国立大学法人山口大学(以下「山口大学」という。)は、文部科学省から交付された大学改革推進等補助金(デジタル活用教育高度化事業)を財源として、「学生健康診断サポート・データ管理システム」(以下「新システム」という。)に係るソフトウェアの開発を、令和4年3月に、随意契約によりエコマス株式会社(以下「会社」という。)に契約金額4,991,800円で請け負わせて実施して、同年4月に契約金額の全額を支払っている(以下、この契約を「開発契約」という。)。
開発契約の内容は、山口大学の教員(以下「担当教員」という。)が市販のデータベースソフトを使って自ら構築した学生健康診断システム(以下「旧システム」という。)について、利便性の向上を図るため、Web化するなどするものである。
開発契約の仕様書等によれば、山口大学は、会社に対して、データベースサーバ、旧システムのライブラリー等の情報(以下「旧システムの情報」という。)を提供することとされている。そして、会社は、当該旧システムの情報等を利用するなどして、44項目の要件を満たした機能を有する新システムを履行期限である4年3月31日までに開発することとされている。
山口大学は、国立大学法人山口大学財務会計規則(平成16年規則第98号)、「国立大学法人山口大学における契約に係る監督及び検査取扱要項」等(以下、これらを合わせて「会計規則等」という。)に基づき、請負契約に係る給付の完了を確認するため、必要な検査をしなければならないこととしている。
会計規則等によれば、当該検査を命ぜられた者(以下「検査職員」という。)は、次のとおり検査しなければならないなどとされている。
① 検査職員は、契約書、仕様書その他の関係書類に基づき、当該給付の内容について検査しなければならない。
② 契約金額が500万円未満の契約等については、検査調書の作成を省略することができる。この場合、検査職員は、納品書、発注書等に押印又はサインすることにより、確認を行ったことを明らかにしなければならない。
そして、経理責任者は、検査職員が押印又はサインした納品書、発注書等を必要に応じ添付した未払伝票により、支出の正当性、必要性等を調査の上、支出を決定しなければならないこととされている。また、出納責任者は、経理責任者から上記支出の決定に基づく支払命令を受けたときは、債権者に支払わなければならないこととされている。
本院は、合規性等の観点から、契約手続は会計規則等に基づき適正に行われているかなどに着眼して、開発契約を対象として、山口大学において、発注書、仕様書、納品書等の関係書類を確認するなどして会計実地検査を行った。
検査したところ、次のとおり適切とは認められない事態が見受けられた。
山口大学は、開発契約について、給付が完了したとして検査職員がサインした納品書等に基づき、4年4月に会社に対して契約金額の全額を支払っていた。
しかし、開発契約の履行期限である4年3月31日から約10か月が経過した5年2月の会計実地検査時点においても、新システムの開発は完了しておらず、開発契約の仕様書に定められている前記44項目のうち36項目の要件に係る機能を利用することができない状況となっていた。
そこで、開発契約の履行状況について確認したところ、担当教員は、旧システムの情報等について、開発契約の契約締結後速やかに会社に提供しておらず、履行期限の直前である4年3月下旬に一部のみを提供していた。一方、会社は、旧システムの情報等の提供を速やかに受けることができなかったことなどから、担当教員に対して履行期限までに新システムの開発を完了させることが困難である旨を連絡していた。しかし、担当教員は、会社に対して、履行期限までに新システムの開発が完了したこととして納品書等を発行するよう依頼し、提出させていた。そして、検査職員は、新システムの開発が完了していないことを認識していながら、提出された上記の納品書にサインして、給付を確認したものとしていた。
また、検査職員が給付の完了を確認したとする4年3月31日時点における開発契約の給付の状況を確認したところ、前記44項目のうち、新システムの主たる機能ではない「学生健康保険組合への加入状況をシステムから確認できる」などの2項目の開発を除き、42項目の開発が完了していなかった。
このように、開発契約の仕様書等において会社に提供することとされていた旧システムの情報等を担当教員が適切に提供しなかったことなどにより新システムの開発が完了していないのに、会社から納品書等を提出させ、会計規則等に反して給付の完了を確認したこととして検査職員が納品書にサインし、これに基づき契約金額全額を支払っていたことは適切ではなく、開発契約の支払額4,991,800円が不当と認められる。
このような事態が生じていたのは、山口大学において、適正な会計経理を行うことの必要性についての認識が著しく欠けていたこと、教職員に対する教育及び指導が十分でなかったことなどによると認められる。
(本件の事態については、「大学改革推進等補助金(デジタル活用教育高度化事業)が過大に交付されていたもの」参照)