国立大学法人東京農工大学(以下「農工大」という。)及び国立大学法人信州大学(以下「信州大」という。)の契約等の調達に係る事務については、国立大学法人東京農工大学会計規則(平成16年16経規則第5号)、国立大学法人信州大学会計規則(平成16年国立大学法人信州大学規則第4号)等に定めるところにより、売買、賃借、請負等の契約を締結する場合においては、公告して申込みをさせることにより一般競争入札によらなければならないとされている。ただし、①契約の性質又は目的が競争を許さない場合、②緊急の必要により競争に付することができない場合、③予定価格が500万円を超えない場合等は、随意契約によることができるとされている。そして、随意契約による場合は、契約の相手方となるべき者が他にいないときなどを除き、競争性を確保するなどのため、なるべく2者以上から見積書を徴して、最も有利な価格の見積書の提出者を契約の相手方とすることになっている。
また、随意契約により契約の相手方を決定するに当たっては、契約担当職員は、見積書等の関係書類を添付して、契約担当役等まで決裁手続を行うことになっている。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
本院は、合規性、経済性等の観点から、随意契約による契約手続は、会計規則等に基づき適正に行われ、競争性が確保されているかなどに着眼して、両法人において令和2、3両年度に予定価格が500万円を超えない契約であるとして随意契約により締結された売買、賃借、請負等の契約、農工大576件(契約金額計27億4644万余円)、信州大180件(同計7億4640万余円)、計756件(同計34億9285万余円)を対象として、両法人において、見積書、契約書、納品書等の関係書類を確認するなどして会計実地検査を行った。
(検査の結果)
検査したところ、農工大の全2キャンパス、信州大の全5キャンパスにおける各契約担当役等(農工大3名、信州大6名)は、公用車等の売買契約、空調施設更新等の工事契約、人材派遣等の役務契約等のうちの一部の契約において、2者以上から徴した見積書を比較するなどして、その中から最も低い価格を提示した者を最も有利な価格の見積書の提出者であるとして契約の相手方と決定し、農工大141件(契約金額計5億3733万余円)、信州大12件(同計2658万余円)、計153件(同計5億6391万余円)の契約をそれぞれ締結したとしていた。
しかし、上記153件の契約のうち農工大140件(契約金額計5億3295万余円)、信州大12件(同計2658万余円)、計152件(同計5億5953万余円)の契約において、2者以上から徴したとしていた見積書は、契約担当職員等が契約の相手方として想定する特定の取引業者(以下「特定の取引業者」という。)に依頼して他者の見積書を特定の取引業者から入手したり、他者の見積書を特定の取引業者が自主的に提出したとしてそのまま受領したりしていたものであった。そして、これらの見積書は、特定の取引業者と同じ系列の業者、関連のある業者等の見積書であった。
このようなものであるにもかかわらず、契約担当職員等は、従前からの慣行であるなどとして、これらの見積書を発行した業者から直接徴したこととして契約の決裁文書に添付するなどして決裁手続を行い、契約担当役等は、これらの見積書の入手方法等を確認することなく、当該見積書等を基に、特定の取引業者が最も有利な価格の見積書の提出者であると判断して契約の相手方に決定していた。
このような契約手続は、特定の取引業者が自らの見積価格を上回る見積価格とした他者の見積書を入手して提示したり、特定の取引業者が他者の見積価格を知った上で自らが提示する価格を設定したりすることを可能とするものであって、競争性や経済性が確保されていないものである。
前記の事態について、事例を示すと次のとおりである。
<事例>
農工大の契約担当職員は、会議室に設置するテーブル、椅子等の備品を購入するために、A社及びB社の2者から見積書を徴したところ、A社から最も低い価格(266万余円)の提示を受けたとして、令和3年8月7日に2者の見積書等の関係書類を添付して決裁手続を行い、契約担当役等は、これらの見積書等の関係書類を基に、契約の相手方をA社に決定していた。
しかし、上記2者の見積書を確認するなどしたところ、実際には、上記の備品を管理する部署の職員がA社に依頼してA社及びB社(A社の代表取締役が取締役となっている法人)の見積書を入手したものであった。そして、上記の契約担当職員は、これらの見積書を用いて決裁手続を行い、上記の契約担当役等は、見積書の入手方法等を確認することなく、これらの見積書等の関係書類を基に、契約の相手方をA社に決定していた。
また、前記153件の契約のうち農工大の1件の契約(契約金額438万余円)は、3者から見積書を徴した上で、最も低い価格を提示した者を契約の相手方に決定したとしていた。しかし、実際は、契約時には1者からしか見積書を徴しておらず、これにより競争性や経済性を確保することなく契約の相手方を決定していた。そして、農工大の契約担当職員及び契約担当役等は、契約の履行が完了した後に、契約の相手方の決定以降に生じた契約内容の変更を反映した見積書を当該契約の相手方から再度徴するとともに、当該契約の相手方と同じ系列の業者である他の2者の見積書を当該契約の相手方を通じて受領した上で、これらを用いて、契約時に3者からの見積書に基づき契約の相手方を決定したかのように偽って関係書類を作成するなどしていた。
以上のように、随意契約により契約の相手方を決定するに当たり、両法人において、会計規則等の趣旨に反して、見積書を発行した業者から直接徴していないのに徴したこととしていたり、決裁時に見積書の入手方法等を適切に確認していなかったりしていて、競争性及び経済性が確保されていない事態、農工大において、競争性や経済性を確保することなく契約の相手方を決定し、契約の履行後に、契約の相手方及び他者の見積書を当該契約の相手方を通じて受領して、これらを用いて契約の前に決裁が行われたかのように偽って関係書類を作成するなどしていた事態は適切ではなく、改善の必要があると認められた。
(発生原因)
このような事態が生じていたのは、両法人において、随意契約により契約の相手方を決定するに当たり、会計規則等の趣旨を踏まえて適正に契約手続を行うという認識が欠けていたこと、競争性及び経済性を確保することの重要性を十分に理解していなかったこと、契約手続が適正になされているかの確認が十分でなかったこと、また、農工大において、事実に即した適正な手続を行うことについての基本的な認識が欠けていたことなどによると認められた。
上記についての本院の指摘に基づき、両法人は、契約手続が適正に行われるよう、次のような処置を講じた。
ア 両法人は、4年4月から9月までの間に、職員に対して通知を発して、随意契約により契約の相手方を決定するに当たり、会計規則等において2者以上から見積書を徴するなどとされていることの趣旨、見積書を発行した業者それぞれから直接見積書を徴するなどして競争性及び経済性を確保することの重要性等を周知徹底した。
イ 両法人は、4年8月以降、見積書の入手方法等を明らかにした上で決裁手続を行い、これに基づき契約担当役等が契約の相手方を決定する仕組みを導入するなどした。
ウ 農工大は、4年4月から8月までの間に、会計規則等の規定を遵守し、事実に即して適正に手続を行うよう周知徹底した。