【適宜の処置を要求し及び意見を表示したものの全文】
証券化支援事業における住宅ローン債権に係る融資対象住宅の融資後の状況の把握等について
(令和4年10月5日付け 独立行政法人住宅金融支援機構理事長宛て)
標記について、下記のとおり、会計検査院法第34条の規定により是正の処置を要求し、及び同法第36条の規定により意見を表示する。
記
貴機構は、独立行政法人住宅金融支援機構法(平成17年法律第82号)に基づき、民間の金融機関(以下、単に「金融機関」という。)が長期固定金利の住宅ローンを国民に提供することを支援するために、金融機関においてフラット35等の商品名で販売されている長期固定金利の住宅ローン(以下「フラット35」という。)の債権を買い取るなどの証券化支援事業を実施しており、貴機構が証券化支援事業により買い取った債権は、令和2年度末現在で計808,158件、残高計18兆0063億5841万余円(以下、2年度末の残高を単に「残高」という。)となっている。
貴機構は、独立行政法人住宅金融支援機構業務方法書(平成19年住機規程第1号)において、金融機関から買い取るフラット35の債権(以下「買取債権」という。)は、自ら居住する住宅を建設し、又は購入する者に対する貸付けに係るものであることなどの要件に適合するものでなければならないとしている。そして、貴機構は、フラット35を販売する金融機関との間で「住宅ローン債権売買基本契約」(以下「基本契約」という。)を締結し、基本契約中に規定されている「譲渡債権適格基準」を満たす債権を買い取ることとしている。同基準では、上記業務方法書の定める要件に適合する貸付けの対象となる住宅に関する基準等が定められている。
一方、金融機関は、債務者との間で金銭消費貸借契約証書(以下「証書」という。)を作成し、証書には、「借入金の使途」を「債務者が自ら居住するための住宅(主としてその居住の用に供する住宅)の取得(建設又は購入)資金」、「債務者が自ら居住するための住宅(主としてその居住の用に供する住宅以外の住宅)の取得(建設又は購入)資金」等の中から選択した上で債務者が融資を受けて取得する住宅(以下「融資対象住宅」という。)の所在地を表示することとなっている(以下、融資対象住宅のうち、主としてその居住の用に供する住宅を「拠点住宅」、主としてその居住の用に供する住宅以外の住宅を「セカンドハウス」という。)。
また、証書には、債務者が次の事項等に該当して、貸主(注)が債務者に書面により返済請求(繰上償還請求)を発したときは、債務者は債務の全部又は一部につき期限の利益を失い、直ちにその債務を返済する旨が規定されている。
融資対象住宅が融資後も継続して前記業務方法書の定める要件に適合するものとなるようにするために、証書等において、フラット35の融資を受けている者(以下「借受者」という。)は、次のような融資後の手続を行わなければならないこと、また、貴機構が融資対象住宅について使用状況を調査し、又は必要な書類の提出等を求めたときには、借受者はいつでもその要求に応ずることが定められている。
そして、貴機構は、変更届又は用途変更申請書の提出を受けることにより、状況を把握し、繰上償還の請求を行うなどの必要な措置を講ずることとしている。
貴機構は、元金(買取債権)等の管理及び回収に関する業務について、金融機関と委託契約を締結して、同業務を実施させている。
そして、貴機構は、同業務に関して、「独立行政法人住宅金融支援機構買取債権管理回収業務取扱規程」(平成19年住機規程第56号。以下「買取債権取扱規程」という。)において、延滞しているなど債権保全上問題がある融資対象住宅について、債務が完済になるまで、金融機関が随時適宜の方法又は貴機構の指示により融資対象住宅の状態の調査(以下「債権管理調査」という。)をすることを規定している。なお、貴機構は、買取債権以外の貴機構が貸し付けた資金に係る債権については、「独立行政法人住宅金融支援機構融資債権等管理回収業務取扱規程」(平成19年住機規程第57号。以下「融資債権取扱規程」という。)において、同様に債権管理調査を行うことを規定しているほか、融資債権取扱規程等において、融資した住宅について、融資要件違反の事実を把握し、速やかに是正することを目的として、貴機構及び金融機関が、自ら居住せず第三者に居住用として賃貸している事態(以下「第三者賃貸」という。)や用途変更等の有無等についての実態調査(以下「融資後状況調査」という。)を行うことを規定している。しかし、買取債権については、買取債権取扱規程等において、融資後状況調査を行うことを規定していない。
貴機構は、特定の住宅販売事業者及び不動産仲介事業者が関与したフラット35の融資対象住宅計162件について、借受者が自ら居住していなかったなどの疑いが認められ、実態解明のための調査を実施していることを元年5月に、また、調査の結果、投資用物件を自己居住用と偽ってフラット35を利用するなどの不適正な事態が判明したことを同年8月及び12月に公表している。
そして、上記の経緯等を踏まえて、貴機構は、再発防止策として、ホームページ等においてフラット35は投資用物件の取得には利用できないことなどを注意喚起したり、借受者に対して、投資用物件の取得に利用した場合には期限前の全額返済義務を負うなどの注意事項を説明し、借受者からその旨を了承する書面等の提出を求めたり、金融機関に対して、融資時の審査の強化を目的とした説明会等を行ったりするなどしている。
また、貴機構は、他の融資対象住宅についても同様の不適正な事態がないかを確認するため、前記の調査で得られた不適正な事態の特徴等を踏まえて、証書上の融資対象住宅の所在地宛てに文書を送付するなどし、その結果、調査が必要と判断した借受者を対象として、電話や現地訪問をするなどして融資対象住宅に居住していることを確認する調査(以下「居住実態調査」という。)に元年5月から着手している。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
貴機構における買取債権の残高は、多額に上っている一方で、貴機構が元年に公表した不適正な事態については、融資時の審査では必ずしも判明しなかったり、融資して一定期間経過後に自ら居住していないなどの事態が多く発生していたりすることなどから、同様の事態を防止し、解消するためには、融資後に融資対象住宅の状況を把握することが重要となっていると考えられる。
そこで、本院は、合規性、有効性等の観点から、フラット35について、借受者が融資対象住宅に自ら居住していないなど買取債権が要件に適合しないものとなっていないか、貴機構において融資対象住宅の融資後の状況等を適切に把握するなどして買取債権が継続して要件に適合したものとなるよう対策が十分に講じられているかなどに着眼して、貴機構本店において、居住実態調査の結果や融資対象住宅の融資後の状況の把握等を関係書類等により確認するなどして会計実地検査を行った。
検査に当たっては、貴機構が元年に公表した不適正な事態の実態解明のための調査の結果において、中古マンションに不適正な事態が多く見受けられたことを踏まえて、平成29、30両年度に融資が実行されたフラット35に係る買取債権であって、中古マンションに係るもののうち計7,100件(拠点住宅計6,338件、セカンドハウス計762件)、残高計1996億6641万余円を抽出し、これらに係る融資対象住宅に関する情報を確認するなどして検査した。そして、令和2年度末時点で、不動産情報等から借受者が自ら居住していないこと又は所在地が店舗、事務所等の住所とされていて用途変更していることが疑われる計161件(拠点住宅計106件、セカンドハウス計55件)について、更に貴機構に調査を求めて、貴機構が3年5月に借受者に対して融資対象住宅の使用状況を確認するための質問書(以下「質問書」という。)を送付したり、現地確認を行ったりするなどした調査の結果を確認するなどして検査した。
(検査の結果)
検査したところ、上記161件のうち、計56件、残高計18億9089万余円(拠点住宅計22件、残高計8億8512万余円、セカンドハウス計34件、残高計10億0576万余円)について、次のような事態が見受けられた。
借受者が自ら居住するとしていた融資対象住宅を貴機構に変更届を提出することなく第三者賃貸するなどしていた事態が計45件、残高計15億1735万余円(拠点住宅計15件、残高計6億2816万余円、セカンドハウス計30件、残高計8億8919万余円)見受けられた。これらの中には、借受者が融資当初から自ら居住せず、融資対象住宅を第三者賃貸していて、借入金を証書において定めた「借入金の使途」以外の使途に使用しているものが計4件、残高計1億2990万余円(拠点住宅計2件、残高計7829万余円、セカンドハウス計2件、残高計5161万余円)ある。
上記の事態について、事例を示すと次のとおりである。
<事例1>
借受者Aは、セカンドハウスを取得するとして平成30年7月にフラット35の融資50,670,000円(残高46,872,860円)を受けて東京都港区の中古マンションを取得している。
しかし、借受者Aは、実際には当該融資対象住宅の取得から10か月後の令和元年5月から貴機構に変更届を提出することなく、融資対象住宅を第三者賃貸していた。
借受者が自ら居住するとしていた融資対象住宅を貴機構に用途変更申請書を提出して承諾を得ることなく用途変更していた事態が計11件、残高計3億7353万余円(拠点住宅計7件、残高計2億5695万余円、セカンドハウス計4件、残高計1億1657万余円)見受けられた。これらの中には、借受者が融資対象住宅を当初から住宅ではなく事業所として使用していて、借入金を証書において定めた「借入金の使途」以外の使途に使用しているものがセカンドハウス1件、残高2363万余円ある。
上記の事態について、事例を示すと次のとおりである。
<事例2>
借受者Bは、拠点住宅を取得するとして平成30年2月にフラット35の融資34,920,000円(残高32,216,136円)を受けて東京都葛飾区の中古マンションを取得している。
しかし、借受者Bは、実際には当該融資対象住宅の取得から1年4か月後の令和元年6月から貴機構に用途変更申請書を提出して承諾を得ることなく、融資対象住宅を第三者に事務所として使用させていた。
(1)のとおり、買取債権が融資後に要件に適合しないものとなっている事態が見受けられたこと、これらについて借受者から変更届又は用途変更申請書の提出がないため、貴機構は状況を把握し、繰上償還の請求を行うなどの必要な措置を講ずることができていなかったことなどから、証券化支援事業の適切な実施のためには、融資後に融資対象住宅の状況を的確に把握することなどが重要になっていると認められる。
しかし、前記のとおり、貴機構は、買取債権について、融資後状況調査を行うことを規定していないため、融資後状況調査を実施していなかった。
また、貴機構が不適正な事態を受けて元年5月に着手した居住実態調査においても、用途変更している事態がないかなどについての調査は実施していなかった。
さらに、(1)の56件のうち計25件、残高計9億1971万余円(拠点住宅計13件、残高計5億6454万余円、セカンドハウス計12件、残高計3億5516万余円)について、貴機構は、3年5月に借受者に対して質問書を送付し、現地に赴くなどして状況を確認しているものの、借受者が質問書に対する回答をしないなど当該調査に応じていない状況となっていた。前記のとおり、貴機構が融資対象住宅について使用状況の調査をするときなどは、借受者はいつでもその調査等に応ずることが証書において定められており、上記のように借受者が調査に応じていないのは、証書の規定に違反する行為である。
しかし、貴機構は、借受者が調査等に応じない場合にどのように対応するかについて規程等に定めておらず、借受者に対しても、借受者が正当な理由なく調査に応じない場合に貴機構が執る措置について明確に示していなかった。このため、貴機構は、第三者賃貸や用途変更の事実について借受者に確認したり、買取債権が要件に適合していない状況を把握しても繰上償還の請求等の必要な措置を直ちに講じたりすることが難しい状況になっていた。
セカンドハウスは主として自ら居住する住宅ではなく、また、このため、貴機構は借受者に対して融資後の手続において居住が確認できる書類の提出を求めていないことから、第三者賃貸や用途変更が生じやすいと思料され、これらの特質を踏まえると融資後における状況の把握が特に重要であると考えられる。
しかし、貴機構は、セカンドハウスについて、借受者が主として自ら居住する住宅ではないため拠点住宅と同様の調査ができないと判断して居住実態調査の対象としていないなどしていて、融資後の状況を十分に把握するために、その特質を踏まえた必要な方策を講じていなかった。
このように、(1)のような事態が見受けられたのは、貴機構において、融資対象住宅の融資後の状況を十分に把握することができていない状況となっていることが一因であると認められる。
(是正及び改善を必要とする事態)
フラット35に関して、借受者が融資対象住宅を第三者賃貸していたり、用途変更していたりするなどしていて買取債権が要件に適合していない事態は適切ではなく、是正を図る要があると認められる。また、買取債権について、融資後状況調査を行うことを規定していなかったり、借受者が貴機構の調査に応じない場合にどのように対応するかなどについて規程等に定めていなかったりしていて、貴機構が融資対象住宅の融資後の状況を十分に把握し、対応することができていない事態、さらに、セカンドハウスの特質を踏まえた融資後の状況を十分に把握するための方策を講じていない事態は適切ではなく、改善の要があると認められる。
(発生原因)
このような事態が生じているのは、借受者において証書の規定を遵守することについての認識が欠けていることにもよるが、貴機構において、買取債権が継続して要件に適合するものとなるようにするために、第三者賃貸や用途変更の事態の発生状況やセカンドハウスの特質を踏まえて融資対象住宅の融資後の状況を把握し、対応することについての重要性の理解が十分でないことなどによると認められる。
貴機構は、証券化支援事業を今後も引き続き実施していくこととしている。
ついては、貴機構において、買取債権が要件に適合していない事態について、借受者に対して要件に適合するよう必要な対応を執らせて、借受者が必要な対応を執ることができない場合には全額繰上償還の請求等の必要な措置を講ずるよう是正の処置を要求するとともに、融資対象住宅の融資後の状況の把握等が適切に実施され、買取債権が継続して要件に適合したものとなるよう、次のとおり意見を表示する。