厚生労働省は、雇用する雇用保険被保険者について休業又は教育訓練(以下「休業等」という。)を行った事業主に対して、事業主が支払った休業等に係る賃金の額(以下「休業手当」という。)に相当する額を対象として雇用調整助成金を支給している。雇用調整助成金の支給額は、①休業等を行った期間ごとに、事業主に係る労働保険の確定保険料算定の基礎となった前年度の賃金総額を前年度の被保険者数及び年間所定労働日数で除して算出される額に、事業主が労働組合等との間で締結した協定に基づく休業手当の支払率を乗ずることにより休業手当相当額を算定し、②これに所定の助成率を乗ずることにより1人1日分の助成額単価を算出し、③その額とその額の上限として同省が設定した額(以下「日額上限額」という。)のいずれか低い額に休業等を行った延べ人日数を乗ずることにより算定することとなっている。また、同省は、新型コロナウイルス感染症が経済社会情勢に大きな影響を及ぼしていることなどを踏まえて、令和2年4月以降、特例として助成率や日額上限額を引き上げるなどしている(以下、この特例を「コロナ特例」という。)。しかし、雇用調整助成金に係る支給額の算定方法において、休業手当の支払率の対象とした、労働の対償として支払われるもの(以下「賃金等」という。)の範囲を考慮することとされていないことにより、一部の事業主において、賃金等のうち、休業手当の支払対象となっていない部分に対しても助成が行われることになっていた。このため、コロナ特例による助成率や日額上限額の引上げに伴って、雇用調整助成金の支給額が休業手当の支払額を上回る額(以下「超過額」という。)が相当生じている状況となっている事態が見受けられた。
したがって、厚生労働本省において、雇用調整助成金の支給が助成金としての役割に沿ったものとなるよう、事業主の支給申請に係る負担の軽減や支給事務の迅速性の確保に配慮しつつ、雇用調整助成金の支給額の算定に当たり、支払率の対象とした賃金等の範囲を考慮することとするなど、超過額を極力生じさせない合理的な雇用調整助成金に係る支給額の算定方法とするよう、厚生労働大臣に対して4年10月に、会計検査院法第36条の規定により意見を表示した。
本院は、厚生労働本省において、その後の処置状況について会計実地検査を行った。
検査の結果、厚生労働省は、本院指摘の趣旨に沿い、5年9月に雇用調整助成金に係る支給要領を改正し、雇用調整助成金に係る支給額の算定に当たって超過額を生じさせないように、事業主が実際に支払った休業手当の総額に助成率を乗じて得た額を基に支給額を算定する方法に改めて、休業等を行った期間の初日が6年1月1日以降のものから適用することとする処置を講じていた。