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  • 令和3年度|
  • 第6章 歳入歳出決算その他検査対象の概要

第2節 国の財政等の状況


第1 国の財政の状況

歳入歳出決算等の検査対象別の概要は第1節に記述したとおりであるが、国の会計等のより的確な理解に資するために、決算でみた国の財政の状況を述べると次のとおりである。

1 国の財政の現状等の概要等

(1) 国の財政の現状等の概要

我が国の財政状況をみると、昭和40年度に初めて歳入補塡のための国債が発行されて以降、連年の国債発行により国債残高は増加の一途をたどり、令和3年度末において、建設国債(注1)、特例国債(注2)、復興債(注3)、借換債(注4)等のように利払・償還財源が主として税収等の歳入により賄われる国債(以下「普通国債」という。)の残高は991.4兆円に達している。そして、同年度においては、2年度に引き続き、新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴う歳出の増加等により、歳入補塡のための国債の発行が例年に比べて増加したことなどで、一般会計歳出決算総額における公債依存度は39.8%、国債の償還等に要する国債費の一般会計歳出決算総額に占める割合は16.9%となっており、財政は厳しい状況が続いている。

こうした状況の中で、政府は、平成8年12月に「財政健全化目標について」を閣議決定するなどして、9年度を「財政構造改革元年」と位置付けて、財政健全化の努力目標を設定するとともに、財政構造改革を強力に推進することとした。

25年には、「当面の財政健全化に向けた取組等について―中期財政計画―」(平成25年8月閣議了解)において、①「国・地方を合わせた基礎的財政収支(注5)」(以下「国・地方PB」という。)を2020年度(令和2年度)までに黒字化し、その後に②債務残高(注6)の対名目GDP比(以下、名目GDPを「GDP」という。)の安定的な引下げを目指すという財政健全化のための目標を掲げた。

そして、「経済財政運営と改革の基本方針2015」(平成27年6月閣議決定)において、「経済・財政再生計画」を定めて、①及び②の財政健全化のための目標を堅持するとともに、「集中改革期間(注7)における改革努力のメルクマール」として、2018年度(平成30年度)の国・地方PB赤字の対GDP比「▲1%程度」を目安とすることとして、「経済財政運営と改革の基本方針2017」(平成29年6月閣議決定)において、①及び②の財政健全化のための目標を同時に目指すこととした。

その後、政府は、「経済財政運営と改革の基本方針2018」(平成30年6月閣議決定)において、「新経済・財政再生計画」を定めて、国・地方PBの黒字化の目標年度を2025年度(令和7年度)とし、同時に債務残高対GDP比の安定的な引下げを目指すとともに、国・地方PBの黒字化の目標年度である2025年度(令和7年度)までの中間年である2021年度(令和3年度)における中間指標として、国・地方PB赤字の対GDP比を2017年度(平成29年度)からの実質的な半減値(1.5%程度)、債務残高の対GDP比を180%台前半、財政収支(注5)赤字の対GDP比を3%以下と設定し、これらを「進捗を管理するためのメルクマール」とした。

そして、「経済財政運営と改革の基本方針2022」(令和4年6月閣議決定)においては、「財政健全化の「旗」を下ろさず、これまでの財政健全化目標に取り組む。経済あっての財政であり、現行の目標年度により、状況に応じたマクロ経済政策の選択肢が歪められてはならない。必要な政策対応と財政健全化目標に取り組むことは決して矛盾するものではない。経済をしっかり立て直し、そして財政健全化に向けて取り組んでいく。ただし、感染症及び直近の物価高の影響を始め、内外の経済情勢等を常に注視していく必要がある。このため、状況に応じ必要な検証を行っていく」こととしている。

また、国・地方PB、債務残高、財政収支及びそれぞれの対GDP比については、内閣府が、半年ごとに経済財政諮問会議に提出している「中長期の経済財政に関する試算」(以下「内閣府試算」という。)において実績値等を公表している。

本院は、これまで、財政の健全化に向けた政府の動向を踏まえつつ、国の決算額等により国の財政状況を継続して検査しており、平成28年度以降の検査報告の第6章において、財政健全化のための目標等において用いられる国・地方PB、財政収支対GDP比及び債務残高対GDP比について、国の一般会計の決算額等を用いて分析した結果を掲記するなどしている。また、令和2年度決算検査報告においては、第4章第3節の特定検査対象に関する検査状況として「国の債務について」を掲記し、普通国債の発行残高及び発行額の推移や発行残高の増加及び償還の仕組みによる一般会計への負担の影響等について記述している。

(注1)
建設国債  財政法(昭和22年法律第34号)第4条第1項ただし書の規定に基づき公共事業費、出資金及び貸付金の財源に充てるために、予算をもって国会の議決を経た金額の範囲内で一般会計において発行される公債
(注2)
特例国債  公債の発行の特例に関する各法律の規定に基づき租税収入等に加えて建設国債を発行してもなお不足する歳出の財源を調達するために、予算をもって国会の議決を経た金額の範囲内で一般会計において発行される公債
(注3)
復興債  「東日本大震災からの復興のための施策を実施するために必要な財源の確保に関する特別措置法」(平成23年法律第117号)第69条の規定に基づき復興施策に要する費用の財源を確保するために発行される公債
(注4)
借換債  特別会計に関する法律(平成19年法律第23号。以下「特会法」という。)第46条及び第47条の規定に基づき、国債を借り換えるために国債整理基金特別会計において発行される公債
(注5)
基礎的財政収支、財政収支  内閣府が我が国の経済の全体像を国際比較可能な形で体系的に記録することを目的に、国際基準に基づいて作成している統計である国民経済計算を基に算出される、税等の収入から雇用者報酬、社会給付等の支出を差し引くなどした収支差を財政収支といい、財政収支に支払利子を加え、受取利子を差し引いた収支差(復旧・復興対策の経費及び財源の金額を除いたベース)を基礎的財政収支という。基礎的財政収支はプライマリー・バランス(PB)とも称される。
(注6)
債務残高  普通国債、地方債及び交付税及び譲与税配付金特別会計の借入金の各残高の合計額(復旧・復興対策の経費及び財源の金額を除いたベース)。内閣府試算では「公債等残高」である。
(注7)
集中改革期間  平成28年度から30年度までの3か年度

(2) 国の一般会計の決算額でみた財政健全化の指標等

前記のとおり、財政健全化のための目標、目安及び中間指標において用いられている指標には、基礎的財政収支、財政収支及び債務残高に関するものがある(以下、これらに関する指標を「財政健全化の指標」という。)。そして、財政健全化の指標のうち、国・地方PB、財政収支及びそれぞれの対GDP比は、前記のとおり内閣府試算により公表されていて、国民経済計算の作成基準等に従い各種の基礎統計を利用して推計されているものであるが、詳細な内訳等は公表されていない。

一方、国の一般会計の決算額でみた基礎的財政収支(以下「一般会計PB」という。)は、税収等(注8)から政策的経費(注9)を差し引いた収支差で表されるもので、その時点で必要とされる政策的経費を、その時点の税収等でどれだけ賄えているかを示す指標であり(参考図参照)、計算の基礎となる詳細な決算額を歳入決算明細書や歳出決算報告書等により把握することが可能である。また、国の一般会計の決算額でみた財政収支(以下「一般会計財政収支」という。)は、税収等から財政経費(注10)を差し引いた収支差で表されるもので、その時点で必要とされる財政経費を、その時点の税収等でどれだけ賄えているかを示す指標であり(参考図参照)、一般会計PBと同様に、計算の基礎となる詳細な決算額を歳入決算明細書や歳出決算報告書等により把握することが可能である。ただし、国・地方PB(又は財政収支)は国の特別会計及び独立行政法人の一部、地方普通会計等の決算が計算対象に含まれており、一般会計PB(又は一般会計財政収支)はそれらの決算が計算対象に含まれていないなどの点で、両者には相違がある。

(注8)
税収等  一般会計の歳入決算総額(租税及印紙収入、前年度剰余金受入、雑収入等及び公債金)から公債金及び翌年度への繰越歳出予算財源等を差し引いた額。そのため、税収等の額と租税及印紙収入の収納済歳入額とは基本的に一致しない。
(注9)
政策的経費  一般会計の歳出決算総額から国債等の償還に必要な経費(交付国債分を除く。)、利払費及び「決算不足補てん繰戻」を合算した支出を差し引いた額
(注10)
財政経費  一般会計の歳出決算総額から国債等の償還に必要な経費(交付国債分を除く。)を差し引いた額。政策的経費と異なり、利払費を含む。

(参考図)

一般会計PB及び一般会計財政収支の概念図

国の一般会計の決算額でみた財政収支は、税収等から財政経費を差し引いた収支差で表されるもので、その時点で必要とされる財政経費を、その時点の税収等でどれだけ賄えているかを示す指標

また、概念上の整理として、それぞれ次の関係式が成り立つ(関係式の各要素については参考図参照)。

  • 普通国債の新規発行額=債務償還費+利払費+一般会計PB赤字額(黒字の場合はマイナスとなる。)
  • =債務償還費+一般会計財政収支赤字額(同)
  • 普通国債の残高の増加額=新たな債務の増加-過去の債務の減少
  • =利払費+一般会計PB赤字額(同)
  • =一般会計財政収支赤字額(同)

なお、一般会計PBが均衡している場合には、普通国債の残高は利払費分だけ増加し、一般会計財政収支が均衡している場合には、普通国債の残高は不変となる。

2 国の財政の状況

令和3年度の国の財政の状況について、引き続き、財政健全化の指標である国・地方PB、国・地方PB対GDP比、財政収支対GDP比及び債務残高対GDP比の状況がどのようになっているかなどをみると、次のとおりである。

(1) 国・地方PB及び国・地方PB対GDP比

ア 国・地方PBと一般会計PB

国・地方PB、一般会計PB及び地方普通会計の基礎的財政収支(以下「地方PB」という。)について、平成19年度から令和3年度までの推移をみると、図1のとおり、国・地方PBと一般会計PBは3年度までおおむね同じように推移している。これは、地方財政計画を通じて国から地方に交付される地方交付税交付金等によって地方の財源が保障される仕組みなどにより、地方PBがほぼ均衡して推移していることなどによる。

そして、一般会計PBは、3年度にマイナス31.1兆円となっており、前年度のマイナス80.4兆円から49.2兆円改善しているが、新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴い歳出が大幅に増加する前(以下「コロナ禍前」という。)の元年度の水準には戻っていない。また、国・地方PBは、3年度にマイナス28.6兆円となっており、前年度のマイナス48.8兆円から20.2兆円改善しているが、一般会計PBと同様に、元年度の水準には戻っていない。

図1 国・地方PB、一般会計PB及び地方PBの推移

国・地方PB、一般会計PB及び地方普通会計の基礎的財政収支について、国・地方PBと一般会計PBは3年度までおおむね同じように推移している。

また、国・地方PB及び一般会計PBのそれぞれの対GDP比について、平成19年度から令和3年度までの推移をみると、図2のとおり、国・地方PB対GDP比と一般会計PB対GDP比は、図1の国・地方PBと一般会計PBと同様に、3年度までおおむね同じように推移している。そして、一般会計PB対GDP比は、3年度はマイナス5.7%となっており、前年度のマイナス15.0%から9.2ポイント改善しているが、コロナ禍前の元年度の水準には戻っていない。また、国・地方PB対GDP比は、3年度にはマイナス5.3%となっており、前年度のマイナス9.1%から3.8ポイント改善しているが、一般会計PB対GDP比と同様に、元年度の水準には戻っておらず、中間指標であるマイナス1.5%程度を下回っている。

図2 国・地方PB及び一般会計PBのそれぞれの対GDP比の推移

そこで、一般会計PBの内訳となる税収等及び政策的経費について、平成19年度から令和3年度までの推移をみると、図3のとおり、全ての年度において政策的経費が税収等を上回っている。そして、3年度は政策的経費が前年度から5.2兆円減少し、税収等が前年度から44.0兆円増加していて、一般会計PBの赤字は大幅に改善しているが、コロナ禍前の元年度の水準には戻っていない。

図3 税収等及び政策的経費の推移

一般会計PBの内訳となる税収等及び政策的経費について、平成19年度から令和3年度までの推移をみると、全ての年度において政策的経費が税収等を上回っている。

イ 税収等の推移

3年度の税収等の前年度からの増加44.0兆円の内訳を租税及印紙収入、前年度剰余金受入及び「その他」に区分してみると、図4のとおり、租税及印紙収入が6.2兆円、前年度剰余金受入が29.1兆円及び「その他」が8.6兆円それぞれ増加している。前年度剰余金受入が増加したのは、2年度における翌年度への繰越歳出予算財源等30.7兆円が3年度において前年度剰余金として歳入に受け入れられたことが主な要因となっている。

図4 令和3年度における前年度からの税収等の増加の内訳

3年度の税収等の前年度からの増加44.0兆円の内訳を租税及印紙収入、前年度剰余金受入及び「その他」に区分してみると、租税及印紙収入が6.2兆円、前年度剰余金受入が29.1兆円及び「その他」が8.6兆円それぞれ増加している。

租税及印紙収入について、平成29年度から令和3年度までの推移をみると、図5のとおり、平成29年度の58.7兆円から8.2兆円増加し、令和3年度は67.0兆円となっている。特に、3年度は2年度の60.8兆円と比較して大幅な増加となっている。

図5 租税及印紙収入の推移

租税及印紙収入について、平成29年度から令和3年度までの推移をみると、3年度は2年度の60.8兆円と比較して大幅な増加となっている。

3年度の租税及印紙収入は67.0兆円に上り、このうち主要な税目である所得税、法人税及び消費税の合計は56.9兆円となっていて、租税及印紙収入の約8割を占めている。上記の3税目について、平成19年度から令和3年度までの推移を景気動向の推移と併せてみると、図6のとおり、所得税及び法人税の推移は、景気拡張期に増加し、景気後退期に減少するなど、景気動向の推移とおおむね連動している。3年度は、新型コロナウイルス感染症の影響下からの持ち直しの動きがみられ、景気拡張期となっており、所得税及び法人税は、前年度からそれぞれ2.1兆円及び2.4兆円大幅に増加して、21.3兆円及び13.6兆円となっている。一方、消費税の推移は、所得税及び法人税と異なり、景気動向の推移とはほとんど連動しておらず、消費税率(地方消費税分を含む。)の改定(平成26年4月の5%から8%及び令和元年10月の8%から10%)の影響を強く受けた平成26年度及び令和2年度に大きく増加している。3年度は、前年度から0.9兆円増加し、2年度に引き続き所得税を上回って、21.8兆円となっている。

図6 所得税、法人税及び消費税と景気動向の推移

所得税及び法人税の推移は、景気拡張期に増加し、景気後退期に減少するなど、景気動向の推移とおおむね連動している。

ウ 政策的経費の推移

3年度の政策的経費の前年度からの減少5.2兆円の内訳を主要経費別にみると、図7のとおり、社会保障関係費は7.1兆円増加しているものの、その他の事項経費(注11)が9.2兆円、中小企業対策費が6.3兆円それぞれ減少しており、政策的経費の減少の主な要因は、その他の事項経費及び中小企業対策費の減少となっている。

(注11)
「その他の事項経費」は、主要経費別分類の一つであり、社会保障関係費等の他の項目に分類されなかったものである。

図7 令和3年度における前年度からの政策的経費の減少の内訳

3年度の政策的経費の前年度からの減少5.2兆円の内訳を主要経費別にみると、政策的経費の減少の主な要因は、その他の事項経費及び中小企業対策費の減少となっている。

また、3年度の政策的経費120.4兆円を主要経費別にみると、社会保障関係費が50.1兆円、地方交付税交付金等が19.5兆円、その他の事項経費が13.9兆円、中小企業対策費が9.9兆円及び公共事業関係費が8.6兆円となっており、これら五つの主要経費計102.2兆円で政策的経費の約8割を占めている。上記五つの主要経費について、平成29年度から令和3年度までの推移をみると、図8のとおり、社会保障関係費については、高齢化に伴い年金、医療及び介護に係る経費が増加したことなどにより一貫して増加しており、3年度は平成29年度の32.5兆円に対して17.6兆円増の50.1兆円となっている。このうち、令和3年度においては、子育て世帯等臨時特別支援事業費補助金等により前年度から7.1兆円増加している。地方交付税交付金等については、平成29年度の15.5兆円以降、国の税収の増加等を反映して増加し、令和3年度は19.5兆円となっている。その他の事項経費については、平成29年度の6.2兆円以降、令和元年度までほぼ横ばいであったが、2年度は特別定額給付金給付事業費補助金等により前年度から急増し、3年度は同補助金がなかったことなどにより前年度から減少したものの、新型コロナウイルス感染症対応地方創生臨時交付金等によりコロナ禍前の元年度を上回る13.9兆円となっている。中小企業対策費については、平成29年度の0.3兆円以降、令和元年度までほぼ横ばいであったが、2年度は新型コロナウイルス感染症対策中小企業等持続化給付金等により前年度から急増し、3年度は同給付金が減少したことなどにより前年度から減少したものの、株式会社日本政策金融公庫出資金等によりコロナ禍前の元年度を上回る9.9兆円となっている。公共事業関係費については、平成29年度の6.9兆円以降、自然災害の発生等によって補正予算が編成されたことなどにより増加し、令和3年度には8.6兆円となっている。

図8 社会保障関係費、地方交付税交付金等、公共事業関係費、その他の事項経費及び中小企業対策費の推移

平成29年度から令和3年度までの推移をみると、社会保障関係費については、高齢化に伴い年金、医療及び介護に係る経費が増加したことなどにより一貫して増加しており、3年度は平成29年度の32.5兆円に対して17.6兆円増の50.1兆円となっている。

3年度の社会保障関係費50.1兆円は、政策的経費120.4兆円の約4割を占めており、一般会計PBの赤字の支出面の大きな要因となっている。社会保障関係費について、平成19年度から令和3年度までの推移を高齢化率の推移と併せてみると、図9のとおり、我が国の高齢化に伴い増加傾向となっており、特に、基礎年金国庫負担割合の引上げなどが行われた平成21年度並びに新型コロナウイルス感染症への対応等が行われた令和2年度及び3年度についてそれぞれ急増している。

図9 社会保障関係費及び高齢化率の推移

平成19年度から令和3年度までの推移を高齢化率の推移と併せてみると、我が国の高齢化に伴い増加傾向となってる。

(2) 財政収支対GDP比

ア 財政収支対GDP比と一般会計財政収支対GDP比

財政収支、一般会計財政収支及び一般会計PBのそれぞれの対GDP比について、平成19年度から令和3年度までの推移をみると、図10のとおり、財政収支対GDP比と一般会計財政収支対GDP比はおおむね同じように推移している。これは、地方財政計画を通じて国から地方に交付される地方交付税交付金等によって地方の財源が保障される仕組みなどにより、地方の財政収支がほぼ均衡して推移していることなどによる。また、同期間内において一般会計財政収支と一般会計PBの差である国債等の利払費の金額の変動が少なかったため、一般会計財政収支対GDP比と一般会計PB対GDP比についても同じように推移している。

そして、一般会計財政収支対GDP比は、3年度はマイナス7.0%となっており、前年度のマイナス16.4%からは9.3ポイント改善していて、財政収支対GDP比は、3年度はマイナス6.4%となっており、前年度のマイナス10.2%からは3.8ポイント改善しているが、いずれもコロナ禍前の元年度の水準には戻っておらず、財政収支対GDP比については中間指標であるマイナス3.0%を下回っている。

図10 財政収支、一般会計財政収支及び一般会計PBのそれぞれの対GDP比の推移

平成19年度から令和3年度までの推移をみると、財政収支対GDP比と一般会計財政収支対GDP比はおおむね同じように推移している。

イ 税収等、財政経費及びGDP成長率

一般会計財政収支の内訳となる税収等と財政経費について、平成19年度から令和3年度までの推移をGDP成長率の推移と併せてみると、図11のとおり、税収等については、おおむね、GDP成長率が継続してプラスのときに増加する傾向が見受けられる。3年度においては、GDP成長率はプラス1.3%であり、税収等は、前記のとおり、前年度剰余金受入が前年度から29.1兆円増加したことが大きな要因となるなどして44.0兆円増加して89.2兆円となり、財政経費は、前年度から5.4兆円減少して、127.6兆円となっている。

図11 税収等、財政経費及びGDP成長率の推移

平成19年度から令和3年度までの推移をGDP成長率の推移と併せてみると、税収等については、おおむね、GDP成長率が継続してプラスのときに増加する傾向が見受けられる。

3年度における前年度からの財政経費の減少5.4兆円の内訳を政策的経費と利払費に区分してみると、図12のとおり、政策的経費が5.2兆円、利払費が0.1兆円それぞれ減少しており、政策的経費の減少が財政経費の減少の主な要因となっている。

図12 令和3年度における前年度からの財政経費の減少の内訳

3年度における前年度からの財政経費の減少5.4兆円の内訳を政策的経費と利払費に区分してみると、政策的経費の減少が財政経費の減少の主な要因となっている。

財政経費のうち利払費は、普通国債の残高と金利(利率)によって決定される。普通国債の利率加重平均(年度末の残高に係る表面利率の加重平均)について、平成19年度から令和3年度までの推移をみると、図13のとおり、平成19年度の1.4%から令和3年度の0.7%へと0.6ポイント減少している。そして、利払費は、平成19年度の7.4兆円以降、普通国債の残高の累増による影響が普通国債の利率加重平均の低下による影響を上回っていることから27年度までは増加傾向となっていたが、28年度以降は普通国債の利率加重平均の低下による影響が普通国債の残高の累増による影響を上回っていることから減少しており、令和3年度末の普通国債の残高が前年度末から44.7兆円増加して991.4兆円となっているものの、利払費は、前年度から0.1兆円減少して7.1兆円となっている。

図13 普通国債の残高、利払費及び利率加重平均の推移

(3) 債務残高対GDP比

ア 債務残高の推移

債務残高とその内訳について、平成19年度末から令和3年度末までの推移をみると、図14のとおり、普通国債のうち復興債(その借換債を含む。以下(3)において同じ。)を除いた国債(以下「復興債を除いた普通国債」という。)が債務残高の大半を占めており、その残高は引き続き増加している。そして、3年度末の復興債を除いた普通国債の残高は、前年度末から46.1兆円増加(対前年度比4.9%増)して、985.9兆円となっている。

図14 債務残高の推移

平成19年度末から令和3年度末までの推移をみると、普通国債のうち復興債を除いた国債が債務残高の大半を占めており、その残高は引き続き増加している。

3年度末の復興債を除いた普通国債の前年度末からの増加46.1兆円の内訳を建設国債、特例国債及びその他の普通国債(それぞれの借換債を含む。以下(3)において同じ。)に区分してみると、2年度に次ぐ新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴う歳出の増加等により、図15のとおり、建設国債は4.0兆円、特例国債は42.5兆円それぞれ増加している一方、その他の普通国債は0.4兆円減少しており、復興債を除いた普通国債の増加の要因は、建設国債及び特例国債の増加となっている。

図15 復興債を除いた普通国債の令和3年度末における前年度末からの増加の内訳

2年度に次ぐ新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴う歳出の増加等により、復興債を除いた普通国債の増加の要因は、建設国債及び特例国債の増加となっている。

建設国債及び特例国債の残高については、平成19年度末以降、特例国債の残高が建設国債の残高を上回る状況が続いており、また、いずれも19年度末から令和3年度末にかけて増加しているが、その増加額は特例国債が建設国債を大幅に上回る状況となっている(図14参照)。

イ 債務残高と債務残高対GDP比の推移

債務残高と債務残高対GDP比について、平成19年度から令和3年度までの推移をGDPの推移と併せてみると、図16のとおり、債務残高は一貫して増加しており、債務残高対GDP比の増加幅は、GDPが緩やかに増加していた平成25年度から令和元年度までについては、平成20年度から24年度にかけての増加幅に比べて抑えられていたものの、令和2年度の債務残高対GDP比は、債務残高が大幅に増加し、GDPが減少したことから前年度を大幅に上回った。そして、3年度の債務残高対GDP比は、GDPは増加に転じたものの、債務残高が大幅に増加したことから対前年度比5.9ポイント増の215.8%となっており、前年度に引き続き平成25年度から令和元年度までの各年度の増加幅を上回る増加となっており、中間指標である180%台前半を上回っている。

図16 債務残高と債務残高対GDP比の推移

債務残高は一貫して増加しており、前年度に引き続き平成25年度から令和元年度までの各年度の増加幅を上回る増加となっており、中間指標である180%台前半を上回っている。

そこで、債務残高対GDP比の増加要因となる債務残高の前年度末からの増加率(以下「債務残高増加率」という。)及びGDP成長率について、平成29年度から令和3年度までの推移をみると、図17のとおり、債務残高増加率は元年度まで減少傾向となっていたものの、2年度に大幅に増加し、3年度においては前年度から減少したものの、コロナ禍前の元年度と比較して依然として高い水準となっている。また、債務残高増加率は平成29年度以降全ての年度においてGDP成長率を上回っており、令和2、3両年度はその差がコロナ禍前の元年度より大きくなっている。

図17 債務残高増加率及びGDP成長率の推移

債務残高増加率は元年度まで減少傾向となっていたものの、2年度に大幅に増加し、3年度においては前年度から減少したものの、コロナ禍前の元年度と比較して依然として高い水準となっている。

(4) 普通国債の発行・償還等の状況

前記のとおり、国の一般会計の決算額でみた財政健全化の指標と、普通国債の発行・償還等との間には一定の関係があることから、普通国債の発行・償還等の推移について、財政健全化の指標の理解に資するための参考として示すと、次のとおりである。

ア 普通国債の発行額の推移

平成19年度から令和3年度までの普通国債の発行額(収入金ベース(注12))の推移をみると、図18のとおり、建設国債は、平成21年度及び24年度において大規模な経済対策が措置されたことなどにより大きく増加しているが、それ以外は令和元年度まで大きな変動は見受けられない。特例国債は、平成21年度において税収の落ち込みを補うなどのために大きく増加した後、30年度までは減少傾向となっていた。借換債は、21年度から26年度までは増加傾向となっていたが、27年度から令和元年度までは減少傾向となっていた。そして、2年度は、新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴う大規模な補正予算の財源として、建設国債及び特例国債の発行額が大きく増加したが、3年度は両者とも2年度から減少し、特例国債は元年度以前と比較して依然として高い水準にあるものの、建設国債は元年度以前と同水準となっている。一方、借換債は、2年度に大幅に増加させた償還期限の短い国債が3年度に償還期限を迎えたことにより、3年度に大幅に増加している。

また、国の一般会計歳入決算総額に占める国債の発行収入金の割合は、世界的な金融危機や東日本大震災の影響等により増加したもののその後低下し、平成26年度以降は大幅な増加はなくおおむね横ばいであった。そして、令和2年度は50%を超える状況となったが、3年度は元年度以前と同水準となっている。

(注12)
収入金ベース  国債の発行額を収入金額を用いて示したもの。4月から翌年3月までの発行収入金をベースに特会法第47条第1項において認められている会計年度を超えた借換債の前倒し発行分及び公債の発行の特例に関する各法律等により認められている翌年度の4月から6月までの出納整理期間発行分の調整を行っている。

図18 普通国債の発行額(収入金ベース)の推移

平成19年度から令和3年度までの普通国債の発行額の推移

なお、財務省は、国債の確実かつ円滑な発行等を図るために、国債発行に当たっては、市場の動向及び投資家のニーズ等を勘案して、各年度のカレンダーベース市中発行額(注13)について償還年限別の発行額を決定している。国債のカレンダーベース市中発行額について償還年限別の推移を示すと、図19のとおり、平成25年度から令和元年度までは10年以下の償還年限の発行額は減少傾向となっていた。しかし、2年度は、短期国債を中心に発行額を大幅に増加させた結果、フローベースの平均償還年限(注14)は、元年度の9年0か月から2年度の6年8か月へと2年以上短期化した。そして、3年度は、短期国債を前年度から減額するなどした結果、フローベースの平均償還年限は7年3か月となっている。

(注13)
カレンダーベース市中発行額  国債の発行方式は、公募入札を基本とした市中発行方式、個人向け販売及び公的部門発行方式(日銀乗換)の三つに大別され、カレンダーベース市中発行額は、市中発行方式のうち、あらかじめ額を定めた入札により定期的に発行する国債の4月から翌年3月までの発行額(額面)の総額であり、市中発行方式の大半を占めている。なお、カレンダーベース市中発行額には、普通国債のほか、同一の金融商品として普通国債と一体として発行される財投債(特会法第62条第1項の規定に基づき財政融資資金の運用の財源に充てるために財政投融資特別会計において発行される公債)が含まれる。
(注14)
フローベースの平均償還年限  カレンダーベース市中発行額における各国債の償還年限を加重平均したもの

図19 国債のカレンダーベース市中発行額における償還年限別発行額の推移

国債のカレンダーベース市中発行額について償還年限別の推移

イ 国債費及び普通国債の発行残高の推移

国債費は、過去に発行された国債の償還及び利払等の財源として一般会計から国債整理基金特別会計に繰り入れられた額等であり、国債の償還のために繰り入れられた額(以下「債務償還費」という。)と利子等の支払のために繰り入れられた額等(以下「利払費等」という。)で構成されている。平成19年度から令和3年度までの国債費の決算額の推移についてみると、図20のとおり、債務償還費が平成22年度以降増加傾向であることから増加傾向となっていて、19年度に19.2兆円であったものが、令和3年度には24.5兆円となり、5.2兆円増加している。

また、普通国債の発行残高の推移をみると、図20のとおり、平成19年度末に541.4兆円であったものが令和3年度末には991.4兆円となっており、一貫して増加している。

図20 国債費の決算額及び普通国債の発行残高の推移

平成19年度から令和3年度までの国債費の決算額の推移

3 まとめ

(1) 国・地方PB及び国・地方PB対GDP比

国・地方PB及び国・地方PB対GDP比は、平成19年度から令和3年度まで一般会計PB及び一般会計PB対GDP比とおおむね同じように推移しており、3年度の一般会計PBは、前年度から改善してマイナス31.1兆円となっているが、コロナ禍前の元年度の水準には戻っていない。一般会計PBの内訳となる税収等及び政策的経費について、平成19年度から令和3年度までの推移をみると、全ての年度において政策的経費が税収等を上回っている。そして、3年度の一般会計PBは、政策的経費が前年度から減少し、税収等が前年度から増加していて、一般会計PBの赤字は大幅に改善しているが、コロナ禍前の元年度の水準には戻っていない。3年度の一般会計PBの内訳の前年度からの増減要因についてみると、収入面では、3年度の税収等のうち、租税及印紙収入が6.2兆円、前年度剰余金受入が29.1兆円及び「その他」が8.6兆円それぞれ増加している。このうち、3年度の租税及印紙収入についてみると、所得税、法人税及び消費税が増加したことにより、前年度と比較して大幅な増加となっている。支出面では、3年度の政策的経費のうち、社会保障関係費が7.1兆円増加しているものの、その他の事項経費が9.2兆円、中小企業対策費が6.3兆円それぞれ減少している。また、政策的経費の約8割を占める社会保障関係費、地方交付税交付金等、その他の事項経費、中小企業対策費及び公共事業関係費について、平成29年度から令和3年度までの推移をみると、社会保障関係費が一貫して増加するなどしている。3年度においては、社会保障関係費については、子育て世帯等臨時特別支援事業費補助金等により前年度から大幅に増加し、地方交付税交付金等については、国の税収の増加等を反映して増加している。その他の事項経費については、特別定額給付金給付事業費補助金がなかったことなどにより前年度から減少したものの、新型コロナウイルス感染症対応地方創生臨時交付金等によりコロナ禍前の元年度を上回っており、中小企業対策費についても、新型コロナウイルス感染症対策中小企業等持続化給付金が減少したことなどにより前年度から減少したものの、株式会社日本政策金融公庫出資金等により元年度を上回っている。そして、公共事業関係費については、自然災害の発生等によって補正予算が編成されたことなどにより増加している。3年度の政策的経費の約4割を占める社会保障関係費について、平成19年度から令和3年度までの推移を高齢化率の推移と併せてみると、我が国の高齢化に伴い増加傾向となっており、特に、基礎年金国庫負担割合の引上げなどが行われた平成21年度並びに新型コロナウイルス感染症への対応等が行われた令和2年度及び3年度についてそれぞれ急増しており、一般会計PBの赤字の支出面の大きな要因となっている。

(2) 財政収支対GDP比

財政収支対GDP比は、平成19年度から令和3年度まで一般会計財政収支対GDP比とおおむね同じように推移している。そして、一般会計財政収支と一般会計PBの差である国債等の利払費の金額の変動が少なかったため、一般会計財政収支対GDP比と一般会計PB対GDP比についても同じように推移しており、3年度の一般会計財政収支対GDP比は、前年度から改善してマイナス7.0%となっているが、コロナ禍前の元年度の水準には戻っていない。一般会計財政収支の内訳となる税収等と財政経費について、平成19年度から令和3年度までの推移をGDP成長率の推移と併せてみると、税収等については、おおむね、GDP成長率が継続してプラスのときに増加する傾向が見受けられる。3年度においては、GDP成長率はプラスであり、税収等は、前年度剰余金受入が前年度から大幅に増加したことなどにより大幅に増加していた。財政経費については、3年度は前年度から減少しており、その内訳についてみると、政策的経費が5.2兆円、利払費が0.1兆円それぞれ減少している。利払費は、平成28年度以降、普通国債の利率加重平均の低下による影響が普通国債の残高の累増による影響を上回っていることから減少している。

(3) 債務残高対GDP比

復興債(その借換債を含む。以下同じ。)を除いた普通国債の残高は債務残高の大半を占めていて引き続き増加しており、令和3年度末の復興債を除いた普通国債の残高は、前年度末から46.1兆円増加(対前年度比4.9%増)して、985.9兆円となっている。3年度末の復興債を除いた普通国債の前年度末からの増加の内訳についてみると、2年度に次ぐ新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴う歳出の増加等により、建設国債(その借換債を含む。以下同じ。)は4.0兆円、特例国債(その借換債を含む。以下同じ。)は42.5兆円それぞれ増加している一方、その他の普通国債(その借換債を含む。)は0.4兆円減少している。建設国債及び特例国債の残高については、平成19年度末から令和3年度末にかけて、いずれも増加しているが、その増加額は特例国債が建設国債を大幅に上回る状況となっている。

債務残高対GDP比について、平成19年度から令和3年度までの推移をGDPの推移と併せてみると、GDPが緩やかに増加していた平成25年度から令和元年度までの増加幅は、平成20年度から24年度にかけての増加幅に比べて抑えられていたものの、令和2年度は前年度を大幅に上回り、3年度も前年度に引き続き平成25年度から令和元年度までの各年度の増加幅を上回る増加となっている。債務残高対GDP比の増加要因となる債務残高増加率及びGDP成長率について、平成29年度から令和3年度までの推移をみると、債務残高増加率は元年度まで減少傾向となっていたものの、2年度に大幅に増加し、3年度においては前年度から減少したものの、コロナ禍前の元年度と比較して依然として高い水準となっている。また、債務残高増加率は平成29年度以降全ての年度においてGDP成長率を上回っており、令和2、3両年度はその差がコロナ禍前の元年度より大きくなっている。

本院としては、これらを踏まえて、国の財政の状況について引き続き注視していくこととする。