農林水産省は、新型コロナウイルス感染症の発生により売上げが減少するなどした野菜等の高収益作物について、農業者の次期作における生産体制の強化等の取組を支援するために、高収益作物次期作支援交付金事業(以下「交付金事業」という。)を実施している。交付金事業の事業実施主体である地域農業再生協議会等は、同省が定める取組を実施する農業者(以下「取組実施者」という。)に対して、交付金(以下「取組交付金」という。)を交付し、同省は、事業実施主体に対して、取組交付金の交付等に要した経費について高収益作物次期作支援交付金(以下「高収益交付金」という。)を交付することとしている。また、同省は、交付手続を迅速に進めるために、取組実施者が作成する提出書類等の簡素化を図ることとしており、売上げが分かる資料等の証拠書類を添付させることとしていない。しかし、37事業実施主体において取組交付金が過大に交付されるなどしている事態、及び事業実施主体が行う取組交付金の交付に関する事務処理(以下「事務処理」という。)に誤りが生ずることが想定される状況となっているのに、同省が事業実施主体に対して取組交付金の交付額が適正であるか再確認(以下「事後確認」という。)を促していないなどしている事態が見受けられた。そして、同省は、令和4年度以降は交付金事業を実施する予定はないとしているが、何らかの突発的、緊急的な事態が今後発生して、農業者の生産体制の強化等の取組を支援するための事業を創設し、農業者等に対して迅速に補助金、交付金等を交付等することも考えられる。
したがって、農林水産大臣に対して4年10月に、次のとおり是正及び改善の処置を要求した。
ア 前記の37事業実施主体に対して、過大に交付されるなどしていた取組交付金に係る高収益交付金を速やかに返還するよう求めること(会計検査院法第34条の規定により是正の処置を要求したもの)
イ 高収益交付金の交付を受けた事業実施主体に対して、各事業実施主体における事務処理の実施状況等に照らして事後確認を行う必要があるかを自ら判断できるよう、取組交付金が過大に交付されるなどしていた事態に係る事例や誤りを生じやすいポイントを周知するなどして、必要と認められる場合には事後確認することを促すこと。そして、当該事後確認の結果、取組交付金が過大に交付されるなどしていたと認められる場合には、速やかにこれに係る高収益交付金の返還を求めること(同法第36条の規定により改善の処置を要求したもの)
ウ 突発的、緊急的な事態が今後発生して、前記農業者の取組を支援するための事業を創設する際に、当該事業の申請が大量に行われる中で迅速に補助金、交付金等を交付等することで、事業実施主体が行う補助金、交付金等の事務に誤りが生じやすい状況になることが想定される場合に備えて、当該事業実施主体に対して事後確認を行わせることができるよう、あらかじめ必要な仕組みを検討すること(同法第36条の規定により改善の処置を要求したもの)
本院は、農林水産本省において、その後の処置状況について会計実地検査を行った。
検査の結果、農林水産省は、本院指摘の趣旨に沿い、次のような処置を講じていた。
ア 前記37事業実施主体のうち36事業実施主体に対して、過大に交付されるなどしていた取組交付金に係る高収益交付金を速やかに返還するよう求めた。
イ 5年1月に事務連絡を発出し、高収益交付金の交付を受けた事業実施主体に対して、過大交付等の事例や誤りを生じやすいポイントについて周知し、必要と認められる場合には事後確認を行うよう促した。そして、当該事後確認の結果を報告させるとともに、取組交付金が過大に交付されるなどしていたと認められた事業実施主体に対してこれに係る高収益交付金を速やかに返還するよう求めた。
ウ 突発的、緊急的な事態に対応した補助金、交付金等の交付等に際して、必要に応じて事業実施主体に対して事後確認を行わせることができるようにするために、要綱において必要な事項を規定することを検討した。そして、5年7月に補助金等交付等要綱審査マニュアルを整備し、上記要綱の審査時に、必要な事項が規定されているかを確認することとした。
一方、農林水産省は、アの過大に交付されていた取組交付金に係る高収益交付金の交付を受けた1事業実施主体に対して、引き続き、速やかに返還するよう求めることとしている。