第2節　国の財政等の状況

3年度末における総資産残高は、前年度末から21兆6969億円増加して736兆2535億円（量的・質的金融緩和導入前の平成24年度末の164兆8127億円の約4.5倍）となっている。これは、新型コロナウイルス感染症対応金融支援特別オペレーション（注4）の利用が増加し、その貸付残高が前年度末から22兆0108億円増加して86兆8372億円となったことなどにより、「貸出金」が前年度末から25兆6926億円増加して151兆5328億円（24年度末は25兆4870億円）となったり、後述のとおり日本銀行が保有する長期国債（以下「保有長期国債」という。）が前年度末から15兆4541億円増加して511兆2312億円（同91兆3492億円）となったりした一方、日本銀行が保有する短期国債（以下「保有短期国債」という。）が前年度末から21兆4457億円減少して14兆9424億円（同34兆0063億円）となったことなどによる。

また、令和3年度末における総負債残高は、前年度末から21兆5304億円増加して731兆5511億円（平成24年度末の161兆5239億円の約4.5倍）となっている。これは、上記の新型コロナウイルス感染症対応金融支援特別オペレーション等を通じた資金供給により日銀当座預金が前年度末から40兆6081億円増加して563兆1784億円（24年度末は58兆1289億円）となった一方、国庫の資金繰りの状況を反映して政府預金が23兆8853億円減少して13兆0325億円（同1兆4941億円）となったことなどによる（図表2参照）。

（注4）

新型コロナウイルス感染症対応金融支援特別オペレーション　　日本銀行が、金融機関等からあらかじめ差し入れられた国債等の適格担保を担保として、共通担保として差し入れられている民間債務の担保価額及び新型コロナウイルス感染症対応として行われている中小企業等への融資残高の合計額の範囲内で資金供給を行う公開市場操作としての貸付けであり、新型コロナウイルス感染症拡大の影響を受けて、令和2年3月に「新型コロナウイルス感染症にかかる企業金融支援特別オペレーション」として開始され、同年4月に名称変更した。

そして、資本金、法定準備金（注5）、特別準備金（注6）及び当期剰余金（各年度における剰余金をいう。以下同じ。）で構成される純資産は、後述のとおり当期剰余金が前年度末から1054億円増加して1兆3246億円（平成24年度末は5760億円）となったことなどから、前年度末から1664億円増加して4兆7024億円（同3兆2887億円）となっている。

また、上記の資本金、法定準備金（当該事業年度に係る剰余金の処分において積み立てられる額を含む。）及び特別準備金に債券取引損失引当金（注7）、外国為替等取引損失引当金（注8）等を加えて構成される自己資本の保有残高は、法定準備金662億円、債券取引損失引当金4029億円及び外国為替等取引損失引当金3610億円を積み立てたことから、図表3のとおり、前年度末から8302億円増加して10兆9375億円（同6兆0811億円）となっている。

（注5）

法定準備金　　日本銀行法に基づき、各年度において、当期剰余金の5％に相当する金額を積み立てる準備金であり、特に必要があると認められるときは、財務大臣の認可を受けて当該金額を超える金額を積み立てることができることとなっている。

（注6）

特別準備金　　戦後の金融機関再建整備促進のため、大蔵大臣命令により他の金融機関とともに昭和20年上期から24年上期までの間支払停止した配当金の相当額を日本銀行法の一部を改正する等の法律（昭和22年法律第46号）附則の規定により積み立てた準備金

（注7）

債券取引損失引当金　　日本銀行法施行令（平成9年政令第385号）等に基づき、各年度において、債券の売買等に伴い生じた収益又は損失について積立て又は取崩しを行うことができることとなっている引当金であり、量的・質的金融緩和の実施に伴って生じ得る収益の振幅を平準化する観点から、平成27年11月に日本銀行法施行令及び日本銀行法施行規則（平成10年大蔵省令第3号）が改正され、当分の間、上記収益の額に長期国債の利息の金額の全部又は一部が、上記損失の額に有利子負債への利息の金額がそれぞれ含まれることとなった。

（注8）

外国為替等取引損失引当金　　日本銀行法施行令等に基づき、各年度において、外国為替関係損益（外貨建資産から生ずる為替差益又は為替差損をいう。）について積立て又は取崩しを行うことができることとなっている引当金

令和3年度末における保有長期国債の残高は、前記のとおり、前年度末から15兆4541億円増加して511兆2312億円（平成24年度末は91兆3492億円）となっている。そして、令和3年度における長期国債の買入額は、図表4のとおり、前年度から12兆0908億円減少して72兆8669億円（買入代金ベース。平成24年度の44兆8614億円の約1.6倍）となっていて、このうち償還期限が到来して償還される長期国債の金額等に相当する分（以下「償還等相当分」という。）は前年度から5兆3094億円減少して57兆4127億円（同24兆1988億円の約2.4倍）、保有残高の増加分は前年度から6兆7814億円減少して15兆4542億円（同20兆6626億円の約0.7倍）となっている。

また、保有長期国債の残存期間別の残高及び平均残存期間についてみると、令和3年度末は、図表5のとおり、平均残存期間は、前年度末から0.3年短縮して6.6年（平成24年度末は3.9年）となっている。

日本銀行は、会計規程（平成10年10月制定）に基づき、保有長期国債については、原則として償還期限まで保有している実態を勘案して、償却原価法（注9）により評価を行うこととしている。

令和3年度末における保有長期国債の含み損益の状況をみると、この間の市場金利の動向を反映して、図表6のとおり、含み益が前年度末から5兆0594億円減少して4兆3730億円（平成24年度末は2兆5248億円の含み益）生じている。

（注9）

償却原価法　　取得原価と額面金額との差額を償還期限までの間、毎期均等に償却する方法であり、これに伴う損益は、日本銀行の損益において、長期国債利息に含める形で計上されることとなっている。

令和3年度末におけるETF及びJ―REITの保有残高（貸借対照表価額）をみると、図表7のとおり、ETFは前年度末から6861億円増加して36兆5657億円（平成24年度末の1兆5440億円の約23.7倍）、J―REITは前年度末から7億円減少して6661億円（同1189億円の約5.6倍）となっている。

日本銀行は、上記のETF及びJ―REITについて、金融政策目的で買い入れたものであり、その保有の目的や実態が民間企業等とは異なることを踏まえて、会計規程に基づき、原価法により評価を行うこととしている。そして、保有等に伴う損失発生可能性に備えて、同規程に基づき、ETF及びJ―REITの時価の総額がそれぞれの帳簿価額の総額を下回る場合には、その差額に対してそれぞれの引当金を年度末に計上することなどとしているが、令和3年度末においてはいずれも時価の総額が帳簿価額の総額を上回ったため、引当金は計上していない。

また、ETF及びJ―REITの年度末における時価が著しく下落した場合には減損処理を行うことなどとしているが、3年度末においてはいずれも時価が著しく下落した保有銘柄がなかったため、減損処理は行っていない。

日本銀行が保有するETF及びJ―REITの帳簿価額の総額（貸借対照表価額）について、3年度末における含み損益をみると、この間の株式市場等の動向を反映して、ETFは前年度末から7590億円減少して14兆6854億円の含み益（平成24年度末は5501億円の含み益）が、J―REITは前年度末から120億円減少して1809億円の含み益（同718億円の含み益）がそれぞれ生じている。

3年度における経常損益の状況をみると、図表8のとおり、収益面では、外貨建資産から生ずる為替差益について、為替レートの変動の影響を受けて前年度から4742億円増加して7220億円（平成24年度は6036億円）となったり、後述のとおり長期国債利息が前年度から119億円増加して1兆1515億円（同6005億円）となったりしたことなどから、経常収益は前年度から6316億円増加して3兆0507億円（同1兆3982億円）となっている。また、費用面では、外貨建資産から生ずる外貨債券損益について、期末にかけての米国金利等の上昇を受けて日本銀行が保有する外貨債券（以下「保有外貨債券」という。）の評価損が拡大したことなどから、前年度の29億円の外貨債券収益が1037億円の外貨債券費用（同700億円の外貨債券収益）に転じている。また、後述のとおり超過準備額等の残高に対して発生する補完当座預金制度に係る支払利息が、前年度から376億円減少して1802億円（同315億円）となった一方、貸出促進付利制度に係る支払利息が806億円生じたことなどから、経常費用は前年度から1894億円増加して6322億円（同2665億円）となっている。

以上のことから、経常利益は、前年度から4421億円増加して2兆4185億円（同1兆1316億円）となっている。

日本銀行は、長期国債利息については、会計規程に基づき、保有長期国債の受取利息に償却原価法に基づく利息調整損益（注10）を加減して算定することとしている。令和3年度における長期国債利息の状況をみると、保有長期国債の平均利率の低下等により受取利息が前年度から461億円減少して2兆8887億円（平成24年度は9595億円）となった一方、額面金額を上回る価額で買い入れてきた保有長期国債の一部が償還されたことに係る利息調整損の減少額が、額面金額を上回る価額で長期国債を買い入れたことに係る利息調整損の増加額を上回ったため利息調整損が減少したことなどにより、利息調整損益のマイナス幅が前年度から581億円縮小して1兆7371億円（同3590億円）となったことから、前記のとおり、長期国債利息は前年度から119億円増加して1兆1515億円（同6005億円）となっている（図表9参照）。

（注10）

償却原価法に基づく利息調整損益　　償却原価法では、保有長期国債の貸借対照表価額及び長期国債利息は、いずれも、保有長期国債の取得原価と額面金額との差額を取得年度以降償還期限に至るまで毎期均等に加減して算定することとなっており、この場合の取得原価が額面金額を上回る部分が利息調整損、下回る部分が利息調整益となる。

また、令和3年度における保有長期国債の利回りなどの状況をみると、図表10のとおり、保有長期国債の平均残高の対平成24年度増加率が前年度から20.6ポイント増加して507.0％となり、また、長期国債利息の同増加率が前年度から2.0ポイント増加して91.8％となったことから、利回りは前年度の0.232％から0.005ポイント減少して0.227％（24年度は0.719％）となっている。

日本銀行は、民間金融機関の貸出しなどの取組を支援するための各種の資金供給の利用残高に相当する日銀当座預金に一定の利息（令和3年度中の適用利率は年0.2％、0.1％又は0％）を付す貸出促進付利制度を3年3月に新設した。そして、2年度は補完当座預金制度に係る支払利息の一部として計上されていた新型コロナウイルス感染症対応金融支援特別オペレーションの利用残高に相当する日銀当座預金に係る支払利息は、3年4月16日以降、貸出促進付利制度に基づいて付されている。

このため、3年度における補完当座預金制度に係る支払利息の状況をみると、図表11のとおり、年0.1％の利率に係る支払額は前年度から389億円減少して2075億円（平成24年度は315億円）となっている。一方で、年マイナス0.1％の利率が適用される日銀当座預金等の残高が減少したことから、年マイナス0.1％の利率に係る受取利息は前年度から13億円減少して272億円（同0円）となったため、上記の支払利息は前年度から376億円減少して1802億円（同315億円）となっている。また、令和3年度における貸出促進付利制度に係る支払利息の状況をみると、新型コロナウイルス感染症対応金融支援特別オペレーションの利用残高に相当する日銀当座預金に年0.2％又は0.1％の利率が適用されたことから、図表11のとおり、上記の支払利息は806億円（平成24年度は0円）となっている。

図表11　補完当座預金制度及び貸出促進付利制度に係る支払利息の状況

• 注(1)　超過準備額等の残高に対して発生する補完当座預金制度に係る支払利息の額は、平成24年度から26年度までの各年度については全て年0.1％の利率を適用して算定されていたが、27年度以降については、マイナス金利の適用が開始された28年2月以降、日銀当座預金等の一部に対して年マイナス0.1％の利率を適用して算定された受取利息が発生しているため、年0.1％の利率に係る支払額から当該受取利息の額を減じて算定することとなっている。
• 注(2)　日本銀行は、貸出促進付利制度において、新型コロナウイルス感染症対応金融支援特別オペレーションの利用残高に相当する日銀当座預金のうち、日本銀行の貸付先が新型コロナウイルス感染症対応として行っている中小企業等への融資で、政府が予算上の措置を講じた信用保証協会による保証又は利子減免に係る制度を利用して行っている融資に融資条件の面で準じる融資に係る残高に相当する日銀当座預金に年0.2％、上記の融資以外に係る残高に相当する日銀当座預金に年0.1％の利率をそれぞれ適用している。
• 注(3)　補完当座預金制度に係る支払利息のうち、令和3年度の「うち新型コロナウイルス感染症対応金融支援特別オペレーションに係る支払額」3億円は、貸出促進付利制度に係る支払利息が生ずる前の、3年4月1日から15日までの間に生じた支払利息である。

日本銀行は、前記のとおり、長期国債、ETF、J―REIT、外貨建資産等の資産を保有しており、このうち、長期国債及び外貨建資産については、日本銀行法施行令に基づき、各年度において、収益の額が損失の額を超えるときは、その超える部分の金額の全部又は一部を、財務大臣の承認を受けて、それぞれ債券取引損失引当金及び外国為替等取引損失引当金として積み立てることができることとなっている。一方、ETF及びJ―REITについては、上記のように収益の額が損失の額を超えるときに引当金を積み立てるのではなく、会計規程に基づき、時価の総額がそれぞれの帳簿価額の総額を下回る場合に、その差額に対してそれぞれの引当金を計上することとしている。

そして、日本銀行の各年度における当期剰余金は、経常利益に上記債券取引損失引当金等の積立て又は取崩しなどに係る額を特別損益として加減したものから法人税、住民税及び事業税（以下「法人税等」という。）を差し引いて算定されている。

また、日本銀行は、日本銀行法に基づき、当期剰余金の5％に相当する金額を法定準備金として積み立てなければならないこととなっており、特に必要があると認められるときは、財務大臣の認可を受けて当該金額を超える金額を法定準備金として積み立てることができることとなっている。さらに、当期剰余金のうち法定準備金への積立て及び出資者への配当を行った後の残額を国庫に納付しなければならないこととなっている。

上記当期剰余金の処分の流れを前記各引当金の積立て及び取崩しなどを含めて令和3年度の決算を基に示すと、図表12のとおりとなっている。

3年度における当期剰余金及び国庫納付金の状況をみると、当期剰余金は、前年度から1054億円増加して1兆3246億円（平成24年度は5760億円）となっている。これは、前年度と比較して、前記のとおり経常利益が4421億円増加した一方、債券取引損失引当金積立額が、日本銀行において財務の状況や収益の動向等を総合的に勘案して、長期国債利息の金額に有利子負債の平均残高を保有長期国債の平均残高で除して得た比率を乗じて得た金額と有利子負債に係る支払利息の金額との差額の50％に相当する額を財務大臣の承認を受けて積み立てた結果42億円増加したり、外国為替等取引損失引当金積立額が、為替差益の50％に相当する額を財務大臣の承認を受けて積み立てた結果2371億円増加したり、法人税等が、外国為替等取引損失引当金の当該積立てなどにより1058億円増加したりしたことなどによる。また、国庫納付金は、上記のとおり当期剰余金が増加したことなどから、前年度から1002億円増加して1兆2583億円（同5472億円）となっている（図表13参照）。