厚生労働省は、休業又は教育訓練を行った事業主に対して、雇用調整助成金を支給したり、緊急雇用安定助成金を支給したりしている(以下、これらを合わせて「雇用調整助成金等」という。)。また、同省は、休業させられている期間の賃金の支払を受けることができなかった労働者に対して、新型コロナウイルス感染症対応休業支援金を支給したり、新型コロナウイルス感染症対応休業支援給付金を支給したりしている(以下、これらを合わせて「休業支援金等」という。)。そして、同省は、雇用調整助成金等又は休業支援金等の支給を迅速化するために、支給決定の際に行う審査の迅速化を行うなどする一方で、支給後に不正受給の有無等の確認(以下「事後確認」という。)に取り組むことにより適切な支給を確保するとしている。しかし、雇用調整助成金等と休業支援金等が重複して支給されること(以下「重複支給」という。)や休業支援金等について同一月の休業を対象として再度の支給申請が行われて二重に支給していること(以下「二重支給」という。)の有無に関する事後確認が適切に行われるなどしておらず、その把握及びそれに対する措置が講じられていない事態、及び雇用調整助成金等の支給を受けた事業主の事業所を訪問して行う調査(以下「実地調査」という。)の対象とする事業主の範囲がリスクの所在等を踏まえて設定されておらず、対象範囲外の事業主に不正受給が見受けられている事態が見受けられた。
したがって、厚生労働大臣に対して令和4年8月に、次のとおり是正の処置を要求し及び是正改善の処置を求め並びに改善の処置を要求した。
ア ①休業支援金等の不正受給が疑われる場合以外についても保有するデータを活用するなどして事後確認の一環として重複支給の有無を確認することとするとともに、②重複支給が見受けられた事業主やそれらの事業主に雇用されていた労働者において重複支給に係るものとは別に同様の態様等により不正受給が行われていないかという点にも留意して調査を行うこととして、①及び②の具体的な方法を策定すること、また、既に重複支給が確認された雇用調整助成金等及び休業支援金等について事実関係を特定して不正受給額を返還させる措置を講ずること(会計検査院法第34条の規定により是正の処置を要求し及び是正改善の処置を求めたもの)
イ 保有するデータを活用するなどして事後確認の一環として二重支給の有無を確認することとして、その具体的な方法を策定すること、また、既に二重支給が確認された休業支援金等について不適正な支給額を特定して返還させる措置を講ずること(同法第34条の規定により是正の処置を要求し及び是正改善の処置を求めたもの)
ウ 実地調査の対象とする事業主の範囲を設定するに当たり、不正な支給申請を行うリスクが想定される事業主が取り込まれることとなるよう、リスクの所在等に十分に留意して実地調査の対象とする事業主の範囲を設定することとする見直しを行い、見直し後においてリスクの程度を適切に評価することにより付した優先度に基づき実地調査の対象とする事業主を選定することとして、その具体的な方法を策定すること(同法第36条の規定により改善の処置を要求したもの)
本院は、厚生労働本省において、その後の処置状況について会計実地検査を行った。
検査の結果、厚生労働省は、本院指摘の趣旨に沿い、4年8月に、都道府県労働局(以下「労働局」という。)に対して通知を発するなどして、次のような処置を講じていた。
ア ①厚生労働本省において、雇用調整助成金等及び休業支援金等の支給データから重複支給の可能性のある労働者を抽出したリストを四半期ごとに作成の上、労働局において当該リストを基に重複支給の有無について調査を行うこととした。②この調査により重複支給が判明した場合は、重複支給が見受けられた事業主やそれらの事業主に雇用されていた労働者において重複支給に係るものとは別に同様の態様等により不正受給が行われていないかという点にも留意して調査することとした。
また、既に重複支給が確認された199事業主に雇用されていた437労働者の休業から、事業主の破産手続が完了しているなどして返還させる措置を講ずることが困難であったり、事実関係を特定した結果、返還させる必要がないことが判明したりした14事業主に雇用された27労働者の休業を除いたもののうち、173事業主に雇用された378労働者の休業について、5年6月までに、事実関係を特定して返還させる措置を講じた。
イ 厚生労働本省において、休業支援金等の支給データから二重支給の可能性のある労働者を抽出したリストを四半期ごとに作成の上、労働局において当該リストを基に二重支給の有無について調査を行うこととした。
また、既に二重支給が確認された164事業主に雇用されていた185労働者から、労働者が死亡しているなどして返還させる措置を講ずることが困難であったり、不適正な支給額を特定した結果、返還させる支給額が生じないことが判明したりした20事業主に雇用された20労働者を除いたもののうち、132事業主に雇用された145労働者について、5年6月までに、不適正な支給額を特定して返還させる措置を講じた。
ウ 実地調査の対象とする事業主の選定に当たり、厚生労働本省において、不正受給のリスクが相対的に高いと思料される事業主の要件を設定し、労働局において、当該要件に必要に応じて労働局が有する知見等により不正受給のリスクが相対的に高いと思料される事業主の要件を加えた上で、これらの要件に該当する数が多い事業主から順に調査可能な事業主数の範囲内で実地調査の対象リストに掲載することとした。そして、労働局において、休業等の規模、雇用調整助成金等の支給額等を踏まえて設定した優先度に基づいて、当該リストに掲載した事業主の実地調査を行うこととした。
一方、厚生労働省は、アの既に重複支給が確認されたもののうち、事実関係の特定に至っていない19事業主(注1)に雇用された35労働者(注1)の休業について、また、イの既に二重支給が確認されたもののうち、不適正な支給額の特定に至っていない19事業主(注2)に雇用された20労働者については、これらの事業主や労働者を訪問するなどして調査を実施しており、今後事実関係等を特定して返還させる措置を講ずることとしている。