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(12) 国民健康保険の財政調整交付金が過大に交付されていたもの[厚生労働本省、5県](108)―(128)


21件 不当と認める国庫補助金 1,308,216,000円

国民健康保険(前掲「国民健康保険の療養給付費負担金が過大に交付されていたもの」参照)については各種の国庫助成が行われており、その一つとして、国民健康保険法(昭和33年法律第192号)に基づき、都道府県が当該都道府県内の市町村(注1)(特別区を含む。以下同じ。)とともに行う国民健康保険について財政調整交付金が交付されている(注2)

(注1)
一部の市町村については、広域連合等を設けて、国民健康保険に関する事務を処理している。
(注2)
国は、平成29年度まで、国民健康保険の保険者である市町村に対して財政調整交付金を交付していたが、国民健康保険法が改正され、30年4月以降、都道府県は、当該都道府県内の市町村とともに保険者として国民健康保険を行うこととされ、国は、30年度以降、国民健康保険の財政運営の責任主体となった都道府県に対して財政調整交付金を交付している。

財政調整交付金は、都道府県及び当該都道府県内の市町村の財政の状況その他の事情に応じた財政の調整を行うため(平成29年度以前は、市町村間で医療費の水準や住民の所得水準の差異により生じている国民健康保険の財政力の不均衡を調整するため)に交付されるもので、普通調整交付金、特別調整交付金等(29年度以前は普通調整交付金と特別調整交付金)がある。

普通調整交付金は、被保険者の所得等から一定の基準により算定される収入額(以下「調整対象収入額」という。)が、医療費等から一定の基準により算定される支出額(以下「調整対象需要額」という。)に満たない都道府県(29年度以前は市町村)に対して、衡平にその満たない額を埋めることを目途として交付されるもので、医療費等に係るもの(以下「医療分」という。)、後期高齢者支援金(注3)等に係るもの(以下「後期分」という。)及び介護納付金(注4)に係るもの(以下「介護分」という。)の合計額が交付されている。そして、都道府県に対して交付された普通調整交付金は、他の公費等と合わせた上で、当該都道府県内の市町村による療養の給付等に要する費用に充てるための財源として、当該市町村に対して交付されている。

普通調整交付金の額は、「国民健康保険の調整交付金等の交付額の算定に関する省令」(昭和38年厚生省令第10号。平成30年3月31日以前は「国民健康保険の調整交付金の交付額の算定に関する省令」。以下「算定省令」という。)等に基づき、医療分、後期分及び介護分のいずれも、それぞれ当該都道府県(29年度以前は当該市町村)の調整対象需要額から調整対象収入額を控除した額に基づいて算定することとなっている。そして、市町村は普通調整交付金の額の算定の基礎となる資料を作成して都道府県に提出し、都道府県はこれに基づいて調整対象需要額及び調整対象収入額を算定している(29年度以前は、市町村が調整対象需要額及び調整対象収入額を算定していた。)。

(注3)
後期高齢者支援金  高齢者の医療の確保に関する法律(昭和57年法律第80号)の規定により、各医療保険者が社会保険診療報酬支払基金に納付する支援金
(注4)
介護納付金  介護保険法(平成9年法律第123号)の規定により、各医療保険者が社会保険診療報酬支払基金に納付する納付金

特別調整交付金は、都道府県及び当該都道府県内の市町村(29年度以前は市町村)について特別の事情がある場合に、その事情を考慮して当該都道府県(29年度以前は当該市町村)に対して交付されるもので、国から都道府県に補助する都道府県分と都道府県を通じて市町村に補助する市町村分とに区分されている。都道府県分には、20歳未満被保険者財政負担増等特別交付金(注5)等があり、市町村分には、非自発的失業軽減特別交付金(注6)、結核・精神病特別交付金(注7)、非自発的失業財政負担増特別交付金(注8)、被扶養者減免特別交付金(注9)等がある。

そして、都道府県は、国から市町村分として交付された額を当該市町村に交付している。

(注5)
20歳未満被保険者財政負担増等特別交付金  20歳未満の被保険者が多いことなどによる財政への影響がある場合に交付される交付金
(注6)
非自発的失業軽減特別交付金  保険料(保険税を含む。以下同じ。)の賦課期日現在における非自発的失業者に係る保険料軽減措置による財政負担が多額になっている場合に交付される交付金
(注7)
結核・精神病特別交付金  結核性疾病及び精神病に係る医療給付費が多額である場合に交付される交付金
(注8)
非自発的失業財政負担増特別交付金  保険料の賦課期日の翌日以降の非自発的失業者に係る保険料軽減措置による財政負担が多額になっている場合に交付される交付金
(注9)
被扶養者減免特別交付金  被用者保険の被保険者が75歳到達により後期高齢者になったことに伴い、その被扶養者であった者に係る保険料の減免措置及び減免期間の見直しに要した費用(平成30年度以前は保険料の減免措置に要した費用)がある場合に交付される交付金

特別調整交付金の額は、算定省令等に基づき、特別の事情ごとに算定することとなっている。そして、市町村は当該市町村分の特別調整交付金の額を算定して都道府県に提出し、都道府県は都道府県分の額を算定した上で市町村から提出される市町村分の額と合算して特別調整交付金の額を算定するなどしている(29年度以前は、市町村が特別調整交付金の額を算定していた。)。

財政調整交付金の交付手続について、交付を受けようとする都道府県(29年度以前は市町村)は、厚生労働省(29年度以前は都道府県)に交付申請書及び事業実績報告書を提出し、これを受理した厚生労働省(29年度以前は都道府県)は、その内容を添付書類により、また、必要に応じて現地調査を行うことにより審査した上で、これに基づき、厚生労働省において交付決定及び交付額の確定を行うこととなっている。

本院は、29年度から令和3年度までに交付された財政調整交付金について、21都府県(注10)及び18都府県の104市区町村及び1広域連合において会計実地検査を行うとともに、5県(注11)及び7県の10市から事業実績報告書等の関係資料の提出を受けるなどして検査した。その結果、4県及び10県の13市町(注12)において、①普通調整交付金の調整対象需要額を過大に算定したり、②調整対象収入額を過小に算定したり、③特別調整交付金のうち非自発的失業軽減特別交付金等の額を過大に算定したりするなどしていたため、財政調整交付金の交付額計56,632,644,000円のうち計1,308,216,000円が過大に交付されていて、不当と認められる。

(注10)
21都府県  平成29年度から令和3年度までに交付された財政調整交付金について会計実地検査を行った104市区町村及び1広域連合が所在する18都府県並びに関係資料の提出を受けるなどして検査した5県のうちの2県及び10市が所在する7県のうち4県とそれぞれ重複している。
(注11)
5県  平成29年度から令和3年度までに交付された財政調整交付金について関係資料の提出を受けるなどして検査した10市が所在する7県のうち5県と重複している。
(注12)
10県の13市町  平成30年度から令和3年度までの財政調整交付金が過大に交付されていた10県の12市町及び平成29年度に財政調整交付金が過大に交付されていた5県の5市町の純計

このような事態が生じていたのは、次のことなどによると認められる。

ア 平成30年度から令和3年度までの間の財政調整交付金の交付額の算定に当たり、普通調整交付金及び都道府県分の特別調整交付金について、4県において確認が十分でなかったこと、厚生労働省において事業実績報告書の審査が十分でなかったこと

イ 平成30年度から令和3年度までの間の財政調整交付金の交付額の算定に当たり、市町村分の特別調整交付金について、12市町において制度の理解が十分でなかったり、確認が十分でなかったりしていたこと、10県において確認が十分でなかったこと、厚生労働省において事業実績報告書の審査が十分でなかったこと

ウ 平成29年度の財政調整交付金の交付額の算定に当たり、5市町において制度の理解が十分でなかったり、確認が十分でなかったりしていたこと、5県において事業実績報告書の審査が十分でなかったこと

前記の①から③までの事態について、態様別に示すと次のとおりである。

① 普通調整交付金の調整対象需要額を過大に算定していた事態

普通調整交付金の調整対象需要額は、本来保険料で賄うべきとされている額であり、そのうち医療分の調整対象需要額は、次のとおり算定することとなっている。

医療分の調整対象需要額 画像

このうち、一般被保険者に係る医療給付費は、療養の給付に要する費用の額から当該給付に係る被保険者の一部負担金に相当する額を控除した額と、入院時食事療養費、高額療養費等の支給に要する費用の額との合計額とすることとなっている。

3県及び1県の1市は、普通調整交付金の額の算定に当たり、一般被保険者に係る医療給付費を過大に算出するなどしており、調整対象需要額を過大に算定していた。このため、普通調整交付金の額が過大となっていた。

(注13)
一般被保険者  退職被保険者及びその被扶養者以外の被保険者
(注14)
前期高齢者納付金  高齢者の医療の確保に関する法律の規定により、各医療保険者が社会保険診療報酬支払基金に納付する納付金(前期高齢者交付金がある場合には、これを控除した額)

上記の事態について、事例を示すと次のとおりである。

事例1

宮崎県は、令和2、3両年度の普通調整交付金に係る実績報告に当たり、市町村から普通調整交付金の額の算定の基礎となる資料の提出を受け、これに基づき普通調整交付金の額を算定していた。しかし、同県えびの市から提出された資料において、同市は、療養の給付に要する費用の額を誤って二重に計上するなどしており、一般被保険者に係る医療給付費を2年度1,862,487,000円、3年度1,811,689,000円それぞれ過大に算出していた。このほか、同県内の5市町から提出された資料にも、一般被保険者に係る医療給付費を過大に算出するなどの誤りがあった。その結果、同県は医療分に係る調整対象需要額を過大に算定していた。

そこで、適正な一般被保険者に係る医療給付費により算定した医療分の調整対象需要額に基づき算定すると、普通調整交付金の額計760,495,000円が過大となっていた。

② 普通調整交付金の調整対象収入額を過小に算定していた事態

普通調整交付金の調整対象収入額は、本来徴収すべきとされている保険料の額であり、医療分、後期分及び介護分に係るそれぞれの調整対象収入額は、一般被保険者(医療分及び後期分)又は介護納付金賦課被保険者(介護分)の数を基に算出される応益保険料額と、それらの者の所得を基に算出される応能保険料額とを合計した額となっている。

このうち、医療分、後期分及び介護分に係る応能保険料額は、一般被保険者又は介護納付金賦課被保険者の所得金額(以下「基準総所得金額」という。)に一定の方法により計算された率を乗じて算出することとなっている。そして、基準総所得金額は、保険料の賦課期日(毎年4月1日)現在において一般被保険者又は介護納付金賦課被保険者である者の前年における所得金額の合計額を基に算出することとなっている。

1県は、普通調整交付金の額の算定に当たり、基準総所得金額を過小に算出しており、調整対象収入額を過小に算定していた。このため、普通調整交付金の額が過大となっていた。

上記の事態を示すと次のとおりである。

事例2

神奈川県は、平成30年度の普通調整交付金に係る実績報告に当たり、市町村から普通調整交付金の額の算定の基礎となる資料の提出を受け、これに基づき普通調整交付金の額を算定していた。しかし、同県横須賀市から提出された資料において、同市は、当該資料を作成する電算システムに基礎資料からの転記を誤り、後期分の基準総所得金額を931,434,000円過小に算出していた。このほか、同県内の3市町から提出された資料にも、後期分の基準総所得金額を過小に算出するなどの誤りがあった。その結果、同県は後期分に係る調整対象収入額を過小に算定していた。

そこで、適正な基準総所得金額により算定した調整対象収入額に基づき算定すると、普通調整交付金の額27,038,000円が過大となっていた。

③ 特別調整交付金のうち非自発的失業軽減特別交付金等の額を過大に算定していた事態

特別調整交付金のうち、非自発的失業軽減特別交付金は、雇用保険法(昭和49年法律第116号)第23条第2項又は第13条第3項に規定する会社の倒産、解雇等の理由により離職した被保険者等である非自発的失業者の属する世帯に係る保険料の軽減に要する費用が多額である場合に交付するものである。

非自発的失業軽減特別交付金の額は、一般被保険者に係る保険料調定総額や非自発的失業者の属する世帯に属する一般被保険者数等を用いた一定の計算式により算出される調整対象基準額に基づいて算定することとなっている。

5県の7市は、非自発的失業軽減特別交付金の額の算定に当たり、一般被保険者に係る保険料調定総額を過大に集計するなどしており、調整対象基準額を過大に算出していた。このため、非自発的失業軽減特別交付金の額が過大となっていた。

上記のほか、1県及び8県の8市町は、結核性疾病及び精神病に係る医療給付費に、誤って、集計の対象とならない医療給付費を含めるなどしていたため、特別調整交付金のうち、結核・精神病特別交付金、非自発的失業財政負担増特別交付金、被扶養者減免特別交付金及び20歳未満被保険者財政負担増等特別交付金の額が過大となっていた。

なお、前記4県のうち1県及び10県の13市町のうち3県の3市については事態の態様が重複している。

以上を部局等別・事業主体別に示すと、次のとおりである。

 
部局等
補助事業者
間接補助事業者
交付金の種類
年度
交付金交付額
左のうち不当と認める額
摘要
            千円 千円  
(108)
厚生労働本省
山形県
(事業主体)
普通調整交付金
2 5,869,841 13,385
調整対象需要額を過大に算定していたもの
(109)
山形県
鶴岡市
(事業主体)
特別調整交付金(非自発的失業軽減特別交付金等)
2、3 14,388 7,857
一般被保険者に係る保険料調定総額を過大に集計していたものなど
(110)
茨城県
水戸市
(事業主体)
特別調整交付金(非自発的失業軽減特別交付金)
2 13,604 10,369
非自発的失業による保険料軽減世帯に係る保険基盤安定繰入金を過小に計上していたもの
(111)
筑西市
(事業主体)
2 5,021 3,316
(112)
埼玉県
所沢市
(事業主体)
特別調整交付金(非自発的失業軽減特別交付金等)
30 27,847 13,358
一般被保険者に係る保険料調定総額を過大に集計していたものなど
(113)
草加市
(事業主体)
平成
30、
令和元
73,127 52,686
非自発的失業による保険料軽減世帯に係る一般被保険者数を過大に算定していたもの
(114)
神奈川県
(事業主体)
普通調整交付金、特別調整交付金(20歳未満被保険者財政負担増等特別交付金)
30 22,476,175 36,468
調整対象収入額を過小に算定していたものなど
(115)
神奈川県
秦野市
(事業主体)
特別調整交付金(被扶養者減免特別交付金)
30 6,437 1,401
被用者保険の被保険者の被扶養者であった者に係る保険料の減免額を過大に算定していたもの
(116)
滋賀県
(事業主体)
普通調整交付金
6,833,729 11,110
調整対象需要額を過大に算定していたもの
(117)
鳥取県
米子市
(事業主体)
特別調整交付金(結核・精神病特別交付金)
平成
30~
令和2
303,979 282,603
結核性疾病及び精神病に係る医療給付費を過大に算出していたもの
(118)
広島県
廿日市市
(事業主体)
特別調整交付金(非自発的失業財政負担増特別交付金)
5,730 5,559
非自発的失業による保険料軽減世帯に係る一般被保険者数を過大に算定していたもの
(119)
徳島県
板野郡藍住町
(事業主体)
特別調整交付金(結核・精神病特別交付金)
平成
30、
令和元
46,368 22,511
結核性疾病及び精神病に係る医療給付費を過大に算出していたもの
(120)
高知県
高知市
(事業主体)
特別調整交付金(非自発的失業軽減特別交付金)
7,736 3,267
非自発的失業による保険料軽減世帯に係る保険基盤安定繰入金を過小に計上していたもの
(121)
福岡県
大野城市
(事業主体)
特別調整交付金(結核・精神病特別交付金)
30 16,824 1,325
結核性疾病及び精神病に係る医療給付費を過大に算出していたもの
(122)
熊本県
熊本市
(事業主体)
特別調整交付金(非自発的失業軽減特別交付金等)
平成
30~
令和2
69,726 5,930
一般被保険者に係る保険料調定総額を過大に集計していたものなど
(123)
宮崎県
(事業主体)
普通調整交付金
2、3 18,536,908 760,495
調整対象需要額を過大に算定していたもの
(124)
茨城県
土浦市
(事業主体)
29 668,485 7,343
(125)
鳥取県
米子市
(事業主体)
特別調整交付金(結核・精神病特別交付金)
29 923,964 39,712
結核性疾病及び精神病に係る医療給付費を過大に算出していたもの
(126)
徳島県
板野郡藍住町
(事業主体)
29 192,670 21,385
(127)
福岡県
大野城市
(事業主体)
29 509,888 1,415
(128)
熊本県
熊本市
(事業主体)
特別調整交付金(非自発的失業軽減特別交付金等)
29 30,197 6,721
一般被保険者に係る保険料調定総額を過大に集計していたものなど
(108)―(128)の計 56,632,644 1,308,216
  • (注) 国民健康保険法の改正に伴い、同一の事業主体に係るものであっても、平成30年度以降と29年度とを区分して記述している。