防衛省は、「中期防衛力整備計画(平成23年度~平成27年度)」(平成22年12月安全保障会議及び閣議決定)の方針に沿い、限られた資源の中でより効率的な装備品等の維持・整備を行うために、装備品等の維持・整備に係る業務について、部品等の売買契約若しくは製造請負契約又は修理の役務請負契約の都度、必要な部品の個数や役務の工数に応じた契約を結ぶのではなく、役務の提供等により得られる成果(可動率の維持・向上、修理時間の短縮、安定在庫の確保等のパフォーマンスの達成)に主眼を置いて、官民の長期的なパートナーシップの下で包括的な業務範囲について契約を結ぶ契約方式(Performance Based Logistics。以下「PBL」といい、PBLを採用した契約を「PBL契約」という。)を導入している。
そして、防衛省は、PBLの導入に当たり、PBLの定義を整理するなどした防衛省PBLガイドライン(平成23年7月防衛省経理装備局制定。30年6月防衛装備庁改正)を策定しており、同ガイドラインによれば、PBL契約には、装備品等の構成品を対象として、修理に要する期間を保証するものなどがあるとされている。
すなわち、PBL契約は、従来のような部品の個数や役務の工数に応じた契約を結ぶものではなく、修理に要する期間等に関する指標を契約において定めて、成果の達成に応じて対価を支払うものである。
陸上自衛隊補給統制本部(以下「補給統制本部」という。)は、戦闘ヘリコプターAH―64Dに搭載されている目標照準装置(M―TADS)及び操縦用暗視装置(M―PNVS)(以下、これらを「目標照準装置等」という。)の構成品の修理業務等について、平成28年度に随意契約により日本電気株式会社(以下「会社」という。)と修理に要する期間を保証するPBL契約(契約期間28年12月から令和元年12月まで。以下「当初契約」という。)を契約額24億3805万余円で実施している。
当初契約の仕様書については、陸上自衛隊補給管理規則(平成19年陸上自衛隊達第71―5号)等に基づき、陸上幕僚監部(以下「陸幕」という。)が作成した仕様の大綱を受けて、調達要求元である補給統制本部航空部(以下「航空部」という。)が、陸幕、契約部門である補給統制本部調達会計部(以下「調会部」という。)等との間で調整して作成している。そして、航空部の調達要求に基づき、調会部は、会社から徴した当初契約期間終了時までに生ずる修理業務等に係る見積金額を基に予定価格を算定するなどして、会社と当初契約を締結している。
当初契約の仕様書において、会社の主な業務内容及び成果の判定方法は、次のとおりとなっている。
成果は、要修理品を受領してから修理完了品を陸上自衛隊に届けるまでの期間(以下、この期間を「リードタイム」という。)が平均1年かつ最大29か月を超えない期間であるか否かで判定する。
また、当初契約の契約書において、補給統制本部は会社の修理業務等が完了するまでの間において必要がある場合は、納期、仕様書の内容等に関し、契約を変更するために、会社と協議することができること、当該協議が行われる場合は、会社は見積書を作成し、速やかに補給統制本部に提出しなければならないこととされている。
当初契約で会社に修理要求を行った47個の要修理品のうち、6個については、契約期間終了時までに修理等が完了しなかったとして、会社から返品されていた(以下、この6個を「修理未了品6個」という。)。そして、補給統制本部は、修理未了品6個及び当初契約終了後に要修理品となった2個について、前記の受入検査又は完成検査をするために、当初契約終了後の2年度に随意契約により会社と2件の契約(以下「追加契約」という。)を契約額計6074万余円(うち修理未了品6個の受入検査又は完成検査に係る額4958万余円)で締結している。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
本院は、経済性等の観点から、当初契約及び追加契約は適切に実施されているかなどに着眼して、両契約を対象として、陸幕、補給統制本部及び会社において、契約書、仕様書等の関係資料及び業務の実施状況を確認するなどして会計実地検査を行った。
(検査の結果)
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
前記のとおり、当初契約における成果の判定方法は、修理完了品のリードタイムが平均1年かつ最大29か月を超えない期間であるか否かで判定することになっており、修理未了品6個については、「修理完了品」となっておらず、元年12月の当初契約期間終了時点においてリードタイムを算定できないことから、判定の対象外となっていた。そして、これらを除く41個の修理完了品について、リードタイムが算定されており、その結果、平均1年かつ29か月内となっていた。このことから、当初契約の成果は達成されたとして、前記の契約額24億3805万余円が支払われていた。
なお、修理未了品6個については、4年6月の会計実地検査時点においても修理等は完了していないことから、リードタイムを算定できないこととなっていた。
修理未了品6個について、会社が修理要求を受けた日は、平成29年11月から31年3月までとなっていて当初契約期間内であったが、その後、会社は、令和元年12月の当初契約期間終了時までに修理等を完了することができなかったことから、返品規定に基づき、航空部と調整の上、陸上自衛隊に返品していた。
しかし、修理未了品6個の修理等を完了することができなかった理由について会社に確認したところ、会社で保有する受入検査や完成検査用の検査機器が、故障等により平成30年7月から令和元年6月まで使用することができなかったためとしており、会社側の原因によるものとなっていた。
一方、当初契約期間内に修理要求を受けた要修理品については、当初契約期間終了時までに生ずる修理業務等に係る費用は当初契約の契約額に含まれている。そして、航空部は修理未了品6個について当初契約期間内に修理等が完了する予定で修理要求を行い、会社も修理等を完了する予定で修理要求を受けており、修理の要求及び実施の当事者である航空部及び会社の双方とも、その認識においては、修理未了品6個について、修理完了までの費用は当初契約の契約額に含まれるものとして会社が負担するものと考えていた。
このように、航空部は、修理等を完了することができなかった理由が会社側の原因であり、航空部及び会社は修理等の完了を当初契約期間内に予定していたにもかかわらず、返品規定は「当初契約期間終了時までに修理等を完了することができなかった要修理品は、航空部と調整の上、陸上自衛隊に返品すること」となっていたため、返品規定をそのまま適用して当初契約終了時に返品させており、修理未了品6個の修理未了の部分に係る費用を会社が負担しない結果となっていた。
会社は、航空部並びに航空部の職員である監督官及び完成検査官の3者(以下「航空部等3者」という。)に対して、会社の検査機器に故障等が生じていたことや、修理等を完了する予定であった修理未了品6個を返品することを報告していた。また、前記のとおり、航空部及び会社は、修理未了品6個に係る修理完了までの費用は会社が負担するものと認識していた。
しかし、航空部等3者は、上記の状況等を把握していたにもかかわらず、返品規定をそのまま適用し、修理未了品6個について返品規定を適用することが妥当であるか否か、仕様書の変更や契約額の減額等を会社と協議する必要があるか否かの検討を行っていなかった。また、航空部等3者は、検査機器の故障等が生じていたことについて調会部に報告していなかった。これらのことから、調会部は、会社と仕様書や契約額等の変更をするための協議を行っていなかった。
さらに、上記の検討を行わずに返品を受け入れていたため、航空部は、修理未了品6個について、当初契約終了後の翌年度に受入検査又は完成検査に係る調達要求を調会部に対して行っていた。その結果、航空部及び会社は、修理未了品6個の修理業務等に係る費用は当初契約の契約額に含まれているという認識であったので、調会部は、仕様書や契約額等の変更をするための協議を行えば、追加の費用を負担する必要がなかったのに、追加契約を契約額計6074万余円(うち修理未了品6個の受入検査又は完成検査に係る額4958万余円)で締結していた。
以上のように、航空部等3者において、修理未了品6個については、会社側の原因により修理等を完了することができなかったことなどを把握していたのに、返品規定をそのまま適用することが妥当であるか否か、仕様書の変更や契約額の減額等を会社と協議する必要があるか否かの検討を行っていなかったり、検査機器の故障等が生じていたことを調会部に報告していなかったりしていて、仕様書や契約額等の変更をするための協議を行わずに、返品規定をそのまま適用し、防衛省側が修理未了品6個の修理未了の部分に係る費用を負担することとなっていた事態は適切ではなく、改善の必要があると認められた。
(発生原因)
このような事態が生じていたのは、航空部等3者において、修理未了品6個について、会社側の原因により修理等を完了することができなかった場合であっても返品規定をそのまま適用し、会社が修理未了の部分に係る費用を負担しないこととなることが契約の本来の趣旨からして妥当であるか否か、仕様書や契約額等の変更を会社と協議する必要があるか否かについて検討することや、検査機器の故障等が生じていたことについて調会部に報告することの必要性について認識が欠けていたことなどによると認められた。
上記についての本院の指摘に基づき、陸幕は、修理に要する期間を保証するPBL契約の実施に当たり、契約の履行に伴い仕様書や契約額等の変更について契約の相手方との協議が適切に行われるよう、次のような処置を講じた。
ア 陸幕は、4年9月に航空部に対して通知を発するなどして、修理未了品が発生した場合には、航空部等3者において、返品規定を適用することの妥当性、仕様書や契約額等の変更を契約の相手方と協議する必要性について検討すること、修理等を完了することができなかった理由が契約の相手方側の原因である場合に調会部にその理由を報告することなどを調達業務の事務手続等に関する必要な事項を定めた業務処理要領に定めることを指示するなどした。
イ 航空部は、アの指示に基づき、同月に当該業務処理要領の改正を行い、その内容を関係職員に周知徹底した。