航空自衛隊は、各種戦闘機に搭載して使用する航空機搭載弾薬として、空対空誘導弾(以下「誘導弾」という。)等を保有している。
誘導弾には、04式空対空誘導弾(AAM―5)や、その性能向上型であるAAM―5B(以下、AAM―5及びAAM―5Bを合わせて「AAM―5等」という。)等があり、これらは航空自衛隊の調達要求に基づき、防衛装備庁が調達を行っている。
AAM―5等は、誘導制御装置を始めとして、近接信管、着発信管、弾頭、推進装置、主翼、操舵翼等の構成品を用いて組み立てられて完成弾になるもの(参考図参照)であり、航空自衛隊は、構成品ごとにそれぞれ独立した物品として管理している。また、AAM―5Bは、誘導制御装置及び冷却ガス容器以外の構成品がAAM―5と同一のものとなっている。
航空自衛隊の運用する誘導弾には、主に有事の際の行動用に使用される非常用弾薬(以下「実弾」という。)、様々な訓練に使用される訓練弾薬等があり、AAM―5等については、実弾のほか、訓練弾薬の一種であるキャプティブ弾(注1)がある。AAM―5等のキャプティブ弾の構成品は、誘導制御装置、主翼、操舵翼等は実弾と同一であるが、弾頭、推進装置等は実弾とは異なる模擬の構成品である。そして、キャプティブ弾を使用した訓練では、誘導制御装置を起動させて模擬戦闘を行うが、発射はしないものとなっている。
航空幕僚長等は、基地等に対して、実弾、キャプティブ弾等の訓練弾薬のそれぞれの割当数を、構成品を組み立てた完成弾の単位で示している。航空自衛隊補給本部(以下「補給本部」という。)及び航空自衛隊第4補給処(以下「第4補給処」という。)は、基地等に割り当てられたそれぞれの完成弾を組み立てるのに必要な構成品について、各基地に補給を行うなどしている。そして、各基地の部隊は、受領した構成品を組み立てて完成弾とした上で戦闘機に搭載して使用したり、使用に備えて構成品単位で集積保管したりなどしている。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
本院は、経済性、効率性等の観点から、構成品ごとの管理が行われているAAM―5等について、各構成品は保有数量等を考慮した上で適切に調達されているかなどに着眼して、航空自衛隊からの調達要求に基づき防衛装備庁が平成28年度から令和2年度までに締結したAAM―5等の実弾、キャプティブ弾等の製造請負契約計11件(当初契約金額計203億3289万余円)を対象として、航空幕僚監部、補給本部、第4補給処、第4補給処高蔵寺支処、10基地(注2)、防衛装備庁及び三菱重工業株式会社において、調達数量等の算定資料、契約関係書類、物品管理簿等により、調達、管理、修理等の状況について確認するなどして会計実地検査を行った。
(検査の結果)
検査したところ、航空自衛隊は、AAM―5等について、一部の構成品のみを調達する場合もあるが、完成弾を組み立てるのに必要な構成品一式を調達することが原則であるとしており、AAM―5等のキャプティブ弾についても構成品一式を調達することを前提として、平成28、29、令和2各年度に締結した契約(以下「3契約」という。)において、計27発分に相当する主翼及び操舵翼(以下「主翼等」という。)計216個を他の構成品と合わせて調達していた。
一方、調達したAAM―5等の構成品のうち、他の構成品が故障等で不足することにより、組み立てて完成弾にできる数量を超えた主翼等が発生しており、航空自衛隊はこれを実弾分として保有していた。そして、これらの主翼等は、平成28年度以前から長期にわたって存在していて、3契約で調達した数量を上回っていた。
さらに、AAM―5等を保有している各基地においては、前記のとおり、実弾、キャプティブ弾のそれぞれについて割当数が示されているが、主翼等は同一の物品であるため、構成品単位で集積保管されている間は、実弾分とキャプティブ弾分が区別なく管理されていた。そして、主翼等を他の構成品と組み合わせてキャプティブ弾として使用しても故障は生じていなかった。
したがって、完成弾にできる数量を超えた実弾分の主翼等をキャプティブ弾に活用することは可能であり、28年度以前から長期にわたり存在しているこれらの主翼等を活用することとすれば、3契約において主翼等計216個を除いて調達することが可能であり、主翼等に係る調達価格相当額計2987万余円が節減できたと認められた。
このように、実弾とキャプティブ弾で同一の構成品であるAAM―5等の主翼等の調達に当たって、完成弾にできる数量を超えた実弾分のものが活用できる状態であるにもかかわらず、キャプティブ弾の主翼等を調達していた事態は適切ではなく、改善の必要があると認められた。
(発生原因)
このような事態が生じていたのは、航空幕僚監部において、キャプティブ弾の調達に当たり、完成弾を組み立てるのに必要な構成品一式を調達することが原則であるとしていて、完成弾にできる数量を超えた実弾分の構成品が活用できる状態であるにもかかわらず、これらの活用を前提とした調達数量の算定等を行うことについての検討が十分でなかったことなどによると認められた。
上記についての本院の指摘に基づき、航空幕僚監部は、キャプティブ弾の調達に当たり、令和4年8月に関係部署に業務連絡を発するなどして、完成弾にできる数量を超えた実弾分の構成品の活用を前提として構成品の調達数量を定めることとするなど、経済的かつ効率的な調達が行われるよう処置を講じた。
(参考図)
04式空対空誘導弾(AAM―5)の構成