日本私立学校振興・共済事業団(以下「事業団」という。)は、私立学校振興助成法(昭和50年法律第61号)に基づき、国の補助金を財源として、私立大学等(注)を設置する学校法人に私立大学等経常費補助金(以下「補助金」という。)を交付している。補助金は、私立大学等の教育条件の維持及び向上並びに学生の修学上の経済的負担の軽減を図るとともに私立大学等の経営の健全性を高め、もって私立大学等の健全な発達に資することを目的として、私立大学等における専任教職員の給与等教育又は研究に要する経常的経費に充てるために交付されるものである。
事業団は、私立大学等経常費補助金交付要綱(昭和52年文部大臣裁定)等に基づき、補助金の額を算定する資料(以下「算定資料」という。)として、各学校法人に補助金交付申請書とともに次の資料等を提出させている。
そして、事業団は、算定資料に基づき、私立大学等経常費補助金配分基準(平成10年日本私立学校振興・共済事業団理事長裁定)等に定める方法により、補助金の額を算定している。
事業団は、次のアからウまでの方法により、私立大学等における経常的経費に対する一般補助の額を算定することとなっている。
ア 経常的経費を専任教員等給与費、専任職員給与費、教育研究経常費等の経費に区分して、経費区分ごとに専任教員等の数、専任職員数、学生数、教育研究補助者の数等に所定の補助単価を乗ずるなどして補助金の基準額を算定する。
イ 各私立大学等の教育研究条件の整備状況等を勘案して、補助金の重点的な配分を行うために、収容定員に対する在籍学生数の割合、専任教員等の数に対する在籍学生数の割合、学生納付金収入に対する教育研究経費支出と設備関係支出との合計額の割合等に基づいて増減率を算定する。
ウ アで算定した経費区分ごとの基準額に、イで算定した増減率を乗ずるなどの方法により得られた金額を合計して、一般補助の額とする。
そして、アのうち教育研究補助者の数については、補助金の算定対象となる要件(以下「補助要件」という。)として、ポスト・ドクター、研究支援者、リサーチ・アシスタント(以下「RA」という。)及びティーチング・アシスタントの4区分ごとに、職務内容、資格、従事期間等に係る基準が定められている。このうち、研究支援者の補助要件は、私立大学が行う研究プロジェクト等の支援のために、特殊な技術や熟練した技術を必要とする業務に従事する者であり、当該大学の非常勤職員(大学院生、研究生等を除く。)であることとなっている。
上記のほか、私立大学における学術の振興及び私立大学等における特定の分野、課程等に係る教育の振興のために特に必要があると認められるときは、補助金を増額して交付すること(以下「特別補助」という。)ができることとなっている。
特別補助の対象となる項目には「授業料減免事業等支援(新型コロナウイルス感染症緊急経済対策分)」、「海外からの学生の受入れ」、「大学院における研究の充実」、「研究施設運営支援」等がある。これらについて、事業団は、算定資料を各学校法人から提出させており、このうち、「授業料減免事業等支援(新型コロナウイルス感染症緊急経済対策分)」及び「研究施設運営支援」については、次のア及びイのように、特別補助の額を算定することとなっている。
ア 「授業料減免事業等支援(新型コロナウイルス感染症緊急経済対策分)」については、新型コロナウイルス感染症の直接的、間接的な影響で、家計が急変した世帯の学生に対し、次の(ア)、(イ)等の全てに該当する入学料・授業料減免等の給付事業又は金融機関の教育ローン等に係る利子負担事業を実施している私立大学等を対象に、当該事業に係る所要経費の3分の2以内の額を増額する。
そして、(ア)②及び(イ)における2年の所得見込みは、新型コロナウイルス感染症の感染拡大による収入減少後の所得を証明する給与明細等の書類を基に、例えば収入が減少した月の1か月の所得を12倍するなど、合理的な方法により算出されているものとする。また、(ア)②における元年の所得は、給与所得者にあっては源泉徴収票の支払金額とし、給与所得者以外にあっては確定申告書等の所得金額とする。
イ 「研究施設運営支援」については、大学院等の機能の高度化を促進するため、専任の教員が配属されているなど複数の補助要件に該当する組織上独立した研究施設等を設置している私立大学等に対して、当該研究施設等における所要経費の額の区分に応じて定められた額を増額する。そして、対象となる経費は、当該研究施設等の研究活動の遂行及び研究成果の取りまとめに直接必要な経費とし、直接関係しないものについては除外する。
本院は、合規性等の観点から、一般補助における教育研究補助者等の数は適切に算定されているか、特別補助の算定対象となる経費は適切に算定されているかなどに着眼して、事業団が元、2両年度に補助金を交付している642学校法人のうち25学校法人において、算定資料等の書類により会計実地検査を行った。
検査したところ、4学校法人は、事業団に提出した算定資料において、一般補助のうちの教育研究補助者の数を過大に計上していたり、特別補助のうちの「授業料減免事業等支援(新型コロナウイルス感染症緊急経済対策分)」について補助要件を満たしていない学生に対する奨学金の支給額等を所要経費に含めていたり、「研究施設運営支援」について研究施設の研究活動の遂行等に直接関係しない経費を含めていたりしていたのに、事業団は、これらの誤った算定資料に基づいて補助金の額を算定していた。このため、補助金計23,689,000円が過大に交付されていて不当と認められる。
このような事態が生じていたのは、4学校法人において補助金の制度を十分に理解していなかったり、算定資料の作成に当たりその内容の確認を十分に行っていなかったりしていたこと、事業団においてこれらの学校法人に対する指導及び調査が十分でなかったことなどによると認められる。
前記の事態について、事例を示すと次のとおりである。
<事例>
学校法人慶應義塾は、一般補助において、事業団に提出した令和2年度の算定資料に、研究支援者の補助要件を満たしておらず算定対象とならない大学院生2人を含め、また、RAの人数を誤って1人多く集計していたため、教育研究補助者の数を計3人過大に計上していた。
さらに、特別補助において、同学校法人は、事業団に提出した算定資料に、慶應義塾大学における2年度の「授業料減免事業等支援(新型コロナウイルス感染症緊急経済対策分)」について、学生201名に対する同大学独自の奨学金制度に基づく奨学金の支給額を所要経費として計上していた。しかし、上記学生201名の中には収入減少要件を満たしていなかったり、収入減少要件及び家計要件の確認において給与明細等の書類に基づき合理的な方法により2年の所得見込みを算出するなどしていなかったりしていて、特別補助の算定対象とならない学生が計112名含まれていたのに、同学校法人は、当該学生112名に対する奨学金の支給額を所要経費に含めていた。
したがって、一般補助の算定対象とならない教育研究補助者を除外し、また、特別補助の算定対象とならない所要経費を除外して算定すると、同学校法人に対する適正な補助金の額は7,954,916,000円となり、20,559,000円が過大に交付されていた。
以上を事業主体別に示すと次のとおりである。
事業主体
(
本部所在地
) |
年度 |
補助金交付額
|
不当と認める補助金額 |
摘要 |
|
---|---|---|---|---|---|
千円 | 千円 | ||||
(257) | 学校法人慶應義塾 (東京都港区) |
2 | 7,975,475 | 20,559 | 一般補助において教育研究補助者の数が過大に計上されていたもの、特別補助において算定対象とならない経費が含まれていたもの (慶應義塾大学) |
(258) | 学校法人稲置学園 (石川県金沢市) |
元 | 234,520 | 1,000 | 特別補助において算定対象とならない経費が含まれていたもの (金沢星稜大学) |
(259) | 学校法人広島女学院 (広島市) |
2 | 167,354 | 1,060 | 同 (広島女学院大学) |
(260) | 学校法人熊本学園 (熊本市) |
2 | 551,751 | 1,070 | 同 (熊本学園大学) |
(257)―(260)の計 | 8,929,100 | 23,689 |