発出して、同年4月以降に入札公告を行う建設工事に適用し、道路清掃員費の積算を適切に行うよう周知する処置を講じた。