独立行政法人日本高速道路保有・債務返済機構(以下「機構」という。)は、独立行政法人日本高速道路保有・債務返済機構法(平成16年法律第100号)等に基づき、6高速道路会社(注1)(以下「道路会社」という。)が行う高速道路の新設、改築等に要する費用に充てるために負担した債務を引き受け、この債務に係る道路資産等を保有し、道路会社に貸し付けている。
道路を違法に通行する車両に対して行う取締りには、取締り実施者が現地で立ち会う現地取締りのほかに、走行中の車両の軸重(車両の重量がそれぞれの車軸に掛かる荷重。以下同じ。)等を取締り実施者が現地に立ち会うことなく自動で計測する装置を利用した取締りがある。
そして、国土交通省は、平成26年5月に「道路の老朽化対策に向けた大型車両の通行の適正化方針」(国土交通省道路局策定。以下「適正化方針」という。)を公表している。適正化方針は、重量制限を超過する違反車両が国民の重要な財産である道路橋等の老朽化に与える影響は極めて大きいことなどから、違法に通行する大型車両の取締りを徹底するために、軸重等を自動で計測する装置を増設することなどの同省としての方針を示している。そして、同省は機構及び道路会社にも適正化方針を踏まえた所要の措置を講ずることを求めている。
道路会社は、適正化方針を踏まえるなどして、大型車両の通行の適正化に資するよう高速道路において、軸重等を自動で計測する自動軸重計を設置している。そして、機構は、道路会社から自動軸重計の引渡しを受けて道路資産として保有し、道路会社に貸し付けている(注2)。
高速道路における自動軸重計は、以下の車両等(以下、これらの車両を合わせて「法令違反車両」といい、これらの車両をその業務に関し使用している法人又は個人を「違反事業者」という。)を特定等するために使用されるものである。
そして、道路会社は、高速道路の維持、管理等の一環として、自動軸重計の計測結果に基づき、上記の法令等に違反して通行した回数が一定回数以上に達した違反事業者に対して、指導警告書を発出するなどの指導等(以下「道路会社による指導等」という。)を行っている。
機構は、道路整備特別措置法(昭和31年法律第7号)に基づき、高速道路の道路管理者(国土交通大臣又は地方公共団体)の権限を代行することとなっており、その一環として、道路法第47条の14第1項等の規定に基づき、法令違反車両を通行させている者に対し、当該車両の通行の中止、総重量の軽減等の措置を命ずるなどの行政処分を行う権限等について代行(以下、この権限の代行を「権限代行」という。)している。
そして、機構は、現地取締りの結果に基づき、権限代行としての行政処分等を行うに当たって、「高速道路の通行の禁止又は制限について」(平成30年7月総管第5801号。以下「通知」という。)を道路会社に対して発出している。機構は、通知において、道路会社と連携して行う①総重量の軽減等の措置を命ずる措置命令、②許可の取消し(①及び②は行政処分に該当)、③違反を繰り返す違反事業者に対して、再び違反行為が行われることのないように指導する是正指導、④是正指導内容等の公表、⑤告発等を実施する(以下、機構が権限代行として実施する行政処分等を「権限代行による指導取締り」という。)こととし、これに係る基準や機構及び道路会社が連携して行う事務の手続を示すなどしている。
一方、自動軸重計の計測結果に基づく指導取締りについては、上記のような基準等は定めていない。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
本院は、有効性等の観点から、自動軸重計の計測結果が違反事業者への指導取締りに活用されているかなどに着眼して検査した。
検査に当たっては、機構及び道路会社において、令和3年度末に設置されている自動軸重計計882基(機構資産に係る取得費241億8901万余円、道路会社資産に係る取得費63億3347万余円、取得費計305億2249万余円)を対象として、違反事業者の指導取締りに関する規程、固定資産簿、現地の状況等を確認するなどして会計実地検査を行った。
(検査の結果)
検査したところ、自動軸重計の計測結果に基づく2、3両年度の法令違反車両数は計27,834台(2年度8,398台、3年度19,436台)、違反事業者数は計延べ7,006事業者(2年度2,140事業者、3年度4,866事業者)となっていた。
道路会社は、自動軸重計の計測結果を活用し、違反回数が一定回数以上に達した違反事業者に対して、指導警告書を発出しており、その件数は計7,110件(2年度2,179件、3年度4,931件)、事業者数は計延べ2,431事業者(2年度737事業者、3年度1,694事業者)となっていた。
また、道路会社は、違反事業者に対して、講習会を開催して、違反を繰り返すことのないよう指導したり、高速道路における大口・多頻度利用者を対象とした割引の停止措置等を実施したりしていた。
そして、前記の2,431事業者から2、3両年度の重複分を差し引いた2,115事業者についてみたところ、2年4月から4年3月までの2年間で指導警告書が2回以上発出されている違反事業者は914事業者(2,115事業者の約43%)、このうち、10回以上発出されている違反事業者は128事業者(同約6%)となっていて、中には162回発出されている違反事業者も見受けられた。
しかし、上記のとおり違反を繰り返す違反事業者が多数見受けられるのに、機構は自動軸重計の計測結果を権限代行による指導取締りに活用していない状況となっていた。
これについて、機構は、平成25年1月に、国土交通省から、同省においては25年以降軸重等を自動で計測する装置の計測結果を行政処分を含む指導取締りに活用していることの参考通知を受けていたにもかかわらず、自動軸重計は、計量法(平成4年法律第51号)上の証明を行うための計量に使用できないものであるとして、その計測結果を行政処分を含む権限代行による指導取締りには活用できないと認識していた。このため、前記のとおり、自動軸重計の計測結果に基づく権限代行による指導取締りを行うための基準等は定めていなかった。
しかし、本院が計量法を所管する経済産業省に確認したところ、自動軸重計は計量法上の証明を行うための計量に使用できるとのことであり、自動軸重計の計測結果は、権限代行による指導取締りに活用できるものであった。
このように、違反を繰り返す違反事業者が多数見受けられる状況の中で、違反事業者に対する指導取締りの強化等に活用するために設置された自動軸重計計882基(取得費計305億2249万余円)について、その計測結果は、道路会社による指導等だけでなく、機構が実施する権限代行による指導取締りに活用できるのに、道路会社による指導等にしか活用していなかった事態は適切ではなく、改善の必要があると認められた。
(発生原因)
このような事態が生じていたのは、機構において、自動軸重計の計測結果が権限代行による指導取締りに活用できるものであるという認識が欠けていたこと、自動軸重計の計測結果について、違反を繰り返す違反事業者に対する権限代行による指導取締りに活用することの必要性についての理解が十分でなかったことなどによると認められた。
上記についての本院の指摘に基づき、機構は、自動軸重計の計測結果を権限代行による指導取締りに活用して、大型車両の通行の適正化に資するよう、令和4年8月に通知を改正し、違反を繰り返す違反事業者に対する権限代行による指導取締りにおいて、自動軸重計の計測結果に基づき、警告、是正指導、是正指導内容等の公表、許可の取消し、告発等を行うこととし、これに係る基準や道路会社と連携して行う事務の手続を道路会社に対して示し、5年4月からこれを適用することとするなどの処置を講じた。