内閣官房東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会推進本部事務局(令和4年3月31日廃止。以下「オリパラ事務局」という。)は、平成28年1月から令和3年8月まで、ホストタウン推進要綱(平成27年9月2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会におけるホストタウン関係府省庁連絡会議決定)等に基づき、住民等と東京オリンピック・パラリンピック競技大会等に参加するために来日する選手等との交流を行い、スポーツの振興等を図る取組を行う地方公共団体をホストタウンとして登録する事業を行っていた(以下、登録された地方公共団体を「登録団体」という。)。そして、登録団体は、登録時に策定した交流計画に基づき、上記の両大会終了後も継続して上記の取組を実施することになっている。
総務省が地方交付税法(昭和25年法律第211号)に基づき地方団体(注1)に対して交付する地方交付税には、普通交付税及び特別交付税があり、このうち特別交付税は、普通交付税の算定方法によっては捕捉されなかった特別の財政需要があることなどにより、普通交付税の額が財政需要に比して過少であると認められる地方団体に交付されている。そして、同省は、特別交付税に関する省令(昭和51年自治省令第35号。以下「省令」という。)において、地方団体に交付すべき特別交付税の額の算定の対象となる財政需要の事項(以下「算定事項」という。)及び算定事項ごとの算定方法を定めている。
総務省は、平成28年度以降、省令において、登録団体による交流計画の実施に要する経費を算定事項としている(以下、当該算定事項の算定額を「交流計画分算定額」という。)。そして、交流計画分算定額の算定等の手続は、おおむね次のとおりとなっている。
① 登録団体は、「ホストタウン交流計画の年度事業調」(以下「年度事業調」という。)に、交流計画の概要、交流計画の実施に要する経費(見込額を含む。以下同じ。)等を記載して、オリパラ事務局(令和4年度においてはその事務の移管を受けたスポーツ庁。以下同じ。)に提出し、オリパラ事務局は、年度事業調の記載内容を審査した後、総務省に対して送付する。そして、年度事業調には、交流計画の実施に要する経費を、交流計画分算定額の算定対象となる事業(以下「対象事業」という。)に係る分と対象事業以外の事業に係る分とに区分して記載することとなっている。
② 地方団体は、年度事業調に記載した交流計画の実施に要する経費のうち、一般財源を財源とする対象事業に係る経費の額(以下「算定対象額」という。)等を「ホストタウン交流事業に関する調」(以下「交流事業調」という。)に記載して、当該地方団体が都道府県である場合には直接、市町村である場合には都道府県を経由して、総務省に提出することにより、算定対象額を報告する。
③ 総務省は、年度事業調と交流事業調とを突合するなどして審査した上で、算定対象額に0.5を乗ずるなどして、地方団体ごとの交流計画分算定額を算定する。そして、交流計画分算定額と当該地方団体に係る他の算定事項の算定額を合算して得た額を、毎年度、特別交付税として地方団体に対して交付する。なお、特別区は地方団体に該当しないが、東京都に交付すべき特別交付税の額については、道府県と同様に算定した額に、特別区の存する区域を市とみなして算定した額を加えて算定するという特例が設けられている。
省令によれば、前年度以前の特別交付税の算定事項ごとの算定額について、必要な経費の見込額等により算定した額が実際に要した経費を著しく上回ることなどにより特別交付税の額が過大に算定されたと認められるときは、総務大臣が調査した額を当該年度の特別交付税の算定額から控除することとされている(以下、この措置を「控除措置」という。)。
本院は、元年12月に、会計検査院法第30条の3の規定に基づき、「東京オリンピック・パラリンピック競技大会に向けた取組状況等に関する会計検査の結果について」(以下「元年報告」という。)を参議院に報告した。元年報告においては、総務省が、算定対象額を報告していた地方団体から実際に要した対象事業に係る経費の額の報告を受けることとしていない事態が見受けられたことを記述した。そして、実施していない対象事業があるにもかかわらず、控除措置が行われていない地方団体が見受けられたことから、適切に控除措置を行うことができるよう、算定対象額を報告していた地方団体から実際に要した対象事業に係る経費の額の報告を求める必要があると認められた旨を記述した。
総務省は、上記の検査結果を踏まえて、元年10月に事務連絡(以下「元年事務連絡」という。)を発出し、地方団体に対して、平成28年度から30年度までに実際に要した対象事業に係る経費の額の報告を求めた。そして、同省は、令和元年12月に、当該報告に基づき、実際に要した対象事業に係る経費の額が算定対象額を下回っていた計231地方団体を対象として、計3億4961万余円の控除措置を行っていた。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
本院は、合規性、経済性等の観点から、元年報告に記述した前記の内容を踏まえつつ、総務省が、算定対象額を報告していた地方団体に対して、元年事務連絡を発出して以降、実際に要した対象事業に係る経費の額の報告を求めているかなどに着眼して検査した。
検査に当たっては、元年度から3年度までに総務省が交流計画分算定額を算定した432地方団体(注2)(27県及び405市区町村)に係る交流計画分算定額計37億0697万余円を対象として、同省において実際に要した対象事業に係る経費の額の報告の徴求状況等について説明を聴取するとともに、2地方団体において交流計画分算定額の算定等に係る資料を確認するなどして、会計実地検査を行った。また、上記の432地方団体から対象事業に係る調書、関係資料等の提出を受けて、その内容を確認するなどして検査した。
(検査の結果)
検査したところ、総務省は、元年事務連絡を発出して以降、同省に対する会計実地検査が行われた4年7月までの間に、元年度から3年度までに算定対象額を報告していた地方団体に対して、実際に要した対象事業に係る経費の額の報告を元年事務連絡と同様の事務連絡を発出するなどして求めておらず、その額を把握していなかった。その理由について、同省は、的確な見通しをもって必要な経費の見込額等を算定対象額として報告するよう、地方団体に対して周知徹底を行ってきたことなどによるとしていた。
そこで、元年度から3年度までに総務省が交流計画分算定額を算定した432地方団体における対象事業の実施状況等を確認したところ、延べ104地方団体(純計89地方団体(4県及び85市町村)(注3)。これらの地方団体に係る交流計画分算定額計1億3410万余円)においては、対象事業を実施しておらず、対象事業に係る経費が全く生じていなかったのに控除措置が行われていない状況となっていた。
このように、総務省において、元年度から3年度までに算定対象額を報告していた地方団体に対して、実際に要した対象事業に係る経費の額の報告を求めておらず、その額を把握していなかったため、対象事業に係る経費が全く生じていなかったのに控除措置を行っていなかった事態は適切ではなく、改善の必要があると認められた。
(発生原因)
このような事態が生じていたのは、総務省において、元年度から3年度までに算定対象額を報告していた地方団体に対して、実際に要した対象事業に係る経費の額の報告を求めて、その額を把握することの必要性に対する理解が十分でなかったことなどによると認められた。
上記についての本院の指摘に基づき、総務省は、元年度から3年度までに算定対象額を報告していた地方団体に対して、実際に要した対象事業に係る経費の額等の報告を求めることとして、4年8月に、事務連絡を発出した。そして、当該事務連絡に基づく地方団体からの報告を受けて、同年12月に、対象事業に係る経費が全く生じていなかった前記89地方団体のうち85地方団体(85市町村)に係る交流計画分算定額計1億3027万余円全額の控除措置を行うとともに、残りの4地方団体(4県)に係る交流計画分算定額(計383万余円)を対象として、5年12月に計383万余円全額の控除措置を行う予定であることを、同年9月に当該4地方団体との間で確認する処置を講じた。
なお、上記の控除措置に加えて、総務省は、実際に要した対象事業に係る経費が発生していたもののその額が算定対象額を下回っていた339地方団体のうち、314地方団体(314市区町村)(注4)に係る交流計画分算定額(計25億4438万余円)を対象として、4年12月に計9億6678万余円の控除措置を行っていた。また、残りの25地方団体(25県)(注4)に係る交流計画分算定額(計4億2123万余円)を対象として、5年12月に計1億9568万余円の控除措置を行うこととしていた。