国立大学法人神戸大学(以下「神戸大学」という。)は、医学部附属病院等に設置されている直流電源設備の更新等を行うために、平成30年度に、神戸大学(楠)基幹・環境整備(直流電源設備更新等)工事(以下「本件工事」という。)を、西日本電気システム株式会社(以下「会社」という。)に工事費57,240,000円で請け負わせて実施している。
本件工事は、医学部附属病院等の建物5棟における既存の直流電源設備計11設備を更新等するものであり、このうち、中央診療棟(鉄筋コンクリート造9階建て)の8階の直流電源設備(以下「中央診療棟の直流電源設備」という。)は、建物に固定して設置するものである。
神戸大学は、本件工事のうち、直流電源設備の設置に係る工事の設計を「建築設備耐震設計・施工指針2014年版」(独立行政法人建築研究所監修。以下「耐震設計指針」という。)等に基づき行うこととしている。そして、耐震設計指針によれば、設備機器は原則としてアンカーボルトを用いて床等に固定すること、その設計に当たっては、地震時に作用する引抜力(注)が許容引抜力(注)を上回らないようにすることとされており、設備機器の設置場所等に応じて定められている係数である設計用標準震度を用いるなどして引抜力を算出することなどとされている。
神戸大学は、会社に上記直流電源設備の設置に係る工事の設計を行わせており、会社は中央診療棟の直流電源設備の設置に係る工事の設計において設計用標準震度を1.5とするなどして耐震設計計算を行い、中央診療棟の直流電源設備を径16mmのアンカーボルト4本で床に固定すれば、地震時にアンカーボルトに作用する引抜力8.45kN/本が許容引抜力9.20kN/本を上回らないことから、耐震設計計算上安全であるとして、耐震設計計算書を神戸大学に提出していた。そして、神戸大学は、これを審査した上で承諾し、これにより会社に施工させていた。
本院は、合規性等の観点から、工事の設計が耐震設計指針等に基づき適切に行われているかなどに着眼して、本件工事を対象として、神戸大学において、耐震設計計算書等の書類及び現地の状況を確認するなどして会計実地検査を行った。
検査したところ、前記のとおり、会社は、中央診療棟の直流電源設備の設置に係る工事の設計において設計用標準震度を1.5として耐震設計計算を行い、これにより施工していた。
しかし、耐震設計指針等によれば、災害時に拠点として機能する病院等において、その施設目的に応じた活動を行うために必要な設備機器を建築物の上層階(9階建ての建築物の場合は上層2階である8階及び9階)に設置する場合に用いる設計用標準震度は2.0とされていることから、本件工事のうち、中央診療棟の直流電源設備の設置に係る工事の設計においては、1.5ではなく、2.0を用いる必要があった。
そこで、設計用標準震度を2.0とするなどして改めて耐震設計計算を行ったところ、地震時にアンカーボルトに作用する引抜力は10.62kN/本となり、許容引抜力9.20kN/本を上回っていて、耐震設計計算上安全とされる範囲に収まっていなかった。
したがって、中央診療棟の直流電源設備は、アンカーボルトの設計が適切でなかったため、地震時に転倒して破損するなどのおそれがあり、地震時における機能の維持が確保されていない状態となっていて、工事の目的を達しておらず、これに係る工事費相当額4,063,745円が不当と認められる。
このような事態が生じていたのは、神戸大学において、会社から提出された耐震設計計算書に誤りがあったのに、これに対する審査が十分でなかったことなどによると認められる。