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  • 国会からの検査要請事項に関する報告(検査要請)
  • 会計検査院法第30条の3の規定に基づく報告書
  • 令和5年5月

防災・減災、国土強靱化のための3か年緊急対策に関する会計検査の結果について


別図表15 災害発生時に向けた対応状況の詳細

対策名等 施設及び設備の整備等の効果が災害発生時に確実に発現するよう引き続き取り組む必要がある状況
「全国の土砂災害警戒区域等における円滑な避難の確保に関する緊急対策」(No.17)等4対策
国土交通省は、「大規模な火山噴火・土砂災害(深層崩壊)等による多数の死傷者の発生」等を回避するための施策に係る対策として、「中小河川緊急治水対策プロジェクト(土砂・流木対策)」(No.6)、「全国の中小河川における土砂・洪水氾濫等の危険性に関する緊急対策」(No.7)、「全国のインフラ・ライフラインの土砂災害に関する緊急対策」(No.15)及び「全国の土砂災害警戒区域等における円滑な避難の確保に関する緊急対策」(No.17)の4対策を実施している。
これらの対策は、地域の避難所や避難路が限られており、土砂災害に伴い被害が生ずると避難に困難が生ずる箇所等の緊急点検を行い、砂防関係施設の整備等を実施するなどの対策である。そして、同省は、これらの対策として全国の河川事務所等において事業を実施したり、事業を実施する地方公共団体に対して防災・安全交付金等を交付したりしている。
ア 除石計画の策定
「土石流・流木対策設計技術指針」(平成19年3月国土交通省河川局策定)等によれば、除石管理型砂防えん堤(砂防えん堤のうち、計画上、定期的に、又は土石流が発生した場合等に必要に応じて、堆砂空間の除石を行うこととしているもの)については、えん堤が十分機能を発揮するよう、必要に応じて除石を行うこととされており、除石のために、管理用道路を含めて土砂等の搬出方法、搬出土の受入先、除石の実施頻度等の計画(以下「除石計画」という。)をあらかじめ検討しておくものとされている。
前記の4対策として3地方整備局の4河川事務所等及び9道県が整備した除石管理型砂防えん堤141施設について除石計画の策定状況等を確認したところ、5施設については、令和4年6月末現在で、除石計画が策定されておらず、管理用道路も設置されていないため、除石が必要となった場合に、速やかに除石を行うことができないおそれがある状況となっていた(交付金等相当額計1億4450万円)。
イ 避難訓練の実施、標識の設置等
第1の2(2)アのとおり、国土強靱化基本計画によれば、災害リスクや地域の状況等に応じて、防災施設の整備、施設の耐震化等のハード対策と訓練・防災教育等のソフト対策を適切に組み合わせて効果的に施策を推進するとともに、このための体制を早急に整備することとされている。
「土砂災害警戒区域等における土砂災害防止対策の推進に関する法律」によれば、市町村は、都道府県による土砂災害警戒区域の指定があったときは、市町村地域防災計画に要配慮者利用施設(社会福祉施設、学校、医療施設等)の名称及び所在地を記載することとされており、これらの施設の所有者等は、利用者の避難確保計画を作成して避難訓練を行わなければならないこととされている。また、「土砂災害防止対策基本指針」(平成13年7月国土交通省告示第1119号)によれば、都道府県は、土砂災害警戒区域等を明示した標識の設置等を行い、避難の実効性を高めることが重要であるとされている。
しかし、前記の4対策として10道県が整備等を実施した砂防関係施設に係る土砂災害警戒区域が所在する155市町村のうち32市町村においては、4年6月末現在で、当該砂防関係施設の保全対象となっている要配慮者利用施設のうち名称及び所在地が市町村地域防災計画に記載されていない施設があったり(11市町村)、避難確保計画を作成していない施設や、直前の年度中に避難訓練を実施していない施設があったり(25市町村)していた(32市町村において実施された砂防関係施設の整備等に係る交付金等相当額計22億2414万余円)。また、10道県は、4年6月末現在で、整備等を実施した砂防関係施設が所在する土砂災害警戒区域の全部又は一部について標識を設置していなかった(10道県において実施された砂防関係施設の整備等に係る交付金等相当額計171億1327万余円。このうち20億8416万余円が上記の22億2414万余円と同じ砂防関係施設に係るものであり重複している。)。
「学校施設における空調整備に関する緊急対策」(No.25)
文部科学省は、「住宅・建物・交通施設等の複合的・大規模倒壊や不特定多数が集まる施設の倒壊による多数の死傷者の発生」等を回避するための施策に係る対策として「学校施設における空調整備に関する緊急対策」(No.25)を実施している。同対策は、子供たちの健康を守るために、熱中症対策を推進する対策であり、重点化すべきプログラム等に係る「起きてはならない最悪の事態」の中では「劣悪な避難生活環境、不十分な健康管理による多数の被災者の健康状態の悪化・死者の発生」の回避に寄与するものであるが、「【文科】公立学校施設の防災機能強化・老朽化対策等(非構造部材の耐震対策を含む)」の施策に係る対策として整理されているため、30年閣議決定においては「大規模な浸水、土砂災害、地震・津波等による被害の防止・最小化」の項目に位置付けられているものである。
そして、同省は、同対策として事業を実施する地方公共団体に対して、緊急対策予算に基づきブロック塀・冷房設備対応臨時特例交付金を交付している。
「防災拠点等となる建築物に係る機能継続ガイドライン」(平成30年5月国土交通省住宅局)によれば、津波等による浸水の可能性のある地域においては、対象建築物の機能継続に必要な建築設備について、浸水対策を講ずることとされている。そして、学校施設は災害発生時に避難所として使用される可能性があり、当該ガイドラインは、避難所等の防災拠点として機能継続することが期待される建築物を想定しているものである。
10道県及び当該10道県内の市町村等が同対策として空調設備を整備した学校施設のうち、浸水想定区域内に所在している1,231施設について、空調設備の室外機に係る浸水対策の状況を確認したところ、4年6月末現在で、4県及び112市町村等の819施設では、室外機が浸水高さよりも低い位置に設置されているのに十分な浸水対策が講じられておらず、洪水等により校舎等において浸水が発生し、浸水していない高層階を避難所として使用したり、洪水等が収束した後に教育活動を再開したりする際に空調設備を使用できないおそれがある状況となっていた(交付金相当額計46億3208万余円)。
なお、10道県及び当該10道県内の市町村等が同対策として事業を実施した小中学校等のうち、32市町の91校は、学校施設の再編計画等において、事業実施後5年以内に統廃合のため利用されなくなる予定の学校施設となっていて、同月末現在で、91校のうち56校は既に統廃合が実施されており、56校において整備した空調設備391台のうち34校の217台は他の学校に移設するなどして利活用が図られていたものの、29校の174台では統廃合の後に設備が利用されないままとなっていた(利用されていない期間は最短で3か月、最長で2年3か月。統廃合の後に利用されていなかった設備に係る交付金相当額計6207万余円)。また、統廃合がまだ実施されていない35校のうち、統廃合を実施した後の空調設備の利活用の方針が決まっているとしていたのは10校、決まっていないとしていたのは25校となっていた。
「国土強靱化緊急森林対策(治山施設)」(No.30)等2対策
農林水産省は、「農地・森林等の被害による国土の荒廃」等を回避するための施策に係る対策として「国土強靱化緊急森林対策(治山施設)」(No.30)及び「国土強靱化緊急森林対策(流木対策)」(No.32)の2対策を実施している。
これらの対策は、山地災害危険地区等において、治山施設の設置等により、荒廃山地の復旧・予防対策を実施するなどの対策である。そして、同省は、これらの対策として全国の森林管理署等において事業を実施したり、事業を実施する地方公共団体に対して治山事業補助金等を交付したりしている。
ア 土砂等の管理方法に係る検討
「土石流・流木対策指針解説等」(平成30年3月林野庁森林整備部計画課長通知)によれば、透過型治山ダム(治山ダムのうち、計画上、除石・除木を前提として設置するもの)は、除石・除木を可能とする構造、管理用地の確保や処分方法を検討しながら計画を立案する必要があり、捕捉した土砂や流木を取り除くことができるよう、管理用道路の有無等を含め、その後の管理方法も検討することとされている。
前記の2対策として6道県が設置した透過型治山ダム14施設について、計画を立案した際の除石・除木に係る検討状況等を確認したところ、13施設については、4年6月末現在で、管理用地の確保や処分方法について具体的に検討された事実を示す書類が保存されておらず、管理用道路も設置されていないため、除石・除木が必要となった場合に、速やかに除石・除木を行うことができないおそれがある状況となっていた(国庫補助金等相当額計5億0674万余円)。
イ 避難訓練の実施、標識の設置等
「山地災害危険地区等に関する山地災害対策の推進について」(平成31年3月林野庁長官通知)等によると、都道府県は、都道府県地域防災計画に山地災害危険地区に関する情報を記載するとともに、市町村に山地災害危険地区に関する情報を提供し、市町村地域防災計画に当該情報を記載するよう助言するほか、標識の設置、インターネット等の活用等により、地図情報として住民等に提供されるよう周知に努めるなどとなっている。また、同省は、山地災害に関しても、要配慮者利用施設において避難訓練を実施することが重要であるとしている。
2森林管理局の5森林管理署等及び10道県が前記の2対策として治山施設の設置等を実施した山地災害危険地区が所在する132市町村においては、4年6月末現在で、山地災害危険地区に関する情報が市町村地域防災計画に記載されていなかったり(52市町村)、山地災害危険地区の全部又は一部について標識が設置されていなかったり(128市町村)、山地災害危険地区を記載したハザードマップが作成されていなかったり(129市町村)、上記治山施設の保全対象となっている要配慮者利用施設のうち直前の年度中に避難訓練を実施していない施設があったり(3市町村)していた(132市町村において実施された治山施設の設置等に係る支出済額計101億1382万余円)。また、2森林管理局の2森林管理署及び4道県が前記の2対策として治山施設の設置等を実施した山地災害危険地区が所在する6道県では、4年6月末現在で、都道府県地域防災計画に山地災害危険地区に関する情報が記載されていなかった(6道県において実施された治山施設の設置等に係る支出済額計57億8039万余円。上記101億1382万余円の内数)。
「社会福祉施設等の非常用自家発電設備に関する緊急対策」(No.62)
厚生労働省は、「劣悪な避難生活環境、不十分な健康管理による多数の被災者の健康状態の悪化・死者の発生」等を回避するための施策に係る対策として「社会福祉施設等の非常用自家発電設備に関する緊急対策」(No.62)を実施している。
同対策は、社会福祉施設等において停電時に医療的配慮が必要な入所者等の安全を確保するために、非常用自家発電設備の整備を実施する対策とされている。そして、同省は、同対策として非常用自家発電設備の整備を実施した10道県内の574施設について、緊急対策予算に基づき地域介護・福祉空間整備等施設整備交付金等を交付している。
ア 連続運転可能時間
国、地方公共団体等の災害応急対策を実施する機関は、防災基本計画(昭和38年6月中央防災会議策定)に基づき、自家発電設備等の整備を図り、十分な期間の発電が可能となるよう燃料の備蓄等を行うこととなっている。そして、2年5月に同計画が修正され、社会福祉施設等の人命に関わる重要施設についても、施設の管理者は、発災後72時間の事業継続が可能となる非常用電源を確保するよう努めることとなった。
574施設における非常用自家発電設備の連続運転可能時間を確認したところ、4年6月末現在で、355施設では72時間未満となっており、うち273施設では24時間未満となっていて、災害により長時間にわたる停電が発生した際に業務が継続できなくなるおそれがあると認められた(24時間未満となっている施設に係る交付金等相当額計9億4236万余円)。 
イ 浸水対策
「防災拠点等となる建築物に係る機能継続ガイドライン」によれば、津波等による浸水の可能性のある地域においては、対象建築物の機能継続に必要な建築設備について、浸水対策を講ずることとされている。そして、当該ガイドラインにおいては、防災拠点として機能継続することが期待される建築物を想定しているが、防災拠点にならない建築物についても、当該ガイドラインを参考にして機能継続等を図ることが考えられるとされている。
社会福祉施設等については、防災拠点として機能継続することが期待される建築物ではないが、上記のガイドラインを参考にして、574施設に設置された非常用自家発電設備に係る浸水対策の状況について確認したところ、4年6月末現在で、浸水想定区域内に所在している152施設のうち95施設では、非常用自家発電設備が浸水高さよりも低い位置に設置されているのに十分な浸水対策が講じられておらず、洪水等により浸水が発生した場合に非常用自家発電設備が使用できなくなるおそれがある状況となっていた(交付金等相当額計5億2971万余円)。
ウ 業務継続計画
「社会福祉施設等における事業継続計画(BCP)の策定について(依頼)」(令和2年6月厚生労働省社会・援護局福祉基盤課事務連絡)によれば、社会福祉施設等においては、災害等にあっても、最低限のサービス提供を維持していくことが求められており、事業継続計画を作成しておくことが有効とされている。
574施設において業務継続計画が作成されているかについて確認したところ、4年6月末現在で、574施設のうち419施設では業務継続計画が作成されておらず、災害発生時に最低限のサービス提供を維持していくための備えが必ずしも十分なものとなっていないと認められた(交付金等相当額計19億0768万余円)。
エ 点検等
非常用自家発電設備の中には、電気事業法(昭和39年法律第170号)、消防法(昭和23年法律第186号)又は建築基準法により定期的に点検等を行うことが義務付けられているものがある。
574施設において非常用自家発電設備を整備してから4年6月末までの間の点検等の実施状況について確認したところ、49施設では、点検等を行うことが義務付けられている非常用自家発電設備について、点検等の全部又は一部が実施されておらず、災害発生時に非常用自家発電設備を確実に稼働させることができないなどのおそれがある状況となっていた(交付金等相当額計2億8493万余円。なお、ア、イ、ウ及びエに係る交付金等相当額はその一部が重複しており、重複している額を控除すると計505施設に係る計22億7326万余円となる。)。