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  • 国会からの検査要請事項に関する報告(検査要請)|
  • 会計検査院法第30条の3の規定に基づく報告書|
  • 令和5年2月

放射性物質汚染対処特措法3事業等の入札、落札、契約金額等の状況に関する会計検査の結果について


第1 検査の背景及び実施状況

1 検査の要請の内容

会計検査院は、令和3年6月7日、参議院から、国会法第105条の規定に基づき下記事項について会計検査を行いその結果を報告することを求める要請を受けた。これに対し同月8日検査官会議において、会計検査院法第30条の3の規定により検査を実施してその検査の結果を報告することを決定した。

一、会計検査及びその結果の報告を求める事項

(一)検査の対象

環境省等

(二)検査の内容

平成二十三年三月十一日に発生した東北地方太平洋沖地震に伴う原子力発電所の事故により放出された放射性物質による環境の汚染への対処に関する特別措置法に基づく除染事業、汚染廃棄物処理事業、中間貯蔵施設事業等に関する次の各事項

  1. ① 各事業の入札、契約などの状況、特に、一者応札となったものに係る契約金額の状況

  2. ② 各事業に係る受注者の事業実施体制等及びこれに対する国の監督等の状況

2 放射性物質汚染対処特措法3事業等の概要等

平成23年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震に伴い、東京電力株式会社(28年4月1日以降は東京電力ホールディングス株式会社)の福島第一原子力発電所において発生した事故(以下「福島第一原発事故」という。)により、大量の放射性物質が放出される事態に至った(以下、福島第一原発事故により放出された放射性物質を「事故由来放射性物質」という。)。

上記の事態に伴う事故由来放射性物質による環境の汚染が人の健康又は生活環境に及ぼす影響を速やかに低減するために、23年8月30日に、「平成二十三年三月十一日に発生した東北地方太平洋沖地震に伴う原子力発電所の事故により放出された放射性物質による環境の汚染への対処に関する特別措置法」(平成23年法律第110号。以下「放射性物質汚染対処特措法」という。)が公布され、一部の規定については同日に施行され、24年1月1日に全面施行された。

また、同年3月31日に、原子力災害からの福島の復興及び再生の推進を図ることなどを目的とする福島復興再生特別措置法(平成24年法律第25号)が施行された。

(1) 放射性物質汚染対処特措法3事業等の概要

国、地方公共団体等は、放射性物質汚染対処特措法に基づき、土壌等の除染等の措置(注1)等に係る事業(以下「除染事業」という。)、事故由来放射性物質に汚染された廃棄物の処理等に係る事業(以下「汚染廃棄物処理事業」という。)、中間貯蔵施設の設置、運営等に係る事業(以下「中間貯蔵施設事業」といい、除染事業、汚染廃棄物処理事業と合わせて「放射性物質汚染対処特措法3事業」という。)を民間事業者等との間で契約を締結するなどして実施している。また、国は、福島復興再生特別措置法等に基づき、特定復興再生拠点区域(注2)において、土壌等の除染等の措置、廃棄物の処理等に係る事業(以下、特定復興再生拠点区域における土壌等の除染等の措置、廃棄物の処理等に係る事業を「特定復興再生拠点区域事業」といい、放射性物質汚染対処特措法3事業と合わせて「放射性物質汚染対処特措法3事業等」という。)を民間事業者等との間で契約を締結するなどして実施している。

そして、放射性物質汚染対処特措法3事業等であって事業主体が国となっているものは、除染事業の一部を除き環境省が実施している。

放射性物質汚染対処特措法3事業等の事業区分ごとの事業の概要を示すと、図表0-1のとおりである。

(注1)
土壌等の除染等の措置  事故由来放射性物質により汚染された土壌、草木、工作物等について講ずる当該汚染に係る土壌、落葉及び落枝、水路等に堆積した汚泥等の除去、当該汚染の拡散の防止その他の措置
(注2)
特定復興再生拠点区域  原子力災害対策特別措置法(平成11年法律第156号)により内閣総理大臣又は原子力災害対策本部長が福島県の市町村長又は福島県知事に対して行った住民に対して避難のための立ち退きを求める指示の対象となっている区域であって、避難指示の解除により住民の帰還を目指すもの

図表0-1 放射性物質汚染対処特措法3事業等の概要

事業区分 事業の概要 事業主体 主な事業内容
放射性物質汚染対処特措法3事業等 放射性物質汚染対処特措法3事業  除染事業 土壌等の除染等の措置等 除染工事 注(1) 、除去土壌等 注(2) の仮置場への運搬、一時保管、仮置場復旧工事等
地方公共団体 【国庫補助事業】
除染工事、除去土壌等の仮置場への運搬、一時保管等
汚染廃棄物処理事業 事故由来放射性物質に汚染された廃棄物の処理等 被災建物の解体撤去、仮置場等への廃棄物の収集及び運搬、仮置場等における廃棄物の破砕選別及び保管、仮設焼却施設等における減容化 注(3)
地方公共団体等 【国からの委託事業】
廃棄物の一時保管
中間貯蔵施設事業 福島県内の除去土壌等及び放射能濃度が10万Bq 注(4) /kg超の事故由来放射性物質に汚染された廃棄物を一定期間安全かつ集中的に管理保管するための中間貯蔵施設の設置、運営等 施設整備、除去土壌等の仮置場等から中間貯蔵施設への運搬等
中間貯蔵・環境安全事業株式会社 【国からの委託事業】
工事監理・監督支援の補助、中間貯蔵施設の運営等
  特定復興再生拠点区域事業 特定復興再生拠点区域における土壌等の除染等の措置、廃棄物の処理等 特定復興再生拠点区域における除染工事、被災建物の解体撤去等
注(1)
除染工事  事故由来放射性物質に汚染された土壌を除去するなどの工事
注(2)
除去土壌等  環境大臣が指定した地域等に係る土壌等の除染等の措置に伴い生じた土壌及び廃棄物
注(3)
減容化  廃棄物を焼却、乾燥するなどしてその容積を減少すること
注(4)
㏃(ベクレル)  1秒間に崩壊する原子核の数。放射性物質の量を表す場合に用いられる単位

(2) 国の入札及び契約に係る制度の概要

国は、会計法(昭和22年法律第35号)、予算決算及び会計令(昭和22年勅令第165号。以下「予決令」という。)等の規定に基づき、入札及び契約の事務を実施しており、環境省が実施する放射性物質汚染対処特措法3事業等に係る入札及び契約についても同様である。

会計法によれば、国は、売買、貸借、請負その他の契約を締結する場合には、原則として公告して申込みをさせることにより競争に付さなければならないとされている(以下、このような競争に付すことを「一般競争入札」という。)。

そして、一般競争入札における落札者の決定方法には、最低価格の入札者を落札者とする方式(以下「最低価格方式」という。)、契約がその性質又は目的から最低価格方式により落札者を決定し難いものである場合に、価格だけでなく性能、機能その他の要素を総合的に評価して落札者を決定する方式(以下「総合評価落札方式」という。)等がある。

予決令によれば、国の契約担当官等は、一般競争入札に付そうとする場合において、契約の性質又は目的により、当該競争を適正かつ合理的に行うために特に必要があると認めるときは、各省各庁の長の定めるところにより、当該競争に参加する者に必要な資格(以下「競争参加資格」という。)を定め、競争参加資格を有する者により当該競争を行わせることができるとされており、発注内容に応じて、施工実績等の技術的な要件を定めるなどしている。そして、環境省においては、環境省所管会計事務取扱規則(平成19年環境省訓令第4号)に基づき、競争参加資格を定めるときは、当該競争に参加する者の事業所の所在地、当該競争に係る業務に関する実績、技術資格等の技術的適性、機械設備、中立性等を基準として行うこととしている。

予決令等によれば、国は、一般競争入札により契約を締結しようとするときは、入札公告を原則として入札期日の前日から起算して少なくとも10日前にしなければならないなどとされている(以下、入札公告の開始日から入札期日の前日までの期間を「入札公告期間」という。)。

他方、会計法によれば、契約の性質又は目的が競争を許さない場合、緊急の必要により競争に付することができない場合は随意契約によることとされ、契約に係る予定価格が少額である場合には随意契約によることができるとされている(以下、予定価格が少額であることを理由とした随意契約を「少額随意契約」という。)。また、予決令によれば、競争に付しても入札者がないとき、又は再度の入札をしても落札者がないときにおいても随意契約によることができるとされている(以下、このような随意契約を「不落随意契約」という。)。すなわち、一般競争入札において、入札者がいなかったり、入札者はいたものの予定価格の制限の範囲内の入札者がおらず、再度の入札をしても落札者を決定できなかったりした場合に、最初に一般競争入札に付するときに定めた予定価格その他の条件(契約保証金及び履行期限を除く。)を変更しないことを条件として随意契約を締結することができるとされている。そして、環境省においては、契約委員会設置要綱(平成18年会計課長決裁)に基づき環境本省に、また、契約委員会設置要綱(平成24年福島地方環境事務所長決裁)に基づき環境省福島地方環境事務所(29年7月13日以前は福島環境再生事務所。以下「福島事務所」という。)にそれぞれ契約委員会を設置して、随意契約を行う場合にはその適否の審査を行うこととしている。

(3) 放射性物質汚染対処特措法3事業等に係る契約の予定価格の積算

環境省は、放射性物質汚染対処特措法3事業等で実施する工事に係る費用(以下「工事費」という。)については、24年5月に制定した「除染特別地域における除染等工事暫定積算基準」(以下「積算基準」という。)に基づき算定し、これを基に予定価格を積算している。

積算基準によれば、工事費は、図表0-2のとおり、直接工事費と間接工事費を合算した工事原価に一般管理費等を加算して工事価格を算定し、これに消費税等相当額を加算して算定することとされている。

図表0-2 工事費の体系図

図表0-2 工事費の体系図

積算基準には、直接工事費の算定方法、間接工事費の率計算の方法等が定められている。そのうち、直接工事費の算定方法では、住宅地、道路、森林等の除染、仮置場等の造成、仮置場等の工作物及び保管物の撤去並びに原状回復、排水処理、除去土壌等の運搬等の歩掛かりやその適用範囲、施工手順、材料費等の決定方法等が定められている。

そして、同省は、放射性物質汚染対処特措法3事業等の進捗に伴って、それまでに積算基準に定められていなかった新工種の歩掛かりの検討や既存の規定の妥当性について検証等が必要になるとして、適宜、歩掛調査、諸経費動向調査等の工事費算定のための調査を行っており、その結果により積算基準を改定している(積算基準の改定状況等については別図表0-1参照)。

一方、同省は、積算基準に定めがない工種の工事費について、一般の公共事業で実施する工事の内容と比べて特段異なる点がないとした場合には、国土交通省土木工事標準積算基準書(国土交通省大臣官房技術調査課制定。以下「国交省積算基準」という。)等に基づき算定し、これを基に予定価格を積算している。また、放射性物質汚染対処特措法3事業等で実施する業務に係る費用については、同業務の内容が、調査、運送等であり、一般の公共事業で実施する業務の内容と比べて特段異なる点がないなどとして、同業務に限定して適用する積算のための基準は制定しておらず、国土交通省が定めている「設計業務等標準積算基準」等に基づき算定し、これを基に予定価格を積算している。

(4) 変更契約の概要

環境省は、請負工事における設計変更及び設計変更に伴う契約変更の取扱いに関して必要な事項を定めることにより、契約に関する事務の適正かつ円滑な執行に資することを目的として「設計変更に伴う契約変更の取扱いについて」(平成19年11月大臣官房会計課長等通知)を定めている。

上記の通知によれば、請負工事の発注に当たっては、事前の計画及び調査を慎重に行い、設計変更の必要を生じないよう措置することとされ、やむを得ない事由により設計変更の必要が生じた場合には、当該工事の目的を変更しない限度において、その一部を変更することができるとされている。

設計変更は、原則として、その必要が生じた都度、同省の監督職員が、当該変更の内容が予算の範囲内であることを確認して、打合せ記録簿により当該設計変更の内容を契約担当官等に報告した上で行うこととされており、契約変更をしようとする時点における当該契約の当初契約金額からの変更見込金額の累計が請負代金額の10%を超えるものなどについては、あらかじめ契約担当官等の承認を受けることとされている。

また、変更見込金額の累計が請負代金額の30%を超える工事は、現に施工中の工事と分離して施工することが著しく困難な場合を除き、原則として別途の契約とすることとされている。

そして、福島事務所は、締結済みの工事請負契約及び業務委託契約を対象に、内容の大幅な変更又は契約額の大幅な変更(変更見込金額の累計が請負代金額の30%を超える場合等)が必要と考えられる場合には、契約委員会において、変更契約の適否について審査することとしている。

(5) 除染事業等において生じた除去土壌等の不法投棄、宿泊費の水増し請求等の事案

環境省は、同省が発注した除染工事において土壌等の除染等の措置が適正に行われていないとの報道を契機として、25年1月に、事実関係の確認のための調査や適正な除染の推進方策の検討を行う除染適正化推進本部を設置している。また、同省は、同月に、除染適正化プログラムを作成し、再発防止策として、①事業者の責任施工の徹底、②幅広い管理の仕組みの構築、③同省の体制強化を実施している。

しかし、除染事業等においては、除染適正化推進本部設置後も除去土壌等の不法投棄、宿泊費の水増し請求等の事案が生じており、参議院決算委員会は、これらの事案について、29年6月の平成27年度決算に関する議決及び30年6月の平成28年度決算に関する議決において内閣に対する警告(以下「警告決議」という。)を行っている。内閣は、警告決議に対して、平成27年度決算に関する参議院の議決について講じた措置(平成30年1月内閣財第6号)において、関係者に対して厳正な処分を行ったところであるとしており、再発防止策として、職員への訓示、倫理保持についての個別指導及び福島事務所における組織管理体制の強化を図るとともに、受注者等へのコンプライアンス徹底に係る要請や監督体制の強化に取り組んでいるとしている。また、平成28年度決算に関する参議院の議決について講じた措置(平成31年1月内閣財第5号)においては、関係者に対して指名停止措置等を行ったところであるとしており、再発防止策として、福島事務所における宿泊費の請求内容の確認を強化するとともに、建設業界へ企業統治の強化及び法令遵守の徹底等を改めて要請等しているところであり、さらに、福島事務所の組織を大幅に見直し、監督体制の強化を図っているとしている(警告決議の内容及び警告決議に対して講じた措置の内容については別図表0-2参照)。

3 これまでの検査の実施状況

会計検査院は、これまで、放射性物質汚染対処特措法3事業等の実施状況、適切な事業実施のための取組状況等について検査し、その結果を、「福島第一原子力発電所事故に伴い放射性物質に汚染された廃棄物及び除去土壌等の処理状況等に関する会計検査の結果について」として会計検査院法第30条の3の規定に基づき報告(令和3年5月)したほか、不当事項、意見を表示し又は処置を要求した事項等として検査報告に掲記している(別図表0-3参照)。

4 検査の観点、着眼点、対象及び方法

(1) 検査の観点及び着眼点

政府は、放射性物質汚染対処特措法等の枠組みの下、今日まで、多額の国費を投じて放射性物質汚染対処特措法3事業等を実施してきている。

福島第一原発事故から11年が経過したものの、福島県内においては、放射性物質汚染対処特措法3事業等は、いずれも実施中であり、今後もこれらの事業の適切で経済的かつ効率的な実施が求められている。また、環境省等が放射性物質汚染対処特措法3事業等を実施する過程において、受注者による除去土壌等の不法投棄、宿泊費の水増し請求等の事案が生じており、各事業に係る契約を履行する受注者の適切な事業実施や環境省等による適切で厳正な監督等が求められている。

そこで、会計検査院は、前記要請の放射性物質汚染対処特措法3事業等の入札、落札、契約等の状況並びに各事業に係る受注者の事業実施体制等及びこれに対する国の監督等の状況について、合規性、経済性、効率性、有効性等の観点から、次の点に着眼して検査した。

ア 放射性物質汚染対処特措法3事業等の入札、落札及び契約の状況はどのようになっているか、特に、応札者が1者となったもの(以下「1者応札」という。)に係る契約金額等の状況はどのようになっているか。また、環境省が行っている競争性確保のための取組はどのようになっているか、予定価格の積算は経済性を考慮して適切に行われているか。

イ 放射性物質汚染対処特措法3事業等に係る受注者における事業実施体制等及びこれに対する国の監督等の状況はどのようになっているか。除染事業等における除去土壌等の不法投棄、宿泊費の水増し請求等の事案に関して環境省が整備している仕組みは事案の再発を防止する効果的なものとなっているか。

(2) 検査の対象及び方法

検査に当たっては、環境省が平成28年4月から令和3年9月まで(ただし、第2の1(1)ウ(エ)a及び第2の2は平成24年4月から令和3年9月まで)の間に締結した放射性物質汚染対処特措法3事業等に係る契約のうち、少額随意契約等を除く契約を対象として、環境本省、福島事務所及び中間貯蔵・環境安全事業株式会社本社において計128人日を要して会計実地検査を行うとともに、環境本省を通じて東北、関東両地方環境事務所から関係資料を徴して検査した。また、同省が実施した除染事業等における除去土壌等の不法投棄等の事案に関連して、国庫補助事業として実施される除染工事について受注者における事業実施体制等に対する発注者の監督等の状況を確認するために、福島県及び同県の13市町村において計35人日を要して会計実地検査を行うとともに、同県の3市町村から、調書及び関係資料を徴したり、担当者等から説明を聴取したりするなどして検査した。そして、同省が締結した放射性物質汚染対処特措法3事業等に係る契約の相手方のうち、契約金額が大きいなどの33会社が平成24年4月から令和3年9月までの間に受注した当該契約に関する会計を対象として会計検査院法第23条第1項第7号の規定により検査することを決定して、このうち6会社において計57人日を要して会計実地検査を行うとともに、27会社から、事業実施体制等について、関係資料を徴したり、担当者等から説明を聴取したりするなどして検査した。このほか、公表されている資料等により把握した内容を基に調査分析を行った。

なお、環境省が締結した契約の相手方の下請業者等に対しては会計検査院の検査権限が及ばないが、除染事業等における除去土壌等の不法投棄等の事案に関与していた下請業者等10会社において、当該会社の協力が得られた範囲で、事案発生時の状況等について説明を受けるなどして調査した。