会計検査院は、令和2年6月15日、参議院から、国会法第105条の規定に基づき下記事項について会計検査を行いその結果を報告することを求める要請を受けた。これに対し同月16日検査官会議において、会計検査院法第30条の3の規定により検査を実施してその結果を報告することを決定した。
一、会計検査及びその結果の報告を求める事項
防災・減災、国土強靱化のための3か年緊急対策に関する次の各事項
① 緊急対策の実施状況及び予算の執行状況
② 緊急対策による効果の発現状況
本院は、上記要請の防災・減災、国土強靱(じん)化(注1)のための3か年緊急対策(以下「3か年緊急対策」といい、3か年緊急対策の実施のために平成30年12月に政府が行った閣議決定を「30年閣議決定」という。)に関する各事項について、有効性、透明性の確保(注2)及び国民への説明責任の向上(注2)等の観点から、①予算及びその執行状況はどのようになっているか、各対策として事業を実施した箇所(以下「対策実施箇所」という。)において実施された事業の内容は、30年閣議決定、「防災・減災、国土強靱化のための3か年緊急対策(原案)(一覧)」等(以下、これらを合わせて「30年閣議決定等」という。)の趣旨に照らして適切なものとなっているか、対策実施箇所において実施することとされた事業はどの程度完了しているか、対策が完了しなかった箇所等に対するフォローアップは適切に行われているか、②3か年緊急対策は「起きてはならない最悪の事態」の回避に十分に寄与するものとなっているか、3か年緊急対策の各対策として実施された事業は、防災、減災等の効果が十分に発現するものとなっているかなどに着眼して検査した。
検査の結果の主な内容は、次のとおりである。
ア 内閣官房国土強靱化推進室(以下「推進室」という。)は、各年度の予算案の作成時に、3か年緊急対策に係る予算の追加等を行うために編成された平成30年度一般会計補正予算(第2号)及び平成30年度特別会計補正予算(特第2号)並びに3か年緊急対策等に係る予算について「臨時・特別の措置」として他の予算とは区分して予算編成が行われた令和元年度当初予算及び令和2年度当初予算において措置されるなどしている予算(以下、これらの3か年緊急対策に係る予算を「緊急対策予算」という。)に係る歳出予算額等(注3)を3か年緊急対策の各対策に関係する11府省庁(注4)から報告させているものの、緊急対策予算に基づいて国が支出した額については、各府省庁から報告させておらず、集計していなかった。
また、3か年緊急対策として実施する全160対策のうち、事業実施に伴う経費が生じなかったり、各対策として実施する事業の全てが国庫補助金等の交付を受けずに地方公共団体、民間事業者等が実施する事業となっていたりする12対策を除く148対策について、各府省庁に対して、対策ごとの3か年緊急対策に係る国の支出額等及びこのうち各対策に係る支出済歳出額(以下「支出済額(注5)」という。)等を確認したところ、内閣府、警察庁、総務省、経済産業省、環境省及び防衛省の6府省庁は、全ての対策について対策ごとの支出済額等を把握していたのに対して、法務省、文部科学省、厚生労働省、農林水産省及び国土交通省の5省は、一部の対策について対策ごとの支出済額等を把握していなかった。このため、148対策のうち79対策(予算総額計9299億余円。緊急対策予算全体に占める割合は25.2%)については、対策ごとの支出済額等が把握されていたが、残りの69対策(予算総額計2兆7490億余円。緊急対策予算全体に占める割合は74.7%)については、対策ごとの支出済額等が把握されていなかった。
30年度から令和3年度までの間の緊急対策予算に係る対策ごと又は同じ予算科目から支出されている複数の対策(以下「対策群」という。)ごとの支出済額の歳出予算現額(注6)又は予算総額(注7)に対する割合(以下「執行率」という。)をみたところ、80%未満となっていたものが21対策及び3対策群で、このうち5対策では40%未満となっていた。そして、執行率が80%未満となっていた21対策及び3対策群のうち、平成30年度から令和3年度までの不用額の合計が10億円以上となっていたものは、9対策及び3対策群となっていた。
イ 国土強靱化に関する施策の推進に関する基本的な計画(以下「国土強靱化基本計画」という。)によれば、3か年緊急対策は、45の「起きてはならない最悪の事態」ごとにこれを回避するための施策群(以下「プログラム」という。)を整理した上で、重点化すべき15のプログラムを選定し、選定した15のプログラム及びこれと関連が強い5のプログラム(以下「重点化すべきプログラム等」という。)の中で特に緊急に実施すべき施策について実施することとされている。しかし、実際に、3か年緊急対策の各対策が、重点化すべきプログラム等の中のどのプログラムのどの施策に該当するのかについては、30年閣議決定、年次計画(注8)等には記載されていない。
そこで、本院において、各府省庁が推進室に報告している内容に基づき、3か年緊急対策の各対策がどのプログラムのどの施策に該当するのかなどについて体系的に整理した結果、該当する施策がない対策が6対策、該当する施策はあるものの、当該施策が重点化すべきプログラム等になっていない対策が3対策見受けられた(6対策及び3対策に係る対策ごとの予算積算額(推進室が、各年度の予算案の作成時に各府省庁から報告させた各対策の予算額をいう。以下同じ。)は計143億6088万余円)。
ウ 3か年緊急対策の各対策として実際に実施された事業の内容について確認したところ、会計実地検査の際に検査の対象とした事業(注9)のうち、3地方支分部局並びに10道県及び287市町村等が17対策として実施した事業の一部は、30年閣議決定等においては倒壊等の被害の生ずる可能性がある施設について耐震化を実施するなどとされている対策であるのに、同対策として新たな施設を整備する事業を実施していたり、30年閣議決定等において対策を実施するとされている施設以外の施設について事業を実施していたりなどしていて、30年閣議決定等に明記されていない内容となっていた(これらの事業に係る支出済額は計672億5208万余円)。
エ 3年度の年次計画には、3か年緊急対策の実施結果として、各対策の「令和2年度までの予算による実施箇所数」(以下「予算箇所数」という。)が記載されるなどしているが、予算箇所数は、3年度末までに事業を実施することになる見込みの箇所数等となっている。
そこで、各対策の3年度末までに各府省庁が対策を実施した箇所数(以下「対策実施箇所数」という。)について各府省庁に確認したところ、国土交通省以外の10府省庁は、全ての対策(計93対策)について対策実施箇所数を把握していたが、国土交通省は、同省が実施している67対策のうち40対策について対策実施箇所数を把握していなかった。
また、一部の対策については、3か年緊急対策の実施結果として3年度の年次計画に記載されている予算箇所数が対策実施箇所数とかい離している状況となっていた。
オ 各府省庁が重要インフラの機能確保について実施した緊急点検又はブロック塀、ため池等に関する既往の点検の結果、対応を検討する必要があるとされた箇所(以下「要検討箇所」という。)のうち対策を実施する必要があるのに対策を実施することが見込まれる箇所(以下「対策予定箇所」という。)としなかった箇所があった8対策について、その後の状況を各府省庁において把握しているか確認したところ、8対策のうち6対策については各府省庁がその後の状況のフォローアップを行って把握していたが、2対策については把握していなかった。また、対策予定箇所のうち対策を実施しなかった箇所(精査の結果、対策を実施する必要がないことが判明した箇所を除く。)があるとしていた11対策のうち8対策については、各府省庁がその後の状況のフォローアップを行って、対策を実施する必要がある箇所が残っているかどうかを把握していたが、3対策については把握していなかった。
ア 3か年緊急対策の各対策が該当する施策に係る大規模自然災害等に対する脆(ぜい)弱性の評価(以下「脆弱性評価」という。)の実施状況について確認したところ、全160対策のうち119対策については、該当する施策が脆弱性評価の対象となっていて、「起きてはならない最悪の事態」がどのようなプロセスで起こり得るかについて論理的に分析して作成したフローチャートに基づき、当該「起きてはならない最悪の事態」をどのように回避するものであるのかが明確にされるなどしていた。
一方、残りの41対策については、該当する施策が、平成30年8月に脆弱性評価の結果が公表された後でプログラムの中の施策として新たに位置付けられた施策であるため、脆弱性評価の対象となっていなかった。そして、41対策の該当する施策については、プログラムの中の施策として新たに位置付ける際に、フローチャートのどの箇所に該当するのかを各府省庁が推進室に対して報告していたものの、その内容が公表されていなかった(41対策に係る対策ごとの予算積算額は計2043億9119万余円)。
イ 3か年緊急対策の各対策に関連するKPI(注10)の進捗状況等として年次計画に記載されている内容をみたところ、①初期値、目標年度又は目標値が記載されていない指標が7指標(4対策)、年次計画の年度よりも前の年度が目標年度として記載されるなどしている指標が3指標(3対策)あり、KPIの進捗状況を確認するのに十分なものとなっていなかったり、②前年度の年次計画から目標年度、目標値等が変更された指標について、年次計画には、どの指標をどのような理由でどのように変更したのかなどを記載することになっていないため、前年度の年次計画から目標年度、目標値等が変更された14指標(13対策)の全てについて、年次計画の記載だけでは目標年度、目標値等の変更の妥当性を検証することが困難な状況となっていたり、③目標年度が到来した指標について目標値が達成されたかどうかを記載することになっていないため、目標年度が到来して廃止された38指標(36対策)の全てについて、目標の達成状況が明らかとなっていなかったりしていた。
ウ 会計実地検査の際に検査の対象とした事業のうち、法務本省、10道県及び55市町等が、33対策として実施した359事業は、事業の内容が測量業務、設計業務等のみとなっていて、工事を実施するものとなっていなかった(これらの事業に係る支出済額は計71億4811万余円)。そして、上記の359事業を実施した箇所の令和4年6月末現在の状況を確認したところ、23事業については、3か年緊急対策として実施した測量業務、設計業務等に基づき工事が別途実施されて完了していたが、残りの336事業については、工事が施工中であったり、工事にまだ着手していなかったりしていて完了しておらず、災害発生時に3か年緊急対策として実施した事業の効果が発現しない状況となっていた(工事が完了していなかった事業に係る支出済額は計69億7648万余円)。
会計実地検査の際に検査の対象とした事業のうち、1県及び6市町が実施した5対策の9事業については、3か年緊急対策の各対策として施設や設備の整備等の事業を実施したものの、整備等を実施した施設や設備が、事業を実施した後に発生した台風等の際に破損するなどして被災していた(これらの事業に係る交付金等相当額は計1億1842万余円)。9事業について、施設や設備の整備等に係る設計及び施工の状況を確認したところ、9事業のうち1事業は、設備の設置に当たり台風等に対する検討が十分でなかったものであった。
3か年緊急対策の各対策として実施した事業の成果物が活用されているかについて確認したところ、会計実地検査の際に検査の対象とした事業のうち4対策として実施した事業の一部において、事業の成果物が十分に活用されるよう引き続き取り組む必要がある状況が見受けられた。また、3か年緊急対策の各対策として整備等を実施した施設及び設備に係る災害発生時に向けた対応状況について確認したところ、会計実地検査の際に検査の対象とした事業のうち8対策として実施した事業の一部において、施設及び設備の整備等の効果が災害発生時に確実に発現するよう引き続き取り組む必要がある状況が見受けられた。
エ 3か年緊急対策の各対策の達成目標は、必ずしも「起きてはならない最悪の事態」を回避する効果を直接捉えるものにはなっていなかった。そして、推進室によると、3か年緊急対策については、多数の分野の施策にまたがって実施されていて、3か年緊急対策全体の効果を横断的に評価することは技術的に困難であるとしており、3か年緊急対策全体の効果を評価するための指標は設定されていなかった。
KPIの内容をみると、施策の実施状況を把握するための指標として設定されたものであるため、各施策として実施する事業の事業量を示す指標となるなどしていて、「起きてはならない最悪の事態」を回避する効果を直接捉えることができる指標ではないものが多くなっていた。
このため、本院において、3か年緊急対策又は3か年緊急対策を含む施策若しくはプログラムの効果について定量的に評価するのは困難な状況となっていた。
推進室及び各府省庁は、3年度以降も、国土強靱化に関する施策のうち優先順位の高いものに重点化して進める取組として「防災・減災、国土強靱化のための5か年加速化対策」(令和2年12月閣議決定。以下、この閣議決定に基づいて実施される対策を「5か年加速化対策」という。)の各対策を実施しており、これらの取組を含む国土強靱化に関する各種の施策について今後も多額の予算が執行されることが見込まれるところである。
ついては、推進室及び各府省庁は、次の点に留意するなどして、国土強靱化に関する施策について、透明性を確保しつつ効果的に実施する必要がある。
ア 推進室において、今後、3か年緊急対策のように、国が支出する額を明示して、優先順位の高いものに重点化して進める取組については、国の支出額を各府省庁から報告させて集計するとともに、各府省庁に対して、対策ごとの支出済額等を把握して報告すること、対策ごとの支出済額等を把握することが難しい対策については、その理由や、各対策に係る予算の執行状況等に関して把握可能な情報を報告することを求めて、これらを公表することなどにより、当該取組に係る予算及びその執行状況をより適切な形で明らかにするよう検討すること。また、各府省庁において、3か年緊急対策の各対策又は各対策群のうち多額の不用額を計上することになったものについて、その原因を分析するなどして、今後同様の対策を実施する場合は、より正確な所要額の算定及び着実な事業の執行に努めること
イ 推進室において、今後、3か年緊急対策のように、優先順位の高いものに重点化して進める取組については、各対策がどのプログラムのどの施策に該当するのかなどの位置付けを十分に確認して公表すること
ウ 推進室において、各府省庁に対して、今後、国土強靱化に関する施策を実施するに当たり、引き続き国土強靱化基本計画やこれに関連する閣議決定等において示されている内容を十分に踏まえて事業の内容を検討するとともに、3か年緊急対策として30年閣議決定等に明記されていない内容の事業が実施されていたことを踏まえて、実施する事業の内容や、必要に応じて、当該事業と国土強靱化基本計画又はこれに関連する閣議決定等において示されている内容との関係等について国民に対して十分な説明を行うよう周知すること
エ 推進室において、今後、3か年緊急対策のように優先順位の高いものに重点化して進める取組について、対策予定箇所数等をあらかじめ明示して取り組むこととする場合には、各府省庁に対して、各対策の進捗管理のために設定する対策予定箇所数等を実績が把握可能な単位により定めた上で、その実績を適切に把握するよう周知するとともに、対策予定箇所数等に係る実績についても各府省庁から報告させて公表すること
オ 各府省庁において、3か年緊急対策の実施に当たり、要検討箇所のうち対策予定箇所としなかった箇所及び対策予定箇所のうち対策が完了しなかった箇所について、防災等のために必要な事業が実施されないままとならないよう、適時適切にフォローアップを行っていくこと。また、推進室において、対策予定箇所のうち対策が完了しなかった箇所に係るフォローアップの状況を報告させ、これを取りまとめて公表すること
ア 推進室において、今後、3か年緊急対策のように、優先順位の高いものに重点化して進める取組については、各対策に係る施策が脆弱性評価の対象となっていなかった場合でも、どの「起きてはならない最悪の事態」をどのように回避するものであるのかを公表すること
イ 推進室において、今後、年次計画の作成に当たりKPIの進捗状況を各府省庁から報告させる際には、初期値、目標年度、目標値、目標年度等の変更状況及び目標年度が到来した指標に係る目標の達成状況について確実に報告させて、これを年次計画に記載することにより、施策の進捗状況をより分かりやすく公表すること
ウ 推進室において、各府省庁と連携して、3か年緊急対策の各対策として実施した事業について、防災、減災等の効果が十分に発現するよう引き続き取り組んでいくこと
エ 推進室において、3か年緊急対策のように優先順位の高いものに重点化して進める取組の効果や、施策又はプログラムの効果に関して、的確な評価に資する指標をあらかじめ設定するなどの評価方法の改善等に引き続き努めていくこと
本院としては、3か年緊急対策、5か年加速化対策等の国土強靱化に関する施策の実施状況等について、今後とも引き続き検査していくこととする。