10件 不当と認める国庫補助金 70,311,000円
介護保険(前掲「介護給付費負担金が過大に交付されていたもの」参照)については各種の国庫助成が行われており、その一つとして、財政調整交付金が交付されている。財政調整交付金は、市町村(注1)(特別区を含む。以下同じ。)が行う介護保険財政が安定的に運営され、もって介護保険制度の円滑な施行に資することを目的として、各市町村における介護給付等に要する費用の総額の5%に相当する額を国が負担して、これを各市町村に交付するもので、普通調整交付金と特別調整交付金とがある。
普通調整交付金は、市町村間で、市町村の区域内に住所を有する65歳以上の者(以下「第1号被保険者」という。)の総数に占める75歳以上の者(以下「後期高齢者」という。)の割合(以下「後期高齢者加入割合」という。)及び標準的な所得段階の区分(第1段階から第9段階まで)ごとの第1号被保険者の分布状況(以下「所得段階別加入割合」という。)に格差があることによって生ずる介護保険財政の不均衡を是正するために交付するものである。また、特別調整交付金は、災害その他特別の事情がある市町村に交付するものであり、被災するなどした被保険者に係る保険料の減免額や、市町村が新型コロナウイルス感染症の影響により一定程度収入が下がった第1号被保険者に係る保険料(以下「第1号保険料」という。)について減免の措置(以下「新型コロナウイルス感染症に伴う減免措置」という。)を採った場合の減免額等を交付の対象とするものである。
財政調整交付金の交付額は、普通調整交付金の額と特別調整交付金の額とを合算した額となっており、このうち普通調整交付金の額は、「介護保険の調整交付金等の交付額の算定に関する省令」(平成12年厚生省令第26号。以下「算定省令」という。)等に基づき、次により算定することとなっている。
上記のうち、調整基準標準給付費額及び普通調整交付金交付割合については、次のとおりとなっている。
ア 調整基準標準給付費額は、当該市町村において給付に要した費用の額等に基づき、次のとおり算出することとなっている。
イ 普通調整交付金交付割合は、後期高齢者加入割合補正係数と所得段階別加入割合補正係数を用いるなどして算出した割合である。このうち、後期高齢者加入割合補正係数は、当該市町村において、介護保険事業状況報告(月報)により報告することとなっている前年度の1月報告分(12月末の人数)から当該年度の12月報告分(11月末の人数)まで(令和3年度においては前年度の1月報告分(12月末の人数)から当該年度の9月報告分(8月末の人数)まで)の後期高齢者の人数の累計を基に算出される第1号被保険者の総数に占める85歳以上の後期高齢者の割合(以下「85歳以上後期高齢者加入割合」という。)及び第1号被保険者の総数に占める75歳以上85歳未満の後期高齢者の割合(以下「85歳未満後期高齢者加入割合」という。)を、国から示される全ての市町村における85歳以上後期高齢者加入割合及び85歳未満後期高齢者加入割合とそれぞれ比較するなどして算出した係数である(注6)。また、所得段階別加入割合補正係数は、当該市町村において、毎年4月1日(保険料の賦課期日)における標準的な所得段階の区分ごとの第1号被保険者の人数を基に算出される所得段階別加入割合を、国から示される全ての市町村における所得段階別加入割合と比較するなどして算出した係数である。
また、特別調整交付金の額のうち、新型コロナウイルス感染症に伴う減免措置に係る3年度の特別調整交付金については、算定省令等に基づき、次の①から③までにおいて算出した額を合算した額となっている。
① 市町村が減免した第1号保険料の総額(2年2月から3年3月までの分)から2年度の介護保険災害等臨時特例補助金(注7)の交付額を差し引いた額のうち3年1月から同年3月までの額
② 市町村が減免した第1号保険料の総額(3年4月から4年3月までの分)から3年度の介護保険災害等臨時特例補助金の交付額を差し引いた額のうち3年4月から同年9月までの額
③ 2年度の介護保険災害等臨時特例補助金及び同年度の特別調整交付金の交付対象となるべきものでありながら交付を受けていないものの額
そして、財政調整交付金の交付を受けようとする市町村は、都道府県に交付申請書及び事業実績報告書を提出して、これを受理した都道府県は、その内容を添付書類により、また、必要に応じて現地調査を行うことにより審査した上でこれを厚生労働省に提出して、同省は、これに基づき交付決定及び交付額の確定を行うこととなっている。
本院は、平成28年度から令和4年度までの間に交付された財政調整交付金について、24都道府県の121市区町村、2一部事務組合及び4広域連合において会計実地検査を行った。その結果、9道府県の10市町において、調整基準標準給付費額の算出や、後期高齢者加入割合補正係数又は所得段階別加入割合補正係数の算出を誤って、普通調整交付金の額を過大に算定し、また、特別調整交付金の額を過大に算定していた。このため、財政調整交付金交付額計41,318,831,000円のうち計70,311,000円が過大に交付されていて、不当と認められる。
このような事態が生じていたのは、10市町において財政調整交付金の交付額の算定に当たり、制度の理解や確認が十分でなかったこと、9道府県において事業実績報告書の審査が十分でなかったことなどによると認められる。
前記の事態について、事例を示すと次のとおりである。
<事例1>
京都市は、平成29、30、令和3各年度の普通調整交付金の額の算定に当たり、損害賠償金等の収入額に調定額を計上すべきところ、誤って収納額を計上し、また、3年8月分及び9月分の高額介護サービス費等の額723,616,371円を誤って885,916,921円とするなどして調整基準標準給付費額を算出していた。
そこで、適正な調整基準標準給付費額に基づき普通調整交付金の額を算定したところ、計17,863,000円が過大に交付されていた。
<事例2>
鹿児島県鹿児島市は、新型コロナウイルス感染症に伴う減免措置に係る令和3年度の特別調整交付金の額の算定に当たり、2年度の介護保険災害等臨時特例補助金及び同年度の特別調整交付金の交付対象となるべきものでありながら交付を受けていないものの額について、3,810,000円とすべきところ、誤って2年度に同市が減免した第1号保険料の総額14,650,000円を計上したため、既に交付を受けた同補助金及び同交付金が含まれるなどしていた。
そこで、適正な特別調整交付金の額を算定したところ、10,840,000円が過大となっていた。このほか、2年度の普通調整交付金の額が553,000円過大、3年度の普通調整交付金の額が758,000円過小となっていた。この結果、財政調整交付金計10,635,000円が過大に交付されていた。
以上を部局等別・事業主体別に示すと、次のとおりである。
部局等
|
補助事業者(事業主体)
|
年度
|
交付金交付額
|
左のうち不当と認める額
|
摘要
|
|
---|---|---|---|---|---|---|
千円 | 千円 | |||||
(189) | 北海道 |
苫小牧市 |
元、2 | 1,170,861 | 1,684 | 調整基準標準給付費額の算出を誤っていたもの |
(190) | 岩手県 |
盛岡市 |
2、3 | 2,674,391 | 1,511 | 同 |
(191) | 宮城県 |
気仙沼市 |
2 | 444,558 | 3,329 | 所得段階別加入割合補正係数の算出を誤っていたもの |
(192) | 福島県 |
双葉郡大熊町 |
2、3 | 464,313 | 3,622 | 調整基準標準給付費額の算出を誤っていたもの |
(193) | 京都府 |
京都市 |
平成29、 30、 令和3 |
24,114,841 | 17,863 | 同 |
(194) | 大阪府 |
貝塚市 |
3 | 379,608 | 1,163 | 同 |
(195) | 兵庫県 |
尼崎市 |
平成30、 令和2 |
4,865,941 | 13,988 | 後期高齢者加入割合補正係数の算出を誤っていたものなど |
(196) | 同 |
明石市 |
元 | 920,414 | 10,005 | 後期高齢者加入割合補正係数の算出を誤っていたもの |
(197) | 長崎県 |
五島市 |
3 | 560,989 | 6,511 | 所得段階別加入割合補正係数の算出を誤っていたもの |
(198) | 鹿児島県 |
鹿児島市 |
2、3 | 5,722,915 | 10,635 | 特別調整交付金の額の算定を誤っていたものなど |
(189)―(198)の計 | 41,318,831 | 70,311 |